2024年3月23日土曜日

Lou Christie:『Gypsy Bells - Columbia Recordings 1967』


 ルー・クリスティがそのキャリアにおいて、MGM RecordsとBuddah Recordsの狭間の短期間所属したColumbia Records時代の未発表音源を多数発掘し、リマスターを施して英Ace Recordsから『Gypsy Bells - Columbia Recordings 1967』(CDTOP 1601)のタイトルでコンピレーション・アルバムとしてCD化リリースしたので紹介したい。

  ペンシルバニア州グレンウィラード生まれのルー・クリスティ(本名:Luigi Alfredo Giovanni Sacco/1943年2月19日生まれ)はハイスクール時代のヴォーカル・グループ、Lugee & The Lions(ルジー&ザ・ライオンズ)を経て、1961年にニューヨークに出てセッション・ボーカリストとして働きながらチャンスを掴むことになる。62年にクリスティとのソングライター・チームでその後もヒット曲を生み出すトワイラ・ハーバートとの共作オリジナル曲「The Gypsy Cried」(Roulette/R-4457)がそれであり、全米で100万枚以上を売り上げヒットとなった。この曲により4オクターブの音域を持つ歌声でスター・シンガー・ソングライターとなったのだ。
 翌63年の「Two Faces Have I」(Roulette/R-4481)もヒットしたが、クリスティが兵役期間に入ったために一時的に低迷するが、除隊した65年にRouletteから大手のMGM Recordsに移籍し、ハーバートとの共作による「Lightnin' Strikes」(MGM/ K13412)を全米ナンバー・ワン・ヒットさせる。
 この曲からアレンジャーとして参加したのが、フランキー・ヴァリ配するフォー・シーズンズの多くのシングル曲を手掛け、業界でもヒット・メーカーとして知られていたチャーリー・カレロである。翌66年の「Rhapsody in the Rain」(MGM/K13473)ではプロデュースもカレロが手掛け、フォー・シーズンズ・サウンドを踏襲する音像でヒットさせた。しかし同年の「Painter」(MGM/K13533)、ジャック・ニッチェがアレンジした「If My Car Could Only Talk」(「もし愛車が話せたら」タイトルが酷すぎる MGM/K13576)、再びカレロで「Since I Don't Have You」(MGM/ K13623)をリリースするも大きなヒットには繋がらなかった。 
 同年クリスティのマネージャーだったスタン・ポーリーはColumbia Recordsへの移籍を計画し(MGM経営陣と関係が良好ではなかったからと推測される)、67年2月16日に正式契約する。翌17日からカレロのプロデュースの下で新曲がレコーディングされた。ここからは「Shake Hands and Walk Away Cryin」など計4枚のシングルがリリースされたが、実際はその3倍以上の曲がレコーディングされていた。 

『Gypsy Bells - Columbia Recordings 1967』
ブックレット(表含め全20ページ)より

 本作ではそんな関係者でさえ耳にすることが出来なかった13曲もの未発表曲が発掘され収録されているのだ。これら67年の音源は、弊誌監修の『ソフトロックAtoZ』シリーズ最終版『SOFT ROCK The Ultimate!』(2002年)でも触れておらず、MGM Records(1965年~1966年)とBuddah Records(1968年~1972年)の狭間の短期間に相当し、クリスティの最大ヒット曲「Lightnin' Strikes」と、The Millenniumの「There Is Nothing More To Say(語りつくして)」(『Begin』収録/1968年)の異歌詞カバー「Canterbury Road」(Buddah/BDA-76)を繋ぐミッシングリンクとして、非常に貴重なものであることは間違いないので、弊サイト読者にも強くお勧めする。 

左上から時計回りに「Shake Hands and Walk Away Cryin」
「Self Expression(The Kids on the Street Will Never Give In)」
「I Remember Gina」「Don't Stop Me(Jump Off the Edge of Love)」

 では本作『Gypsy Bells - Columbia Recordings 1967』の主な収録曲を解説していこう。
  冒頭は先に述べた4枚のシングル収録曲のオリジナル・モノ・ヴァージョンで、「Shake Hands and Walk Away Cryin / Escape」(Columbia/4-44062)、「Self Expression(The Kids on the Street Will Never Give In) / Back To The Days Of The Romans」(Columbia/4-44177)、「Gina(I Remember Gina に表記変更される) / Escape」(Columbia/4-44240)、「Don't Stop Me (Jump Off the Edge of Love) / Back To The Days Of The Romans」(Columbia/4-44338)である。
 重複収録されたカップリング2曲を含め計6曲で、全米100位圏内のチャート・アクションがあったのは「Shake Hands ・・・」のみだったが、ビーチボーイズの「Good Vibrations」(66年)の影響下にあるパートを挿入してオマージュするなど、カレロによるアレンジングは冴えていた。因みにこの曲のセッションに参加したミュージシャンはライナーノーツによると下記のメンバーである。

Drums : Buddy Saltzman
Bass : Lou Mauro (ブックレット表記のLou Morrowは誤記)
Guitar : Ralph Casale
Piano : Stan Free
Baritone sax : Joe Farrell and George Young
Trombone : Ray DeSio
Trumpet : Bernie Glow and Pat Calello

 この時期のカレロが仕切ったセッションの常連ミュージシャン達で、その他のシングル収録曲や未発表曲でも同じメンバーが参加していると考えられる。Stan Freeは他の鍵盤もプレイしている可能性があり、編成によってはギターにCharlie MacyやVinnie Bellも参加しているだろう。因みにトランぺッターのPat Calelloはカレロの実父で、George Youngは後にカレロがプロデュースする山下達郎の『Circus Town』(76年)のNew York Side収録「Windy Lady」でのアルトサックス・ソロ、フランキー・ヴァリの「Native New Yorker」(『Lady Put The Light Out』収録 / 77年)でのテナーサックス・ソロ等多くの名演を残すことになるジャズ系の一流サックス奏者だ。
 そしてこのレコーディング・メンバーの中でもドラマーのBuddy Saltzman(バディ・サルツマン)は、当時の東海岸のセッションにおいてファーストコール・ミュージシャンであり、フォー・シーズンズやヴァリのソロ、モンキーズをはじめ多くのヒット曲に参加し、弊サイト読者向けでは、Alzo & Udineの『C'mon And Join Us!』(68年)やMargo Guryanの『Take A Picture』(68年)にも全面的に参加しているので、そのプレイを耳にしているだろう。弊サイト管理人である筆者が選出した、Buddy Saltzmanのベストプレイをサブスクにしたので聴きながら本記事を読んでみるのも一興だろう。

WebVANDA管理人選 Buddy Saltzman BESTPLAY 

 
I remember Gina / Lou Christie

 本作のシングル収録曲で筆者が気になったのは、『Smiley Smile』(67年)~『Friends』(68年)期のビーチボーイズを彷彿とさせる、Denny Randell & Sandy Linzer作の「I Remember Gina」のソフトサイケ感覚だ。この曲では作者であるRandell & Linzerもクリスティと一緒にコーラス・パートに参加しているのが、非常に珍しく聴きものである。
 また「Shake Hands・・・」と重複でカップリングされた「Escape」は、1950年代ジャズのエッセンスを散りばめてモダンに仕上げた感覚が、40年後のWouter Hamel(ウーター・ヘメル)のファースト(2007年)のサウンドにも影響を与えているかも知れない。

 未発表曲は下記の13曲で、前出のシングル曲以上に1967年アメリカのサマー・オブ・ラブという時代背景を反映して、実験性の高い意欲的なサウンドを持つ楽曲も含まれている。

The Greatest Show On Earth
Standing On My Promises
Blue Champagne
Yellow Lights Say
Paper And Paste
You've Changed
Meditation
How Many Days Of Sadness
Tender Loving Care
Gypsy Bells
Rake Up The Leaves
Holding On For Dear Love
I Need Someone (The Painter) 

 「The Greatest Show On Earth」はLugee & The Lions のメンバーだったクリスティの姉Amy Sacco Pasquarelliと、Linda Jones Honey、Kay Vandervort Schwemmという3名の女性による前衛的なコーラスを配し、変拍子パートを持ったクセになるソフトサイケなノベルティ・ポップで、Saltzmanの巧みなドラミングも聴きものだ。
 タイトルからして渋いジャズ・テイストの「Blue Champagne」は、同時期フランキー・ヴァリの最大ヒット曲「Can't Take My Eyes Off You」(67年)をBob Gaudioと共同で手掛けたArtie Schroeckがアレンジし、中音域の柔らかい木管を配してクリスティのレイジーなボーカルを引き立てている。
 続く「Yellow Lights Say」は一転して、エレクトリック・ハープシコード(初期クラビネットか?)のリフがリードするアップテンポなシェイクのナンバーで、サイケデリックな転調パートを挟んで進行する。この曲ではクリスティ自身とAmy、Lindaの軽快な三声コーラスが聴ける。
 本作ではバカラック&デヴィッド作も取り上げられており、ディオンヌ・ワーウィックの64年のシングル「Reach Out For Me」のカップリングで、翌年彼女の4thアルバム『The Sensitive Sound Of Dionne Warwick』にも収録された「How Many Days Of Sadness」(「何日間の悲しみを」詩的で素晴らしいタイトル)だ。多くのバカラック・ソングによって埋もれていたこの曲を選曲した審美眼と、ダイヤの原石を磨き上げた荘厳美麗なオーケストレーションもカレロならではである。
 またコーラス・パートでひと際存在感を放つLindaは、クリスティのペンシルバニア時代からの音楽仲間で、3人組ガールズ・グループThe Tammysのメンバーだった。The Tammysはクリスティのバック・コーラスを務めつつ、「Egyptian Shumba」(64年)をローカル・ヒットさせるが、この曲は後の70年代にイギリスでノーザン・ソウルとして発掘され現在でもDJ達に注目されている。


 本作のタイトルになっている「Gypsy Bells」は、クリスティのファルセットを活かしたヴァースから転調していくソフトサイケなポップだ。この曲はベーシック・トラックと歌入れのレコーディング後に、複数のギターやハープシコード、ハープ、ヴィブラフォン、金物パーカッションをオーバーダビングしているので、当初アレンジからモディファイしていったサウンドなのだろう。サビでリフレインするAmyとLinda、Kayによるコーラスの和声もサイケデリックな雰囲気を演出している。
 「Holding On For Dear Love」は、コニー・フランシスの「Vacation」(62年)の作曲をはじめ60年代に多くの名曲を残したソングライターであるGary Knight(Temkin)と作詞家Francine Neimanの作品で、クリスティがレコーディングした翌年にピッツバーグ出身の無名バンド、The Music Combinationがシングル「Crystal」のカップリングで発表している。マイナー・キーのヴァースからメジャー・キーのサビに転回していくドラマティックなポップスで、ここでもSaltzmanらしき巧みなドラミングと、Amy、Linda、Kayのコーラス隊がクリスティのボーカルを盛り上げている。 
 未発表曲ラストの「I Need Someone (The Painter)」は、69年12月の2週に渡り全米ナンバー・ワン・ヒットしたSteamの「Na Na Hey Hey Kiss Him Goodbye」の作曲で知られるソングライターのPaul Lekaと作詞家のShelley Pinzによるソフトサイケ・ポップで、Vinnie Bellのプレイと思われるエレクトリック・シタールをフューチャーしている。
 Lekaといえば、弊サイト読者にはThe Lemon Pipersの諸作やThe Peppermint Rainbowの『Will You Be Staying After Sunday』(69年)などのプロデュースやアレンジ、ソングライティングで知られたソフトロック紳士録に登録される巨匠だが、この曲はThe Lemon Pipersも翌68年にファースト・アルバム『Jungle Marmalade』(68年)で取り上げ、また無名のサイケ・プログレッシブロック・バンドThe Music Asylumも同年にシングルとしてリリースしている。やはりLeka がThe Lemon Pipers に提供し、68年2月に全米ナンバー・ワン・ヒットさせる「Green Tambourine」も同様だが、当時のアメリカ社会の空気に呼応したサウンドなのだろう。

 本作後半には、シングル収録曲の内「Don't Stop Me (Jump Off The Edge Of Love)」を除く5曲のステレオ・ミックス・ヴァージョンが収録されている。この内「Shake Hands・・・」、「Self Expression・・・」、「Back To The Days・・・」の3曲は、1988年にRhino Recordsからリリースされたクリスティのベスト・コンピ・アルバム『EnLightnin'ment : The Best Of Lou Christie』収録時にステレオ・ミックスされたものだ。残りの「Escape」と「I Remember Gina」は本作のために、当時の8トラックのマルチテープ!から新たにステレオ・ミックスされたということだ。特に前者はalternate vocalヴァージョンなので、モノ・ヴァージョンのトラックとは異なり尺も5秒ほど長く、聴き比べるのも面白いだろう。
 蛇足だが筆者は、Rhinoの『EnLightnin'ment・・・』で初めてクリスティの楽曲群に出会い、現在も大事に所有しているCDアルバムだ。一部の中古盤相場では高騰しているらしいが、本作 『Gypsy Bells - Columbia Recordings 1967』もプレス数が限られるようなので、筆者の解説を読んで興味を持ったら早期に入手し聴いて欲しい。



(テキスト:ウチタカヒデ









2024年3月16日土曜日

わたくしのオフコース-3-/吉田哲人

WebVANDAをご覧の皆さん。おはこんばんちは!吉田哲人です。

 おかげさまで、WebVANDA読者の皆様にはお馴染みのことと思います2024年4月20日のRECORD STORE DAYに、RECORD STORE DAY JAPAN 2024アイテムとして、わたくしのファースト・アルバム『The Summing Up』が、去年11月発売のCDから一部内容を変更したvinyl editionとして発売されます。

※吉田哲人・リリースインタビューはこちら

 やったー!!!
 まだお見せできないのが残念ですが、やっぱりアナログ盤でも持っていたい仕上がりになっておりますので、是非、ご購入のほどを。 4月27日にはレコード・リリース記念イベントが渋谷La.mamaさんにて開催(開演11:30~)されます。
何卒よろしくお願い致します。



さて今回は… 
『ワインの匂い』 です。 


 1975年に発売されたアルバムで、僕は同年生まれです。

 ある日の中古レコード店で、それまで存在を知らなかった白い帯の『ワインの匂い』を見かけ試聴したところ1曲目の「雨の降る日に」から、 

「あれ?こんなに低音がずしっとくるアルバムだったっけ?」 

 と思い、マトリクスを確認したところ両面共に「1S」とあり、おそらく初期プレスであろうと推察し購入。家で聞いたところ試聴の印象どおり生き生きとした低音部が再生され、 

「このアルバムは本来こういう音だったのか。」

  と感動したのです。
 しかしA5「ワインの匂い」の後半部分で針トビが発生し目視したところ、いわゆる周回キズが入っており酷くがっかりはしたものの、よく見かける緑色の帯(マトリクスは「2S」、そしてそれ以降)との音の印象の違いに気付けたのでとりあえず良しとする、ただ絶対もう一枚手に入れようと誓うのでした。 

 その後、様々なレコード店で帯なし『ワインの匂い』を見かけるたびに検盤させてもらっていたのですが、一向に「1S」が目の前に現れる事はなく、流石その後に大ヒットを飛ばすオフコース、レコードの量も半端ない上、カタログ番号の変更が無いのでジャケットからは判別できず、これは白帯付きじゃないと「1S」盤の入手はほぼ無理だと悟りました。 

 しばらく経った後に白帯付きを二度ほど見かけ、お店で試聴と検盤したところ、やはり「ワインの匂い」に周回キズが入っており、それらの盤の購入は控えたものの、その時に、

「そもそも何で白帯を滅多に見かけないんだろう。そして、なぜ同じような箇所に周回キズがあるのだろう。」 

 と疑問に感じ、それがきっかけで他のアルバムも含め、色々買って調べる様になり、そして現在のこの連載にまで至る、という流れになります。

 さて、白帯『ワインの匂い』が初回盤と想定、ブレイク前なので生産枚数が少ないのは前提として、何故、これ以前のアルバムと比較しても白帯『ワインの匂い』はなかなかに入手困難なのか。

1.何らかの原因でそもそも発売されていない

2.発売されていたとしても、低音が豊かであるとその分、針とびのリスクも高まり、簡易プレイヤーでは針とびが発生、クレームからの出荷停止。

3.スタンパーに周回キズがついており、それが原因で出荷停止。 

の3点と当初推測し、いずれかが原因で緑帯に変更、アナウンスなく再発したと仮定していました。

 「1.」は自分が産まれていないのでリアルタイムで店頭に並んでいるのを確認する事が出来なかった事からの仮定にすぎないのですが、「2.」は当時の一般的なオーディオ環境で、針圧の調整が効くプレイヤーの普及率は如何程のものだったのか把握しかねるのですが、概ね簡易的なプレイヤーやポータブルプレイヤーでの再生が多かったと予想。それらは低音による針トビ(主にレコード溝が原因)がありがちな話であり、また、ポータブルプレイヤーにはレコード針が鋭いものも存在し、周回キズのようなものを付けるリスクがあります。また「3.」は似たようなキズが多い事から、購入者の扱いというよりも、出荷時に既に付いていたと考える方が理解が早いため、それらの原因がスタンパーにある(からキズまでコピーされる)と考えるのが妥当と思われます。
 さらに「2.」「3.」双方をある程度正しいとすると、再プレスと思われる緑帯のマトリクスが「2S」に繰り上がり、カッティングの際に低音が減らされ、お馴染みの音になったという仮説が、アナログ盤を製作した経験をもつ身としては想像できるのです。

 しかしその後、それらの仮説を覆す白帯『ワインの匂い』手に入れてしまいます。そのレコードには購入日と思われるものが帯に書かれており(多少伏せますが76年1月*日と書き込み)、仮説「1.」はほぼ間違いであろうことを確認しました。また、「2.」や「3.」もちょっと怪しくなってしまいました。間違っているとするならば、僕はたまたま周回キズがある盤に3回も出会ってしまったことになります。その可能性もなくはないのですが、それにしても…と疑問を残しつつ、とはいえこれといった資料も無いですしキリがないので、この時点で一度棚上げにし、他のアルバムのマトリクスを調べてゆくことにしました。

 そしてまたしばらく経った後、また白帯『ワインの匂い』を見かけたので、検盤や試聴をしてみたところ、過去に遭遇した盤と同様の周回キズはあるものの、キズはうすく針トビも無い事から購入、家でマトリクスをよく確認したところ「1S 5(1Sと5の間にスペース有。例えば1S2の様なスペース無し表記とは異なる)」とあるのに気がつき、生産ロットによって周回キズの有無があるのではと思うに至りました。
 その後もう一枚、薄い周回キズの白帯『ワインの匂い』マトリクス「1S 8」を購入。さらに少し経ってから(購入は見送りましたが)針とびはしないものの周回キズが目視しやすいマトリクス「1S 9」も確認しました。 

 以上のことから取り敢えず現状、把握出来ていることをまとめると、回収されたかどうかは不明ではあるものの、周回キズ問題は仮説「3.」がそれなりに正解に近いのではないかと推測してますが、僕が所有している周回キズのない盤のマトリスクは「1S 6」なので、上記にあるようにスペース以降の番号から周回キズの有無の推察(例えば僕が未確認の「1S 7」の周回キズの有無など)は規則性がないために困難です。寧ろ「1S 6」に周回キズが無いのは何故なのでしょうか。「1S 6」の全てに周回キズは無いのでしょうか。 また某オークション・サイトの過去の出品物からの情報なので僕は未確認なのですが、いくつかの工場でプレスされていたらしいと記載されてましたが、工場の特定ができない限り周回キズの原因やロットの特定は困難ですし、それに加えて白帯の裏面にアリスのレコードカタログが記載されてしまっているものをよく見かけますが、緑帯と同じく修正されオフコースのレコードカタログが載っている白帯も存在しているとの事も併せて記載されてました。 別の謎が増えた! 
 そして、ひょっとすると僕が周回キズあり白帯『ワインの匂い』にやたらめったら出会ってしまう運命というだけで、一般的には無傷だという可能性が0ではないんですよね…。

 結局のところ、買えば買うほど、調べれば調べるほど、謎が謎を呼び、これといった結論に辿り着けなくなってしまいました。 長年少しづつ情報/レコード収集してきましたが、リアルタイム勢ではない僕が中古レコードだけを頼りにこれ以上の検証をすることは、何かしらの資料が出てこないかぎりは困難で、推測出来ることの限界まできたのではないかと感じております。 
 今回も明確な結論を出せずに申し訳ございません。
 ここまでは頑張ったのですがもうちょっと情報が整理されると良いなと思っているので、リアルタイムの方、関係者の方、周回キズのない「1S」の後ろの番号をご存知だったりお持ちの方、ひょっとすると緑帯にも「1S」が存在してるかもしれないので当時新品で買った緑帯にも「1S」が存在してるのをご存知の方からの情報をお待ちしております。

以上、吉田哲人でした。ではまた次回。
アナログ盤『The Summing Up』何卒よろしくお願い致しますね~。

P.S. 『ワインの匂い』のカセット版は、デフジャケで収録曲順がレコードと多少異なります。

眠れぬ夜/オフ・コース

★☆★
吉田哲人「The Summing Up」LPレコード発売記念ライブ
2024.4.27(SAT)
渋谷La.mama
OPEN 11:00 / START 11:30
予約2,800円 / 当日3,000円(+Drinkオーダー)

出演:
吉田哲人
イエスハッピー!

吉田哲人プロフィール
作編曲家。 代表作『チームしゃちほこ/いいくらし』『WHY@DOLL / 菫アイオライト 』『Sputrip / 光の惑星』『WAY WAVE / SUMMER BREEZE』 等。シンガーソングライターとしてアナログ盤シングル『ひとめぐり』『光の惑星』、短冊CD 『ムーンライト・Tokyo』と、ソロアルバムCD『The Summing Up』『The World Won’t Listen』を発売中。

(テキスト:吉田哲人/編集:ウチタカヒデ








2024年3月3日日曜日

鈴木祥子:『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE...2009-20XX』


 シンガー・ソングライターとして36年目となる鈴木祥子(すずき しょうこ)が、自身が主宰するレーベルBEARFOREST RECORDS(ベアフォレスト・レコード)より発表した、アナログ・7インチシングルやCDシングル等から16曲を選出したコンピレーション・アルバム『16 ALL-TIME SYOKOS BEARFOREST SINGLES AND MORE...2009-20XX』(BEARFOREST RECORD / BECD-30/31)を3月8日にリリースする。

 昨年12月のなんちゃらアイドルのカバー・アルバム『Sentimental Jukebox』へのスペシャル・ゲスト参加も弊サイト読者には記憶に新しい鈴木だが、2009年6月の『超・強気な女(I’ll Get What I Want)』(BEEP-001)から、2021年3月の『助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!』(NRSP-795)までの現在入手困難な音源や初CD化された貴重音源が本作で一挙に聴けるのだ。また付録の8cm ボーナス・シングルでは、カップリングとして収録された洋楽カバーが4曲収録されており、彼女のファンにとってはメモリアルなアルバムとなった。
 なお本作のプロデュースは鈴木本人と、BEARFOREST設立時からレーベルを支えてきた、現なりすレコード主宰の平澤直孝との共同でおこなっており、アナログ・レコーディングに拘った全曲のリマスタリングをビクター・スタジオのチーフ・エンジニアの中山佳敬が手掛け、音質向上の点でも特筆すべきポイントとなっている。
 ジャケット・デザインにも触れるが、パブロック・ファンには一目瞭然の通り、ニック・ロウのベストアルバム『16 All-Time Lowes』(1984年)を彷彿とさせる。アート・ディレクターとして著名な坂村健次がデザインを担当しているが、アルバート・グロスマンが設立しトッド・ラングレンの諸作で知られる、Bearsville RecordsのロゴをBEARFORESTのそれでオマージュした鈴木らしい、実にマニアックでセンスを感じさせる。 


 彼女のプロフィールにも触れよう。1988年9月にEPIC SONYよりシンガー・ソングライターメジャー・デビューし、現在までに13枚のオリジナル・アルバムを発表している。またデビュー前の86年からドラムやパーカッション、キーボード・プレイヤー、コーラスのセッション・ミュージシャンとして、原田真二、ビートニクス(高橋幸宏と鈴木慶一のユニット)から小泉今日子のツアー・メンバーとして活躍するなどマルチプレイヤーであるばかりか、ソングライターとしてもこれまでに、大ヒットした小泉今日子の「優しい雨」(1993年)をはじめ、松田聖子「We Are Love」(1990年)、PUFFY「きれいな涙が足りないよ」(『FEVER*FEVER』収録/1999年)等々メジャー・アイドル歌手への提供も多く、職業作家としても活躍している稀有な存在なのだ。 

 なお本作には23頁におよぶ豪華ブックレットが付き、全収録曲のセルフ・ライナーノーツが掲載されており、そこでの鈴木自身による詳しい解説を読んで頂きたいので、ここでは筆者が気になった収録曲のみ解説していく。 
 冒頭の「超・強気な女(I’ll Get What I Want)」は2009年リリースの7インチ・シングルで、スリーリズムのシンプルな編成でピアノとドラム(リズムボックス含め)が鈴木、ベースをCHAINSのラリー藤本がそれぞれ担当している。当時デビュー20周年を迎えた鈴木のドキュメンタリー映画『無言歌~romances sans paroles~』の主題歌で書き下ろされ、強気というか勝気な女性の一人称の歌詞が、50年代アメリカのリーバー&ストーラー作のコーラス・グループ風の曲調で歌われる。シングル盤ジャケットはトッドの『The Ever Popular Tortured Artist Effect(トッドのモダン・ポップ黄金狂時代)』(1982年)のオマージュだ。
 美しいバラードの「センチメンタル・ラブレター」は2012年のバレンタインデーにリリースされたCDシングルで、平澤の助言もあり初期~中期オフコースのサウンドと小田和正のソングライティングに影響されているという。鈴木による鍵盤類のみの一人多重録音で構成され、コード進行やコーラス・アレンジ、間奏のProphet-600のソロやウインド・チャイムのアクセント等オフコース・サウンドをオマージュしている。筆者的には鈴木の声質からローラ・ニーロを彷彿とさせてしまった。 

『青空のように』 
(BEEP-004/2011年/現在7インチは廃盤)

 弊サイト読者なら巨匠と称する大瀧詠一(大滝詠一)作「青空のように」(オリジナル・同名シングル及び『NIAGARA CALENDAR』収録/77年)のカバーは、2011年1月にリリースされた7インチ・シングルで、ブリッジ・パートに同じく大瀧作の「ニコニコ笑って」(『GO! GO! NIAGARA』収録/76年)を挟んだハイブリッドな構成になっている。基本アレンジはオリジナルを踏襲しており、ボーカルの他、全てのコーラス、ドラム、オルガン、ピアノ(クレジットにはないがウーリッツァーも聴こえる)、スレイベル、カスタネットを鈴木の一人多重録音、ホーン・アレンジとバリトン、テナー、アルトの3管のサキソフォンは山本拓夫がプレイしたという、たった2人のレコーディングで完結させとは思えない仕上がりなのだ。
 何しろフィル・スペクターのフィレス・サウンドを源流とするドラムのリバーブ感やカスタネットのヒスパニック系リズムのパターン、また複雑なコーラス・アレンジのトップで進行するファルセットのライン(オリジナル・ヴァージョンはノンクレジットだが山下達郎らしい)など、細部に渡った研究により再現されていて今更ながら脱帽してしまう。

 続く「You take me,you make me」は同じ2011年の CDシングルで、一転してザ・バンド風のサウンドでピュアな歌詞を持つラヴ・バラードである。鈴木はドラムの他、ピアノ、ハモンドオルガン、ウーリッツァー、チェンバロまで演奏し、ホーン・セクションにはムーンライダーズのヴァイオリニストとして著名な武川雅寛、栗コーダーカルテットの川口義之と関島岳郎が参加し、川口は巧みなテナーサックス・ソロもプレイしている。なにより鈴木の表現力豊かでソウルフルなボーカルは圧巻で感動してしまう。
 2012年に7インチ・シングルとCD2枚組という変則的形態でリリースされた『(To)my Sweetest Fantasy」』のリード・トラック「愛と幻想の旅立ち」は、同年2月18日に渋谷のクラブ、サラヴァ東京にて一人多重で公開レコーディングされ話題となってリリース後即完売していた。本作には2022年の『鈴木祥子私的讃美歌集1』に収録されたニューミックス・ヴァージョンが収録されている。溌溂としたエイトビートのポップスで、サビへの展開などはシルヴィ・ヴァルタンの「Irrésistiblement(あなたのとりこ)」(1968年)に通じており、コーラス・アレンジにはドゥーワップからの影響を感じさせる。曲後半には公開レコーディングに参加した観客達のハンドクラップが挿入され臨場感が加えられている。
 鈴木としては異色コラボであろう2021年の7インチ・シングル「助けて!神様 ~ So Help Me,GOD!」は、アイドル出身ながらエレクトロ・ポップ系シンガー・ソングライターとして注目されている加納エミリが、アレンジとサウンド・プロデューサーで参加している。加納は昨年5月にリリースされたFrancisのシングル『裁かるゝエミリ』でフューチャーされていて、本曲でも彼女が得意とするネオ80’sサウンドをバックに鈴木のキュートさを引き出している。


 アコースティックピアノのみのバックで歌われる「北鎌倉駅」は、夏のひと時の記憶を切り取った短い歌詞を、10ccの「I'm Not in Love」(1975年)に通じる幻想的なマルチトラック・コーラスが演出する曲で、鈴木の繊細なピアノ演奏も含め聴くべき曲だろう。
 本作ラストに収録された「ファーラウェイ・ソング(遠く去るもの)」は、2008年のデビュー20周年アニバーサリー・アルバム『SWEET SERENITY』の10年後にアナログ盤でリイシューされた際、新規録音で追加されたうちの1曲で、アレンジを担当した菅原弘明による、12弦アコースティック・ギターとエレキギターのリフがリードするロック・ナンバーだ。菅原はベースとシンセサイザーのプログラミングも担当し、鈴木はドラムとピアノをプレイしている。ギターリフのアルペジオ・パターンからThe Byrdsを彷彿とさせるので、フォークロックやアメリカ西海岸ロック・ファンも必聴である。

 8cm ボーナス・シングルにも触れておこう。いずれもこれまでのシングルにカップリング収録された洋楽カバー曲で、フィル・コリンズの「Against All Odds(見つめて欲しい)」(1984年)、エイジアの「Heat Of The Moment」(1982年)という、いずれも鈴木が青春時代に聴いていていたUKロックのヒット曲。またリンダ・ロンシュタットの『Heart Like a Wheel(悪いあなた)』(1974年)収録の「Heart Like A Wheel」、そしてSINDEE & FORESTONES名義で発表された、リーバー&ストーラー作でクリフ・リチャードがヒットさせた「Lucky Lips」(1957年)を収録している。いずれも現在CD音源で聴くのは困難な曲ばかりなのでこの機会に入手すべきだ。


 なお本作は取扱店舗が現時点では限られているため、東京都心以外に在住する読者は、鈴木のオフィシャルサイトから入手して欲しい。


●取り扱い店舗:
 パイドパイパーハウス(タワレコ渋谷7F) 
 ディスクユニオンお茶の水駅前店
 武蔵小山ペットサウンズレコード>通販あり

(テキスト:ウチタカヒデ