サイエンスアンテナ

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2006年12月26日(火) 00:09

視点・論点「まん延するニセ科学」

NHKの「視点・論点」に大阪大学の菊池 誠 教授が「まん延するニセ科学」と称して出演されました。そこで話された内容を文章に書き起こした方がおられますので、ご紹介します。

[youtube][text] 視点・論点「まん延するニセ科学」 (うしとみしよぞ)

Youtubeに動画が上がっていますが、著作権的に問題があるかもしれないので文章の方だけご紹介とします。

さて内容ですが、マイナスイオン、ゲーム脳、水からの伝言を例に、しつけや道徳の根拠を自然科学に求めてはならないと断じています。また、なぜニセ科学が信じられてしまうのかについても言及されています。

特に、なぜニセ科学が信じられてしまうかについては一読の価値ありです。良いか悪いかの単純な二分法で結論を求める風潮がありますが、そんなにすっぱりと割り切れるほど世の中は単純にはできていません。必ず曖昧な部分が残ります。それを様々な角度からじっくりと考えて結論を出すことが大切だと思います。これが論理的な思考であり、それを放棄する二分法は、思考停止に他なりません。

とはいえ様々な角度から検証せよといわれても、思考のトレーニングを積んだ人でもなければ難しいと思います。が、まずは「本当のそうなの?」と、一歩立ち止まって考え直すようにしてみてください。そして、疑問に思ったことはネットで検索してみてください。これだけでも論理的な思考力が養えると思います。

菊池氏による補足

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2006年12月25日(月) 01:44

日本の衛星はなぜ落ちるのか


日本の衛星はなぜ落ちるのか

著者: 中冨 信夫
出版社: 光文社
ISBN: 4334933300

JAXA統合以前の状況について日本国内で縄張り争いをしても意味がないなど、ごもっともと思う部分もいくつかありました。しかし全編に渡ってツッコミどころという、かなりトホホな本でもありました。正直、読んでて頭が痛くなってきます。

まずは文章。「許可 permit された」といったカンジで日常会話レベルの単語に英単語がいちいち添え書きされているため、非常に鬱陶しく読みにくいです。これが、あまり馴染みのない専門用語とか、まだ日本語訳の確定していない単語("dwarf planet" に対する「矮惑星」など)なら、まだ納得できるんですけど。

また、表紙に「国産化率100%は真っ赤なウソ!」と書かれていますが、結局「真の国産化率」については具体的な言及がありませんでした。事実はともかくとして、ソースの提示どころかハッタリの数値すら書かれていないようでは、ただのイチャモンとしか思えません。

もっとも、この著者のいう「国産化」の定義も怪しいものです。たとえば技術試験衛星「きく6号」の項に、「アメリカから購入した特許に基づいて作成したH-II型ロケットを国産品と呼ぶなど、語るに落ちた」という主旨の記述があります。「国産品」と呼ぶには、基礎技術も含めて全て国内で開発しないといけないとでも言うのでしょうか。確かにそれが理想だとは思いますが、全ての部品を国内で作成し、機体も国内で組み立てたなら、「純国産品」と呼んでも差し支えないと私は考えます。併せて、「きく6号」の失敗事例の項にH-IIロケットのネタを仕込む構成にもツッコミを入れておきます。

その他、アメリカがやることは全て正しく、日本がやることは全て間違っているとでも言いたげな論理展開は、非常に腹が立ってきました。たとえばスペースシャトル。著者は「最高峰の設計思想」と褒め称えていますが、ちょっと考えればあまりよろしくない設計思想だというのはすぐわかると思うんですけど。帰還時にしか使用しない翼は積載量を確実に削っていますし、打ち上げ時の非対称な形状はかなりの無理がありそうです。

もちろん、私はスペースシャトルを全否定するつもりはありません。低軌道に28tのペイロードと7人の人間を打ち上げ、帰還させるこのロケットは、現在のところ人類が持つ最高の宇宙船でしょう。もっとも、「無理のない設計思想」で作れば、もっと楽ができただろうとは思いますが。

冒頭にも書きましたが、この本は全編に渡ってツッコミどころ満載です。冷静に考えれば首をかしげるような論理展開と自己矛盾に満ちています。まともに読めるのは巻末に書かれているエジソンとテスラの電源開発競争(なんでこの話がこの本に入っているんだろう?)や、フォンブラウンの半生ぐらいでしょうか。しかしこれもネットで調べればすぐにわかりそうなものですし、意味のない英単語併記を差し引くと、少なくとも積極的にオススメできる本ではないと思います。

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2006年11月26日(日) 17:54

ホメオパシーの何が悪い

普通に医者にかかれば完治したハズの病気が、適切な治療が遅れたために手遅れになるのはまずいんじゃないでしょうか。ホメオパシーに傾倒した場合、そんな状況に陥ると考えます。

さて、ホメオパシーとは Wikipedia によると、

  • ある症状を持つ患者に、
  • もし健康な人間に与えたら、その症状と似た症状を起こす物質を
  • きわめてごく薄く薄めてわずかだけ与える

という治療法だそうです。で、どれくらい薄めるかというと、実に10の60乗倍なんてものもあるそうで。ここまで薄めると、元の物質は一分子たりとも残っていません。これで薬理作用があるのかとか、薄める過程で混ざる不純物の扱いはどうなのかとか、いろいろツッコミどころがありますが。まぁ、そういうものだそうです。

さてこのホメオパシー、当然というか、現在に至るまでその有効性が統計的に立証されたことがないようで、プラセボ以上の効果はないと結論づけられているようです。そのうちの一つが kikulog で紹介されていましたので、取り上げておきます。

A systematic review of systematic reviews of homeopathy

で、そのアブストラクト(要約)を nakanishi さんが訳されていますので、合わせて紹介しておきます。

http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1164164775#CID1164506837

その結論は、「現在までに得られている最善の臨床的証拠に基づき、ホメオパシーの臨床診療での使用は推奨されない」だそうで。

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2006年11月6日(月) 21:57

マイナスイオンドライヤーで考える科学の意義

ここのところ本職(プログラマー)の方が忙しくて更新が止まっていた。今週リリースの案件を抱えていて、その直前でぐちゃぐちゃになっているのが原因。ところが年末にもリリース予定があるものだから、年内はこんな状況が続くかも。とはいえ、気がついてみれば10月一ヶ月の更新が一回だけだったというのもお粗末なこと。週に一回くらいは更新したいものだが。

さて kikulog ではマイナスイオンドライヤーの話題から派生して、松下のnanoeイオンドライヤーについて議論されている。現在で話が発展して「科学とはなんぞや」という方向になっているが、それもそろそろ終息しそうな気配が出てきた。この話の流れについてはきくちさんがレスとしてまとめられているので、こちらではもう少し包括的な話をしてみたい。

と言いつつその前に、該当エントリの話の流れを簡単にまとめておく。今回のエントリでは、松下のnanoeイオンドライヤーは評判がいいが、それは何による効果なのかについて議論された。原因として「ドライヤーそのものの基本性能」と「nanoeイオン」の二つが考えられたが、どうやら前者の効果が大きいらしい。しかしユーザーの使用感を主な根拠に、「nanoeイオン」の効果が大きいと主張する方が現れた。ここから話の流れが「科学とはなんぞや」という方向になってきた。

その方の主張を一言でまとめると、肯定的な体験談が多い=「nanoeイオン」には効果がある、となる。それに対して複数の方が「ユーザーの体験談だけではnanoeイオンの効果を証明することはできない」という要旨で反論されている。とくに apj さんがご自身のブログでも提案された「幽霊見たってええじゃないか、の公理(仮称)」はロジカルにまとまっていて一見の価値ありと思うので、ぜひご覧を。

この点は私も特に強調しておきたいが、「『経験的事実』は、単にいくら集めても、それだけじゃ科学になりません(apjさん)」。そこからさらに踏み込んで、「『なにが客観的事実か』を見分ける(決める)のが科学ですよね(きくちさん)」。

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2006年10月21日(土) 02:14

ナチュラルハイジーン

こなみ日記で紹介されていたのでちょっと調べてみた。

まず「ナチュラルハイジーン(以下、NH)」とは、以下のことを実践するらしい。サイトによって言ってることが違ってたりするので、本当にこれが正しいかわからないが。

  • 生野菜を主食とする。
  • 朝食は果物だけ。あるいは摂らない。
  • 肉・魚と炭水化物を同時に摂らない。
  • 牛乳をはじめとする乳製品は不可。

非常に乱暴な言い方をすれば、菜食主義の一形態だと思う。が、そんなこと言ったら本物のベジタリアンな方々から総ツッコミ喰らうだろう。なにしろ、ちょいと考えただけであきらかに間違いだと言い切れる部分が多すぎる。ということで、いくつかピックアップして考えてみた。

生ったら生なんだい!

わざと煽った書き方したけど、NHな人は100%生でないといけないと言っているわけではない。が、極力生のものをよしとするらしく、こなみさんによると85%が生だとか。ということで、以上前置き。

さて人類が火を覚えた時期については諸説あるけど、150万年ぐらい前の遺跡から火を使った形跡が見つかっているらしい。非常に控えめに考えても、人類が火を調理に使い始めて100万年以上は経っているだろうか。それだけの時間と世代交代があれば骨格から消化器系から、火による調理を前提とした構造に変わっていて当然。たとえご先祖様が草食動物だったとしても、だ。事実、草食動物ではひたすら長い盲腸(繊維質の分解などに使われる)は、人間の場合はほとんど消滅している。顎だって非常に細くなってしまった。

ところでNHな人々は、人間の遺伝子がチンパンジーやゴリラとよく似ているから、同じようなもの(果物とか生野菜とか)を食べなさいと言っているようだ。ところが上記の通り、人間の消化器系はその歴史の中で火による調理に適応してきた。てことは、生ものを食べたって消化効率はかなり悪いんじゃね? 別に必ず火を通せとは言わないけど、生野菜が主食ってのは、あまりよろしくないように思えるんだが。

牛乳に入ってるカゼインは最強の発ガン性物質です!

カゼインってのは乳に多く含まれるタンパク質の一種で、牛乳に含まれるタンパク質の実に80%がこれ。構成比率は違えど、ヒトの母乳にも大量に含まれている。はい、この時点でNHNな人の主張がウソだと言い切れるね。もしそうだとしたら、母乳で育てられた赤ちゃんは、ほとんどがガンに冒されていることになる。ということは、人類はとっくの昔に滅亡していなければおかしい。いや人類滅亡どころか、ほ乳類は発祥すらしてはならないのか。

19世紀に確立した科学的な方法です!

1830年代にアメリカで系統立てられ、19世紀末に流行したらしい。まぁ、少なめに見積もっても100年以上も前のものを掘り出してきたってワケだ。

さて、医学とか生命科学ってのは最近100年で長足の進歩を遂げた。当然、体の機能とか栄養素の役割とかいうものについての知見は、当時と現在とでは比べるべくもない。言うまでもなく、現在の方がよくわかっている。この状態で、100年も前の「科学的」なものを引っ張り出されてもねぇ。当時の「科学的」って、現在から見たら非常識極まりない可能性が高いんだけど。

もちろん、昔のものを全否定するつもりはない。現在の知見を持ってしても解明できないものがあるってのは事実だ。だが、昔のものを無条件で信奉する空気には断固反対する。これが数百年の連綿とした歴史があるなら淘汰ってものが働くから信憑性が高いと思うが、100年前のものを掘り出したってのは胡散臭い。

そうそう、NHは100年以上の「連綿とした」歴史があるという方へ。「続いてる」ってんなら、なんで今のアメリカは肉食なんだ?


他にも読んでるだけでクラクラ来るところは多数あるが、長くなったのでここらでストップ。興味のある方は、以下の参考文献を読んで自分で考えてくだされ。

またNHについてはこなみさんが反論を書かれているので、関連するエントリを上げておく。他には新理科教育MLでいくつか議論があったが、転載禁止が原則なので、こちらでは紹介しない。

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