意志は変わらない、照準も負傷した右目の所為でままならない。それでも目の前に仇がいる、家族を奪った元凶が。

こいつを撃たなければ自分は前へ進めない気がする、いや変われないだろう。震える手で銃を握り締めた。

「狙い撃つぜぇぇぇ！」

刹那、宇宙に光が瞬く。

狙い撃てただろうか、撃ち落とせただろうか。宇宙を漂いながら蒼く輝く星を見る、不意に指を銃の形にして呟いた。

「よぉ、お前ら満足か？　こんな世界で……俺は嫌だね」

今もこの瞬間に誰かが泣いているかもしれない、理不尽に奪われた生命、それを想って。
分かっている、覚悟していた。自分達がやっている事も同じだと、いつかは罰を受ける時が来るのだろう。それが今かもしれない、ガンダムマイスターとして駆け抜けてきたロックオン・ストラトスの。

戦っている仲間達の行く末が気に掛かる、何処かで生きているライルの未来も。

その思考を最期に、宇宙で光の花が咲く。

「ロックオォォン！」

誰かの声を聞いた気がした。青と白に彩られた鋼の巨人がこちらに向かって手を伸ばそうとしていたが、届かない。



「ちょっと！　ニール大丈夫ですの！？」


そこまで思い出し“私”は瞳を開ける、視線の先には慌てたような姉の姿。金の髪を乱し心配そうにこちらを見ていた、あぁまた心配かけたのか。

前世の夢を見るときはいつもこうだ、全く変わらなければならないというのに俺は……いや変わりすぎだろうと解っているんだが。


「大丈夫だ。セシリア姉さん、夢見が悪かっただけだから」


「そう、ならいいんですの……って良くありませんわ！？　くうっ、ニールを不安にさせる夢などブルー・ティアーズで撃ち落とせたらッ……！」


そう言ってIS、インフィニット・ストラトスと呼ばれる力を起動させようとするセシリアを慌てて止める。金色の髪を揺らしながら。

ニール・オルコット、それが俺のいや私の名前だ。何の因果か、ガンダムマイスターロックオン・ストラトスとしての記憶を持ち私は生まれ変わった。
争いもMSもない平和な世界に……

代わりにISという力があるけれど。女性にしか反応しない兵器だ、それを最初知った時愕然とした。これもまた世界を歪みさせている力だ……と。このISのお陰でパワーバランスが崩壊、現行の兵器が全く役に立たない。尚且つ女性が強くなり男性が弱いといった風潮まで出来た、元男性として何とも言えない気持ちになったが。


「……とにかく！　明日、今は今日ですけど学校があります、しかも世界で唯一ISを使える男が転入してくる日！
……ふふふふっ、ニールに手を出したら地獄を見てもらいますわ」


暗い笑いをする姉に若干引きながら溜め息を吐く。思った。


（刹那、お前は変われているか？　変われなかった俺の変わりに……）


現実逃避である。かつての仲間を思う程に、身につけたISの待機状態が窓から差し込む月の光を映し輝いた。



赤く爆ぜる光の花、傭兵と名乗る男が奪ったにぃにぃズの生命。私はそれを呆然と見ているだけしかなかった、スローネと家族を奪われ怒りに震え立ち向かったけれど戦力差は圧倒的だった。近接格闘と遠隔操作武装に特化したツヴァイと私が駆るサポートに特化したドライでは戦闘力が段違い、にぃにぃズの仇も討てずその場に駆け付けたエクシアに救われ、気に入らない女に拾われ最期には因果応報としてかつて自分が気紛れに民間人を撃った生き残りに討たれる。

何だったんだろう、私の生きた意味は。デザインベイビーとして生まれ大好きなにぃにぃズとガンダムに乗り世界を変えようとしてきた、その結果がこんな結末。認めない、認めたくない。私は、ネーナ・トリニティは此処で終わりたくない。そう叫んでも、コクピットは火を噴いている。赤く染まる視界の向こうには、アロウズのMSが。



「……っ！　春花っ、大丈夫か？　うなされていたぞ」


目を開ければおでこがぶつかりそうな近さでこちらを覗き込む一にぃの顔、思わずビンタした。


「ぐはっ！？」


ベッドから倒れこむ一にぃ、幾ら妹の容態が心配だからって年頃の女の子の部屋に入ってくるなんて！　前世とは違い慎ましく生きようと決意した私だけどたまにネーナが出る、新しい生でも妹なのは宿命なのだろうか。

織斑春花、それが私の名前。とにかく今日は一にぃとIS学園に入学する日、双子の兄である一夏の気絶した顔を見てため息をつく。


「この先、大丈夫かな」


ソレスタルビーイングの再会は近い、世界を変える光は此処にある。


「ダブルオークアンタ、刹那・F・セイエイ……出る！」


人と人がわかりあうために。