第一章　憂鬱

僕の現実は夕方から始まる
平日の学校は嫌いです

日記1日目　金曜

明後日の日曜は待ちに待った彼女とのデートです。
二週間ほど前に携帯サイトで知り合うことができました。

日頃学校でも人と話すのが苦手な僕は、いろんな事を彼女とメールで話します。

毎日が楽しい。
こんな楽しい世界があったなんて驚きです。
携帯やサイトを作った人は天才だと思いました。
学校でのイジメもこれで忘れられそうです。

彼女との楽しい日々をこれから日記に残していこうと思います。
学校の先生もやればできる子だと言ってたのを思い出します。

やります。

日記1日目　金曜続き

明後日に会う子は、みくと言います。
みくは絵文字を使いません。
僕と同じで顔文字が好きです。
共通点があると会話も楽しぃ。

みくとメールする前に何人かにメル友希望を送りしましたが、皆写メをねだってました。
何かで読みましたが、写メは怖いです。
誰に悪用されるか分かりません。
ﾘｽｸは避けるべきです。

みくは今までの感じの子とは違い、僕とメールをやりはじめた時に僕の写メが欲しいと言ってきませんでした。

写メをねだらない。
顔文字を使ってくれる。
返事の一つ一つが優しい。
僕はこんな子が好きなんだと思います。
フィーリングは最高です。

日記１日目　金曜続き

デートの約束もしてるし、ある程度仲良くなってきたので、
今日は思い切って冗談まじりで彼女の写メが欲しいと送りました。

しばらくして彼女から写メがきました。
こんなにあっさり貰えるものなのかと驚きました。
写メをもらってから、もう誰にも送っちゃいけないよと返事しました。

みくの写メが想像以上にかわいい子だったのでお気に入りボックスに保存しました。
それからメールをやめ、部屋のカーテンを閉めて写メを眺めてみました。

薄暗い中で彼女の写メをじっと見ていると、ちょっとだけ興奮しました。
触れたい
触れたい
触れたい
…ﾊｧﾊｧ
僕はみくが好きです

日記2日目　土曜

今日は本屋で「初めてのデート攻略本」を買ってきました。
僕の中で気を引き締めるときは、お気に入りのリュックを背負って外に出ます。
でも少し緊張しました。

レジ前で店の人にジロジロ見られましたが、
なるべく僕は目線を下にして合わせないようにしました。
レジを待ってる間、待ち受け画面に登録した彼女を見てました。

なんだか彼女と目が合った気がして照れ臭くなりました。
家に着いてゆっくりしてから本に目を通そうと思います。

帰りの道中、デートのことを考えながら歩いていると、立て看板にぶつかってしまいました。
先日ひき逃げ事件があり、まだ犯人は捕まっていないようです。
身近でこんな事件があるなんて…物騒な世の中になりましたね。自宅に帰り部屋に着いた僕は、気を取り直し携帯の待ち受けを見ました。
僕の女神さま「みく」さん。
嬉しくなった僕は、待ち受け画にみくと文字を入れました。
女の子と逢うのは初めてだから、今からドキドキです。

携帯の待受け見せようかな？
私の写真待ち受けにしてくれてるんだぁ！とか喜んでくれるかな？

鏡に写る僕はいつもよりニヤニヤしてます。
ﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷ
明日が勝負です。
頑張れ、僕。

日記3日目　日曜

今日はデートの日です。
駅前のトイレから書いてます。

ついさっき、僕の苦手な大野くんグループに会いました。
最悪です。
僕は毎日学校でこいつにいじめられてます。

「何逃げてんだよ、タケル」
大野が僕のお腹を殴りました。
今日はデートだなんて言えません。

僕は近くのトイレに逃げました。
大野達が追い掛けてきます。
大野達は僕が入ってるトイレの扉を叩きはじめました。

叩きながらニヤニヤ笑ってます。
扉壊れますよ、駅員さん。
どうして誰も助けにこないのでしょうか。
待ち合わせまであと３０分。

神さまお願いです。
今だけK1選手みたいに僕を強くしてください。

日記3日目　日曜続き

結局みくに逢えませんでした。
待ち合わせ10分前にトイレから出ましたが、外で大野が待ち伏せしてました。

路地に連れていかれて大野達に囲まれました。
すごく機嫌が悪い顔をしてます。お腹を蹴られました。
周りにいた奴も僕を蹴ります。
のけぞった時に、顔も蹴られたので鼻血がいっぱい出ました。
大野はそんな僕を見て
「動きがうじ虫みたいだな、こいつ」とさらに蹴りました。

こうなると大野達は止まりません。
叫びたかったけど激痛で声が出ませんでした。
30分ほど僕を蹴ったあと、
僕の財布がポケットから出てしまい、デート代持っていかれました。
僕の服につばをかけたあと、そのまま仲間達とどこかに行きました。せっかく用意した服もボロボロです。
僕はみくに今日は急な予定が入ったとメールしました。

みくは
「駅まで来てるんだけど…残念…本屋へでも行きます」
と返事があった。

僕も本屋のとなり路地にいます
僕を見つけないでください

日記4日目　月曜

今日は学校でした。
悪夢の日常に帰りました。

昨日大野達にいつもより多めの一万円を取られたので、今日はエスカレートしてきました。
木曜までに二万円持って来いといわれました。

断るとお腹を蹴られました。
うずくまった僕を見て
大野はゲラゲラ笑ってます。
周りにいた奴も楽しくなってきたのか、僕のお腹を次々と蹴り始めました。
僕はお腹が壊れると思いましたが、大野達はゲラゲラ笑いながら10分ほど蹴り続けました。

家に携帯を置いてますが、みくからメールが来てました。
僕の現実はきっとこっちだと思います。
大野は夢の中にいる怪物です。

日記5日目　火曜
　
今日は昼休みに大野の子分の岡田からメロンパンを買ってこいと言われ腹を蹴られました。
お金は僕が払う仕組みになってるようです。

学食の売店にメロンパンが売り切れてたので、変わりにクリームパンを買いました。
岡田に売り切れてたことを伝えパンを渡すと急に怒りだしました。
買ってきたパンの袋を開け、壁に投げ付けてから僕のお腹を三回蹴りました。

投げたパンはぐちゃぐちゃになってました。
そこに大野が来て、間違えて買ってきたタケルが悪いと言い、僕のお腹を蹴った後に散らばったパンを食えと言いました。

食べないと蹴られるので、ぐちゃぐちゃになったパンを食べました。
砂がまじってましたが、我慢して飲み込みました。他の子達は見てみぬふりをしてました。

世間はどうやら冷たいです。

日記6日目　水曜
　
今日は大野から明日二万円忘れたら裸の写メを撮るといわれました。
それだけはやめて欲しいので、お金が足りない僕は親の財布から一万五千円を抜きました。

これで僕の写メは撮られないで済みそうです。

みくからメール入ってました。
「明日学校で裁縫なんだぁ！楽しみ☆」
僕も学校が楽しいと返事しました。

日記7日目　木曜　

約束を期待した僕はバカでした。
大野に二万円渡した後、
僕はトイレの中で裸にされ、
写メを撮られました。

撮りながら大野達はゲラゲラ笑ってます。
岡田は僕の足を押さえて無理やり股を開かせました。
大野がもう一人の子分にあたる川瀬に写メを撮らせました。

大野は、
「顔を手で押さえるなよ！」
そう言って再び僕のお腹を蹴ります。
撮った写メを見てはニヤニヤしている大野達が、人間に見えませんでした。

これはきっと夢なんです夢。
もう一人の僕がいじめられる話を映画館で見るような感じで見てるんです。

家に帰るといつも通りみくからメールが来ています。
ただいま～、現実の世界。

日記8日目　金曜

授業中、クラスからクスクスと笑い声がしました。
一部の女の子達も笑ってます。
大野とは同じクラスですが、大野も笑ってました。

後ろの席から携帯を渡され、大野が開けろと僕にジェスチャーしました。

僕が写ってました。
裸で。

あははははは

日記9日目　土曜　

今日はみくも学校が休みです。
僕は学校のストレスを洗い流すがごとくメールを送りました。

「何かあったの？」
みくが心配してくれます。

これまでの嫌な思いも全て出しそうになりました。
もし僕がいじめられてると知ったら、彼女はどう思うのだろうか？
きっと引くにちがいない。
そっちの方が苦しいに決まってます。

ここは我慢する時なんです。
僕は自分に必死に言い聞かせた。

明るく行こう。
せっかくの休みだし。
みくだけは失いたくない。

日記10日目　日曜

今日は弦楽「セレナーデ」を部屋で聴きながら、
みくとメールをしました。
安らぎのとき。

クラシック音楽は疲れた心を癒してくれます。
みくもセレナーデが好きだと話してくれました。

楽しい時間もつかの間で、
みくは今日従妹の家に行くようで、あまりメールができないそうです。
夜にはメールをするねと返事がありました。

それまでは二人だけの時間。
この時間がこのまま続いてほしいです。

逢いたい