1970年代製作のギター「Takeharu Guitar LGT-31B」を手にして
中古のオールド・クラシックギターを買った。ヤフオクに出品されていたものだが、中古とは言えギター購入はこれまでで6本目だが、クラシックギターとしては4本目となり実に19年ぶりの購入(笑)。何しろメインのクラシックギターは20代の時に池袋のヤマハ楽器で無理して買ったギターをずっと使ってきたほど物持ちが良い…。
高校時代からクラシックギターを独学し、後にフラメンコギターを大沢憲三先生に習ったりして現在に至るが、残念なことに数年前から左手がバネ指と腱鞘炎で思うように動かないばかりか愛器であるノーマルテンションのクラシックギター(弦長658mm)の指板が思うように押さえられなくなってしまった。
そうした事情もあって調弦も低めだし、弾きやすいだろうと新たにルネサンスリュートを学ぶようになったがギターへの思いは膨らむばかり…。
とはいえ弾けないものは弾けない。しかしネックが細いギータはテンションが低ければなんとか押さえられることが分かってきたし右手は若い頃のようにはいかないまでもトレモロも弾ける!
要は標準サイズのギターに拘らず、トラベルギターとか19世紀ギターのような小振りの楽器なら楽しめることが分かってきた。
※ヤフオクで手に入れたTakeharu Guitar LGT-31Bロマンチックギター
しかし19世紀ギターを…と考えてもそれらはおいそれと手にできる価格ではない。といって見るからに簡易的な造作の楽器は今更持つ気がしない。なお19世紀ギターと呼んでいるのはどうも日本だけのようで、世界的にはロマンティックギターと呼ばれているようだが…。
そんなあれこれを考えながらここの所ヤフオクを覗いていたところ、まさしく19世紀ギター風な楽器を見つけた…。それが1970年代に製作されたという「Takeharu Guitar LGT-31B」だった。しばし眺めていたが他のオールドギター、特に外国製のものは結構な価格でもすぐに入札があるものの、このギターはなかなか入札がない…。
※ボロボロだがオリジナルケースも附属していた
外観は私が望むような19世紀ギター的に細身で優雅だし弦長も630mmと短めだ。特に演奏に支障がある問題部分はないように思えたしそもそも名だたる名器をと考えてるわけではないのでこの楽器にローテンションの弦を張り、クラシックはもとよりフォークでもジャズでも弾いてみたいと思った…。
それに若い時には一時期エレキギターもやっていたから時にはピックを使った演奏も楽しんでみたい。
■「Takeharu Guitar LGT-31B」とは?
さて、この「Takeharu Guitar LGT-31B」を調べて見ると製作は木曽鈴木バイオリン社であり、監修が山本丈晴(やまもと たけはる/1925年5月22日~ 2011年9月7日)という人物であることが分かった。その監修者の名をとり "Takeharu Guitar" と呼ばれているらしい。
この山本丈晴という人物は作曲家でありギタリストであり、あの古賀政男に師事し、ギター演奏により古賀メロディの普及に貢献した人だという。
作曲作品は、美空ひばりに代表される流行歌・歌謡曲・演歌から映画・テレビ・舞台音楽、社歌・校歌と数多く幅広いそうで第48回日本レコード大賞功労賞を受賞している。
ここで記憶のスイッチが入った!
山本丈晴という人は1962年第1回ミス日本に選ばれ当時「天下の美女」と謳われた女優の山本富士子と結婚した人だった…。
山本の実家には男兄弟がなく、家の後継者が居なかったことから丈晴は婿養子となり以降山本姓を名乗る。ただし別名として古屋雅章、古賀丈晴、古屋丈晴などの名で仕事をすることもあったという。
■ギターに眼を向けると
落札し手にしたギターは弦を張る前に可能な限りメンテとクリーニングをするつもりだが、昔々自分でも数本のギターを製作したことが構造的な理解に繋がっているのでツボは分かっている。
ざっと確認したところ、各部構造やバインディングも丹念に製作されているものの製作後50年ほど経過していることもあり、それなりに所々弾き傷、打痕、一部塗装の擦れ、剥がれ等もあるが、贅沢は言っていられない(笑)。ただしペグが一部固まっているようで思うように回らないしいまにも壊れそうなのでこれは取り替える必要がある。
※ヘッド部分
各部のサイズだが弦長は630mm、ナット下のサイズが48mm、12フレットの幅が58mmほどでボディの厚みは最大95mm程度だ。ちなみに形状を人の体型(BWH)に準えるとすれば、B=230mm、W=170mm、H=304mmほどであり一般的なコンサートギターと比較してかなりの小振りだ。
また弦高も低めにセッティングするつもりだがネックの反りは若干順反り気味か…。ともあれ製作が木曽鈴木バイオリン社ということで楽器製作元としては信頼してよいだろうし、これにHANNABACHのスーパーロータイプの弦を張ってみるつもりだ。調弦はA=430くらいにしようか…。
材質面だがトップはシダーの単板、サイド/バックは今では貴重なローズウッドが採用されている。そして指板はこれまたローズウッドかエボニーだと思うが全体的に丁寧な作りである。
サウンドホールから内部のラベルを確認してみると"LADYS" の文字があるが、小振り故に当時は女性向けとして設計されたギターなのかも知れないものの、フォーマルな女性を意味する複数形なら “ladies” にならなければいけないのではないか…。
※ラベル(部分)
ということで機能や材質面はこんな感じだが、全体的には繰り返すが19世紀ギターあるいはバロック時代を思わせるショートスケールの作りであり、例えばブリッジのデザインも近代の横長四角いそれではなくトリノスタイルのようだ。さらにサウンドホール回りの装飾がとても印象的でレトロ感を味付けするのに貢献している。
※ブリッジのデザインもレトロ感一杯だ
■総評
まあまあ、こうして見るとなかなかに面白く興味深いギターだということがわかったが、出品終了間際になって入札があったが幸い私の入札額が僅かに上回ったためにめでたく落札できた。
他の外国製の19世紀ギターやそれに類するギターは多くの入札があるのが普通だが、ではなぜTakeharu Guitar LGT-31Bはそれほど人気がなかったのかと言えば、それはやはり日本製であること、そして監修・命名が山本丈晴という流行歌・歌謡曲・演歌の世界で大成した人物だからという点ではなかろうか。
そこには何か、クラシックより歌謡曲の世界は低俗だという偏見が働いていてるのではないかとも思う。
私はといえばそうした偏見はまったくない。なにしろ幼少の頃は母が弾く大正琴の音で育ち、母の命で三味線を習わされたから和楽を含め古賀メロディーを始め歌謡曲やらも自然に耳にしてきた。
しかし思春期ともなると私の青春時代はエルビス・プレスリー、そしてビートルズ真っ只中の世界となり、三味線よりギターの方がモテるだろうと高校の夏休みのアルバイトで得た金から3000円でギターを買ったのがギターの始まりだった。
スチール弦をナイロン弦に替えたもののクラシックギターの教則本は近所の楽器屋にはなく「古賀政男ギター独習」とか言った教則本を買った覚えがある。さらにいえば当時憧れてレコードも買った…NHKギター教室講師も務めたことのある…ギタリストの阿部保夫も古賀政男の弟子だったはず…。
ともあれギターを抱えれば、ソルやジュリアーニ、カルカッシ、あるいはヴィラロボス云々だけでなく時には古賀メロディやフォークを奏でたくなる世代でもあり、そんな私に「Takeharu Guitar LGT-31B」はドンピシャのギターなのかも知れない。
とはいえ人様に聞いて貰うような演奏はすでに自分で諦めているが、常に身近に置き楽しんでみたいと考えている。
高校時代からクラシックギターを独学し、後にフラメンコギターを大沢憲三先生に習ったりして現在に至るが、残念なことに数年前から左手がバネ指と腱鞘炎で思うように動かないばかりか愛器であるノーマルテンションのクラシックギター(弦長658mm)の指板が思うように押さえられなくなってしまった。
そうした事情もあって調弦も低めだし、弾きやすいだろうと新たにルネサンスリュートを学ぶようになったがギターへの思いは膨らむばかり…。
とはいえ弾けないものは弾けない。しかしネックが細いギータはテンションが低ければなんとか押さえられることが分かってきたし右手は若い頃のようにはいかないまでもトレモロも弾ける!
要は標準サイズのギターに拘らず、トラベルギターとか19世紀ギターのような小振りの楽器なら楽しめることが分かってきた。
※ヤフオクで手に入れたTakeharu Guitar LGT-31Bロマンチックギター
しかし19世紀ギターを…と考えてもそれらはおいそれと手にできる価格ではない。といって見るからに簡易的な造作の楽器は今更持つ気がしない。なお19世紀ギターと呼んでいるのはどうも日本だけのようで、世界的にはロマンティックギターと呼ばれているようだが…。
そんなあれこれを考えながらここの所ヤフオクを覗いていたところ、まさしく19世紀ギター風な楽器を見つけた…。それが1970年代に製作されたという「Takeharu Guitar LGT-31B」だった。しばし眺めていたが他のオールドギター、特に外国製のものは結構な価格でもすぐに入札があるものの、このギターはなかなか入札がない…。
※ボロボロだがオリジナルケースも附属していた
外観は私が望むような19世紀ギター的に細身で優雅だし弦長も630mmと短めだ。特に演奏に支障がある問題部分はないように思えたしそもそも名だたる名器をと考えてるわけではないのでこの楽器にローテンションの弦を張り、クラシックはもとよりフォークでもジャズでも弾いてみたいと思った…。
それに若い時には一時期エレキギターもやっていたから時にはピックを使った演奏も楽しんでみたい。
■「Takeharu Guitar LGT-31B」とは?
さて、この「Takeharu Guitar LGT-31B」を調べて見ると製作は木曽鈴木バイオリン社であり、監修が山本丈晴(やまもと たけはる/1925年5月22日~ 2011年9月7日)という人物であることが分かった。その監修者の名をとり "Takeharu Guitar" と呼ばれているらしい。
この山本丈晴という人物は作曲家でありギタリストであり、あの古賀政男に師事し、ギター演奏により古賀メロディの普及に貢献した人だという。
作曲作品は、美空ひばりに代表される流行歌・歌謡曲・演歌から映画・テレビ・舞台音楽、社歌・校歌と数多く幅広いそうで第48回日本レコード大賞功労賞を受賞している。
ここで記憶のスイッチが入った!
山本丈晴という人は1962年第1回ミス日本に選ばれ当時「天下の美女」と謳われた女優の山本富士子と結婚した人だった…。
山本の実家には男兄弟がなく、家の後継者が居なかったことから丈晴は婿養子となり以降山本姓を名乗る。ただし別名として古屋雅章、古賀丈晴、古屋丈晴などの名で仕事をすることもあったという。
■ギターに眼を向けると
落札し手にしたギターは弦を張る前に可能な限りメンテとクリーニングをするつもりだが、昔々自分でも数本のギターを製作したことが構造的な理解に繋がっているのでツボは分かっている。
ざっと確認したところ、各部構造やバインディングも丹念に製作されているものの製作後50年ほど経過していることもあり、それなりに所々弾き傷、打痕、一部塗装の擦れ、剥がれ等もあるが、贅沢は言っていられない(笑)。ただしペグが一部固まっているようで思うように回らないしいまにも壊れそうなのでこれは取り替える必要がある。
※ヘッド部分
各部のサイズだが弦長は630mm、ナット下のサイズが48mm、12フレットの幅が58mmほどでボディの厚みは最大95mm程度だ。ちなみに形状を人の体型(BWH)に準えるとすれば、B=230mm、W=170mm、H=304mmほどであり一般的なコンサートギターと比較してかなりの小振りだ。
また弦高も低めにセッティングするつもりだがネックの反りは若干順反り気味か…。ともあれ製作が木曽鈴木バイオリン社ということで楽器製作元としては信頼してよいだろうし、これにHANNABACHのスーパーロータイプの弦を張ってみるつもりだ。調弦はA=430くらいにしようか…。
材質面だがトップはシダーの単板、サイド/バックは今では貴重なローズウッドが採用されている。そして指板はこれまたローズウッドかエボニーだと思うが全体的に丁寧な作りである。
サウンドホールから内部のラベルを確認してみると"LADYS" の文字があるが、小振り故に当時は女性向けとして設計されたギターなのかも知れないものの、フォーマルな女性を意味する複数形なら “ladies” にならなければいけないのではないか…。
※ラベル(部分)
ということで機能や材質面はこんな感じだが、全体的には繰り返すが19世紀ギターあるいはバロック時代を思わせるショートスケールの作りであり、例えばブリッジのデザインも近代の横長四角いそれではなくトリノスタイルのようだ。さらにサウンドホール回りの装飾がとても印象的でレトロ感を味付けするのに貢献している。
※ブリッジのデザインもレトロ感一杯だ
■総評
まあまあ、こうして見るとなかなかに面白く興味深いギターだということがわかったが、出品終了間際になって入札があったが幸い私の入札額が僅かに上回ったためにめでたく落札できた。
他の外国製の19世紀ギターやそれに類するギターは多くの入札があるのが普通だが、ではなぜTakeharu Guitar LGT-31Bはそれほど人気がなかったのかと言えば、それはやはり日本製であること、そして監修・命名が山本丈晴という流行歌・歌謡曲・演歌の世界で大成した人物だからという点ではなかろうか。
そこには何か、クラシックより歌謡曲の世界は低俗だという偏見が働いていてるのではないかとも思う。
私はといえばそうした偏見はまったくない。なにしろ幼少の頃は母が弾く大正琴の音で育ち、母の命で三味線を習わされたから和楽を含め古賀メロディーを始め歌謡曲やらも自然に耳にしてきた。
しかし思春期ともなると私の青春時代はエルビス・プレスリー、そしてビートルズ真っ只中の世界となり、三味線よりギターの方がモテるだろうと高校の夏休みのアルバイトで得た金から3000円でギターを買ったのがギターの始まりだった。
スチール弦をナイロン弦に替えたもののクラシックギターの教則本は近所の楽器屋にはなく「古賀政男ギター独習」とか言った教則本を買った覚えがある。さらにいえば当時憧れてレコードも買った…NHKギター教室講師も務めたことのある…ギタリストの阿部保夫も古賀政男の弟子だったはず…。
ともあれギターを抱えれば、ソルやジュリアーニ、カルカッシ、あるいはヴィラロボス云々だけでなく時には古賀メロディやフォークを奏でたくなる世代でもあり、そんな私に「Takeharu Guitar LGT-31B」はドンピシャのギターなのかも知れない。
とはいえ人様に聞いて貰うような演奏はすでに自分で諦めているが、常に身近に置き楽しんでみたいと考えている。