January 19, 2010

2008-12オバマの選択 反ゲイの司祭

 アメリカにとってさんざんだった08年が、1月20日(この号が発売されるころです)の新大統領の誕生によってやっと新年09年を迎えられるような気がします。ブッシュもチェイニーも各種世論調査で「史上最悪の大統領・副大統領」という評価でしたから、よりいっそうオバマがみんなの期待を担う格好になっているのでしょう。アメリカだけでなく世界中の、あるいは過大な期待を。

 そんな大統領就任式ですが、じつはその式典の最初に祈りを捧げる司祭の人選をめぐって、喧々囂々の議論が繰り広げられました。オバマが、こともあろうに反同性愛・反中絶を唱える司祭として有名なリック・ウォレンを指名したためです。なにせTVのトークショーに出演した際には同性愛を近親相姦とか小児性愛とかの犯罪と同等だと発言した人物です。ウォレン率いる福音派サドルバック教会のウェブサイトには次のようにありました。

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 「教会のメンバーシップというのはその人の人生において主イエス・キリストの導きをいかに受け入れたかという自然の成り行きによるものだから、ホモセクシュアルなライフスタイルを悔い改めるにやぶさかな者はサドルバックのメンバーとしては受け入れられません。とはいえ、そういう者たちが教会に来れないかというとそうではありません。ぜひ来ていただきたい。神の御言葉はわたしたちの人生を変える力なのです」

 で、大統領就任式への臨席が決まり、ウォレンのこの反同性愛の姿勢が社会的に問題になって、サイトのこの記述はとつぜん削除されました。これ以上の問題化はまずいと思ったウォレン自身の判断なのか、それともオバマからの指示か。まさか教会が一夜にして親ゲイに悔い改めたわけでもありますまいに。

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 オバマ・サイドは「重要な点は、この進歩的な大統領の就任式に、保守的な福音派の司祭が参加するという、その多様性の意義だ」と苦しい弁明をしていますが、これはどう見たって詭弁を弄しているだけです。

 あなたは、寛容は、不寛容に対しても寛容であるべきだと思いますか?

 ニューヨーク・タイムズは論説で次のように書きました。
 「オバマがウォレンの言辞を“多様で騒々しくかつ持論に溢れた”アメリカの“様々な意見の幅の広さ”の好例だと弁護するとき、それはあまりに可愛らしすぎる。いかなるマイノリティ・グループでも、それを小児性愛などの性犯罪に結びつけて中傷するような“意見”はとうてい容認できるものではないことを、彼は十二分に知っているはずだ」「特にそのグループが、そうした誤解に基づく恐怖をあおるような住民投票(同性婚を禁止するカリフォルニアの提案8号)によってその権利をはぎ取られ社会的に置き去りにされるような時にはなおさら、それは有害なのである。70年代のゲイのパイオニア政治家ハーヴィー・ミルクはいつも『希望がなければダメなんだ』と繰り返していた。ミルクのその希望は、単なる言葉ではなく行動を意味していたはずだ」「歴史上の大統領の傲慢さの標準から言えば、ウォレンを招待したこの空気を読まない決断に対するオバマ自身の言い繕いは比較的小さな約束違反である。たしかにこれはピッグス湾(ケネディ時代の米国が共産党支配下のキューバに亡命キューバ人を使って侵攻した政権転覆未遂謀略事件)とは違う。しかしこれは、我らの最初の黒人大統領の就任式の喜びにケチを付けるものだ。だれよりもオバマ自身が。自分にそんな歴史の間違った側に立つことを許したということが、じつに奇怪に思われる」

 たしかにこれはピッグス湾事件ではありません。そうでなくとも新年はイスラエルによるガザ攻撃が続き、アメリカの金融危機もビッグ3の危機もすべてオバマの手に丸投げされます。というか、ブッシュは最後っ屁とばかりにいろいろなことを思いっきりぐちゃぐちゃにしてオバマに引き渡す感さえあります。イスラエルはアメリカの軍事産業の帳尻合わせのために爆弾を消費しているのだし(不況のときには戦争がいちばんの景気刺激策なのです)、ブッシュは1兆ドルもの借金財政で後は知らんぷりです(それはビッグ3を崩壊させるほどの赤字を作った経営者陣とどう違うのでしょう)。

 冒頭の段落末尾に「過大な期待」と書きました。でもオバマは人気最初の1、2年を現実主義で対処せざるを得ないでしょう。LGBTのことは優先項目にはならないかもしれません。ただしそれはすでにこのアメリカでは一般紙やテレビが大きく報道する社会的課題なのです。それは後戻りはしません。
(了)

2008-11映画『ミルク』公開

◎満場の観客から拍手が沸き起こった。30年前と現在とが呼応し合う映画『ミルク』。ぜひ日本でも一早い公開を!


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 今年の11月27日はちょうど同月の最終木曜日、つまりアメリカでは感謝祭の当日にあたりました。この日はまた30年前に、市政執行委員(市会議員のようなものです)だったハーヴィー・ミルクがサンフランシスコ市長のジョージ・モスコーネとともに市庁舎で暗殺された日でもあります。ゲイ男性であることを公言して初めて米国の公職選挙に当選した人物であるミルクのことは、もう多くの人が知っているでしょう。

 この30年目の命日に、私は公開されたばかりの彼の伝記映画映画『MILK』をマンハッタンで見てきました。終わった後、満員の場内で拍手がわき上がりました。すすり泣きの音も聞こえていました。私も泣きました。パワフルな映画でした。

 監督は自身もゲイであるガス・ヴァン・サント。これまでの作品はリヴァー・フィニックスとキアヌ・リーヴスが男娼役で主演した『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)やマット・デイモン主演の『グッド・ウィル・ハンティング』(97年)、さらには99年にコロラド州で起きたコロンバイン高校銃乱射事件をテーマにした『エレファント』(03年)などが有名です。

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 今回の『MILK』は、なんといってもミルクを演じた主役のショーン・ペンのひたむきな役作りに感動します。一挙手一投足がまさにミルクその人なのです。同時に彼の恋人スコット・スミス役を演じたジェイムズ・フランコがじつにいい味を出しているんだなあ。この人は『スパイダーマン』で敵役をやったりしてこれまでは甘い青春俳優という枠から抜け出せていなかったのですが、スコットの造形はじつに素晴らしかった。

 60年代後半、ニューヨークのストーンウォールの暴動と同じくサンフランシスコでも警察によるゲイバー・バッシングが続いていました。オーラル・セックスは重罪で、70年には同市で90人近くがこの容疑で逮捕されていました。賃貸アパートで同性とセックスしているのがわかったら強制退去させられるし、ゲイバー摘発で一緒に逮捕されるのもイヤだから、ゲイたちは次第に夜の公園でセックスするようになります。すると当時の市長は警察に公園狩りを命じたのです。結果、71年に公園で逮捕されたゲイ男性はサンフランシスコでは2800人を数えました。ニューヨークですらたった63人だったのに。

 ミルクがサンフランシスコに移ってきたのは1972年のことです。ゲイの人口流入著しかったカストロ地区で恋人スコットと「カストロ・カメラ店」を開き、翌73年11月には早くも初めての市政執行委員選挙に立っています。カストロ地区に住み始めてすぐに、彼はコミュニティー・オルガナイザーになっていたんですね。これは次期大統領のバラク・オバマの最初の政治キャリアと同じ。地域運動のとりまとめ役みたいなものです。それで次第にミルクはゲイたちの窮状を代弁するようになった。

 たとえばトラック運転手たちの組合がビールの配給会社が同組合と契約してくれないとミルクに協力を求めると、ミルクは組合にもっとゲイの運転手を雇い入れるように要請する代わりにカストロ地区のゲイバーにビール購入の一斉ボイコットを訴えた。これが功を奏し、ビール会社は組合と契約することになったのです。また、あるゲイ男性2人が骨董店を開こうとしたとき、地元商店協会が営業許可を与えないように画策した。それでミルクは他のゲイ商店主とともにカストロに別の商工会を作って対抗。「ゲイはゲイの店から買うべきだ」というモットーを持っていたミルクは74年にはその商工会で露店祭りまで開催し、5千人という人出を集めてかつて地元商店協会が行ったどんなストリート・フェアよりも多くの売上をたたき出したのです。


 それでも公権力のゲイ・バッシングは続いていました。後に彼は、選挙に立ったのは「やるか黙るか、どっちかに決めなければならないところに来たんだと思う」と新聞インタビューに語っています。

 もっとも、彼はその市政執行委員選で2回連続で落選、次の州議会選挙も落選、そしてやっと4回目の選挙で市政執行委員当選にこぎ着いたのでした。

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 映画は、政治にかける彼の情熱を余すことなく伝えています。中でも、78年の州民投票「プロップ6(提案6号)」のエピソードが苛烈です。これは、ゲイ男女の教職員をゲイであるという理由だけでクビにできる法律を作ろうという提案でした。それが、わたしには同じくカリフォルニアの州民投票にかけられた、今年の同性婚禁止のプロップ8(提案8号)と重なって見えたのです。

 時代は、ミルクの死から30年経ってどう変わり、どう変わっていないのでしょう。それを、日本のみなさんにもぜひ観てもらいたいと思います。
(了)

2008-10Now He Sings, Now He Sobs

◎オバマが大統領になったその日、1つの少数者たちの夢は叶い、1つの少数者たちの夢は砕かれようとしていた……。


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 こういう写真を見せられるとげんなりします。これは、カリフォルニアで同性婚を禁止する「プロポジション8(提案8号)」に対し、住民投票が賛成多数に傾いて快哉を叫ぶ人たちです。

       *

 今回は締め切りを延ばしてもらって、大統領選挙の11月2日の結果を見てから書いています。その選挙でオバマがアメリカの次期大統領に選ばれたとき、この国の黒人たちの多くが涙していました。黒人といってもみんながみんな同じ境遇にあるわけでもなく、それぞれに生活信条も態度も性格も思想も違うでしょうからいっしょくたに「黒人」という枠をはめることはできない、とふつうならば言うでしょう。けれどこの夜、黒人たちは「黒人」だった。彼らに共通する「肌の色の歴史」を共有していた。それはぬぐい去れぬなにものかとして彼らのどこかにいまもあるのでしょう。その「負」が解放されて、彼らは涙したのです。
 翌朝のトーク番組「ザ・ヴュー」(ウーピー・ゴールドバーグやバーバラ・ウォルターズら4人の女性たちがかしましく世相を論じる番組です)でも、コメディアンで女優のシェリ・シェパードが感極まって声を詰まらせていました。「息子が『バラク・オバマ! やった、やった(We did it! We did it!)』って喜ぶの。わたし、思い出してた。子供のころ、家族にコメディアンか女優になりたいって言ったら『そんなこと言ってないで郵便局に行って仕事をもらってこい』って言われたことを。世間はわたしたちみたいな色付きの人間(黒人)にはそんなことをさせないって言われたことを。それでわたし、息子に言ったの。そう、あなたには制約(limitation)なんてないわ、できないことなんてないわ、って」

       *

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 同じその日に、その制約を、その強制された「負」を、同性愛者たちはふたたび突きつけられました。当選したオバマが「黒人のアメリカもアジア系のアメリカも、ゲイのアメリカもストレートのアメリカもない。あるのはただユナイテッド(1つにまとまった)ステーツ・オブ。アメリカだ」と勝利宣言したと同じその日に、ストレートのアメリカがゲイのアメリカを否定したのです。

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 アリゾナ州、フロリダ州の同様の同性婚禁止提案はすでに過去にもあったことで、どうでもいいというのではないが負けは予想されていました。しかし、カリフォルニアではすでにこの4カ月あまりで1万8千件の同性カップルが結婚しているのです。彼ら/彼女たちの生活を、強奪する偏狭と非道とを、寛容と慈愛を説く宗教者たちが行いました。
 オバマ大統領の誕生でアメリカ社会が大きくリベラル寄りに振れた中での、また、リベラル色がきわめて強いカリフォルニアでのこの同性婚禁止提案の可決。票差は、同性婚禁止賛成が52・5%、反対が47・5%と5%ポイント。これで「結婚は男女間に限る」とする条項が州憲法に加わることになるのでしょうか。

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       *

 CNNの出口調査からどういう人たちが同性婚に拒絶反応を示したのかを見てみましょう。
 この提案8号に対して、男性では53%、女性で52%が賛成でした。つまり同性婚は禁止すべきと思う人に性別上の差異はあまり認められなかったということです。
 ただし性別と人種を複合的に見ると、白人男性は51%が禁止派、白人女性は53%が同性婚容認派と、白人ではじゃっかん女性が寛容です。ところが黒人女性になると75%もが禁止賛成。対してラテン系では男性54%、女性52%が同性婚禁止派と、あまり差がありません。

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 純粋に人種だけだと白人は51%が同性婚容認。黒人は70%が禁止派。ラテン系は53%が禁止派、アジア系は逆に容認派が51%とやや寛容か。
 つまり、投票者全体の10%を占める黒人有権者たちの7割もが同性婚禁止派に加わったために、この提案8号が可決されたとも言えます。
 ところでこの黒人層は、カリフォルニアでは94%もがオバマに投票した人たちです。でも、同性婚には保守的だった。なぜか?
 じつは黒人層には教会に通う熱心なキリスト教徒が多いのです。つまり、リベラルなオバマの票を掘り起こせば起こすほど、保守的な同性婚反対票が増えるというねじれが起きていたのです。
 全体でも、プロテスタントの投票者の65%が、カトリックの64%が、この提案8号に賛成票を投じました。無宗教と答えた人は16%いましたが、そういう人は90%までが提案に反対しています。

       *

 年齢別を見ましょう。
 若い層、18歳〜29歳では61%が同性婚容認派でした。さらに詳しく見ると18歳〜24歳が64%と最も同性婚容認度が高く、25歳〜29歳では同59%でした。しかしそれ以上の年齢層はすべて同性婚禁止賛成が過半数で、30代は52%、40代では59%、50〜64歳では51%、65歳以上は61%もが賛成と、年齢層が上だと同性婚は受け入れられないということが如実に表れています。しかし40代がかなり偏狭ですね。働き盛りで性的にも旺盛だと、その分の揺り戻しでホモフォビアも強いのかもしれません。

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 それにしても若い層の受容度が大きいのが救いです。
 というのも、カリフォルニアでは2000年にも同じような同性婚禁止提案が行われ、そのときは61%が同性婚禁止派、39%が禁止反対派という大差だったのです。
 つまり、これは時間の問題だということなのです。もっとも、今回の6月からの同性結婚を届け出た人たちには高齢の人たちも多い。スタートレックの日系俳優のジョージ・タケイさんも71歳です。時間の問題、とは彼らにはまた別の意味でもあるのです。

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 サンフランシスコでは提案8号が可決と決まった11月5日夜(それはいまこれを書いている時なのですが)、市庁舎の前に数千人のゲイやレズビアンたちがキャンドルを持って集まっているそうです。まるでハーヴィー・ミルクが暗殺されたあの時のように。

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 LAタイムズはこの提案8号可決を覆すための訴訟が、すでに3件最高裁に起こされたと報じています。私たちはいま、歴史の変化と抵抗の、その潮目を目撃しています。
(了)

2008-09企業のLGBT問題

◎LGBTの優秀な人材確保にも熱心だったリーマン・ブラザーズの破綻。でも欧米型企業のディヴァーシティ(多様性)への取り組みは破綻していない、はず……。

 今回の金融危機急拡大のきっかけとなった、破綻した「リーマン・ブラザーズ」というアメリカの証券大手は、じつは日本でも社内グループがここ数年LGBT向けの就職説明会を開いたりと、なにかと社員の多様性に対応した先進的な取り組みをしていた企業でした。日本法人にも1300人くらいの社員がいたのですから、単純計算だと100人くらいはゲイやレズビアンだったりしたのでしょう。まあ、そのほとんどは自分のセクシュアリティなんかはオープンにはしておらず、社内のLGBTグループで公に活動していた人たちは少なかったでしょうが。

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 今年の6月の話ですが、もう一方の証券大手メリル・リンチの日本法人に招かれて「社員の多様性に企業はいかに対応するか」というテーマで2回にわたって講演を行ってきました。人事部局にディヴァーシティ(多様性)委員会という社員組織が設置され、そこが企業にとっての最良の職場環境をソフトとしてどう構築するかということを検討しているのです。そのときにメリルの人事担当者が話していたのは、いつかリーマン・ブラザーズの同様委員会と共同で何らかのイベントを行いたいということでした。それもこの破綻でダメになりましたが。いやいや、メリルだって危なかったのです。

 まあね、アメリカでは基本給が2千万円でボーナスですぐに億単位の年収になってしまうような業界ですから、それに関しては言いたいことが山ほどあるんですが、ま、今日はそれはさておき、ということで。

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 さて、このような社内ディヴァーシティ委員会(ダイヴァーシティという発音もあります)の設置というのはここ最近の欧米型大企業のトレンドです。もちろん「衣食足りて礼節を知る」じゃないですが本業の経営がうまく行っていなければそういう話もむなしい。

 アメリカでのディヴァーシティ委員会の源流はしかし40年以上前の1960年代初めまでさかのぼります。黒人の人権運動と女性の社会進出が拡大した時代です。その当時、弁護士事務所や会計事務所といったグッド・オールド・ボーイズ・クラブ(典型的な男性社会のこと)に女性や黒人男性が入り込んでいくことはなかなか大変なことでした。

 みなさんも社会人なら知っていると思いますが、例えば就職した新規採用者が会社にとってきちんとした利益を生み出すまでに、つまり一人前の社員になるまでにはどうしたって数年はかかると思います。ところがそこが典型的な男性(あるいは白人男性)社会で、女性たち(あるいは黒人たち)がどうしても馴染めない、となって2,3年で辞めちゃうということが続けば、会社にとってはそうした新人教育をつねにまた1から始めなくてはならない。これはとても無駄なことだし効率も良くない。つまり会社にとっては大変な損なのです。

 会社というのは利益集団ですから、べつに人権とか福祉とかいうことを第一義的に考えているわけではありません。あくまでも、新規採用者にかけた労力と費用とをいかに回収し、さらにはそれ以上の分を生み出させるかという会社の利益で動くわけです。

 どうせ辞めちゃうのだから女性とか黒人とかを雇わないようにするという手もあります。しかし女性にも黒人にも優秀な人がきっと(白人)男性と同じ率だけいるはずです。そういう人たちを雇い入れることで生じる会社にとってのチャンスを捨てたくない。これはLGBTの中の人材についてもまったく同じです。

 ではどうすればよいか? そこでディヴァーシティ委員会なるものが設置され、考え始めた。

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 たとえば女性にとっての職場離脱の第一の契機は結婚や育児です。そこで長期に休んだりすると、それだけで仕事復帰が難しくなる。というのも、アメリカというのは移民法や税法とかが毎年改訂されたりするので、とてもじゃないけれど休んでる間のブランクをキャッチアップすることが難しいんですね。

 そこで委員会は、子育て休職中も技能トレーニングやセミナーを開いて最新情報を習得できる機会が与えられるよう会社に提案するわけです。これは会計士や弁護士、医者や保険業や不動産業など、さまざまな業種で採り入れられています。

 ほかにも同期のパーティーや懇親会にも休職中であっても必ず招待するように手配するとか、上司とのメントール(恩師)制度を設けて、休職中の社員の個人的な相談に対応させたりしています。上司は男性の場合もあり、その場合は男女間の社交訓練にもなります。つまりセクハラやパワハラがどういうものかをそのメントーリング(相談関係)を通じて学んだりできるわけですね。会社のリーダー、管理職たちの人事管理トレーニングにもなるわけです。

 また、休職中じゃなくても女性用にスピーチ訓練のセミナーを開いたり、社内あるいは異業種のトップビジネスマンやCEOたちと話したりする交流会を企画して士気を高めたりもしています。

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 女性と黒人の優秀な人材を獲得するために始まったこうした取り組みは、現在、ヒスパニックやインド系などといった他人種、さらにはイスラム教やヒンドゥ教徒などほかの宗教や異文化を背景を持つ人々、また障害児を持つ親、そしてLGBTという分野にも拡大してきています。

 もう一度言うと、会社は慈善事業をやっているわけではないのですから、これはべつに人権や福祉活動ではありません。結果的に人権を守り福利厚生の庇護の拡大へとつながってはいますが、それは善意ではなく会社の利益のためにやっていることです。つまり、企業にとって、これこそが最も収益の上がる人事モデルだということです。そうしてそれが同時に従業員にとっても働きやすい快適な職場であるということ。つまり、ウィン・ウィン(両者ともに勝利する・損する者のいない)の状況づくりなのですね。ですので、LGBTのわれわれとしてもべつに恩着せがましくされる必要はないわけで、会社とは対等の関係です。もっとも、それくらいちゃんと働いているという自負がないようではダメですけれどね。

 興味深いのは、日本ではこうしたマイノリティ問題の解決法が部落解放同盟の「同和」という形に象徴されるのに対して、欧米では「同じくなって和する」ではなく異なるままに互いを認める「ディヴァーシティ(多様性)」という言葉で推進されたことです。

 さて、その多様さへの希求が、11月4日の大統領選でまた形として顕われるのかどうかが注目されます。
(了)

2008-08大統領選挙の夏

◎歴史的指名受諾演説でLGBTの受容を訴えた大統領候補。ミルク暗殺からの30年は、何を変え、何を変えなかったのか?

 アメリカも選挙、日本でも選挙ですね。日本の総選挙がいまひとつわかりづらいのは、自民党と民主党の対立項がはっきりしないからです。自民党の中にも大きな政府論の人と小さな政府論の人が混在し、さらには人権派から極右までいて、おまけに公明党なんていう宗教政党までがそこにくっついている。どうしてこれが「与党」として一括りになっているのか本来は意味が通じません。

 対する民主党も自民党の反対のことを言っていれば存在理由が確保できると思っているようなフシがあって、で、実際は何がどう違うのかよくわかんない。公約(いまはマニフェストっていうんだそうな)だって「口約」みたいなもんで、そんなうまくいくんかいな、ってな感が否めない。年金問題だって財政赤字だって地方の地盤沈下だってエネルギー問題や食糧の自給問題だって少子化対策だって、政権政党が変わったところでそんなに簡単に解決するはずもないのです。ですから日本は選挙の前からしだいに憂鬱になる。

 ところがアメリカは4年に1度の大統領選挙(連邦議会選挙も半分が同時に行われます)の前はものすごく高揚してるんですね。みんな使命感とか希望とかに溢れているように見える。まあ、実際には投票率は50%ほどですから溢れてない人も半分いるということですけれど、残りの半分はしかし民主党と共和党にほぼ二分されてかなり熱くなります。

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 というのも、民主党と共和党ではかなり政策が違うからです。そしてその違いがわかりやすい。

 民主党のバラク・オバマが大統領候補指名の受諾演説でLGBTについて明確に語りました。8万4千人という歴史的な数の観衆に向けて、オバマは共和党の掲げる「3つのG」の政策に異議を唱えたのです。

 「3G」とは「God, Gun, Gay」です。共和党は、神の名において女性の妊娠中絶を認めません。オバマは次のように言いました。「妊娠中絶に関しては意見が分かれているかもしれないが、この国の望まれない妊娠を減らしたいという思いはわれわれみんなきっと同じはずだ」。次は銃規制問題。「オハイオの郊外のハンターたちとクリーブランドの乱射事件の被害者たちとでは銃の所有に関する思いは違うだろうが、犯罪者の手からAK47S自動小銃を遠ざけるのに修正憲法第2条(武器の保有権の保証)の話になるのは大げさだとはみんな知っているはずだ」。そしてゲイのことです。「同性結婚に関して異論があるのは知っている。しかし、われわれのゲイやレズビアンの兄弟姉妹が愛する人を病院に見舞ったり差別から自由な人生を送ったりするのに反対する人はいないはずだ」。

 共和党には大きく2つの支持者層がいます。1つは大企業・富裕層です。ブッシュの減税が高所得者や企業に有利なのはそのせいです。共和党は国民に自助努力を奨励します。国民の自由意志を尊重して政府は必要最低限のことにしか手を出しません。結果、小さな政府(権限も財政規模も小さな政府)になります。日本の小泉改革というのはこの「小さな政府」と国民の自助努力を企図したものでした。

 しかし高所得者と企業を相手にしていても票は伸びません。で、もう1つの巨大な支持者層が必要となる。それがキリスト教右派、草の根保守派の人たちです。この人たちが敬虔なキリスト教徒として聖書のタブーであるゲイや中絶に反対するのです。これが3000万人もいる。

 ですので、共和党の綱領は勢いホモフォビックなものになります。差別反対を謳いながら、そこには「性的指向に基づく差別」は敢えて記述していません。ゲイの従軍に関しても「軍隊とホモセクシュアリティは両立しない」とし、同性婚に関しては「連邦憲法を修正して結婚を男女間に限るものとする」。

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 ところが先日、NYタイムズがマケイン指名の共和党全国大会に出席していた代議員にアンケートをとったところ、驚くような結果が明らかになりました。なんと、同性婚を認めるという代議員は当然ながら6%と少なかったのですが、結婚ではなくシビル・ユニオン(宗教的ではなく契約上の婚姻関係)だったらよいと言う人が43%もいたのです。つまり両方合わせて49%の共和党代議員が、同性カップルに法的認知を与えることに賛成しているわけです。対してそういう法的認知はいっさい不要という代議員は46%だった。

 意外なことに、共和党支持者だってけっこう寛容じゃないか? ちなみに、ブッシュは大統領としてよくやったと思っている代議員が79%(!)。イラクへの米軍の侵攻は正しかったという人が80%。78%が環境を守るよりも新たなエネルギー資源を開発するのが重要とし、57%が米国の景気はとてもよい、あるいはじゅうぶんよいと思っていると言うのですから、たしかに彼らは共和党員なのです。

 選挙のときは声の大きな連中が目立ちます。でもゲイのことに関しては、政争の前線で騒がれているよりもほんとうはもっと認知が進んでいるのかもしれない。共和党の大統領候補がそのへんを読み間違えなければよいのですが。

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 ゲイの人権が大きな政治課題であることを身を挺してアメリカに知らしめた男の伝記映画「ミルク」がもうすぐ公開されます。

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 ハーヴィー・ミルクのことはこれまでにアカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画「ハーヴェイ・ミルク」(84年)や、故ランディ・シルツによる伝記「ゲイの市長と呼ばれた男」(95年)もあるので、知っている人も少なくないでしょう。ミルクはいまから31年前の77年に、サンフランシスコの市会議員に3度目の立候補でやっと当選しました。ゲイであることを公言しゲイの人権を謳って当選した米史上初めての公職者です。そして翌78年、市庁舎内で暗殺されました。

 犯人は当時の市長も射殺したのですが、裁判では敬虔なキリスト者としてゲイを恐れるあまり正常な精神状態ではなかったという論理が展開され、判決は禁固7年8か月。これに怒ったゲイたちが後に「ホワイトナイトの暴動」と呼ばれる数千人規模の大暴動を起こしました。

 ミルク暗殺から30年、少なくとも一方の大統領候補がLGBTの人権について演説を行う。その大統領選挙は11月4日。ミルクの30回目の命日は11月27日です。
(了)