3泊4日で海外のポーカー大会に参加し上位入賞した話

www.mizuhebi.com

 

前エントリの続きです。

 

私は11月1日~4日にフィリピン・マニラで開催されたポーカーのとある世界大会(Manila Open Poker Tour 、以下MOPT)に参加してきました。結論から言うと、「6-max」という種目で参加者116人中9位で入賞を果たし、海外初参加で初の賞金獲得(インマネ、in the money)となりました。わー!やった!嬉しい!

 

国際大会で賞金を獲得したプレイヤーは、Hendon Mobというwebサイト( Largest Live Poker Database - Poker Hendon Mob )に名前と通算獲得賞金額が掲示されます。

 

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これが私のページです。74,300ペソ賞金獲得なんで、約15万円くらいです。その下に日本での大会の記録も載っているのですが、貰ったのはあくまで渡航費補助であり現金ではないので賞金獲得額にはカウントされていません。

 

ポーカーという運のからむ競技では常に勝ち続けるということはできません。しかしほとんどの局面でポーカーはスキルゲームであり、強いプレイヤーは高い優勝率・高いインマネ率を誇り、当然のことながらそれは通算獲得賞金額にも反映されます。

 

Hendon Mobに載ってる生涯通算賞金獲得額の1位はアメリカのBryn Kenneyで、その額はなんと約60億円(!)

 

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日本人の生涯獲得賞金ランク1位は小倉孝プロの約1億8000万円、とてもすごい数字ですが、それでも世界ランクでは1129位になってしまいます(2019年11月時点)。世界の壁は厚い。

 

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ちなみにポーカープレイヤーとしても有名なGacktさんももちろんhendonに載ってます。生涯獲得賞金約1700万円、日本人ランク60位。かなり凄い成績です。

 

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多くの競技ポーカープレイヤーにとってHendon Mobへの掲載はとても名誉なことであり、このレーティングで少しでも上に行くべく日々切磋琢磨しているというわけです。

 

海外のポーカー大会(MOPT)に行ってきた話

 

ではここから海外のポーカー大会、MOPTに行ってきた話をつづっていきたいと思います。前回のエントリでも触れた通り、私はすでに国内の大きな大会で準優勝を2回はたし、渡航費補助として約80万円のプライズを獲得しておりました。このプライズを利用しMOPTに参加しました。渡航費、宿泊費、大会参加費は渡航費補助から賄われるので実質無料というわけです。

 

japanopenpoker.com

 

MOPTを主催するのは日本の団体です。過去の大会でも日本人参加者が多く、初心者にも参加しやすそうだったので参加を決めました。まずはMOPTがどんな大会なのかを説明します。

 

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これがMOPTのスケジュール表です。4日間で9種目のポーカー大会が行われ、参加費さえ払えば誰でも参加が可能です。一番のメインはその名の通りMain Eventで、メインイベント以外のトーナメントはサイドイベントと呼ばれます。この表のBuy-inとは参加費のことで、例えば#1の参加費は15,000ペソ(約30,000円)になります。15,000ペソのうち1,800ペソは運営費に充てられることが明示されており(レーキといいます)、残りの13,200ペソ×参加人数の総額(プライズプール)から上位入賞者の賞金を割り当てられるという仕組みです。

 

では、それぞれのトーナメントの特徴を説明しましょう(長いので読み飛ばしてもかまいません)。

 

#1 Kick Off

前哨戦です。他の大会ではWarm Upとも呼ばれます。メインイベントへむけての調整として参加される方が多いのではないでしょうか。調整といってもれっきとした賞金付きのトーナメントであり、今回の場合は1位賞金約110万円です。

 

#2(s) Super Satellite to Main Event

サテライトとはポーカーにおいては本戦の出場権を得るためのトーナメントのことを意味します。今回の場合は参加費約10,000円のサテライトを通過すれば参加費約100,000円のメインイベントに出場できるというわけです。大会によってはサテライト通過者しかメインイベントにしか参加できない、事実上の予選としてのサテライトを行っている場合もありますが、MOPTの場合はお金さえ払えばメインイベントは誰でも参加できますので、この場合は単に100,000円を得るためのトーナメントだと言っても差し支えありません。

 

#2 Main Event

3日間にわたってトーナメントを戦う、文字通りのメインイベントです。DAY1はA,B,Cの3回にわたって行われ、DAY1Aの通過者、DAY1Bの通過者、DAY1Cの通過者がそれぞれDAY2に駒をすすめ、DAY2の通過者がDAY3に駒を進めます。総エントリー数596名、インマネは87位(賞金約16万円)以上、賞金総額(プライズプール)約5100万円、優勝賞金額約910万円。この大会の参加者全員がメインイベントでの優勝を目指しているといっても過言ではありません。

 

#3 Night Stack

深夜時間帯のトーナメント。ポーカーの大会はある意味でお祭りなので、夜通しでポーカーが行われます。この時は22時開始で翌3時くらいまでトーナメントをやっておりました。

 

#4 Deep Stack

#9 Turbo

ともに1日完結のトーナメントですが、ディープスタックはゲーム開始時のチップが多く、ターボはゲーム開始時のチップが少ないのが特徴です。それゆえ一般的に前者はトーナメント終了まで丸一日かかるのに対し、後者はほとんどが半日で終了します。また、ディープスタックはほとんどがポストフロップの戦いになるのに対し、ターボでは中盤以降はプリフロップオールインで決着つく局面が多くなる…といった具合に、ディープとターボでは戦い方がかなり違ってきます。ディープスタックよりもスタックが多い場合はメガスタック、ターボよりもさらにスタックが少ない場合はハイパーターボと呼ばれます。

 

#5 Flip Out

これはどちらかというと競技というよりもビンゴゲームやジャンケン大会に近く、祭りの余興といった意味合いがつよいかもしれません。ポーカーはポーカーなのですが、ハンドが配られた時点で強制的にオールインとなるのが特徴で、つまりくじ引きと同じように完全に運だけで勝者がきまります。フリップアウトを勝ち抜いた後は通常のトーナメントを行い勝者が決まります。

 

#6 High Roller

ハイローラーとは参加費の高いトーナメントを意味します。今回の場合はメイン参加費約10万円に対しハイローラー参加費は約20万円です。しかしこれでもハイローラーの中では安い部類で、他の大会だと50万円以上かかるのが相場で100万以上かかるハイローラーも珍しくありません。参加費が高いだけあって参加者は大抵ポーカー専業のプロか大会出場経験多数の強豪ばかりです。もちろん高い参加費だけにプライズプールも高く、今回の場合は参加者82人とメインの7分の1にもかかわらず、ハイローラーの優勝賞金は約400万円とメインの半分弱にも達します。

 

#7 Knockout

ノックアウト形式のトーナメントでは、通常の順位によるプライズに加え、他の参加者を飛ばした時にもプライズが発生するのが特徴です(バウンティーといいます)。チップが少なくなった参加者のバウンティーを狙って通常ではコールしないようなハンドでも積極的に参加するプレイヤーも少なくなく、狩ったり狩られたりととてもスリリングなトーナメントです。

 

#8 6-max

通常のトーナメントでは1卓につき9~10名で試合が行われますが、6-maxでは文字通り1卓につき最大6名で試合が行われます。10名の参加者がいればよっぽど強いハンドでないとそもそも勝負に参加ができませんが、6名であればそこそこの強さのハンドでもベストハンドである可能性が高く、通常よりもハンドレンジ(勝負に参加する基準)を下げて勝負をすることが可能になります。

 

以上がMOPTで行われる全トーナメントです。総エントリー数のべ1,732人、総賞金額約1億円にものぼったMOPTに参加した様子をお届けします。

 

11月2日(土)

MOPTは11月1日(金)から開催されてますが、私は仕事があったので金曜の深夜便でマニラに行き11月2日のトーナメントから参加することにしました。25:30羽田ー5:30マニラのJAL便、片道4時間のフライトです。

 

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イミグレで1時間近く待たされた。早朝からきつい

定刻通りマニラのニノイ・アキノ空港に到着しました。周りを見渡すと国内大会などで見かけたことのある日本人ポーカープレイヤーがちらほらおり、これからの大会に向け気分が高まります。

 

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ホテルへはタクシーを利用します

ニノイ・アキノ空港には電車が通ってないので、市内への移動は必然的にタクシーになります。白いタクシーと黄色いタクシーがありますが、後者は特別な認可を受けているタクシーで、前者だと悪質な場合はボラれる場合がある…と「地球の歩き方」に書いてあったのでおとなしく割高な黄色いタクシーを使いました。

 

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早朝だったので道はかなり空いてて快適だった


MOPTの会場であるオカダマニラへはタクシーで10分ぐらい。途中で運転手に「スカイウェイ(高速道路)を使ってよいか」と聞かれるので無難にOKと答えましょう。マニラは道路事情があまりよくなく、渋滞につかまったらとんでもない時間がかかってしまう…と「地球の歩き方」に書いてあったので(絶大な信頼)。高速料金は150円、かかったタクシー代は500円くらいです。

 

オカダマニラの中にある外貨両替所は空港内にある両替所よりもレートが良く、カードが使えずペソを使わなければいけないシチュエーションは(ポーカー以外の観光をしない場合)タクシーぐらいしかないので、事前に準備しておくペソは最低限度で大丈夫です。

 

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会場となるオカダマニラの外観。バブリー!

オカダマニラは日本人オーナーが2017年に開業したIR、いわゆる統合型リゾート施設です。ホテルはもちろん、カジノ、スパ、屋内ビーチ、ナイトクラブ、ショッピングモール、プール、こども向けの遊園地…ありとあらゆる施設が広大な敷地内に揃ってます。

 

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エントランスの様子。バブリー!

オカダマニラに到着。ホテルもここで取ってあるのでチェックインをすませ(英語が得意ではありませんが出川英語でなんとか通じました)、部屋に案内されます。

 

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部屋の様子。バブリー!

部屋代は1泊24,000円くらい。正直、こんな豪華な部屋でなくても良かったのですが、初めてのフィリピンで勝手が分からなかったのと、まあ自腹じゃないしな、ということもあってオカダマニラに部屋を取りました。もちろん周辺のホテルに部屋をとってるポーカープレイヤーも大勢います。オカダマニラに宿泊するメリットとしては「深夜を問わず気ままにカジノに出入りし、疲れたらきままに部屋で休める」というのと「館内の無料wifiが使用できるので海外用のwifiSIMカードを用意する必要がない」というのがあります。

 

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部屋の真ん中に鎮座するジャグジー。バブリー以外の感想がでてこない

まあでもこんだけ豪華な部屋をもらっても睡眠時間をのぞくと3日間で部屋にいた時間はたぶん1時間以下だったので、私には贅沢すぎました。家族を連れてリゾートを満喫しに来るのなら話は別ですが、ポーカーをやるためだけに1人で来るのなら近隣のホテルで十分だと感じます。

 

 

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朝食をとりにビュッフェへ

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和洋中ありとあらゆる料理が揃ってる

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朝からシースー

ここに限らずオカダマニラの料理は本当にどれも美味しかったです。普段ならこの3倍くらい量を食べてもとをとりにいきますが、深夜便だったし機内でも機内食を食べたのでこれでおなかいっぱい。もっと食べたかったです。

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腹ごなしに散歩。ホテルの目の前はすぐ海

フィリピンの平均気温はこの時期でも平均30度近くあり、半袖半ズボンでも大丈夫だしなんなら海でも泳げます。

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カジノを散策

カジノテーブル500卓、スロットマシン3000台を誇るオカダマニラのカジノです。今回のMOPTの会場はここになります。ポーカーはもちろん、バカラ、ルーレット、ブラックジャック、クラップスといった定番から、日本のゲームセンターにあるような競馬をはじめありとあらゆるゲームがあります。

 

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ここがオカダマニラのポーカールームです。ここで行われるのはポーカートーナメントではなくリングゲーム(キャッシュ)、要するにフリー雀荘と同じようにふらっと参加してふらっと抜けることが可能なポーカーです。まだ朝の9時ごろですがこの時点でけっこうな人がおり、午後3時ぐらいには全ての席が埋まり順番待ちになるほどの盛況ぶりでした。

 

私はポーカー以外のサイドギャンブルは一切やらないと決めていて、トーナメント開始13時まではまだまだ時間がたっぷりあるので、昼食までキャッシュで遊ぶことにしました。


まずキャッシャーと呼ばれる両替所でチップを購入する必要があります。100ペソのチップはそのまま100ペソで買えます。また、手持ちのペソがなくてもクレジットカードでチップの購入が可能です。とりあえず私は15,000ペソ分のチップをカードで買いました、日本円にして約30,000円くらいです。

 

麻雀と同じように、ポーカールームには何種類かのレートの卓が立ってます。一番安い卓から25-50、50-100、100-200、200-500となってます。25-50とは最低ベット額が50ペソであることを意味します。麻雀で例えるとピンフ1000点が50ペソ、くらいのイメージでしょうか。25-50卓にもちこめるチップの総額は5000ペソが上限なので、最大損失を被っても1万円まで。まさにポーカー界のテンゴと言えましょう。従って50-100は麻雀でいうところのピン、100-200は麻雀でいうところのリャンピンになります。少しは相場感が伝わりますでしょうか。

 

これよりさらに高いレートのポーカーテーブルももちろんありますが、それらはここではなくvipルームのような別室で行われてます。漫画家の蛭子能収さんが捕まった雀荘のレートがリャンピンでしたので、普通に遊ぶ分には100-200までで十分だと言えましょう。

 

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フィリピン風やきそば800円。お好みでレモン汁をかける。うまい

 

 私にとって初の海外キャッシュでしたので、とりあえず25-50の卓に座ります。客層は現地のフィリピン人であろう、日本で言うところのパチンコ店に出入りしてそうな雰囲気の年配者が3人、裕福そうな中華系プレイヤーが2人、欧米系の白人が1人、日本人が私の他に2人、うち1人は都内のポーカースポットで何度かみたことのあるプレーヤーです。私と同じようにMOPT参加までの時間つぶしなのでしょう。

 

卓で話せる言語は基本的に英語だけです。なぜなら日本人同士がインプレイ中に日本語でしゃべっていたら、通し(互いの持ってるハンドを教えあうイカサマ)を疑われるからです。厳しいポーカールームだと卓外のプレーヤーとプレイ外で雑談してるだけで怒られることもあるそうです。とはいえ、特段の英語力は必要ありません。

 

例えば1,000点チップ2枚で1,300点をベットしたい場合は、2,000点を出しながら「ワン、スリー」といえば1,300点の意味で通じます。同様に、10,000点チップ3枚で24,000点を賭けたい場合は30,000点を出しながら「トゥ、フォー」で通じます。下手に〇〇ハンドレッドとか〇〇サウザンとか発声してしまうと、ケタ間違いをしたときに死んでしまうので(たとえば10,000ペソ賭けるつもりが間違えて100,000ペソと発声してしまったら、発声優先で100,000ペソを賭けなければならなくなる)、よっぽどの英語話者でなければ出川英語での発声が無難でしょう。

 

リング卓はルーズなプレイヤーもいれば上手いプレーヤーもいて様々です。日本人はだいたい上手いです(そもそも腕に覚えがなければわざわざフィリピンまでこないでしょう)。現地の人や中華系の人は弱い人と強い人で両極端な印象です。前者はバカンスできてレクリエーションとしてポーカーを楽しみ、後者はそんな人たちを狙って獲物にしているのでしょう。ポーカーの世界ではいわゆるカモのことは「フィッシュ」と呼ばれます。強い人のことは「シャーク」と呼びます。お金を持ってるフィッシュのことは「社長」と言います。

 

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MOPT会場。海外勢にまじり多くの日本人プレーヤーがつめかける

最初は順当にチップを増やしていったのですが、たまたま中華系社長が3-BETしたときに私はAKを持っていたので社長狙いで4-BETオールインしたら脇のフィリピン人のおっちゃんがスナップコール(間髪入れずにコールすること。略してスナコー。強力なハンドを持ってる場合が多い)、社長は相当悩んでましたが渋々フォールド。話が違う!

 

おっちゃん「QQ」vs私「AK」

 

プリフロップオールインでよくぶつかることの多い大物手同士の対決になりました。互いの勝率はほぼ五分五分。このような勝負は「フリップ」「コイントス」「ジャンケン」などと呼ばれます。つまりコインの裏表を当てるのと同じで完全に運勝負ということです。私の勝利条件は5枚のボードの中でAかKが落ちること。落ちなければQのワンペアでQQの勝利になります。結果は特に何も落ちずおっちゃんの勝利、一撃10,000円オーバーのポットを取られました。リングのプリフロップでイキリオールインする必要なんてこれっぽっちもありませんでした、普通に4-BETしてれば最少失点ですんでたな…。まあこれが本番でなかったのが不幸中の幸い、午後からはいよいよ本番MOPTのスタートです。

 

 

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エントリーの受付票。指定されたテーブルのディーラーに渡すことでゲームに参加できる

 

エントリーの手順は以下の通り。

 

①オカダマニラのカジノカードをつくる(無料)。パスポートの提示が必要です。

②トーナメントの受付でカジノカードを提示しバイイン額を払う。ここではクレジットカードは使えませんが、手持ちのペソがない場合は同額のカジノチップで支払うことが可能です。
 

 

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戦闘開始!

 さていよいよMOPTメインイベントDay1Bのスタートです。手元にあるのは黄色の5000点チップ4枚、紫の1000点チップ7枚、ピンクの500点チップ4枚、黒の100点チップ10枚、合計30,000点の初期スタックで戦います。卓の半数以上が日本人でそれほど緊張感はありません。

 

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メインイベントでプレイする筆者。公式ページより

結果はあまりよくありませんでした。序盤でTT(10のポケットペア)を持ってるときにAAを持っている人とぶつかってがっつりとチップを減らしてしまい、中盤になんとか原点まで持ち直すものの、16時ごろにAJsのプリフロップオールインがKKに捕まり飛んでしまいます。19時ごろまで生き残ればDAY1通過だったのですが全く及びませんでした。

 

さんざんな1日でしたが疲れていたし初海外トーナメントなのでまあこんなものでしょう。部屋にもどって仮眠し夜のトーナメントに備えます。…のはずが目覚ましをかけずに熟睡してしまい起きたのは25:30。あわてて会場に行ったらすでに受付を終了してました。朝の4時過ぎまで100-200のキャッシュで遊んでこの日はおしまいです。

 

11月3日(日)

8時ごろ起床。水着を持参していたので午前中は気分転換にプールにでもいこうかとも考えたけども、さんざん悩んだ末にポーカールームで遊ぶことにします。

 

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ポーカールームでもポーカーしながら食事はとれる。便利な世の中ですね

 

昨晩からキャッシュでの調子がよく、この日も快調にチップを増やしました。最終的には3日間で20万円をキャッシュで稼ぎましたが、それはまた別の話。

 

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午後からDeepStackに参戦

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DeepStackで戦う筆者、公式サイトより

 このトーナメントでも中盤までなかなかチップが増えず、相対的にショートスタックになり苦しい展開。同じぐらいショートスタックのプレイヤーのプリフロップオールインを、ここが勝負所と44でコール、A6oが出てきてナイスコールかと思いきやフロップでAが落ちてそのまま飛んでしまいました。最後はジャンケン勝負に負けた格好ですが、中盤までにもっとチップを増やしていればジャンケンに負けてもまだ戦えたので、完全に力不足でした。

 

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夕飯はフィリピンの牛肉丼

17時からハイローラーに出場します。国内大会のタイトルホルダーや海外で活躍してる日本人プレイヤーがひしめく激戦必至のトーナメントです。

 

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バイイン10万ペソ(20万円)!

左隣にはWSOPで日本人女性初FT進出という快挙を成し遂げたRuiko Mamiyaさん、右隣にはGacktさんの音楽プロデューサーを務める鮫島巧さん、その3つ右にはSPADIEという国内大規模ポーカー大会の13期チャンプ…、といったハイローラーならではの鮫ばかりのテーブルに放り込まれました。

この時はかなりうまく立ち回り中盤まで善戦、2回目のブレイクまでほぼアベレージを維持してたものの、レイトレジスト(受付終了間際)で入って即ダブルアップ(オールイン勝負に勝ちチップが倍になること)した欧米系プレイヤーのオープンにAJoでオールインスチールを仕掛けたら88でコールされ、またしてもジャンケンに負け一撃敗退になりました。

 

目の前でショートスタックがダブルアップしたのを見て焦ってしまい完全にオーバープレイしてしまいました、ポジションがあったので普通にポストフロップをやれば88なら降ろせたかもしれない…降ろせなくても破滅するところまではいかなかったので本当にもったいなかったです。悔いの残る敗戦となりました。

 

この日も朝の3時くらいまでキャッシュで遊びました。最後はフロップ3枚ダイヤのレイズオールインに1枚ダイヤのフロップストレートでコールしてしまい普通にフロップフラッシュ出てきて捲り目もなくそのまま飛び。フィッシュ!部屋に帰り不貞寝。

 

11月4日(月)

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最終日、最後の戦い6-max

6人テーブルとはいえ、WSOPブレスレットホルダーである中井孝浩さんが同卓しており、かなり厳しい戦いが予想されました。というのも、私は国内大会で以前彼と同卓したことがあり、その時は中井さんのブラフ3betやブラフチェックレイズにさんざん苦しめられたからです。

 

pokershinbun.com

 

ゲーム中盤、幸運にも私にAA(プリフロップにおける最強ハンド)が配られました。私の右隣がオープンベット、AA持ってたら普通は3-BETするところですがアグレッションの高い中井さんにポジションを取られているためあえてコール止め(もちろん中井さんが3-BETしたら4-BETオールインを返すつもりでした。これをニューヨークバックレイズといいます)。中井さんフォールドで右隣とヘッズアップ。フロップはK・Q・5。右隣はチェック。私はベット。それを受けて右隣は間髪入れずにレイズしてきました。これは参った!

 

最初にチェックしておきながら他のプレイヤーがベットしてきたらレイズを返すアクションをチェックレイズと言います。通常強いハンドを持っていたらベットしていくのが正攻法ですが、あまりにも強すぎるハンドを持っている場合は相手に打たせてから倍額以上を上乗せするのが利益的なプレイとなります。つまり、この場合予想される相手のハンドはKQなどの2ペア、あるいはQQや55を持って3カードを引いていることが考えられます。AAは強いようで弱い。どうする?「コール」私は渋々コールしました。2ペアならまだこちらにもまくり目があるし、JTなどのストレートドローでブラフレイズしている可能性もあるからです。ターンはラグ(自分にも相手にも無関係そうなカード)、チェックチェック。リバーは5。もし右隣がKQを持っていたとしてもこの時点で私が捲ったことになります(KとQの2ペアよりAと5の2ペアの方が強い)。右隣チェック、私はベット、右隣フォールド。結果としてあのチェックレイズはブラフだったようです。まさか私がAAを持ってるとは夢にも思わず降ろせると判断しブラフベットしてきたのでしょう。プリフロップでのAAコール止めがブラフレイズを誘って思わぬ利益となり、このワンプレーで卓のチップリーダー(チップを一番持っている人。略してチップリ)に躍り出ました。

 

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4度目の正直、この日は快調にチップを増やす

 

そしてATで私がオープンレイズ、右隣がコールしヘッズアップ、フロップがT・8・7というボードで私がベットしたら右隣がチェックレイズオールインを仕掛けてきました。今度は先ほどと違い全額勝負、判断を誤れば大量のチップを失います。私にはT(10)のワンペアとAのキッカーがありますが、万が一にも相手がJ9を持っていた場合は相手のストレートに対して捲り目がありません。さあどうする?

 

「コール」長考の末に私はコールしました。もし相手が一発でストレートを引いていたなら、いきなりオールインを仕掛けて私を降ろさないだろう、と読んだからです。私が予想する相手のハンドは「T9」「99」「98」などのストレートドローのついたワンペアで、それらに対し私のATは現状で勝ってるからコールできるという読みです。

 

結果、ショーダウンで相手が見せたカードはQTでした。私と同じ10のワンペアですが、キッカーの差(A>Q)で私が勝っています。かなりしんどい状況でしたが、結果としてはナイスコールでした!相手のブラフを見破ってそれほど強くないハンドでコールすることをブラフキャッチといいます。私は二度にわたるブラフキャッチで大量得点を叩きました。今日はいけそうだ!

 

同卓のプレイヤーが一人とび、二人とび、卓移動しても生き残り続け、気が付けば参加者116人のうち残り17人になってました。この時点で6-maxにおける賞金獲得(インマネ)が決定!4回目の挑戦で初インマネです、わざわざフィリピンまで来たかいがありました。やった!嬉しい!

 

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あとは一つでも上の順位を目指すだけ

画面左側に賞金額が掲示されてます。1位74万ペソ、2位50万ペソ、3位32万ペソ…当然のことながら少しでも順位が上がる方が獲得賞金額が高くなります。私は勝負ハンド以外はプリフロップでフォールド、勝負ハンドが入ったらプリフロップでオールインする戦略(プッシュオアフォールド)に切り替えて粘り続けました。最後は残り9人でQToによるオールインがセカンドチップリのK3sに捕まってボードに特に何も落ちずそのまま終了、9位入賞でトーナメントを終えました。

 

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9位入賞の証。これをトーナメントの受付に持っていくと賞金74700ペソ分のチップが貰える

…というわけで私の初海外トーナメント参加の成果は、4トーナメント中1インマネとなりました。普通に参加してたら獲得賞金よりも払ったバイインの方が高く、収支はマイナスなのですが、国内大会のプライズでバイイン額を賄っているので、海外でしか使えないプライズを現金化したと考えれば、キャッシュも含め純利35万円なのでまずまずの結果なのではないでしょうか…。

 

MOPTは見知った日本人プレイヤーも多く、大人の遠足みたいでとても楽しかったです。また国内の大会でプライズを得たら、また海外の大会に挑戦しようと思ってます。

 

(…とか言ってたら翌週にあったSPADIEという国内大会で参加者458人中7位で入賞しちゃいました。プライズもらったのでまた行くかも。不定期で続く)

優勝賞金10億円!競技ポーカー(テキサスホールデム)の世界について

参加者人数8000人以上の世界大会で優勝賞金は日本円に換算すると約10億円。これ、なんの競技か分かりますか?ゴルフ?チェス?いいえ、ポーカーです。世界最高峰のポーカートーナメント、WSOP(ワールドシリーズオブポーカー)の優勝賞金は1000万ドル、日本円に換算すると10億円以上です。ちなみにゴルフの世界4大大会クラスの優勝賞金でも200万ドル程度なので、いかにWSOPの賞金が桁外れなのかがお分かりいただけるかと思います。

 

でも、ポーカーってしょせんは賭け事でしょう?おっしゃる通り、世界のカジノには大抵ポーカーテーブルがあり、参加者たちはお金を賭けてポーカーを楽しんでいます。一方で、全くお金を賭けず、参加者全員が同額チップからスタートしいかに多くのチップを獲得できるかをトーナメント形式で競う、競技としてのポーカーも存在します。前者は一般的に「リングゲーム」または「キャッシュ」と呼ばれ、後者は「トーナメント」あるいは略して「トナメ」と呼ばれています。

 

日本ではもちろん賭博は禁止なのですが、お金を賭けずにカジノゲームを楽しむアミューズメントカジノやポーカースポットというものが各地にあり、お金をかけない純粋な競技としてのポーカーが楽しめます。場所にもよりますがだいたい2~3000円くらいで2,3時間は遊べるでしょうか。ノーレート雀荘や碁会所に近いものだと思ってくださればけっこうです。

 

世界中のカジノで同一ルールでプレイするポーカーは競技人口がとても多く、先ほど例にあげたWSOPではメインイベント約8000人の参加に加え、サイドイベントも含めると延べ10万人以上のプレーヤーが参加しています。しかし日本ではご存知の通りポーカーの知名度は低く、麻雀や囲碁などのゲームに比べるとはるかにマイナーな存在です。

 

そんなマイナーな日本の競技ポーカー界隈ですが、2019年は数々のビッグニュースが飛び交い、日本のポーカー界隈はちょっとした盛り上がりをみせました。

 

 

まずは日本ポーカー界の草分け的存在、”ひゃっほう”こと池内一樹さん。後述しますが日本でのポーカー普及に尽力されている方の一人です。そんな彼が今年のWSOPのサイドイベント「ミリオネアメーカー」で準優勝し、日本円にして約9000万円の賞金を獲得しました。これは単独トーナメントの日本人賞金獲得額としては歴代最高記録であり、日本のポーカー界隈でビッグニュースになったのはもちろん、ポーカー界隈以外でもちょっとした話題になりました。

 

bunshun.jp

 

 

そして8569人が参加したメインイベントではHiroki Nawaさんが日本人歴代最高である25位入賞(賞金約3500万円)を果たします。

 

 

また、WSOPの「$1,500 Limit Hold'em」というサイドイベントではRuiko Mamiyaさんが日本人女性初となるファイナルテーブル(決勝)進出という偉業を達成しました。

 

2019年は日本のポーカー界にとって記録ずくめの年になりました。

 

とはいえ傍から見れば「25位入賞や女性初の決勝なんかで大騒ぎしてるの?」と思うかもしれません。しかし裏をかえせばそれだけ日本の競技ポーカー人口はまだまだ少なく、世界のトップ層は厚く、そして、まだまだ日本人にとっては多くのフロンティアが残されている、ということです。つまり私が何がいいたいのかというと、競技ポーカー楽しいしチャンスがたくさんあるからみんなポーカーやってみよ?ということです。

 

ポーカーは楽しいです。競技として真剣に技術向上をめざす人たちもいれば、お酒を飲みつつみんなでワイワイ騒ぎながらレクリエーションとして楽しんでるひとたち(レク勢)もいます。

 

実際、ポーカーって見知らぬ人が相手でも会話しやすいし、容易に打ち解けられるんです。なぜか。それは、ポーカー競技は対戦相手をとてもリスペクトする文化があるからに他なりません。

 

や、私もポーカースポットではじめてポーカーをしたときはびっくりしました。ポットをとったとき(一番強いハンドで場のチップをすべて取ること)に、初対面の対戦相手から「ナイス!」と褒められたのです。初心者だから褒められたのかな、と当初は思ったのですが、その後ずっとゲームを見ていたら初心者だろうがベテランだろうが相手のナイスプレーにはまず真っ先に相手を称えます。

 

なぜでしょう。初心者の頃はよく分かりませんでしたが、今ではその理由がよく分かります。「あのプレイヤーはタイト(本当に強いハンドでしか参加しない人)だから、あのレイズには負けてる可能性がある」「あの人は上手いプレイヤーだから、この局面ではブラフしてくることもあり得る」「フラッシュの可能性がある局面なのにオールインしてきているのだから、あの人は絶対にフルハウスを持ってる」などなど、ポーカーは相手へのリスペクトの度合いによって自分のアクションが容易に変わります。なので、ポーカープレイヤーは常に相手のプレイを注意深く観察し、相手のナイスプレーに対しては惜しみなくリスペクトするのです。そして相手をきちんとリスペクトすることが、ポーカートーナメントにおける自分の勝利につながるのです。

 

ですからポーカーにはプレイヤー同士で相手を称えあう文化があり、わりと簡単に見知らぬ相手とも打ち解けることができます。実際、ポーカープレイヤーに「ポーカーを始めて良かったことは何ですか?」と質問したら、真っ先に「仲間が増えたこと」と答える人はものすごく多いです。

 

そんな楽しいレクリエーションゲームであるポーカーには、前述したとおり海外の大会で高額賞金を得られる多くのチャンスがあり、まだまだ多くの「日本人初の快挙」という栄誉を得られる余地があります。後述しますが、参加費3000円のトーナメントから初めて最終的に賞金10億円を獲得するのも夢ではありません。今からでもおそくありません。あなたも今から始めてみませんか?

 

 

そもそもテキサスホールデムってどんなゲームなの?

 

ポーカーと一言で言ってもいろんな種目があるのですが、ここでは世界で主流となり一番多くの競技人口がいるであろうテキサスホールデムという種目の話をします。一般的にポーカーのトーナメントといえば特に但し書きがなければそれはノーリミットテキサスホールデム(賭け額に制限のないテキサスホールデムのことを指します。なんじゃそりゃ、と思う方も多いと思うので次の動画をご覧ください。007のカジノロワイヤルでジェームス・ボンドがテキサスホールデムをプレイするシーンです。

 

www.youtube.com

 

これがテキサスホールデムです。プレイヤーごとに配られた2枚のカードと、場に配られた全プレイヤー共通の5枚のカード、計7枚のうち5枚を選んで強い役をつくった人の勝ちになります。

 

役は強い順に以下の通りです。

 

ロイヤルストレートフラッシュ > ストレートフラッシュ > 4カード > フルハウス > フラッシュ > ストレート > 3カード > 2ペア > 1ペア > ハイカード(役無し)

 

また、同じ役同士だったら数字の強い方が勝ちとなります。数字の強さは以下の通りです。

 

A > K > Q > J > T(10) > 9 >  … > 3 > 2

 

例えば同じワンペア同士だったら9のワンペアよりもKのワンペアの方が強く、同じハートのフラッシュ同士ならハートのJを使ったフラッシュよりハートのQを使ったフラッシュの方が強く、また役ができなかったとしても、Tを持ってるハイカードよりもAを持ってるハイカードの方が強いということになります。

 

同じ強さのワンペアを持っているプレーヤーが二人いたとしても、Aのワンペアと5を持ってるプレイヤーよりAのワンペアとQを持ってるプレイヤーの方が強い役になります(この場合の5やQはキッカーと呼ばれます)

 

先ほどの動画では最後に4人がオールイン(全額勝負)対決となり、KQフラッシュ<8フルハウス<Aフルハウス<87654ストレートフラッシュ、でスペードの57を持っていたジェームスボンドが勝利しています。なんとなくゲームの雰囲気は掴めましたでしょうか。

 

テキサスホールデムのルールはこれだけではありません。もう一つあります。そしてそれこそがテキサスホールデム最大のキモといっていいかもしれません。それは、最初のプレイヤーカード2枚が配られた時点で賭け額を決め(プリフロップ)、全員共通のコミュニティカード3枚が配られた時点でさらに賭け額を上積みし(フロップ)、4枚目のコミュニティカードを配った時点でさらに賭け額を上積みし(ターン)、5枚目のコミュニティカードを配った時点でさらに賭け額を上積み(リバー)、それが終わるとプレイヤーが初めて2枚のカードを見せる(ショーダウン)、という、チップを賭ける機会(ベッティングラウンド)が4回に分かれているというルールです。

 

ベッティングラウンドではチップを賭けるか(ベット)、前の人と同じ額を賭けるか(コール)、チップを賭けずに降りるか(フォールド)、すでに賭けられた額よりもさらに多くのチップを賭けるか(レイズ)、のアクションを選択できます。大まかなルールとしては以上になります。

 

これが、このルールこそが、数学的な期待値をもとに判断をせまられたり、時にはブラフも含めた高度な心理戦に発展したりと、テキサスホールデムというゲームを奥深くする大きな要因なのです。

 

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え?7枚で役の優劣を競うのに、最初の手札2枚だけで賭けるか降りるかを決めるの?2枚だけじゃ何の役ができるのかまだ分からないじゃない?

 

私もこのゲームを一番最初のプレイした時は手札2枚の時点で降りている人を見て面食らいました。しかし、自分の手札2枚を見た時点で強いのか弱いのか、勝負に行くべきなのか降りるべきなのかは分かるのです。なぜなら、その手札2枚(スターティングハンド)が相手のランダムカード2枚に対してどれぐらいの勝率があるのかは最初から決まっているからです。

 

www.pokerdou.com

この表で2人のとき勝率60%くらい、3人のときに勝率40%くらいあるハンドであれば、賭け額に対するリターンの割が良く期待値が高いから参加すべきといえるのではないでしょうか。

 

具体的にどういうカードが強いのか。まず強いのが88やJJなどのポケットペアと呼ばれる同じカード同士の2枚です。例えばKQというポケットペア以外のハンドを持っていたとして、フロップの3枚でKかQが落ちてワンペアができる確率はたったの32%(3回に1回)しかありません。リバーまでの5枚を含めてもワンペアができる確率は約48%(2回に1回)しかないのです。しかしポケットであればプリフロップの時点でワンペアであることが100%確定してるのでかなり強いと言えます。フロップで相手にペアができなければ多くの場合に相手は賭け額についてこれず、ショーダウンせずとも相手は途中で降りてすべてのチップを取れる(ポットを取る)でしょう。また、フロップ以降にもう1枚のカードが落ちれば3カード(セット)となり、さらに強力になります。リバーまでにセットを引ける確率は約19%(5回に1回)あり、もし上のペアを相手にもたれていても逆転できるという、かなり強力なハンドです。

 

あとはAQやATなどAが1枚あるハンド、いわゆるAX(エースエックス)と呼ばれるハンドです。それはワンペアで一番強いのがAなので、Aのワンペアを作った時点でベストハンドな可能性が高く、また参加者全員が役をつくれなかった場合でも、Aのハイカード(Aハイ)がベストハンドになりうるので、これもまた強力なハンドと言えるでしょう。

 

それ以外だとKJやJTなど、2枚とも10以上のカードあたりがまあまあ強いと言えるでしょうか。リバーまでにAが落ちる可能性はそれほど高くなく、KやJなどが落ちた時にベストハンドになる可能性が高いからです。また、JTのように連続した数字のハンド(ネクター)やKJのように1つ数字をまたいだハンド(ワンギャッパー)はコミュニティカード次第ではストレートを引ける可能性があります。例えばKJを持っていてフロップにQとTが落ちれば、ターンかリバーでAか9を引けばストレートになります(この場合、リバーまでにストレートを引ける確率は30%強です)

 

……ここまで読んで、頻繁に確率が出てくることに気づかれたかと思います。そう、テキサスホールデムまだ見ぬフロップの前に自分のハンドにどのぐらいの勝率があるのか、リバーまでにどのぐらい逆転できる可能性があるのか、この勝率のためにはどの額まではコールできるのか、どの額までベットするのが適切なのか、など数学的に期待値の高いアクションを積み重ねていかにチップを増やすかを基本戦略にするゲームです。

 

ポーカープレイヤーには職業が投資家の方がけっこういらっしゃいますが、多くの方がポーカーは投資(相場)と似てると口をそろえていいます。まだ見ぬ将来を予想してどの株を買うのか、どこまで利益を伸ばすか、どこで損切りするか、というのがポーカーに似てるからです。

 

http://pokerguild.jp/pages/interview-jack/

(著名アナリストのエミン・ユルマズさんもポーカープレイヤーで、インタビューでも同様なことをおっしゃってます)

 

例えばAAやKKなどリバーまでの勝率が極めて高いハンドならプリフロップの時点でさらにたくさんのチップをレイズ(リレイズまたは3-BET)するのが最も利益的なプレイだし、ポット3000点に対して勝率30%のドローハンドを持っているなら1300点までのベット額なら「1300の投資にたいし30%の確率で4300点のリターンがあるのならその期待値は4300*0.3=1290」でありリスクとリターンが釣り合うのでコールできますが、それ以上のベット額に対しては投資に見合うリターンが得られないからフォールドするのが利益的なプレイとなります。

 

ポーカーは非常に数学的な、理詰めのゲームといえるかもしれません。

 

しかし期待値を追い求めるプレイだけでは勝てないのがポーカーの奥深いところです。なぜなら、自分のアクションがすべて数学的に合理的なプレイだと相手が分かれば簡単に手を推測されその裏をかかれてしまうからです。

 

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例えばプリフロップでATというハンドでレイズインしたとします。すると後ろからさらにリレイズ(3-bet)されました。だいたいこのようなアクションをする相手はTT以上のポケットペアを持っている人、またはAKやAQなど強力なキッカーを持ってる場合がとても多いです。TT以上のポケットペアに対するATの勝率は約30%、AJ以上のAXに対するATの勝率は約20%しかありません。固いプレイヤーならこの時点でATを降ります。もしATでコールしたとしても、フロップの3枚を開いてATになにもヒットせず何のドロー(あと1枚でストレートやフラッシュが完成する状態のこと)もない場合、相手がベットしてきたら99%の人がフォールドするでしょう。

 

このとき、たいていの場合は相手は自分より強いハンドを持っておりフォールドは正しい選択肢になります。しかし相手がA5sや78sなど自分(AT)より弱いハンドを持っていても、この場合なんら不思議ではありません。弱いハンドを持って強いアクションをとり相手を降ろしてしまう。つまり、ブラフです。数学的に正しいプレイ、または定石に沿ったプレイは、時として相手にその裏をかかれ、勝ってるハンドを降ろされてしまう場合も多々あります。逆に言えば、負けているハンドでもブラフして降ろしてチップも得ていかないと、ポーカートーナメントを勝ち抜くことはできません。

 

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相手のブラフを見破るのはとても難しいです。嘘をついている人によくみられる癖(テル)や雰囲気などで感じ取るのは有効な手段ではありますが、しかしこれもまたプレーヤーによっては小芝居でわざと弱テルを演出し裏の裏をかいてる場合もあり、とどのつまり虚か実か見分けるのは容易ではありません。ましてやポーカーが強いプレーヤーは時に差し違えるような大胆なビックブラフを仕掛けてくるのです。この虚実の化かしあいもまた、ポーカーの醍醐味と言えるのではないでしょうか。

 

つい先日、JOPTというポーカー全国大会のサイドイベント、300人参加で残り3人になったファイナルテーブルで誰もが驚くビックブラフが飛び出しました。

 

 

 

 

プリフロップ、先手はQ9でレイズ、後手がT7でコール。フロップはKT4。先手はJのストレートドローがありますが現状はただのQハイです。チェック。それを見た後手は「相手には何の役も出来てない」と読み切りTのワンペアでポットベット(場に出てるチップとほぼ同額をベットする、かなり強いアクション)をします。先手は役がないながらもドローでコール。

 

ターン。Aが落ちます。先手にはまだ何の役もできてません。敗色は濃厚です。しかし先手はここで誰もが驚くアクションを取りました。なんとQハイでオールイン(全額勝負)を仕掛けてきたのです。まさにビックブラフです。オールインをする以上、最低でもAのワンペア、もしくはそれ以上の役(先手がJQを持っていればストレート)ができた事をアクションが示唆しています。まともに考えれば後手のT7はこのオールインにはコールできません。TのワンペアではAのワンペアにも勝てないからです。後手がコールできないオールインアクションをとったビックブラフ、まさにナイスプレイの一言につきます。100人いたら99人はコールできません。本来ならこのブラフにより先手が後手を降ろしてポットをとるはずでした。

 

ところが、です。後手はなんとこのオールインに対し長考の末にコールをしました。つまり、後手は先手のオールインをブラフだと読み切ったのです

 

なぜ後手は先手がAやJQを持ってないと読み切れたのでしょう。理由は二つ考えられます。

 

・もし先手がAを持っていた場合でも、後手がJQを持っている可能性を消せない以上、Aのワンペアではオールインを打てない(仮に2ペアができていたとしても同様の理由でオールインを打てない)

 

・もし先手がJQを持っていた場合、先手のオールインで後手を降ろしてしまうよりも、後手がコールできる額をベットした方が先手にとってよりチップを獲得できる利益的なプレイである。従って先手がJQを持っていたらオールインは打たない

 

以上のことから、先手はどんなハンドを持っていようがオールインを打てません。だからこそ後手は先手のオールインをブラフだと読み切り、Tのワンペアでも勝ってると確信しコールが出来たのだと思います。

 

とはいえ、理屈では何とでもいえます。ですが実際に私が後手の席にすわっていたら先手のオールインに対しコールできないでしょう。100%降ります。コールして万が一にも相手がAやJQを持っていたら全てのチップを失いトーナメントに敗退するからです。このトーナメント、1位の賞金は6,323ドル、3位の賞金は2,744ドル。差額はおよそ40万円であり、つまりこのワンプレーに40万円がかかってます。降りればトーナメントはまだ続けられますがコールして負けたら40万失うも同然だからです。

 

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大きな賞金がかかったポーカートーナメントであればあるほど、高度な駆け引きが繰り広げられることでしょう。そんな痺れるような場面を制する勇気と知略ある者こそがポーカートーナメントの頂点に立てるのです。

 

 

 競技ポーカーのトーナメントってどんなの?

 

 テキサスホールデムがどういったゲームであるかはだいたいお分かりいただけたかと思います。では、競技としてのポーカーで賞金を得るにはどのようにすればいいのでしょう。

 

ポーカーの大会はそのほとんどが参加費さえ払えば誰でも参加できます。一番最初に例に挙げた賞金10億円のWSOPメインイベントを例にあげますと、その参加費は約100万円です。…高ッ!

 

そうなのです、ポーカーの大会とは、全ての参加者が払った参加費の総額(プライズプール)から運営費を差し引いたものを賞金として分配しているのです。ですから、賞金10億円の大会に参加するには、その賞金10億円に見合う参加費を払うことになります。

 

もちろん今のは極端な例です。WSOPのサイドイベントには数万から参加できます。先に例に挙げた賞金9000万円獲得のひゃっほうさんが参加されたイベントの参加費は15万でした。またWSOP以外にも海外の大きなポーカー大会はありますが、いずれも数万円から参加することが可能です。これくらいならまだちょっと頑張れば参加できそうですね。

 

しかし海外への渡航費や滞在費まで考慮すると例え数万円の参加費の大会でも10万以上の出費となるでしょう。なかなか気軽に参加できるものではありません。

 

 

日本の多くの競技ポーカープレイヤーは、まず国内の大会での入賞を目指します。そこで得た賞金を元手に海外の大会を目指すのが一般的です。

 

日本の大会でも賞金が出るのならわざわざ海外に行く必要はないと思うかもしれません。実は日本のポーカー大会で出される賞金のそのほとんどの場合現金ではありません。

 

日本のポーカー大会の賞金はごく一部の大会に限り現金で支払われる場合がありますが、ほとんどの場合は海外大会への渡航費補助として支払われます。先の例で日本のJOPTという大会の1位賞金が6,323ドルと書きましたが、これは現金ではなくあくまで海外への渡航費補助です。要するに6,323ドル分の大会参加費、渡航費、滞在費を払ってくれるという話であり、逆に言えばそれ以外の用途に使うことはできません。

 

必然的に、日本の強いポーカープレイヤーは国内の大会に勝利をおさめたら次は海外へ目指すこととなります。そして海外の大会で勝利することで初めて賞金を得ることができるのです。実はここ数年多くの日本人ポーカープレイヤーが多くの海外大会で好成績を収めてます。

 

 

 

その中にはポーカーの収入のみで生計を立てている日本人プロポーカープレイヤーもいますし、普通に仕事を持ち休みの日にポーカーを趣味としてやってる人も当然います。専業のポーカープレイヤーにはアマチュアでは勝てないのではないかと思うかもしれません。たしかにプロは強いです。プロのゴルファーにはアマチュアゴルファーでは太刀打ちできないし、囲碁のプロにはアマチュアが勝利を収めることはできないでしょう。しかし、ことポーカーに限って言えば、アマチュアの趣味プレイヤーにも高額な賞金を得るチャンスがあります。ポーカーには”運”の要素があるからです。

 

2003年のWSOPのメインイベントで優勝したクリス・マネーメーカーは職業は会計士、趣味でオンラインのポーカーゲームを楽しむ一介のアマチュアプレイヤーでした。そんな彼が参加費4000円のオンライン予選を勝ち抜き参加費100万円のメインイベント挑戦権を獲得し、並み居るプロをおしのけなんとそのままメインイベントで優勝をしてしまいました。当時の優勝賞金は約2億7000万円。つまり4000円が2億7000万円になったわけです。まさにアメリカンドリーム!夢のある話です。

 

そう、ポーカーには運の要素が絡むので、完全に正しいプレイをしていても、間違ったプレイに対し運だけで負ける可能性があります。勝率99%のハンドで全額勝負を受けるのは正しいプレイですが、たった1%の勝率の相手に負けてしまう可能性はもちろんあるのです。

 

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そう、勝負には勝っても(正しいプレイをしていても)生き死にの戦いで死んでしまうのが多々あるのがポーカーです。正しいプレイというのはあくまで勝率が高いというだけで、勝率が悪い方が勝つこともあるのです。ポーカーがクソゲーと呼ばれる所以でもあり、同時に美点でもあります。一介のアマチュアプレイヤーでも大きな大会で優勝するチャンスはある、それがポーカーの魅力なのです。

 

ポーカーを始めてみたいんだけどどうすればいいの

ここまで読んでポーカーに興味をもって方、実際にやってみたい方がいるかもしれません。

 

手っ取り早く遊ぶならスマホやPCで遊べるオンラインポーカーがおすすめです。

 

【PC・スマホ】PokerStars

www.pokerstars.com

 

最大手のオンラインポーカーです。世界でのプレイヤー人数も多く、また世界各地のカジノでもポーカー大会を主催してます。

 

オンラインポーカーに対し、実際のお店でポーカーのお店はライブポーカーと呼ばれます。筆者が実際に遊んだ中でおすすめのポーカースポットをいくつか紹介します。

 

秋葉原アキバギルド

akibacc.com

プレイ料金が都心のポーカースポットでは断トツに安いので、初心者におすすめです。トーナメント以外にも常時リング卓が開いており、プレイチップで遊ぶこともできます。ルールが分からなくてもリング卓なら丁寧に教えてもらえます。

 

【銀座】パラハ

ginza-casino.jp

お酒とフードがとても充実した素敵な雰囲気のポーカースポットです。週末には大きな規模のプライズマッチ(入賞すると渡航費補助が出るトーナメント)を開催しており、ある程度ポーカーの技術を磨いてから参加するのがおすすめです。

 

【蔵前】コーナーポケット

conapoke.sunvy.jp

老舗中の老舗。サークルが運営しているので飲食物の持ち込み自由、テキサスホールデム以外のポーカー種目も充実しています。また深夜(24時以降)の時間帯もトーナメントを開催しており、近隣のポーカースポットのディーラーが仕事終わってから客として参加していたりと客層も面白いです。

 

そしてある程度スキルを磨いたら、日本の全国大会を目指しましょう。

 

【JOPT】ジャパンオープンポーカーツアー

japanopenpoker.com

 

【AJPC】オールジャパンポーカーチャンピョンシップ

www.ajpc.jp

 

【WPT】ワールドポーカーツアー JAPAN

pokerjapan.jp

 

それらの大会で入賞して賞金(渡航費補助)を得たら、次は海外の大会を目指しましょう。

 

ここで手前味噌で恐縮ですが、私の話をします。私、実は今年7月のJOPT16「プラチナム」というサイドイベントで準優勝を果たし、賞金4,431ドルを獲得しました。続けて今年9月のWPT「ハイローラー」というサイドイベントで準優勝、賞金3,000ドルを獲得ました。合計7,431ドル、約80万円!うおおおおおおお、やばい、完全に上振れ!あり得ない!嬉しーーーー!

 

…という話を奥さんに報告したら、「現金じゃないの?」と言われました。はい、現金じゃないんです…海外渡航費補助なんで…海外の大会で勝たないと現金でもらえないんです…

 

japanopenpoker.com

 

というわけで明日から海外のポーカー大会に行ってきます。会場はフィリピンのカジノ、オカダマニラです。賞金獲得めざして頑張ります。

 

続く(かも)

 

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(11/25追記)

続編です。

www.mizuhebi.com

 

山椒香る幻の原始キムチ先行試作型、大地に立つ!

ある日、ふとwikipediaで「キムチ」の項目を眺めていたら、こんな記述が目に留まった。

 

キムチは、もともとは朝鮮半島の厳寒期に備えた保存食であり、野菜を塩漬けしたものからはじまった。これに香辛料としてのニンニクサンショウなどを加えるようになったのが、キムチの原型である。16世紀に日本から朝鮮半島に唐辛子が伝えられると、栽培や加工が容易な唐辛子がサンショウに代わって用いられるようになった。  

https://ja.wikipedia.org/wiki/キムチ

 

へー。16世紀以前のキムチは唐辛子でなくサンショウを使ってたんだ。知らなかった。で、唐辛子の方が栽培や加工がしやすいからつくりやすいのだ、と。なるほど。ってことは、唐辛子でつくるキムチは「量産型」であり、サンショウを使ったキムチは量産のきかない「試作型」ということになる。つまり、ガンダムで例えると、唐辛子キムチ=ジムであり、山椒キムチ=ガンダムであるに他ならない。

 

ならば見せてもらおうか、原初の姿をたたえた先行試作型である山椒キムチの味とやらを!(以下、原始キムチと呼称する)

 

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とはいえレシピなんてないので想像でつくるしかない。そろえた材料は白菜、実山椒、ニンニク、花椒である。

 

あと味の決め手として量産型キムチレシピでよく見かけるのが塩辛などの魚介、および昆布や煮干などのダシ類だ。これに関してはキムチのレシピによりバラバラで共通のレシピはなく、具材のチョイス・分量の違いによりその家その家での個性が宿るのだと思う。ここはセンスが問われるところである。

 

俺が今つくってるのは原始キムチなので、原始キムチの再現レシピなので、原始キムチにふさわしい具材を吟味する必要がある。思うに、昆布や煮干などのダシでumamiが出るというのは後世の入れ知恵感が鼻につき原始キムチにふさわしいとは言えない。

 

イカの塩辛はどうか。悪くはない。悪くはないが、この塩辛という技法にどうしても文明を感じてしまいひっかかるのである。シヴィライゼーションで例えて言うならば、「ルネッサンス」に突入した文明には塩辛があっても不思議ではないが、「中世」程度の文明レベルであれば、塩辛の概念がある文明とない文明に分かれてるのではないだろうか。

 

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イカの塩辛はやめよう。危ない橋を渡ることは無い。俺がチョイスしたのはスルメである。つまりイカの干物。干物であれば、「中世」どころか「古典」時代であっても全文明にあるテクノロジーであると自信を持って断言できる。まさに原始キムチにふさわしい。

 

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これらの具材に加え、総重量の3%の塩を振り、ザク切り(ガンダムだけに)した白菜と実山椒、花椒とニンニクをよく混ぜる。

 

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量産型キムチのレシピだとたいてい白菜を塊のまま塩に漬けてから水抜きをすることになっている。しかし塩が貴重品だった時代に水抜きをしていたとは到底おもえない。ゆえに原始キムチレシピでは水抜き工程を強い意志をもって省略する。

 

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熱湯消毒した密封ビンにぎゅうぎゅうに詰める。数日たてば水が出てかさが減るので思いっきりぎゅうぎゅうに詰めて良い。

 

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涼しい場所に1週間ほどおいておく。

 

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1週間後。ちょうど良い量になった。

 

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ビンを開封すると「ゴボォ」という豪快な音がした。発酵が進んでいる証拠である。

 

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さて、いよいよ実食である。山椒香る幻の原始キムチ先行試作型、はたして美味いのかどうか…

 

 

一口目、そうとうスパイシーな味がした。あとから乳酸発酵による酸味を感じる。これは…正直よく分からない。未知の発酵食品、という感じである。そもそも初見の発酵食品って一口目から手放しで「美味しい!」ってならないような気がする。ベジマイトやブルーチーズもある程度食べ慣れないとその味がよく分からないし、それは我々が慣れ親しんだ納豆や味噌だって海外文化圏の方にしてみれば同様なのだろう。

 

つまり、現時点で俺にはこのスパイシーな原始キムチが美味いのか美味くないのか、慣れてないので正直よく分からないのである。これはまるでガンダム1話目の、操縦方法が分からずガンダムに振り回されるアムロ・レイみたいではないか。思えばZガンダムカミーユだって、エヴァのシンジ君だって、初回は機体のオーバースペックっぷりに振り回されている。これはまさに第一話あるあると言えるのではあるまいか。

 

「落ち着くのよ、シンジ君!」

 

えっ、ミサトさん

 

「大丈夫、あなたならきっと原始キムチ先行試作型を使いこなせるわ!」

 

展開が急すぎるよ、ミサトさん

 

「さっそく現れたようね。使徒よ」

 

使徒

 

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…これが、使徒

 

「作戦を説明するわ。原始キムチを単独で食べても味が分からないのなら、焼肉の付け合わせとして食べるのよ。焼肉にはキムチ。量産型キムチと焼肉の相性が抜群なら、原始キムチと焼肉だって相性は合うはずよ」

 

なにを言ってるのかさっぱり分からないよ、ミサトさん

 

「四の五の言わず食え。原始キムチ、リフトオフ!!」

 

うわああああ!?……!?こっ、これは……合う!!!!山椒の香りがスパイスになって、焼肉の臭みを消してとっても美味しいよ、ミサトさん!!

 

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「そうだろうと思ってビールも用意したわ」

 

最高。

 

というわけで唐辛子のキムチも美味いけど山椒キムチも美味いのでぜひ一度お試しください。以上です。

旅とTシャツと私

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私は世界に一枚だけのTシャツを持っている。

 

それは10年以上前の話だ。私が瀬戸内海の直島に旅行で訪れたとき、ドミトリーでたまたま私と同室になった男が私のTシャツに油性マジックで鯉の絵を描いてくれたのである。曰く、東京でデザイナーをしていたが仕事を辞めて徒歩で日本一周をしている、貧乏旅行なので金が無い、夕飯を奢ってくれるならお礼にあなたのTシャツに絵を描く、とのことだった。面白そうだったので私はその取引に応じ、宿の近くの焼き肉屋で男に夕飯をご馳走した。彼が焼き肉屋の座敷でTシャツに描いてくれた鯉の絵は、予想していたよりもずいぶんと精緻で立派なものだった。

 

その男とは翌日の朝に別れた。名前を聞いたのだが忘れてしまった。男とはそれきりである。手許には男が描いた鯉のTシャツだけが残った。そして10年の月日が流れた。大切に扱っていたつもりではあったが、さすがに10年も経てばTシャツの襟元もヨレヨレになり、耐用年数をとうに過ぎ処分するのが適切であるように思われた。

 

もちろんそれは私にとっての思い出の品であり、なかなか捨てづらいものである。一方で、狭い我が家の収納が有限であるのもまた事実である。ならばいまここでその思い出にまつわる話を全て書き綴り、その思い出をここにとどめることでこころおきなくTシャツを処分することとしたい。

 

不思議なことに、私はその直島をめぐる旅行で、1枚のTシャツを手に入れ、1枚のTシャツを失った。失ったのはモリゾーとキッコロのTシャツである。鯉のTシャツを手に入れるのが必然なら、モリゾーとキッコロのTシャツを失うこともまた必然だったように思う。

 

男と別れた私は、一人で別の島に向かうための船にのっていた。そこは直島からそう遠くはない島で、かつて操業していた銅山の精錬所の廃墟がある、とのことだった。趣味で写真を撮る人には分かると思うが、廃墟というのはとても魅力的な被写体である。写真が好きな私は今回の旅で絶対にここを訪れようと当初から決めていたのだ。

 

レンガ造りの、とても大きな建物だった。大きさで例えるならまさに横浜の赤レンガ倉庫ぐらいはあるだろうか。しかし屋根はとうの昔に崩落し、レンガの壁もところどころ崩れ、建物内部からは数本の木が生い茂っていた。人の手が入らなくなってから十数年以上は経ったであろう、まごうことなき立派な廃墟であった。

 

私は夢中になってカメラを構え、シャッターを切った。どこをどう切り取っても絵になるからだ。同じ船でこの島にやって来た数人も私と一緒にこの廃墟を見にきていたが、数枚写真を撮っただけで、やがてどこかへ行ってしまった。廃墟には私一人だけが残った。

 

廃墟に着いてから小一時間は経っただろうか。なんの脈絡も予告もなく、唐突に「それ」がやってきた。便意である。

 

今までに経験したことのない、大型で強い便意であった。私は直感的に、これは無理だと悟った。我慢すれば引っ込む便意と、引っ込まない便意がある。これは間違いなく回避不能な直下型の便意であった。港へは歩いて10分。そこにはトイレがあっただろうか。いや、そもそもこの状態で徒歩10分でたどり着けるだろうか。自分には分かる、これはちょっとした振動でも漏れる。港へ戻る途中で万が一力尽き漏らそうものなら、社会的に死ぬ。

 

私の取りうる選択肢は、もはや野グソしかないように思われた。しかし、いいのか?いかに廃墟とはいえ、誰かの所有地ではないのか?立ちションですら軽犯罪なのだから、私の野グソは立派な犯罪なのではないだろうか?

 

その時、私の脳に突如としてフラッシュバックしたのは金田一少年の事件簿のワンシーンだった。自分自身が死にかけているような状況では他人を死に追いやってしまったとしても罪に問われることはない――悲恋湖伝説殺人事件における重要なテーマ、つまり緊急避難である。乗っていた船が難破して、波間に浮かぶ板切れにしがみつきなんとか生き永らえようという極限状況であれば、同じ板切れにしがみついてくる人を振り払いその人が溺死したとしても罪に問われることはないのである。そう、私もまさに極限状況で死(社会的に)に直面しているではないか!ここで私が野グソしたとして、誰が私を罪に問えるというのか??

 

私は重大な決断を下し、そして便も下した。この極限状況から解放された。私は生き残ったのだ。

 

しかしそれはそれで乗り越えねばならないもう一つの問題があった。つまり、どうケツを拭くのかという問題である。ケツを拭く、には二重の意味がかかっているのだけど、端的に言えば私はその時ティッシュを持っていなかったのである。

 

しかし死線を超えたその時の私の頭は明晰に冴えわたっていたのであり、どうすべきかは論理的かつ明確に即断することができた。その時の私はTシャツの上に半袖シャツを着ていたのだ。Tシャツか半袖シャツ、どちらかを喪失してもなんら支障がない、ならばそのどちらかで拭けばいい。私はおもむろにモリゾーとキッコロのTシャツを脱ぎ、そして用を足してことなきをえた。私は生き残ったのだ。

 

そして私はそれらすべてを埋めた。さらば、モリゾーとキッコロ。全ては終わったのだ。そのようにして私は島を後にした――

 

それから数年の月日が経った。私はそんな生き死にの戦いのことなどをすっかり忘れて日常生活を送っていた。そんなある日のこと、私はあるニュースを読んでひっくり返った。

 

なんと、その廃墟であった精錬所が美術館として建て直されリニューアルオープンするというのだ!

 

犬島精錬所美術館

犬島精錬所美術館は、犬島に残る銅製錬所の遺構を保存・再生した美術館です。「在るものを活かし、無いものを創る」というコンセプトのもと作られた美術館は既存の煙突やカラミ煉瓦、太陽や地熱などの自然エネルギーを利用した環境に負荷を与えない三分一博志の建築と、日本の近代化に警鐘をならした三島由紀夫をモチーフにした柳幸典の作品、また植物の力を利用した高度な水質浄化システムを導入しています。「遺産、建築、アート、環境」による循環型社会を意識したプロジェクトといえます。

 

つまりそれの意味するところとは、私のモリゾーとキッコロがとうとう暴かれたということである。死にたくなってきた。日本ひろしといえども、自分の野グソを掘り起こされたことをニュースで知った奴などなかなかいないのではないだろうか。

 

Tシャツにまつわる思い出は以上です。

「まだコンビニでレジ袋を消耗してるの?」から「握力つよいっすねw」の時代へ

以前も書いたけど、趣味としてゴミ拾いをやっている。

 

www.mizuhebi.com

 

そのような趣味を持っているのだから「なるべく無駄なゴミを出さない生活をこころがけよう」となるのは当然である。自分はなるべくコンビニなどでレジ袋をもらわないようにしている。

 

これも誤解しないでいただきたいのだが、別にレジ袋をもらう行為を否定する訳ではない。レジ袋は便利であるからだ。手ぶらで店に行ってたくさんの買い物をしてそれらをレジ袋につめて家に帰れる。最高に便利ではないか。

 

これらを「環境問題」という観点だけで否定してしまうのを、個人的には不毛だと思っている。なぜならこの話には際限がないからだ。

 

レジ袋が無駄なゴミであるならば、同様の論法で「コンビニ弁当のプラ容器は無駄なゴミだ」ということも言い得てしまう。レストランに行ったり自炊で食事をしていれば出なかったゴミである。コンビニ弁当をふだん食べてるその口で、レジ袋をつかう人のことを批判するのはブーメランに他ならない。

 

もし「私は自炊でしか食事をしません」という方がいたとしても、流通にのってる食材は発泡トレーをはじめさまざまな梱包材というゴミを副次的に生み出してしまうのであり、とどのつまり、コンビニでレジ袋を消耗している人たちのことを批判しうるのは完全自給自足で生活している人だけである。ほら、不毛でしょう?

 

つまり俺は、他人などどうでもよく、そんないさかいから遠く離れた場所で、ただただ自分が好き好んで、あえてレジ袋を使わない「プレイ」を楽しんでいるだけなのである。

 

言っておくが、エコバッグなど使わない。傘を持ち歩くのも億劫に感じるこの俺が、エコバッグなど持ち歩けるはずがない。

 

つまり、片手だ。片手でいく。限度まで。

 

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一例をあげよう。うどんにサラダにペットボトル。筆者の標準的な昼食である。

 

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この程度ならレジ袋を使わず片手で会社まで持って帰ることは可能である。

 

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サンドイッチ、サラダ、缶の組み合わせはどうだろうか?

 

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これも可能である。しかし缶だとつかみどころが難しく若干の不安定さは否めない。

 

 

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蕎麦、サラダ、2Lペットボトルの組み合わせはどうだろうか。

 

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小指と薬指で2Lペットボトルのキャップ部分を挟み込み握力でなんとかする、というやや強引なプレイをしているが、基本的には可能である。

 

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冷やし中華、千切りキャベツ、2L紙パックという編成ならどうだろうか。

 

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これは逆に全てを紙パックに乗せてしまうのが安定感ある合理的プレイだと言えると思う。

 

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おにぎり2個に惣菜パック、ペットボトルという組み合わせだとどうだろうか。

 

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基本的にどのようなバリエーションの昼飯を選ぼうと、一食程度ならコンビニでレジ袋が不要であることはお分かりいただけると思う。

 

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という訳で俺は完全にコンビニのレジ袋不要の生活を送っている。あくまで好きで不自由を楽しんでいる、完全に趣味の世界である、というのがお分かりいただけたかと思う。

 

しかしそこには厄介な問題をはらんでいる。つまり、レジ袋不要と告げると店員さん(特に年配の方)に心配されるのだ。「え…本当にいいんですか…?」と。

 

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この念押しも毎度毎度だとけっこうな負担になる。たかだか数百円の買い物で「お客様、本当によろしいですね?」と毎回店員に念押しされるような人でないと俺の心理的負担はわかってもらえないと思う。や、店員さんの気持ちも分かるのだ。エコバック持参ならともかく、ノーエコバッグで片手プレイする人なんて日本ではあまり見かけないのだから。

 

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ということで毎回レジで念押しうけるのがつらくなってきたので、片手プレイをコンビニ店員さんにすこしでも理解してもらおうと今日はブログ記事を書いた次第である。このような趣味の世界もあるよ、ということをまず知ってもらいたい。

 

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とはいえ、店員さんもこんな客が目の前にあらわれたらどうリアクションを返していいか分からないかもしれない。そんな時は「お客さん、握力つよいっすねw」と返して頂ければ幸いです。

 

 

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ちなみにスーパーでも片手プレイは可能であるが、量による。こちらは階級でいうと無差別級なので、初心者にはお勧めしない。