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No.11883の一覧
[0] 【習作】 カオスゲートオンライン (VRMMO系 TSアリ)[南](2009/10/09 23:29)
[1] 【習作】 カオスゲートオンライン 第2話[南](2009/09/19 00:43)
[2] 【習作】 カオスゲートオンライン 第3話[南](2009/10/27 00:54)
[3] 【習作】 カオスゲートオンライン 第4話[南](2009/10/09 23:36)
[4] 【習作】 カオスゲートオンライン 第5話[南](2009/10/27 00:53)
[5] 【習作】 カオスゲートオンライン 第6話[南](2009/10/27 00:54)
[6] 【習作】 カオスゲートオンライン 第7話[南](2009/11/15 22:01)
[7] 【習作】 カオスゲートオンライン 用語集[南](2009/10/09 23:28)
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[11883] 【習作】 カオスゲートオンライン (VRMMO系 TSアリ)
Name: 南◆e65b501e ID:073768d4 次を表示する
Date: 2009/10/09 23:29
 鋭い金属音と派手なエフェクト光を撒き散らし、スマッシュで打ち込まれたミノタウロスのウォーハンマーを、左手に持つナイトシールドのスタンバッシュで弾く。
 その瞬間、物理的にありえない動きで相手の上半身が跳ね上がり、そのまま硬直、スタン状態を示す星のエフェクトが、ミノタウロスの頭上に浮かんでクルクルと回りだす。
 が、こちらも無傷ではない。
 痺れにも似た痛みと共に、視界の隅に表示されたHPバーが、ごっそり削られる。
 と、同時に、大ダメージによる硬直、一般に仰け反りと呼ばれる現象が発生し、身動きが取れなくなる。
 流石はミノタウロス、フェイズ2ダンジョンの最強ボスモンスターであり、直接攻撃力だけならフェイズ3のボスすら凌ぐと言われるだけの事はある。
 ダメージカット率の低いスタンバッシュとはいえ、防御力の高いパラディンがフェイズ2の敵に仰け反らされる事自体珍しいのだが、シニスにとってはある意味当然とも言える。
 華奢なエルフの女性キャラと言うデメリットは、こういう所で顔を出すのだ。
 カウンターのスタンバッシュによるスタンの効果時間は通常の半分で、仰け反りよりわずかに遅い程度、硬直明けはほぼ同時となり、スタンバッシュの目的だった、ヒールポーションでHP回復をしている余裕はない。
 シニスは素早くショートカットに目を走らせ、使用可能なスキルをチェック。
 しかし、先ほどからの戦闘で、ディレイ中のスキルも多く、使える防御系のスキルは、盾の基本スキルであるシールドガードと、剣の上級スキルのパリィのみだ。
 シールドガードは、相手の攻撃を盾で受け止めるだけという単純な技だが、防御時間が長くダメージカット率も高い。
 もっともこの防御時間の長さは、相手に余裕を与え、自分は後手に回らざるを得なくなると言う欠点でもある。
 もう一方のパリィは、剣で相手の攻撃を弾くという技で、成功すれば攻撃を完全無効化できる上、相手の体勢を崩し先手を取ることが可能だが、失敗すれば相手の攻撃をクリティカルでもらう事になる。
 そして今のHP残量では、通常攻撃のクリティカルに耐える事は出来ない。 
 防御を固めてチャンスを待つか、攻勢に出てチャンスを掴むか、ローリスクローリターンかハイリスクハイリターンか。
 だが、そんな悩みは、後ろからかけられた一言で消し飛んだ。

 「シニスさん回復行きます」

 その声と同時に暖かい光が全身を包み、3割を切るほどに減少していたHPバーが、見る見る回復していく。
 後衛のビショップ、残月の光の魔法、グレートヒールだ。

 「サンクス!」

 後ろを見る事無くそう礼を返し、シールドガードの準備をする。  
 が、もはやシニスに出番は無かった。
 
 「はっ!」 

 鋭い呼気と共に、シニスの右に居た真紅の槍を持つ侍が、閃光のような突を放つ。

 フラッシュスラスト。

 槍の上級スキルで、一瞬で複数の突きを叩き込む大技だ。
 スタン中で動けないミノタウロスに、これを回避する手段などある筈も無く、全弾直撃、さらにスタン効果によりクリティカルというおまけ付きで、HPバーはみるみるに0に近づいていく。
 そこへ、左から全身を黒いプレートメイルで固めたオーガの戦士が突進、振りかぶったウォーアックスを、相手の眼前の地面めがけて叩き込む。。 
 すさまじい激突音と共に、一段と激しいエフェクト光があたりを乱舞する。

 アースクェイク
 
 鈍器の奥義スキルであるこの技は、打ち込まれた地面を中心とした範囲ダメージと、強烈なノックバック効果を生み出す。
 エフェクト光の波に押し流されるように後方へと弾き飛ばされたミノタウロスのHPバーは、あっという間に0になり、表示ネームが死亡を表す灰色へと変わる。
 同時に、その巨体は後方へと倒れこむとそのまま動かなくなり、辺りにドロップアイテムが散乱する。
 そして、クリアエフェクト音と共に、視界の隅にダンジョン消滅までのカウントダウンが表示される。
 
 「おつかれ~」
 「おつ~」
 「おつかれさま~」
 
 戦闘は終了し、皆が適当な挨拶を入れつつ、そぞれ戦闘状態を解除していく。
 シニスも戦闘状態を解除し、剣を鞘に収めると、少し離れた所に転がっている戦士の死体に近づきターゲッティング、魔法スキルリストを呼び出し、リザレクションを選択、実行する。
 リザレクションの詠唱に入るとすぐ、自身の体から金色のエフェクト光が湧き出し、ターゲットされた死体の周囲に聖印が浮かぶ。
 そして、同時に現れた詠唱バーがゆっくりと減っていく。
 
 「すいません、お手数おかけして」

 恐縮そうにターゲットされた死体が声をかけてくる。
 彼は、元々このダンジョン攻略に挑戦し、あのミノタウロスに返り討ちにあった初心者パーティーの一人であり、シニス達レスキューパーティーに救援を要請した当人だ。

 「1次職パーティーでミノとかち合えば仕方ないですよ、気にしない気にしない、その為のレスキューだし」

 呪文の詠唱と言っても、魔法発動のためのチャージ時間をそう呼んでいるだけで、実際に呪文を詠唱しているわけではないが、詠唱中は一切の行動とアイテム使用が不可な為、だべる位しかやることが無い。

 「でも凄いですね、リザレクション使えるパラディンってはじめてみましたよ」
 
 そう驚かれるのも無理は無い、死んだPCを復活させるリザレクションは、有用性は高いものの、習得に必要な魔力値が高く、魔法職以外でそれを満たすのには厳しいものがあるからだ。

 「ま、その為のエルフの女キャラだし、種族と性別の修正が無いと習得値満たすのは厳しいから」

 「なるほど、でもそれだと戦闘職辛くないですか?」

 当然だが魔力や知力などに高いプラス修正がつく反面、戦闘職として重要な筋力や体力に大きなマイナス修正がくる。
 種族修正と性別修正のマイナスは、どちらか一方なら多少のデメリットで済むが、重複するとなると致命的とすら言われる程で、特にエルフの女性キャラでの戦闘職と、オーガの男性キャラでの魔法職は、wikiの初心者案内に、やめとけと赤大文字で記されてるほどだ。
 最もそれは、まるで使えないと言う訳ではなく、初心者がファーストキャラとして手を出すのは薦めないというだけで、大器晩成型の特化構成としてゲームに慣れた人間が作る分には問題ない。

 「戦士や騎士の時は辛いけど、パラディンになればそうでもないよ、装備の修正なんかもあるし」

 「修正ってヴァルキュリア装備?そんなに大きいですか?」

 「セット効果で修正値1.5倍だからかなり大きいよ、防御値の方は盾と剣のスキルでがんばると言いたい所だけど、さっきみたいに仰け反らされる事があるから厳しいことは確かだね」

 女性専用防具であるヴァルキュリアシリーズは、筋力や体力などにプラス修正が加わる効果があり、さらにシリーズものの防具は、同一のシリーズで装備を統一すれば、セット効果としてその修正値が1.5倍されるという特徴がある。
 もっともシリーズ物は、同ランクのシリーズ物でない一品物の防具に比べ、防御力の点で一段落ちる。
 単に防御力のみを求めるのなら、シリーズ等にこだわらずに身につける方が、はるかに高い防御力を得られるのだ。

 「そっち終わった?」
 
 そんな事を話していると、他の死者の復活を終わらせた残月が、こっちに声をかけて来る。
 さすがに専門の魔法職、高レベルの高速詠唱や短縮呪文等の、チャージ、ディレイ短縮スキルで、リザレクションを低レベル魔法並みの速さで唱えたのだろう、こちらが一人蘇生させてる間に、5人の蘇生が済んでいた。
 もっともそれ位の速度で唱えられないのなら、戦闘中の高レベル回復魔法は使い物にならない。

 「待って、今終わる……っと、終わった」

 詠唱バーが0になり、聖印が激しく輝くと同時に、床に転がっていた戦士の表示ネームが灰色から緑へと変わる。

 「ありがとうございました」
 
起き上がるなり頭を下げて来る彼を手で制し。

 「HP回復はあっちでやるから、あの坊さんの所に行って」

 と、こちらに向かって杖を振っている残月の方を指す。
 もっとも、ノームである彼は、周囲に集まった初心者パーティーの面々の陰に隠れてしまい、杖の先端が揺れているのが、かろうじて見えるだけだ。

 「本当に何から何まですいません」
 
 そう言って彼が残月の元に駆けていく。
 蘇生魔法であるリザレクションは、復活した時点では、HP・ST・MPは1割しか回復しないので、もう一度HPを回復してやる必要がある。
 
 全員が効果範囲に入ったのをを確認した残月が呪文の詠唱に入る。
 残月の頭上に聖印が浮かび、周囲に温かな光のエフェクト光が放射される。
 まるで春の日差しのような、心地よさを伴った光を浴び、周囲に集まった初心者パーティーの面々のHPバーが一気に回復する。

 ヒーリングウェーブ

 僧侶系の者しか扱えない命の魔法の奥義で、効果範囲の全てのPCとペットのHPを回復する効果があり、 複数キャラのHPを回復するのなら、これが一番効率がいい。

 その光の中で、生き残れた事を喜び合う初心者パーティーの面々。
  

 そんな様子を眺めつつ、インベから飴を1つ取り出すと口の中に放り込む。
 バナナの甘い味が口の中に広がると同時に、ST回復Lv1のアイコンが視界の隅に表示され、力がゆっくりと満ちていく心地よい感触が全身を満たす。


 「あ、俺にも一個くれ」

 真紅の武者鎧で身を固めた侍、正確には3次職の剣豪である犬丸が、そう言ってこちらに手を出してくる。

 「うい、どうぞ」
 
 もう一つ飴をインベから取り出すと、犬丸に向かって軽く投げてやる。

 「こう言う時は一服したいもんだが、タバコが無いのは辛いよな」

 苦も無く、飛んできた飴を口でキャッチした犬丸は、口の中で飴を転がしながら言う。
 
 「そう言えば、犬丸さんはヘビースモーカーだったって言ってましたっけ?」
 「おうよ、嫌煙権とかに負けずにがんばってたのに、ここで強制禁煙って訳だ、泣けるよ」

 そう言って苦笑する犬丸は、髭面の渋い親父顔も相まって、そういう表情がとてもよく似合う。

 「でもカジュアル装備でパイプってあったでしょう、あれじゃ駄目なんですか?」
  
 まるで鉄の小山のようなオーガのベルセルク、ディーガンが問いかけてきた。

 「ありゃ駄目だ、カッコだけで、実際に吸える訳じゃないから」
 「それはそれは、ご愁傷様」
 
 そんな事を話してるうちに、初心者パーティーの面々はHPを回復し、こちらがルート権を放棄したドロップアイテムや宝箱を回収、何度も礼を言いながら、ゲートストーン、いわゆるワープアイテムを使い、地上へと帰還していった。


 それを見送った後、犬丸が皆に提案をする。
 
 「で、この後ホームに帰る前に、ドラゴンクロウで飯食っていかないか?」
 
 ドラゴンクロウは、料理系ギルドが経営している店で、中華専門店として結構名が売れてる店だ。

 「中華か……中華は悪くないけど高いだろ」

 真っ当な料理になるほど、素材と調理工程が増え、価格が跳ね上がっていく。
 本格中華料理店で売ってるドラゴンクロウは、基本的に高級店なのだ、そこで1食となると、普段の食費の3日分が飛ぶことになる。

 「わかってないなぁ、犬丸は中華が食いたいんじゃなくて、チャイナが見たいんだよ」
 
 そう言って話しに加わってきたのは、黒装束のホビットの忍者の少女、カナメだった。
 と、同時に言われて思い出したのが、ドラゴンクロウの売りの一つが、店員が皆チャイナドレスの女性キャラだと言うことだ。

 「いぬまうぅ」

 呆れたような声で、ディーガンが犬丸に非難の目を向ける。

 「いや、その、たまには良いじゃないか、目の保養したって」

 そっぽを向きながらそう答える犬丸、こういう表情は実に様にならない。

 「ま、いいけどね、俺も目の保養は嫌いじゃないし」
 「だよな、さすがシニスは話がわかる」

  そんなシニスと犬丸を見たカナメが、ニヤニヤしつつ言った。

 「シニスは気をつけた方がいいよ、この間犬丸、私にチャイナ作れないか聞きに来たから」
 「ばっ!それを言うなと!」

 あわててカナメの口を押さえようとする犬丸を、カナメはひらりとかわす。
 カナメは忍者であると同時に、腕のいい裁縫師でもある。
 そもそも忍者という職は、適度な戦闘力と多彩なタゲ切り能力、踏破力の高さなど、生産素材集めに適している為、採集職や生産職者に多い。
 そしてカナメもその口だった。
 パーティーの一員として後衛や鍵開けもをするが、あくまで本職は裁縫師と言い切っているし、実際高い裁縫スキルで大概の物の製作が可能だ。
 そしてチャイナドレスは、製作に高い裁縫スキルを要求し、複数の作業工程と、素材に高価な物をいくつも使うので、ほぼオーダーメイド専門アイテムなっている。

 「しかしチャイナは置いとくとしても、シニスは普段着をもう少し何とかすべきだと思うぞ、いつまでも初心者用のコットンシャツとズボンと言うのではせっかくの素材が泣く」

 そう言ってきたのはウイザードのグエンだ。

 「いや、衣装の事でグエンにどうこう言われるのは納得がいかん、お前こそいつもローブじゃないか」

 と、シニスが言い返す。
 
 「何を言う、確かにローブばかりだが、シニスみたいに同じ物を着っぱなしと言うことは無いぞ」

 そう言えばそうだった、グエンはローブばかり何着も集め、その日の気分や用途で使い分ける、何気に衣装持ちな奴だった。

 「それにワシにはローブが一番似合うからローブを着ているんであって、シニスみたいにめんどくさいから初期装備使い倒しているとのは違う」

 それも事実だ。
 長い髭を蓄えた枯れ木のような爺キャラであるグエンには、ローブがとてもよく似合う。
 個人的にはアロハも似合う気がするが。 

 「はいはい、揉めない揉めない、とりあえず救助成功の報告は送ったし、当直の交代も済んだんでこれで帰るけど、この後皆で食事って事で良い?」

 言い争いに発展しそうなタイミングで残月が割って入り、本部との業務用チャットで、報告や引継ぎを終えたことを報告してくる。
 そう言えば発端は食事の事だったと思い出す。
 もっとも、食事それ自体に関しては特に異論も無い、確かに高いが、だからと言って払えないほど高額と言うわけでもないし、たまには中華と言うのも悪くない選択だ。
 
 「それじゃぁ、今日は犬丸の奢りでドラゴンクロウって事で」

 皆が首肯するのを見たパーティーリーダーの残月がそう結論を下し、パーティーメンバーの歓声と犬丸の悲鳴が響き渡る中、ゲートストーンの光が瞬き、そして消える。
 そして、誰もいなくなったダンジョンで、ゆっくりとカウントダウンだけが進んでいき、やがてダンジョンと共に消滅、人類はその生活圏をほんのわずか回復させる。

 それはこの世界、かつてカオスゲートオンラインと呼ばれた世界の、何の変哲も無い日常の一コマだった。


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