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(@は小文字にしてください)



-2013夜の部の総括(1)-

 2013年9月6日に開催されたトークイベント、メガネっ娘居酒屋「委員長」夜の部の総括です。あくまでも主催者の主観的な記述になりますので、ご了承ください。ちょっと分量が多くなりましたので、数回に分割します。

(1)今回の課題
 イベントを開催するに際して、実は毎回自分なりのテーマを設定して臨んでいます。今回のテーマの一つは、1980年代の眼鏡っ娘事情を明らかにすることでした。というのは、下のグラフを見ればわかるように、眼鏡っ娘勢力は1980年代に最悪の状況にあります。ここからいかに1990年以降の飛躍を迎えることになるのか、現在の頭打ち傾向を打破するためにも、その主観的・客観的情勢を明らかにしたかったからです。
 グラフは、コミケのサークルカットのイラストを全部調査し、眼鏡キャラ数をサークルカット数で割った割合をグラフ化したものです。これによれば、眼鏡っ娘の最低値は1989年夏に記録されています。この年は、ちょうど昭和が平成に替わり、ベルリンの壁が崩壊し、連続幼女誘拐殺人事件の容疑者が逮捕された年としても記憶されていますが、眼鏡っ娘的には非常に厳しい年でした。メガネ君も「G×H革命」を迎える前の低調期で、眼鏡勢力は苦しい戦いを強いられています。
 しかしここから眼鏡は勢力を挽回し、1995年には大きな飛躍を遂げることになります。ちなみに、この1995年の飛躍については、前々回の委員長で詳しく検討しました(たとえば西川魯介『屈折リーベ』の連載開始が1995年冬であることは重要な事実)。今回の委員長でも、磨伸映一郎さんの報告によって、1990年代以降の眼鏡拡大については、より具体的なイメージができるようになりました。『卒業』や『ときメモ』など、ゲームにおける眼鏡キャラの位置づけとその影響については、これからもより深く検討していく必要があるように思います。
 そして、この1995年の飛躍を支えるためには、90年代前半までに確かな土台が築かれている必要があります。89年夏が最低値であることは、逆にここが反転攻勢のタイミングだったことも示しています。今回の委員長の課題の一つは、この時期の具体的な解明にありました。そこでお呼びしたのが、中村博文さんです。
 80年代後半から90年代前半にかけて、全体的には眼鏡っ娘勢力が低調にある中でも、先見の明のあるクリエイターたちが魅力的な眼鏡っ娘を描き続けていました。森山塔さんから山本夜羽音さんに流れるラインや、同人誌『メガネの娘でなきゃやだ!』など、いくつかの重要な水脈がありましたが、もうひとつ重要なラインが中村博文さんとマンガ雑誌『ホットミルク』にあったと見ておりました。ここから平野耕太さんへも眼鏡力が広がっていくことを考えると、その位置の重要性は言うまでもないでしょう。そこでかねてから中村博文さんに話を聞く機会を窺っていたわけです。(『ホットミルク』については、深夜の部の総括で改めて記述します)。同年代の宮尾岳さんにも参加していただき、この時期の眼鏡勢力の姿がかなり具体的に明らかになった気がします。

(2)中村博文さんと少女マンガ
 中村博文さんが会場に現れた時、やたら大きな荷物を背負っているなあと不思議に思ったのですが、中に「ともこ」が入っているとは夢にも思いませんでした。いやあ、すごかった。リアルを超えていく濡れ濡れぐちょぐちょ描写にはあのような研鑽の積み重ねがあったのですね。
 それはともかく、中村博文さんの眼鏡の原点が70年代少女マンガにあったという証言には、大興奮しました。70年代の『りぼん』が眼鏡っ娘天国であったことは、別の論考で明らかにしたことがあります。『りぼん』誌上で活躍した陸奥A子・田渕由美子・太刀掛秀子の3人(私は3人の頭文字をとってMTTと呼んでいます)が眼鏡っ娘を描きまくりました。それは左のグラフに明らかです。棒グラフは、『りぼん』とその姉妹紙に登場する眼鏡っ娘主人公を1、眼鏡っ娘脇役を0.1としてカウントし、雑誌数で割って1誌あたりの登場比率を出した「眼鏡っ娘指数」で、折れ線グラフはMTTが巻頭を飾った回数です。MTTの絶頂期と眼鏡っ娘登場数がピタリと一致することが見て取れます。もちろんこの時期に「眼鏡を外して美人になってハッピーエンド」などというタワケたマンガががほとんど見られないことは言うまでもありません。中村博文さんが会場で特に名前を挙げたのは太刀掛秀子さんでしたが、後の中村さんの作風から見れば、確かに首肯できます。中村さんの美麗な花の描き方など、少女マンガからの流れと言われれば、なるほどと思えます。(まことに私事ながら、私がビジュアル的に一番好きなMTT眼鏡っ娘は、太刀掛秀子『まりの君の声が』のまりのちゃんです)。そして眼鏡も、70年代後半の少女マンガから80年代の美少女マンガへとへと伝播していったのでした。この接続について確かな証言を得たことで、私個人の眼鏡っ娘理論にとってのミッシングリンクを大発見できたのでした。興奮しました。
 残念ながら『りぼん』では1980年に入ると眼鏡っ娘勢力は大きく後退していきます。(代わりに白泉社系で目立つようになる印象はあります)。しかしその眼鏡力は、男性クリエイターへと大きく流れ込んでいきます。山本夜羽音さんも少女マンガに大きな影響を受けていることを証言していました。眼鏡っ娘不遇の80年代後半から90年代前半にかけて眼鏡っ娘を支え続けたクリエイターが少女マンガの系譜を引き継いでいることは、その後の展開を考える上でそうとう重要な事実ではないかと思います。

(3)メガネ君の拡大と眼鏡っ娘の未来
 そして興味深いことに、福田里香さんによるメガネ男子の歴史の話の中でも、MTTの一角を占める陸奥A子さんが大きく取り上げられました。特にアイビーファッションとの関係で、眼鏡がオシャレアイテムとして意識され始める際に陸奥A子さんの役割が大きかったという話です。陸奥A子さんの描く男の子は、本当にとにかくメガネ君だらけです。宇宙空間でもメガネというのは、さすがとしか言いようがありません。
 福田さんの話によれば、陸奥A子さん登場までメガネは日本人の醜い肖像画の付属物に過ぎませんでした。最初はアメリカ人が日本人を貶めるために描き始めた戦意高揚の肖像画が、日本人自らにも受け入れられていく過程は衝撃的でした。しかしそれを克服したのが、陸奥A子さんの描く大量のメガネ君だったわけです。眼鏡っ娘的にもメガネ君的にも、1970年代後半の『りぼん』の持つ意味は計り知れないと改めて思いました。
 ところでメガネ君に関してコミケのデータを見てみると、1990年代前半に大きく飛躍しているのがわかります。特に『サイバーフォーミュラ』のグーデリアン×ハイネルの影響が大きく、これを私は「G×H革命」と呼んでいます。そしてその流れを確実にしたのが『スラムダンク』の三井×木暮でした。福田さんの『スラムダンク』の話は、目の付け所が鋭くておもしろかったですね。会場では時間がなくて「三×暮」の話ができませんでしたが、改めてメガネ君に特化したイベントで詳しく検討したいところです。メガネ君は2000年に入ってからさらに大きな飛躍を遂げますが、ここでは明らかに『テニスの王子様』の手塚が大きな影響力を持ちました。これを私は「手塚ゾーン」と個人的に呼んでいます。磨伸さんがテニプリに突っ込んでいるのに笑いましたね。この時期には他に『ハリーポッター』などもあって、メガネくんは一段と勢力を拡大します。
 そして現在のメガネ君は、『ヘタリア』と『タイバニ』のために、さらなる飛躍を遂げています。メガネ君は着々と勢力を拡大しており、ますますの活躍と発展が期待されます。しかし一方で、磨伸さんの話にもあったように、『こみっくパーティ』以降の眼鏡っ娘勢力は頭打ち傾向にあります。ギャルゲーで全キャラクリアしなくなるとか、マナマナ・ショックとか、Leafの堕落とか、様々な原因が考えられますが、メガネ君の勢いと比べると残念なことです。律っちゃんが奮闘してくれたおかげで眼鏡っ娘の勢力が地に落ちるまでには至っていませんが、頭打ちの傾向は誰もが感じているとおりです。歯がゆい思いです。

(4)『境界の彼方』アニメ化
 そんな中、期待の眼鏡っ娘アニメ『境界の彼方』が2013年10月から放映開始されます。今回は、『境界の彼方』作者の鳥居なごむさんにも遠路はるばる参加していただきました。『境界の彼方』は、会場で鳥居さんが仰った作品紹介に端的に表れているのですが、「主人公以外の全員は敵と闘っているのに、主人公だけ眼鏡に理解のない世間と闘っている」という作品です。いや、さすがに的確な紹介です。これを京都アニメーションがどのように映像化するのか、楽しみでしょうがありません。鳥居さんの作品は、ネットで読める『ArchAngel/harem night』も、ものすごく眼鏡SUGEEEEEEEです。眼鏡が世界を救うのではないかというストーリーで、超おすすめです。
 他にもメガネ君では『メガネブ!』が10月から放映、さらにイベント終了後には『ベヨネッタ』アニメ化のニュースも流れ、この2013年が眼鏡っ娘の反転攻勢のチャンスなのではないかと思える流れになっています。振り返ってみれば、1995年の飛躍は、10年に渡る長い忍耐の間に貯えられたエネルギーによって実現しました。この10年間の停滞は、さらなる飛躍のためにエネルギーを貯めていたということかもしれません。『境界の彼方』放映開始がとても待ち遠しいです。
(文責:はいぼく)

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