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No.31402の一覧
[0] 不幸少年は今日も頑張る(勘違いもの)[海](2012/02/01 21:52)
[1] 奇遇[海](2012/02/07 21:59)
[2] 煩悩と自衛の狭間[海](2012/02/08 11:46)
[3] 赤城正也について~小泉結衣子・談~[海](2012/02/09 16:47)
[4] 昔の真実ってこんなもの[海](2012/02/08 20:26)
[5] 昔の罪と現在の贖罪~稲垣咲月・回想と主観~[海](2012/02/10 21:41)
[7] 女の涙+目撃=死の宣告[海](2013/06/10 03:53)
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[31402] 不幸少年は今日も頑張る(勘違いもの)
Name: 海◆a7f82989 ID:5cc030ab 次を表示する
Date: 2012/02/01 21:52
 因果に嫌われた少年がいた。
 彼の名は、赤城正也。彼には、ある特徴があった。
 やること成すこと、全てが自分に不幸を呼ぶのだ。
 しかし、正也の行動が、周囲になにをもたらしているのか、知らないのは当の本人だけだった。










「……いい天気だなぁ」

 燦々と降り注ぐ陽光を全身に浴びて、心地よい暖かさを感じながら、僕は目を細めた。

(いい天気、っていうよりは、むしろいい日だけど)

 そう、内心で思う。
 今日はやけに運が良かった。なにせ――登校途中になにも起きなかったのだから。

 鳥に糞をかけられることもなく、
 犬に襲いかかられることもなく、
 道を外れた車が突っ込んでくることもなく、

 いたって平凡な朝が、僕に訪れていた。

 嗚呼、いつぶりであろうか。我が身に不幸が降りかからない朝というのは。僕は感動していた。
 今日の自分の門出を、まるで空までもが祝福してくれているかのようだ――輝く太陽を見て、本気でそう思いかけたほどである。
 遠足の日には確実に足をくじき、初恋の女の子に声をかけた瞬間に車に轢かれるといったパターンが鉄板だった僕にとって、入学式という一大イベントの当日の朝に何事もないというのは、それだけでミラクルだった。
 しかし。

「でも、絶対なにかあるよなぁ……」

 僕は周囲への警戒を怠らない。
 晴れの門出、幸福の始まりには、必ずなにかしらの不幸がやってくる。これは絶対だ。
 ただし、それがどれほどの不幸かはわからない。
 選択肢を一つ間違えれば、大惨事に成りうるのだ。

 耳を澄ませば、小鳥のさえずり。鳥のフンのフラグが立ったか?
 幸先がいい、と僕は一人ほくそ笑む。フン程度で済むならば軽いもの、さっさと一つ消費してしまおう――そう思った時だった。

「おい、そこの一年! もう三十分だぞ、急がんか!」
「は、はいっ!」

 誰のものかもわからない厳しい一喝に、しかし思わず背筋が伸び、僕の足が勝手に走りだす。
 その後ろで、ぺちゃりとなにかが落ちた音がした。
 それがなにか? もはや語るに及ばず。

 ――あ、しまった。

 そう思った矢先、僕はなにもない地面でなぜか躓く。
 世界が回転して。
 横から爆走してきた女子生徒が視界に入って。
 その驚いた顔が身近にあって。

 躓いた拍子に振り回した腕が、その少女の首に引っ掛かり、思わずそれを支えにしようと力を込めてしまった瞬間、僕は悟った。

 ミスった、と。

 そして、そのまま仲良く転倒した。
 僕の手はその女子の首にまわされ、しかも力強く引き寄せている。つまりは抱きついているのだ。
 今回の不幸はラッキースケベに見せかけた風評被害系。この類の不幸は、インパクトの瞬間はそう強くない代わりに、長期間にわたって尾を引く。あまり被りたくはない不幸だ。

 僕は、やれやれ、と思って力を緩め、へいこらと謝ろうとした。

「あがっ!?」

 して、後頭部に恐ろしい衝撃を受けた。
 なにがなんだか分からず――僕の意識は闇に落ちる。
 視界が真っ暗になる寸前に見えたのは、コロコロポテンと跳ねる、拳くらいの大きさの、白い球。

「助けて、変態、変態! 助けてっ!」

 聞こえたのは、女子生徒の悲鳴。

 ――とりあえず、入学式の前から野球部が大嫌いになりそうです。










 そのときの様子を、体育教師歴12年、岩鉄鋼(37)はこう語る。



 赤城を初めて見たのは、入学式の当日に遅れそうだというのに、のんびりと歩いていた時だった。
 やけに鋭い目つきが印象的だったな。
 今にして思えば、あれは周囲を警戒していたようにも思えなくはない。まったく、底の知れんやつだ。

 話が逸れたな。とにかく、俺は業を煮やして怒鳴りつけた。するといい返事をして走ってきたから、まあ許してやろうと思ったんだ。

 すると、次の瞬間、赤城はいきなり、すぐ傍にいた女子生徒に抱きついて、その場に倒れこんだ。
 女子生徒の方も、なにが起こったか分からずに目を丸くしていたな。後から聞けば初対面だったらしいから尚更だ。

 そこまでなら、ただの変態で終わるんだ。見ず知らずの女子を道端で押し倒した変態で。
 だが、違った。

 赤城が女子生徒を抱き寄せて倒れこんだ瞬間、その女子生徒の頭があったであろう空間を、グラウンドから飛んできたボールが貫通したんだ。

 我が目を疑ったよ。
 あの速度からして、赤城が女子を抱き寄せたとき、ボールは豆粒よりも小さな点だったはずだ。
 それを視認したばかりでなく、どこに飛ぶかまで予測して、瞬時に抱き寄せるという方法を選ぶ。
 そんな芸当ができる学生など、どこにいる?

 まあ、そのボールが壁に当たって跳ね返り、自分の頭に当たるとは思わなかったらしい。当たり所が悪かったのか、赤城はそのまま気を失ってしまった。

 最後まで、しっかりとその女子を抱き寄せたまま、な。

 俺は赤城を変態呼ばわりし、助けを求める女子生徒のもとに向かった。
 すべての事情を説明してやろうと思ってだ。

 そして、俺は決めたんだ。
 こいつを、絶対に野球部に入れようと。





 この数日後、正也は暑苦しい筋肉ムキムキマッチョマンの野球部顧問に付きまとわれることになるのだが、気を失った彼は、それを知る由もない。








ふと思いついて。
続きも一応ありますが、需要があれば投稿するということで。
そんなわけで感想プリーズ! みんな、オラに元気を分けてくれ!


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