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No.454の一覧
[0] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~[徒然草](2007/04/08 19:33)
[1] Re:魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~[徒然草](2007/05/08 21:57)
[2] Re[2]:魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~[徒然草](2007/09/18 12:27)
[3] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 04[徒然草](2007/11/26 23:15)
[4] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 05[徒然草](2007/12/10 21:16)
[5] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 06[徒然草](2007/12/17 19:41)
[6] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 07[徒然草](2008/01/03 18:09)
[7] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 08[徒然草](2008/01/14 03:59)
[8] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 09[徒然草](2008/01/27 16:25)
[9] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 10[徒然草](2008/02/16 19:03)
[10] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 11[徒然草](2008/02/25 23:03)
[11] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 12[徒然草](2008/03/11 08:39)
[12] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 13[徒然草](2008/03/22 13:56)
[13] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 14[徒然草](2008/08/03 19:02)
[14] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 15[徒然草](2008/08/17 03:37)
[15] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 16[徒然草](2008/09/03 01:14)
[16] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 17[徒然草](2009/02/01 18:30)
[17] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 18[徒然草](2009/02/01 18:39)
[18] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 19[徒然草](2009/04/12 18:37)
[19] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 20[徒然草](2009/07/06 00:35)
[20] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~ 21[徒然草](2009/10/18 18:37)
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[454] 魔法少女リリカルなのはAi’s ~Small faction~
Name: 徒然草 次を表示する
Date: 2007/04/08 19:33
『時空管理局は冷徹な集団じゃないから』
 かつてクロノ・ハラオウン執務官が高町なのはに語った言葉である。
 彼の言葉通り、管理局はPT事件の“共犯者”であるフェイト・テスタロッサに寛大な処置を執った。
 これは事実であるが、事実の側面でしかない。
 そもそも彼女への事実上無罪ともいうべき処置は、管理局の総意によるものではなかったのだ。
 多発するロストロギア関連の事件に対処すべく、管理局は事件を担当する執務官に多大な権限を与えている。フェイトに関する処置が寛大に終わった最大の理由は、全て担当したアースラスタッフ、特にリンディ・ハラオウン並びにクロノ・ハラオウンが『冷徹ではなかった』からに過ぎない。
 同じくクロノ・ハラオウンの言葉を借りれば、執務官の仕事は『考えるをやめてしまった方が楽』なのである。事務的に、機械的に処置すれば、定例通りフェイトの刑は数百年単位の禁固刑、ということも充分有り得たのだから。
 時空管理局は決して絶対正義の執行者ではない。
 多種多様な人間の意志が介在する、公的機関に過ぎないのだ。


 そして『闇の書』事件に対しても、この稀有な幸運は舞い降りた。
 時空管理局と因縁深い、A級ロストロギアの認定を受けた『闇の書』。数多くの犠牲者とそれに比する悲劇を生み出した災厄の化身は、それまで積み重ねた不幸を清算する幸運に恵まれてその無限の円環から解放された。
 その後『闇の書』の所有者となった八神はやてと彼女の騎士・ヴォルケンリッターに下された処置──管理局任務への従事──も、甚大なる過去の被害に比べれば無罪に等しいのは誰もが認めることだろう。
 これもまた、戦艦アースラの面々が事件を担当したからと言えよう。
 いや、PT事件に比べれば、その運の良さは計り知れないかもしれない。
 『闇の書』は事件解決に奔走した時空管理局の局員にも多数の被害者を出しているのだ。過去を嘆き、悼み、悔やみ、私怨に囚われ私情に走る局員が担当したとすれば──。


 未だ細々した手続きの類は残っているものの、『闇の書』事件解決後一ヶ月を経過した今でも、それら判決に対して不満の声はなくもない。
 管理局がヒトの集団である以上、一枚岩では有り得ない。
 そして、管理局がヒトの集団であればこそ、このような思惑を抱える者も有り得た。


****


「ええい、忌々しい!」
 怒声と共に叩き付けられた拳が机上を揺らす。
 そう広い部屋ではない。執務用のデスクの前には4メートル程度の空間。左右に配置された、法律関係の書籍を並べた棚。ペーパーモジュールの他に紙の本が多いのは、それが様々な文化圏を渡る船ならではと言えるのかもしれない。
 飾り気の無い調度品は、そこが客をもてなす構造に無い事を示している。


時空管理局所属L級艦船『ハルトゥス』。


 次元航行中の戦艦ハルトゥスは、本局から遠く離れた次元世界からの帰還中であった。時空の概念を理解し、技術として運用している管理局のテクノロジーでも、単純に距離の概念をゼロにすることは叶っていない。それだけに、本局から通達される様々な連絡事項に関しても距離に比例してのタイムラグが発生する。次元の間を走る波の具合にもより通信波が不通になることも珍しくない。
通信可能領域に達し、その間に送信された様々な通達や連絡事項、事件の報告に目を通していた彼が思わず発したのが先の一言だ。
 鋭利な面に怒りを湛えた眼光。年齢的にはまだ壮年期に入ったばかりだろう、口調にあるのは老練たる響きではなく直情の波動。
 L級艦船ハルトゥス艦長、ミルバルト・フォスター提督。管理局内では冷静沈着を持って知られる人物だが、今ここにいる彼はその評判からは想像できないほどの感情を迸らせていた。
「よりによって『闇の書』だと!? A級の事件ではないか! それを何故、何故だ!」
 単純な怒りではない。もっと奥に、心の底に昏い感情を秘めた怒りだった。
「何故、ハラオウンの奴が!」
 復讐心。それは酷く醜い感情のように語られることが多い。しかし当人にとっては正統な怒りであり、他者からも否定し難い感情である。
 だが、彼の抱えた闇はより醜い彩をした心の澱み。
「PT事件、立て続けに『闇の書』事件の解決だと!? 何故だ、何故ハラオウンの手元に、そこまでの功が転がり込むというのだ!」
 再び叩き付けられる拳。そこに込められた感情の正体は、嫉妬。
「それもPT事件の時と同く、『闇の書』のプログラムどもを手の内に収めるだと!? 奴め、さぞ鼻高々なのだろう、ええい忌々しい!」
 時空管理局がヒトの集団である以上、そして組織を円滑に運営する必要上、階級制度が存在する。当たり前のようで、なのはやフェイト達『子供』は気に止めぬ事実。『提督』や『執務官』という肩書きの、真に意味するところをまでを理解していなかっただろう。
 リンディやクロノの意識とは関係せず、アースラもまた功あればそれに見合う地位を得、逆もまた真という組織に組み込まれた歯車のひとつなのだ。
「このままでは、管理局で奴の台頭をみすみす許す羽目になる……」
 ひとしきり感情を爆発させた後で、彼は執務中本来の冷静さを若干取り戻す。
 PT事件、『闇の書』事件といった大事件の解決、それも被害を未然に、最低限に食い止めた上での解決だ。上層部に覚えの悪かろうはずもない。
 その上、優秀な魔導師を幾人も確保したという実績。管理外世界にひとり、PT事件の共犯ともいうべき人造生命体がひとり、そして今回の『闇の書』マスター、プログラムの4名……常に優秀な人材の手を欲している状態の管理局に、これら魔導師の存在は濡れ手に粟といえる。
 ──面白いことに、彼は僅かながら存在するフェイトやヴォルケンリッターを「人ではない」と差別する輩とは価値観が異なった。何れも「優秀な魔導師」と捉え、管理局に対する将来的貢献の度合いで判断し、それ以上でも以下でもないと考えているのが実に皮肉である。
 人道と妬み嫉みとは、同じ人の心でも別のところにあるのだ。
「それに、だ」
 管理局はハラオウン親子に負い目を持つ。前回の暴走した『闇の書』を破壊するため、当時の指揮官ギル・グレアム提督は魔導砲アルカンシェルでクラウド・ハラオウンごと彼の乗艦『エスティア』を対消滅させた。彼の指揮により乗員のほとんどは無事に生還したという一因を以って、上層部は何かしらハラオウン親子に配慮することは想像に難くない。現にグレアム提督はクロノ・ハラオウンの魔導師志願に対し、教導隊に所属する己の使い魔を個人的に、最大限に協力させた事例がある。
「何もかも、奴の有利に運んでいる……このままでは、奴に艦隊指揮官、執務官長などという肩書きが転がり込まないとも限らん……」
 管理局での栄達を望む彼にとって、実に由々しき事態なのであった。


 ──これらの推測は当人達からすれば勘違いも甚だしい、所謂下種の勘ぐりに過ぎない。『闇の書』事件に区切りをつけ、またフェイト・ハラオウンを“娘”として迎えるリンディは、ほどなく管理局本局に後方勤務──これは一線を退くに等しい──に転属願いを提出する予定であるし、なのはやフェイトには中学を卒業するまで管理局業務を主にしないよう助言までしている。はやてとヴォルケンリッターに関しては、そもそもアースラ配属ですらなく、それどころか管理局内にも懐疑的な視線は少なくない。彼女達の嘱託受け入れは、単純にリンディやクロノにとって手柄たりえなかったのだ。


 だがミルバルトの目にはそのような彼女達の事情は映らない。
 同僚の、思わぬ『幸運』にしか目がいかないのだ。そこから得られるだろう栄達にしか気が回らないのだ。
 ヒトは己を基準にして物を捉える傾向がある。
 故に彼にはわからない、自身よりも欲の無い、栄達に然程興味の無い人間がいることなど。


「俺には、奴の台頭を、指を咥えて眺めるしかないというのか……」
 手袋の指先を、文字通り噛み締める。ギリリリリ、と皮が不愉快な音を立てて歪む。それは彼の胸中そのままだ。歯痒く、それでいて何も手が出せない、既に終結した事象──。
「それぞれの事件を解決した功績はどうにもなりませんが」
 溶岩のように澱んだ熱に吹き付ける、冷えた風がある。
「失点を指摘し、やや水を差す程度であれば可能かと思われます」
「……なんだと?」
 ミルバルトは視線を動かした。激昂した彼の傍ら、それまで彫像のように佇んでいた彼の補佐を顧みる。
 ペーパーモジュールに“とあるデータ”を示しつつ、彼の懐刀が上司に引き摺られない冷静な声を紡ぐ。
「『闇の書』事件に際し、リンディ・ハラオウンが以前行った違法行為が明るみになりました。これを局内で問題視すれば、少なくとも彼女が諸手で喝采を上げる、ということにはならないかと思われます」
 どこまでも感情を排した言葉。事実を提示し、そこに至るまでの情動を全て切り捨てた声。
 冷静沈着と称されるミルバルト、時に激する彼を『冷静』たらしめる女性。
「違法行為、だと?」
 意外な一言に、ミルバルトもまた思考に完全なる冷静さを取り戻す。
「詳しくはこれをご覧ください」
 情報を表示させたモジュールを手渡す。忙しなくそれに目を通し、
「……成る程、これは明確な違反というべきだろうな。でなければ、このような緊急事態に己が『迎撃』出来るはずがない!」
 哄笑が室内に響く。
「メリッサ君、君は本局に到着次第この件について異議申し立ての準備を」
「解りました」
 艦長補佐官メリッサ・イグリットは無表情のまま上司へと一礼し、そのまま補佐官のデスクで手続きの準備に入った。
「無論それで終わらせるつもりは無い。そこから、どう打ち崩すかだな……フフ、面白くなってきた」
 残り一週間足らずの航行期間、彼は与えられたパズルを解くように、それを楽しんで過ごした。


 謀を紡ぐ、という陰湿な行為を。


****
 こんな論議は無意味だ、とクロノ・ハラオウンは胸中でごちる。
 既に役割を終えた今、彼はやや遠巻きに壇上と上司──にして母親──を見つめていた。
 常に業務中と揶揄される彼らしからぬ私服姿なのは、彼がこの場において武装する権限を持たないからだ。
 何故今更、このような事態に……と彼はこうなるに至る経緯を思い返す。


 とある任務中から帰還した戦艦アースラのスタッフは、本局から緊急の出頭命令を受けた。対象者はリンディ・ハラオウン提督、クロノ・ハラオウン執務官、エイミィ・リミエッタ執務官補佐とアースラの頭脳たる面々である。最低限の業務引継ぎを終え、3名が出頭した先で待っていたのは──簡易裁判だった。
 被告人の名はリンディ・ハラオウン。
 問われた罪状は──管理外世界に対するミッドチルダ式魔法及びインテリジェンスデバイスの供出、である。


 時空管理局といえど、全ての次元世界を管理しているわけではない。
 管理するか否かの基準となるのが『魔法』に代表される、他世界に対して影響力を及ぼすことが可能な技術の有無である。特に魔法技術の有無は小規模、個人の力で他次元に移動が可能なように、他次元世界に対して影響を与える可能性が高くなる。管理局が最優先で対処する『次元震』もまた、通常の物質文明が所持する技術では起こし得ないのは言うまでもない。
 時空管理局はあくまで“次元世界を”管理するのであって、その世界で発生する事件事象には概ね関わらないのだ。よって他世界に影響しない文明文化には、一部の例外を除いて干渉しない。
 その例外に“ロストロギアの流入”がある。ミッドチルダで発掘され、次元に狭間に飲み込まれた『ジュエルシード』がとある管理外世界に流れ着いた顛末については今更語る必要も無いだろう。
 そしてもうひとつ、例外のケースが存在する。
 『魔法』が技術として確立されていない世界における『魔法』の悪用──“ありえない技術による、その世界ではありえない犯罪行為”──質としてはロストロギアのそれに類する犯罪を取り締まるのも、管理局の仕事なのである。
 この後者の事例にリンディは抵触したのだ──悪用かどうかはともかく。


「では被告は、それと理解した上で管理外世界住人・高町なのはにインテリジェンスデバイスの所持を認めたのですね?」
「……間違いありません」


 既に幾度かなされた事実の確認を口にする検事役の議長、言葉少なに肯定するリンディ。繰り返されるやり取りに、クロノは歯痒さを覚える。
 PT事件当初、高町なのはは偶然と必然のなせる業でインテリジェンスデバイス『レイジングハート』を手にするに至り、あの悲しき事件の解決に多大なる尽力と貢献をした。
 事は次元震を引き起こす可能性のある犯罪だったため、リンディはなのはを臨時の協力者とし、管理外世界の住人にデバイスの供出を認めたのだ。ここまでは何ら違法性は無い。
 今回取り沙汰されているのはその後のことである。
 事件が解決した後、リンディはそのままなのはがレイジングハートを所持していられるよう各方面に手を回した。それはかなり強引な手法で、当時クロノも呆れた覚えがある。
 もしその後、あの世界で何事も起こらなければ、その強引なやり方が注視されることは無く、このような裁判沙汰になることもなかっただろう。
 しかし不幸にもその半年後、あの『闇の書』事件が発生した。『闇の書』を完成させるべく、魔導師・魔導生物のリンカーコアが奪われる事件。その初期段階に運悪くなのはが狙われたのだ。
 世間一般の常識として暴漢(と言っても差し支えないだろう)に襲われて無抵抗である必要は無い。なのはもまたそのように行動し、自身を守るべく魔法を用いて事態に対処した。


 ──これで発覚してしまったのだ。
 リンディが書類上で事実を些か歪曲し、管理外世界の住人に対してデバイスの所持を黙認、むしろ好意的に捉え半年に渡って違法行為を了承していた経緯と現在が。


 無論それによってなのはが何かしら魔法を悪用した事実など無いし、彼女がそのような事に魔法を用いるなどクロノ達には埒外である。だがそれは高町なのはと個人的な交流を持つ私的立場の人間が抱く主観に過ぎない、と言われればそれまでだった。


 法の執行に例外は認められない──そのような看板を持ち出されては、法の執行者という立場の彼らには抗いようがなかった。
 リンディが手を回して、なのはにデバイスを所持出来るよう計らった。それは事実。どうしようもない事実。
 それでも──とクロノは思う。それによって誰が傷ついたのか、と。むしろ多くが救われたではないか、と。
 リンディ提督の為したことは結果として多くの人々を、『闇の書』に囚われた少女を救い、悲しみの連鎖を終わらせたというのに。
 褒められることなど望んではいない。リンディも彼も、それが最善と思える行為をなしたに過ぎない。しかし多くを救い、それでも責められるとすれば途方もなく無力感とやるせなさを抱かずにはいられなかった。証言を終え、裁決まで証人席で待つことしか出来ない身にはひとしおである。


 この無意味な詰問の場を用意したのが誰か、彼には知りようも無い。
 よって、裁判の場にて挙手した列席者のひとりを見てもなんとも思わなかった。


 「議長、被告は事実を事実として認めております。これ以上質問を続けることに意味は無いように思われます」
 管理局の簡易裁判は通常の裁判とは少々異なり、証人喚問のそれに近い。管理局で提督以上の肩書きを持った人物が数名立ち入り、それぞれ意見を交わして最終的に議長が決を採る。ロストロギア関連の事件などほとんどの場合は執務官の判断がそのまま判決となるのだが、今回のような内部の事件、そしてグレアム提督が『闇の書』事件で為したような事例の場合は、提督クラス以上の人物が話し合う合議制で取り決められる。
「フォスター提督、続けてください」
 上座に座る初老の人物──議長の許可を得て、ミルバルトは咳払いをする。
「であれば論議すべき、追及すべき焦点は、その管理外世界の住人が魔法をどのように用いているか、でしょう。なればその点についての事実を究明することが先決だと考えます」
 列席者のほとんどが肯定の意を示す。それは傍観者たる立場に甘んじたクロノやエイミィとても好意的に受け止めた発言だった。彼らは高町なのはという少女を信じており、疑う余地など一片も無いのだから無理もない。
「その少女は将来管理局の仕事に就くのもやぶさかではない、という立場であると聞きます。なれば将来を見据え、その少女の人品を見定めることで最終的な決を採るべきだと私は考えます」
 さらなる肯定が返される。『闇の書』事件解決による認知度の向上により、その少女が魔導師として非常に優秀であるのは管理局に知れ渡っている。そのような人物は是非とも管理局入りしてもらいたい、高官達はそう考えていたのだ。
「フォスター提督、具体的にはどうすればよいとおっしゃるのかな?」
 簡易裁判の流れが己の思い通りに運ぶ──そのことに笑いの衝動が起きる。微妙に歪む唇の動きを自制し、ミルバルトはあらかじめ用意しておいたカードを表向けた。
「シンプルな手段を提案します──捜査官による、対象の身辺調査を」


****


 ミルバルト・フォスターの意見は満場一致で支持される。
 かくしてこの一件は調査による結果待ちという判断が下され、簡易裁判は結審を保留にした。


****


 傍聴者などいない裁判である、解散を言い渡されても傍聴者同士の会話など発生し得ない。よってその会話は関係者同士のもの。
「クロノ君……」
「そんな声を出すなエイミィ」
 不安を滲ませた声を出す補佐官に、クロノは内心苦労して出した平静な言葉を投げかける。
「事がなのはの人柄で判断されるなら、提督が重い罪に問われることはないと確定したも同じだ……なのはにはお詫びしようもないが」
 厳密に言及すれば無罪ではない。リンディが関係者外にデバイスを所持させた、という一事は翻しようがない。現場の判断として間違ったという思いは艦長にはなかろうが、管理局としては何らかの処罰を下すだろう。
 その重みが、なのはの振る舞いによって変わる──そういうことである。それも本人の知らぬうちに。
 誰が捜査を担当することになるのか、そしてどの程度の調査期間を置くのか……監督される側であるクロノ達は結果を待つしかない。
 それに、考えなければならないことは他にもある。
「問題は……フェイトにはどう話すべきか、そもそも話すべきなのか……」
 思案とも相談ともつかぬクロノの独白に、エイミィも即断できず沈黙を返した。
 フェイト・テスタロッサ。クロノにとっては近々義理の妹になる予定の人物である。そして、リンディがなのはにデバイスの所持を認めた理由に少なからず関わる少女。
 PT事件、プレシア・テスタロッサの暗躍がなければなのはが時空管理局と関わることもなかったかもしれない。ユーノ・スクライアの手助けをし、恙無くジュエルシードの回収を終えたかもしれないのだ。それにフェイトの介入で小規模な次元震を発生させ、微弱震を感知したアースラが解決に乗り出し──という顛末は言うまでも無い。
 特異な環境下で育った彼女は、やや自虐的になる部分がある。己を責める質であるのは彼ら共通の認識。彼女の“母親”が原因でリンディが要らぬ罪を背負ったと思う可能性は高い。
「隠し事はしたくないんだが……やはり今は話さないでおくべきだろうな」
「ん、そうだね。フェイトちゃんには余計な心配させたくないし」
「……それだけが理由でもないんだが」
 説明を求めるエイミィに、クロノは淡々と考察を述べた。
 なのは監視する──そう、監視だ、言葉を身辺調査と繕うとも、結局は監視である──その事実を告げ、果たしてフェイトが普段と変わらない態度で振舞えるかどうか。公平を旨とする執務官としてそのような思案を巡らせた結果、「否」と結論つけずを得なかったからだ。それに下手な接触は、彼女の監視を担当する捜査官に先入観を与えることになりかねない。
 それに、
「事情を知っている僕達は、監視の間なのはとの接触を禁じられるだろう。フェイトにはそうさせたくない」
 それらの意見にエイミィはひとしきり賛意を示して、急に表情を崩す。
 どこかで散々目撃したような、背筋を寒くするイヤな微笑みだった。
「クロノ君、もうすっかりフェイトちゃんのお兄ちゃんしてるんだ」
 一瞬の硬直。
 時が流れ出し、半瞬で彼の顔が真っ赤に染まる。
「し、執務官としての当然の判断だ! 私情は入ってない!」
「お兄ちゃんってば照れなくてもー」
「て、照れてない!」
 憤然とし──その実指摘から逃れるように──背を向けて歩き出すクロノを、猫のような軽捷さで纏わりつきつつ彼をからかうエイミィ。彼はそんな自分の補佐官に、猫の耳と尻尾が生えているような思いに囚われた。今はもう管理局から退いた、尊敬すべき人物の使い魔、彼を鍛え上げた師匠達の姿を。
「このネタで暫くご飯がタダになりそうー」
「……アースラ内での食事は代金要らずだろうに」
「どこか連れてってよー」
「暫くアースラ内に拘留されるんだ、諦めろ」
「そんなー、せっかくのネタがー!」
 幾分和らいだ空気の中、クロノは裁判後初めての笑みを浮かべた……苦笑いではあったが。


****


 被告であるリンディと証人として召喚されていたクロノ達が退席した後、裁判の場に残ったのは管理局のお偉方である。事件が小規模であるがため重鎮とされるお歴々はいないが、それでも一線級の提督が顔を揃えている。
「それでフォスター提督、例の少女を監視するとして、どの程度の人員をどの程度の期間配置するのが得策とお思いで?」
 提督のひとりがミルバルトに意見を促す。議論が並行、というよりは停滞していたあの場をまとめたミルバルトに今後の方針を意見を求めるのは当然の成り行きと言える。
「そうですな……監視にはそれなりの時間を必要とするでしょうが、人員は然程の人数を必要としますまい。ハラオウン提督の行為は確かに法を犯したものでしたが、以降あの管理外世界に大きな時空犯罪・魔法を用いた犯罪の痕跡は見つかっていないようですから」
 巧みに隠蔽している場合は別ですが、と冗談のように、されど煽るように言葉を付け足しておく。
「しかしながら万が一、ということもあります。その少女、魔導師としてのランクはAAA相当と聞きます。それに抗することの出来る人材、執務官クラス以上の派遣が望ましいと私は考えます」
 妥当な判断だ、と概ね肯定される。一部反対意見もあるが、それは貴重な執務官を内部監査に振り分けるのは無駄なのでは、という声。
 その声にも頷き、ミルバルトは重々しい口調を作って見せた。
「……幸か不幸か、ハルトゥスは長期航行後のメンテナンスに暫く時間がかかるようです。乗務員達には休養を、と思っていたのですが、ハルトゥスの執務官を当てることは可能です──後々、我が艦の執務官に対し、休日返上の長期労働に見合った特別休暇を与える許可をいただけますなら、ですが」
 再びの冗談めかした台詞に小さな笑い声が上がった。和やかな雰囲気が議場に行き渡り、それでいいのではないか、という空気が流れる。もともとそれほど深刻な被害を蒙る事件ではない、そもそも事件というほどの事でもない。提督という責任ある立場の人間が襟を正す、そのくらいの意義、それくらいの認識なのである。
 それを読み取ってか、議長が決断を下した。
「では人選などはフォスター提督に一任します。艦の執務官にはくれぐれもご苦労様とお伝えください──」
「承知致しました」
「と、失礼、ハルトゥスの執務官、名は何と言いましたかな」
「はい、我が艦の執務官は──」


****


 後日、アースラで臨時に艦長代理を勤める羽目になったクロノに以下の通達があった。


  その1、アースラは解除の通達あるまで管理局港湾内に滞在すること。
  その2、クロノ・ハラオウン、エイミィ・リミエッタ両名は高町なのはに対するあらゆる接触を禁止する。
      ※フェイト・テスタロッサ嘱託魔導師に関しては条件5を遵守することで特例を認める
  その3、同じく両名は、高町なのはの身辺調査を行う人員に対する接触を禁止する。
      ※経過の情報提供については問題無し
  その4、同じく両名は、高町なのはの身辺調査に関する事項を他者に漏らしてはならない。
  その5、調査期間中、リンディ・ハラオウンは管理局外への外出並びにアースラスタッフとの接触を禁止する。
      ※管理局内での制限は上記接触を除いて設けない
  その6、調査期間は管理外世界時間で一ヶ月、調査員はハルトゥス付き執務官──


「ノルン・リンドブルム……」
 後を引く言葉尻に、苦い味がした。


****


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