これは、『今』より少しだけ進んだ科学技術が確立されている世界。
……とある大人気ゲームにおいてのお話である。
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闇夜の洞窟、四つ目の大陸に存在する『秘境』と呼ばれる大陸の辺境に位置する高難易度のダンジョンの一つ。
出て来る敵は強者ばかり、ボスに相対するまでに倒さなければいけない敵というのは基本『リアル』では存在しないが、倒した先から沸いて出て来る敵を放っては於けず、多くの人員を攻略には必要としていた。
そして、最後、最奥の間に待ちうけていたのは、鬼族の頭領『七王』が一柱『赤の閃光』
仲間達が足止めしてくれた、他のモンスター、今、ナタはレアランク8、仲間のプレイヤーが作ってくれた苛烈の剣を抜き払い、雄叫びをそれなりに天上が広い洞窟内に響き渡らせる。
「おおおおっっっっ!!!!!」
腹の底から限界まで声を出し切り。
持ちうる中で最高の力を魂まで込めて、ナタは剣を振り下ろす!
鬼は笑いながら、その振りを見て避けるでも下がるでも無く。 後出しにも関わらず同時に刀を合わせる。
そう――――――どちらの技の方が上かな? とでも問うように。
ナタの剣術スキルは未だ200を越えたばかり、『剣豪』という称号は得たがまだまだ上には上がいる。
対する鬼のスキルは公式発表によれば須く『七王』たる彼らの所持スキルは『剣聖』の500を越えており、まさしく『剣鬼』。
マトモに打ち合えば、ナタが勝てる道理は何処を探しても有り得ない。
だがここは『リアル』望んだことは全て叶えられる、強き意志を持つ者こそが勝者。
レベルが上がってもヒットポイントは変わらない。
どんなレベル差があっても不意を突かれればどんな高レベルプレイヤーでも、あっさりと死に至る。
レベルの上昇は人に備わる感覚神経の上昇や精神力、スタミナ運といったものに左右する。
カンストであるレベル100とレベル1ではそれこそ修正値に天と地との差がある。
不意を突かれればまたは現実世界での差が有りすぎれば、魂が『リアル』に適合しきれていなければ、強者もあっさりと敗者に変わる。
それがいやでデスゲームが始まる以前にこのゲームを止めた者もいるが、ナタに言わせれば何処が不満なのか、という話になる。
スキルにしてもこの世界ではスキル値300をスキル値100が下すことも有り得る。
スキルの上昇はあくまで修正値を上げるだけの事、絶対的ではない。
ゆえにナタは自らを劣った存在だと認めた上で『絶対的存在』七王たる目の前の鬼に勝負を挑んだ。
ギルドの皆は止めるどころか、ナタが一対一になることに全力を注いでくれた。
七王の名は伊達ではない、他にも『リアル』において、出会ってはいけない種族、三種の内、七王よりかはランクが下がるが、鬼族が数を揃えていた。
それらの相手をするだけでも相当な実力を必要とする、ましてや――――――、
ガキッといやな音を立てて、相当高級であるはずのナタの剣が崩れ落ちる。
鬼のスキル武器破壊、鬼の顔に笑みが浮かぶ。 だがそんなことは織り込み済みだ。
すぐさま空になった手を握りしめて鬼の胴に、突き立てる。
鬼は最初から浮かべている笑みを引っ込めようともせずに、軽々とその攻撃の有効範囲を見極め、ミリの単位で避ける。
甘い、ナタは思念操作により左手を少しあけて弓を手に取る。
空族たる種族を選択して早一年仲間の手助けを得て、初めてこんなステージに立てた。
鬼の顔に驚愕が広がる。
思念操作もスキルの一つ。
戦闘中にしかも七王との高度な高速戦闘中に、このスキルを行使できる者がいるとはNPCの想像の範囲の内には収まらなかった、らしい。
空族の象徴たる弓、だが高度なハイレベルモンスター達には弓は通じないが鉄則。 鬼が顔を歪ませたのは、その弓の外見に思い立ったから、すなわち『必然の弓』
当たる確率その物を操作する。
とんでもないレアランクを誇るナタの究極の逸品。
かつて仲間と共に強敵を下したときに手に入れたレアアイテムと呼ばれる物だ。
七王にはそんな武器でも遠距離では通じない。 だがこの距離は、『必然の弓』にとっては絶対必中距離だ。
笑いながら避けるという行動を選択してしまっている鬼には、ワンテンポで取れる行動は今更存在しない。
左手に現われた必然の弓にこれまた持ちうる中で最高の威力を誇る銀の矢を番えて、ナタは、ワンセコンドで撃ちはなった。
ぶしゅっと違わず銀の矢は、鬼の左胸に突き刺さり。 心臓の一つを潰すことに成功。
バッと距離をとるナタ、その顔には全く勝利の感慨も浮かんでいない。
知っているからだ、七王は一度殺したくらいでは死なない事を。
知っているからだ、次には油断も慢心もない完璧な鬼が立ちはだかると言うことを。
「さっさと目覚めろ、真の鬼、鬼の中の鬼。・・・・・・手前を殺すのはこの俺だ」
必然の弓を道具箱にしまう。 一度とった戦術は高等モンスター達には二度と通じない。
これから先取れる武器は剣と弓以外に絞られる。
扉の向こうでは今でも激しき戦闘音が響きわたっている、皆、必死だ。
もう隠す必要もない。 ナタは思念操作でその両手に大剣を握りしめる。
必然の弓には及ばないが属性として、なかなかレアな鬼殺しがついている。
しかし、すでにナタは『必然の弓』という切り札を吐き出してしまっている。
残るは真実、実力勝負。
目の前の鬼の肌が紅色に変化し、角まで真っ赤に染まりきる。
『紅化』
理性の代わりに全てのステータスを1.3倍にまで引き上げる。
全てのプレイヤーに対する強力なリーサルウェポン。
「負けられねえよ。 仲間が作ってくれたこのチャンス・・・・・・負けられねえよなぁ」
気持ちを引き締める。 紅化した鬼の攻撃を喰らってしまえばどんなに加護を重ねがけしてHPを底上げしても、意味が無い。
ゆえにナタは再度加護の掛けなおしを図る。 すべてを反射神経に特化して、其れについていける認識能力の強化という形に。
腕の一本や二本、足の一本や二本捨てる勢いで無ければ、この目の前の怒るる鬼には到底歯が立たない。
さぁ、勝負だ。
負けたら、このくそったれた『リアル』は終わらない。
誰かが犠牲となって先に進む勇気を見せなければ、本当に俺達プレイヤーは終わってしまう。
皆が全滅してしまう。
今現在残っている一万を切って8000に届くか知らないが、それだけの数の者全てが全て死に絶えてしまう。
朱に染まった鬼が笑う。
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死闘の果てに、立っていたのは・・・・・・ナタだ。
左腕を根本から無くし、空族の象徴たる翼も千切れている。
ナタが決戦の為に集めたレアランクが総じて高めの武具も、壊れ散らばっている。
文字通りの死闘だった。
細かい傷も数えれば体中に負っていないところを探す方が難しく、血も流しすぎた。
ここまで来てしまうと、どんな回復方術も効果が薄いだろう、だが、ナタの顔には満足気な表情が浮かんでいた。
「・・・・・・よくやった」
ナタの耳に遠い声が聞こえる。
ナタは決してこの地に辿り着いたギルド『エスペランド』の中で最高のプレイヤーでは無い、誰かが七王の実力を確かめなければならなかった・・・・・・これから先もプレイヤーが希望を失わないように、誰かが勝たなければいけなかった。
だが、まだエスペランドの中でも最高の実力を誇り今や、『リアル』からの解放の旗印となっているリーダーカレンをこの場に立たせるわけにはいかなかった。
カレンを無くしてしまえば、皆が絶望に包まれてしまう。
最後の決めては、ナタが望んだ事、決して勝算が無い戦いでは無かった、現に、七王の一柱は倒れ伏した。
カレンに抱きかかえられている事を自覚し、後は頼んだ、そう口にしようとしたナタは、口が動かないことを悟り、無理やり笑みの形を作り、苦笑した。
残る七王は六柱、それだけではない、竜族はまるまる七竜が残っており、数が確認出来ていない機族の横槍も気をつけなければいけない、まだ鬼族のトップ金色夜叉も残っているし竜族のトップ竜皇も残っている、倒すべき存在はまだまだいるのだ。
ざわめきが聞こえる、その場にいたプレイヤー達――ナタが七王を下した事で他の鬼族は引いた――全員に新たなメッセージが届けられた。
『転生が始まります、『魔』族に転生……プレイヤー名、『ナタ』』
「ふざけるな!」
カレンの女傑らしい怒鳴り声が天に届く。
VRMMORPG『リアル』がデスゲームと成り果てて、示されたクリア条件は三つ。
其の一、NPC『金色夜叉』『竜皇』を倒すこと。
だが、その道は茨の道、彼の二体は設定上スキルが1000オーバーであり、生半可な覚悟ではその場に立つことすら出来ない。
其の二、NPC『七王』『七竜』のすべてを駆逐する事。
現在屈指のプレイヤーであるナタが死に瀕した事からも、生半可な難易度ではないが、クリアが完全に不可能という訳でもない。
そして、最後が、『天』『魔』族に転生した者をプレイヤーの手で皆殺しにする事。
『リアル』では転生システムという者があり、各種族のレベルが100になる事と、ある特定の条件を満たすことで、上位種族である『竜』種『鬼』種に転生することが出来る、現にエスペランドに所属する高レベルプレイヤー達の数人はすでに転生している。
これまで『天』『魔』に転生する条件すらわかっておらず、また『天』族に転生したものが一人確認されてはいるが、今は姿を隠している、当然だ、すべてのプレイヤーがまず初めに目指したのは其の者だったのだから。
その場に居た者すべての脳裏に悪魔がささやく。
カレンを初め、ナタと特に仲がよかった複数人は不穏な空気を感じて、ナタを囲み身構える。
ナタの傷が塞がって行く、転生する事によりレベルは一に戻るが、その代わりに死からは遠ざかる。
今のナタを殺すことは意識が無い状態では赤子の手をひねるよりも簡単だろう。
「どいてください、カレンさん」
身に合わぬ、極悪な外見をした長剣を構え、小族の少女がナタに近づく。
「何を考えている、仲間を殺す気か? クリーエル」
クリーエルと呼ばれた少女は応えず、剣を更に構えなおす。
「どけって、太乙」
カレンと同様ナタを背に庇っている空族の青年に掛けられる冷たい声。
「……どかねえよ、手前ら少しは頭を冷やせ、まだ七王共は残っているんだぜ?」
言葉を発しながらも太乙は無駄だなと腹を括り、巨族の男に返す。
やはり無言でその巨躯を戦闘モードに移行させている。
カレンに太乙、他数人を除き、皆が皆、ナタを殺そうと近づく。
カレン達がいかに強くても、この場にいる者は平気で限界突破している者たちばかりだ、圧倒的数には勝てやしない。
殲滅戦、カレンの脳裏に浮かんだ言葉、自らが育てたギルド、笑い合い、デスゲームとなってからも協力してやっと打倒七王達の初めの一歩が踏み出せたはずなのに、……何故……っ!!!
「神速烈風」
聞いた事が無い誰かの言葉が殺気立った場に響き、と同時に、ナタの体が消える。
その誰かは、白き衣装に身を包み、ナタを抱え上げていた、その背には翼が無いので空族では、無い。
「守ろうとした者が居たのは、驚きだ、……其処の人族の英雄よ、名をなんと言う」
先ほどまでの空気はどこへやら、あっけに取られた顔をしている皆。
問いかけられたカレンは静かに応える。
「……カレン、カレン・エスペランド、このギルドの盟主だ」
「そうか、この者は私が預かる、殺したければ追え、我が名は、グレン、汝らが求めて止まない『天』族が一人、……我とこの者を殺せば、クリアできるとの思い込み、果たして何処まで正しいかな? 相手は狂った天才、海道梢だぞ? ……信じられぬのも、無理は無い、が、そうたやすく我らが殺されると思うなよ……では、カレン、さらばだ、いいか皆の者、この者を殺したければ我を追え、喜べ第三の条件は指し示された、精々我を追い続けろっっ!」
激昂した声を上げ、グレンはその場から飛び立つ、翼が無いのにもかかわらず、人一人抱えて、グレンは高々に空を駆け始めた。
ナタは結局最後まで目を覚まさない、彼が絶望の結果に気付くのは、もうしばらく後。
永劫の収斂が彼を捉えて離さない。
「……帰ろう」
言葉少なに、カレンは自らのギルドメンバーに声を掛けた。
もう、信じきる事は出来ない。
重い沈黙の元、彼らは危険なダンジョンから逃げ出すように、帰還の途につく。
「気にすんなや……こんなん誰がトップでも防げやしねえよ」
同じくナタを庇った一人、太乙がカレンの背を軽くたたく。
其れはカレンもわかっては居たが……心は騙せない、ここに攻略組の中でもトップを走っていたエスペランドは崩壊した。
『リアル』から開放されるまで、時間はまだまだかかる。
重い考えは振り切れない。
デスゲームは未だ続いているのだ。
*序盤も序盤、ゆっくりと話を積み重ねて行きたいと思います。細かいわからない設定も後で出ますので、さわりだけ書かさせていただきました、誤字脱字等ありましたら、指摘お願いします、それでは、また。