最初に
このSSは、永遠のアセリアと月姫などTYPE-MOON作品のクロスオーバーです。
<殺人貴>こと七夜志貴がファンタズマゴリアにエトランジェとして召還される、という話です。志貴の設定が本編とは異なっております。
永遠のアセリアをあまり知らないかたにも楽しんでもらえるように、がんばりたいと思っています。
第零夜 殺人貴、呼ばれる。
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暗い昏い闇の中、一人の青年が悠然と立っていた。時間にして午前2時。
紺の学生服を着ている彼は、一見すると一般人にしか見えない。
だが、彼の纏う空気が彼が一般人ではない事を如実に表していた。
極限にまで薄く鋭く冷たいそれは、抜き身の真剣を連想させ、明らかに一般人の範疇を超えている。
彼の名は七夜志貴。彼を呼ぶものを悉く殺しつくす殺人貴。そして、まもなくその存在も水泡のように消え去ろうとしていた。
「まあ、今回の舞台もそれなりに楽しめたさ」
誰に言うわけでもなく、ポツリともらす。まるで消え去る自身の存在を惜しむかのように。
……いったいいつからだったろうか。自分が「遠野志貴」から「七夜志貴」に変わったのは。なにか大事なきっかけがあったはずだがもやがかかったかのように思い出せない。「遠野志貴」が壊れてしまい、影だった自分が表に出ることになった決定的ななにかが。
それ以外の「遠野志貴」の記憶は大体残っている。ただしそれは他人の人生を映画で観ているかのようなもので、「七夜志貴」の記憶ではない。
今の「七夜志貴」としての最初の記憶はよく判らない所に浮かんでいる記憶だった。すぐに頭に流れ込んできた知識で此処が世界の「座」と呼ばれる死後の世界であることを知った。過去の英雄である英霊と呼ばれるものとなにかひとつ願いを叶える代わりに世界の敵を始末する守護者と呼ばれる者がいる、ということも。
下半身が少しずつ霧に溶けていく。だが、彼はそれを気にしない。が……
「あぁ。それでも、叶うのならばもう一度、お前と殺り合いたかった。……なあ、四季」
今はもういないかつての家族であり親友であった男の名を紡ぐ。彼とその妹がこれらのきっかけに関係していた気もする。
腰が霧になった。仕事が終わった証で、いつもの事であり、痛みはない。
「まあ、ここなら殺り合う相手に不自由はしないんだが……いかんせん殺し合いの最中に意識がないと味気がない」
胸まで消える。その下の感覚はとうに無い。
「まあ、それでもっっ!?」
ここにきて初めて彼の表情が変わる。浮かぶ感情は驚愕。体が消えているからではない。逆なのだ。
砂時計を逆さにしたかのように体が復元されていく。同時になにかに引き寄せられる感覚は世界から呼ばれるそれに酷似しており、抗えるものではなかった。
にもかかわらず、彼はその事実を認識すると口の端を歪め、
「クッ ハハッ アハハハハハハハハッ!!!」
壊れた玩具のようにその青い蒼い瞳を輝かせて笑った。それはそれは楽しそうに。その理由は、彼本人にしかわからない。
そうしてひとしきり笑った後、彼はその感覚に身を委ねることにした。
(どうせ此処にいても座に戻るだけ。なら、次の舞台で役を演じることにしよう……。願わくば吾が吾でいられん事を……)
そう結論づけるのと、彼が最初からそこにいなかったかのように消えたのはほぼ同時。
かくして殺人貴は招かれざる異邦人となる。
追記 書いてて色々無理が出てきたので、誠に勝手ながら少々設定を改変させていただきます。
①守護者状態で意識持ちから無しに
しかし昔の文章は今以上に見てて辛いorz