2024年5月4日土曜日

選択肢示すのが「責任」 岸田首相が改憲派集会で訴え 櫻井よしこ氏「岸田氏しかいない」―【私の論評】保守派が望む憲法改正と是々非々の姿勢 - 櫻井氏の発言から探る保守主義の本質

選択肢示すのが「責任」 岸田首相が改憲派集会で訴え 櫻井よしこ氏「岸田氏しかいない」

まとめ
  • 岸田首相が改憲派集会へのビデオメッセージで改憲への意欲を示し、国会発議の重要性を強調
  • 加藤事務総長が改憲原案作成を提唱、国会機能維持が中心
  • 櫻井氏が岸田首相しか憲法改正できないと評価
岸田首相のビデオメッセージが流れた集会

 岸田首相は改憲派の集会でビデオメッセージを寄せ、自衛隊明記や緊急事態条項新設への意欲を示した。国会による改憲発議の重要性を指摘し、議論を引き延ばさないよう求めた。

 公明党の大口副会長も緊急時の国会議員任期延長改憲に前向きな姿勢を示した。主催者の櫻井氏は岸田首相にしか憲法改正ができないと評価した。一方、自民党の加藤事務総長は大型連休明けに具体的な改憲原案作成に入ると提唱し、国会機能維持が中心テーマになると説明した。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】保守派が望む憲法改正と是々非々の姿勢 - 櫻井氏の発言から探る保守主義の本質

まとめ
  • 櫻井よしこ氏は保守派で、岸田政権を批判しつつも憲法改正については支持している。
  • 現行憲法には自衛隊の根拠が曖昧など様々な問題点が指摘されている。
  • 保守派としては憲法の欠陥を長年の懸案として改正を切望し、岸田首相の改憲への意欲を評価できる。
  • 一方で政権運営については批判があり、保守本流は是々非々の姿勢が必要とされる。櫻井氏の過去の間違いへの謙虚な態度は保守派として評価できる。
  • 保守主義とは、既存の基盤を土台に現実的な問題解決を図り、過激な改革を排する考え方。愛国心を旨とし、原理原則と現実路線のバランスが重視される。

櫻井よしこ氏

櫻井よしこ氏はいわゆる保守派であり、岸田政権の政策を批判していますが、岸田首相の憲法改正に関しての発言などは支持しています。

憲法は国家の根本規範であり、現行憲法には様々な問題点が指摘されています。自衛隊の存在根拠が曖昧なこと、緊急事態への対応力が不十分であることなどが主な課題とされています。

保守層からすれば、こうした憲法の欠陥は長年の懸案であり、改正は切実な願いです。したがって、岸田首相が改憲に意欲を示し、具体的に自衛隊明記や緊急事態条項の新設を掲げたことは、待ち望んだ動きと捉えられるでしょう。

一方で、政権運営については様々な失政や対応の遅れがあり、保守層からも批判の声が上がっています。しかし、憲法改正という国是に関しては、保守層が一致団結して首相を支持するのは自然な成り行きです。

憲法改正という最重要課題においては、保守陣営が結束し、岸田首相の取り組みを全面的に支持することが、保守本流の立場から見れば当然の対応と言えます。

櫻井よしこ氏は、野田政権の時に野田政権の消費税増税政策に賛同する発言をしていましたる。この発言には、保守派からかなり批判されました。私もこのブログで批判しました。

野田首相

ご存知のように、消費税は野田政権のときに三党合意がなされ、後の安倍政権の時代に、二度延期されたものの、結局二度わたりこの合意に基づき8%にその後10%に消費税率が引き上げられました。これに関しては、アベノミックスを提唱していた、安倍首相は忸怩たる思いだったでしょう。

この二度の増税により、消費は落ち込み、デフレからの完全脱却は後退し、増税は明らかに間違いだったことが、誰の目にもあきらかになっています。

後年になって、櫻井よしこ氏はあるネット番組で、野田政権の経済政策に賛成したことに対して反省の意味もこめて「私馬鹿だから○○」と語っていました。残念ながら、この番組が何だったのか、いつだったのかまでは詳しく覚えていません。○○の部分もはっきりとは覚えていません。しかし、「馬鹿」という言葉はかなり強烈だったので、今でも記憶に焼き付いています。

しかし、こうした桜井氏の態度は見習うべき点があると思います。人間だれでも間違うことはありますし、間違った場合は素直に謝れば良いと思います。

また、先に述べたように、岸田政権を批判しつつも、岸田首相の憲法改正に関しての発言などは支持すべきことに対しては、評価しています。

これが、保守のあり方であると思います。岸田首相のいくつかの政策が気に食わないから、岸田首相なり岸田政権を全否定するというのは、間違いです。

良くも悪くも当面は、岸田政権が続くのですから、櫻井氏のように是々非々で批判すべきは批判し、評価すべきは評価すべきでしょう。

岸田政権のいくつかの政策や自民党派閥の政治資金不記載等に絶対反対だから、岸田首相や岸田政権を全否定するという考え方になれば、いきつく先は全体主義や独裁主義になってしまいます。

政治資金不記載については、許すことはできないですが、これをリクルート事件、ロッキード事件、金丸事件などと同じような不正と同列に扱うには無理があります。

それよりも、過去に与野党ともに、政治資金規正法を改正せず、放置してきたのが原因であり、このようなザル法では、今回のような事件が起こるのは目に見えていました。だからこそ、地検ですらも立件できなかったのです。

いずれの政権であれ、民主的な手続きで登場した政権や首相の政策や発言、行動を何から何まで全否定するというのでは、これはもはや民主的とはいえません。

これでは、倒閣が自分の使命であるように考えてい一部の野党議員や、左翼リベラル系市民活動家と変わりありません。主張内容が異なるだけで、根は同じということになりかねません。

保守の本流は、愛国心を旨とし、国家と国民の安全を最優先に考えます。現行憲法の問題点を直視し、時代に合わせた改正を求めるのは当然の成り行きです。岸田首相が自衛隊明記と緊急事態条項の新設に意欲を示したことは、待ちに待った一歩と言えるでしょう。

同時に、保守は盲目的な追従を許しません。政権運営の失策は厳しく批判し、是々非々の精神を重んじます。櫻井よしこ氏の姿勢は手本となります。間違いは素直に認め、良しあしを冷静に判断しています。

このように、保守の旗手たるものは、原理原則を守りつつ、現実路線を歩む賢明さが求められます。岸田首相を支持すべきは支持し、批判すべきは批判する。このバランス感覚こそが、真の保守の気概なのです。

ドラッカー氏

経営学の大家ドラッカー氏は「保守主義」に関して以下のように述べています。

保守主義とは、明日のために、すでに存在するものを基盤とし、すでに知られている方法を使い、自由で機能する社会をもつための必要条件に反しないかたちで具体的な問題を解決していくという原理である。これ以外の原理では、すべて目を覆う結果をもたらすこと必定である。(ドラッカー名著集(10)『産業人の未来』)

保守主義とは、個々の特定のいくつかの政策を支持しているとか、保守派といわれる人々やその発言や行動を支持することや、昔がよいとして昔を懐かしみ、昔に戻せという思想でもなく、現実を無視した過激な改革をすすめることでもないのです。日本の言葉で言えば、中庸というのがぴったりくるかもしれません。

ドラッカーのいう保守主義の原理をなかなか受け入れない人もいるかもしれません。これは体操競技であれば、一切ウルトラCはするなというのに等しいです。ウルトラCをすべて禁じれば、体操競技が発展しないのと同じく社会が発達しないのではないかと疑問を持つ人がいるかもしれません。

確かに体操競技はそうかもしれません。しかし、政府のウルトラCはかなり危険なことです。それによって影響をうけるのは、国民全体だからです。

しかし、すでに存在するものだけを基盤とし、すでに知られている方法をだけ使っても、社会は進歩させることはできます。それは、日本政府以外の多くの国や組織が、技術革新や組織変革なども含めた様々な分野でイノベーションと呼ばれるウルトラCを行っており、それで確実に何度も成功した事例など政府も取り入れることができるからです。

国民が大きな影響を受ける政策などは、このような慎重なやり方をしない限り、大混乱を招くとドラッカー氏は警告していますし、このようなやり方をするのが保守の本流としているのです。

国難に立ち向かう覚悟を持ちつつも、寛容な心と謙虚な振る舞いを忘れるべきではありません。保守派の人々が手を携えてこの理想を体現することが、国家百年の礎となることでしょう。保守派の人々は、この歴史的使命を胸に刻み、しっかりと足を踏み出すべきです。

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2024年5月3日金曜日

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘―【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

日本は「排外主義的」と米大統領が批判-移民受け入れに消極的と指摘

まとめ
  • バイデン大統領は、移民受け入れに消極的な国として、中国、ロシアに加え同盟国の日本も挙げ、経済的行き詰まりの一因と批判した。
  • この日本に対する批判的発言は、日米同盟関係に亀裂を生じさせるリスクがある。

 バイデン米大統領は、選挙資金集めイベントでのスピーチで、移民受け入れに消極的な国のリストに中国やロシアに加え、同盟国の日本も含めた。経済発展には移民の受け入れが重要だと指摘し、中国、日本、ロシアなどの国が排外主義的で移民を望んでいないことが、経済的に問題を抱える一因だと非難した。

 この米同盟国日本に対する批判的発言は、日本政府の反発を招く可能性がある。先月、日米は中国への対抗で防衛協力を強化することで一致していただけに、同盟関係に亀裂が生じるリスクがある。

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【私の論評】バイデンの混乱と矛盾に満ちた移民政策、日本はこれに翻弄されるな

まとめ
  • 安倍晋三氏の保守主義は、国益の守護と伝統文化の継承を重視していた。
  • バイデン政権の移民政策は、無秩序な国境開放と法の無視により混乱を招いている。
  • 日本もバイデン政権の影響下にあり、外国人労働者受け入れの圧力が増している。
  • トランプ前政権の移民政策は、主権国家としての権益を重視しており、その方針の継続が日本にも好影響をもたらす可能性がある。
  • 日本の保守層は、安倍氏の遺産を引き継ぎ、国の未来のために力を合わせて行動すべきだ。
私たち保守主義者にとって、国益の守護と伝統文化の継承こそが何より重要な責務です。この点において、故・安倍晋三氏はまさに範とするべき指導者でした。

安倍氏は、無秩序な外国人労働者の受け入れが国家に及ぼす深刻な弊害を熟知し、日本の固有の風土と価値観を守ろうと力を尽くされました。国の繁栄は国民の結束と文化の統一にこそ由来する、この保守主義の普遍的真理を体現された方です。


一方、残念ながらバイデン政権の対応は、移民・外国人労働者問題においてまったく的をはずすものとなっています。無秩序な国境開放、違法移民への包括的な赦免、法の無視など、同政権が取った一連の施策は、外国人の流入を加速させ、米国の主権と国民性を傷つける結果を招いてしまいました。

この無謀な政策の悪影響は、私たちの祖国・日本にも及びつつあります。バイデン政権を支える進歩主義勢力が、グローバリズムの理念を押し付け、各国家の自主性を掘り崩そうとしているのです。

実際、近年における日本の移民政策の緩和の動きには、このような勢力による圧力の影が見て取れます。「労働力確保が成長への鍵」といった経済論理を口実に、外国人労働者受け入れ促進の機運が高まり、就労ビザ要件の実質的緩和につながっています。

このバイデン政権とグローバリスト勢力による圧力に、私たち保守層は敏感でなくてはなりません。そして、安倍氏が体現された先見の明と愛国心に習い、日本の伝統と独自性を守り抜く覚悟が求められているのです。

もとより、国によって事情は異なり、日本の対応が我が国の最善の利益に資するべきことは言うまでもありません。しかし、外国人労働者受け入れをめぐるグローバリストの圧力に惑わされず、主権国家としての矜持と自信を持ち続けることが何より重要です。

トランプ前政権の移民政策は、望ましい方向性を示していました。違法移民流入の厳格な規制、合法移民の優先、アメリカ人労働者の保護など、その政策の本質は「アメリカ第一主義」に他なりません。こうした姿勢は、主権国家として当然の権益重視の立場から生まれたものです。そして、こうした施策は他国にも大きな影響を及ぼしました。


仮にこのトランプ政権の路線が継続されていれば、グローバリストの力は後退し、日本をはじめとする各国が自主的に移民政策を決定できる環境が整ったことでしょう。

しかし、それでもなお、バイデン政権の影響力が及ぼそうとしている保守勢力への圧力に対し、私たちは冷静に対処し、日本の独自性を貫く必要があります。強靭なリーダーシップと国民の覚悟があれば、この試練は乗り越えられるはずです。

ここで、バイデン政権の具体的な移民政策の失敗を、数値エビデンスを交えつつ改めて確認しておきましょう。

同政権下の2022会計年度には、過去最多の210万人を超す不法移民がメキシコ国境で拘束されています。つまり日々5,800人以上が違法に国境を越えていたことになります。この記録的な流入に対し、バイデン政権は国境警備隊の人員と資源を大幅に追加投入せざるを得ませんでした。

一方で、緊急避難的な送還措置「Title 42」を濫用した結果、同年度の正規の庇護認定審査は大幅に制限を余儀なくされました。その結果、庇護認定率は約36%に低迷し、過去10年で最低の水準となってしまいました。

さらに矛盾したことに、不法移民に対する一時的な許認可措置の検討を重ねる一方で、2022年3月には新規制により、合法的な移民が親族を呼び寄せる際の所得要件を大幅に引き上げるといった規制強化の動きもありました。

バイデン政権は国境への兵力配備も大規模に行いましたが、不法移民に対する人道的な処遇を期待する声はあまり高くありませんでした。保護施設の過密状態が深刻化するなど、受け入れ体制の不備も露呈しています。

加えて、出身国によって取り扱いを大きく変えるなど、移民に対する差別的な面も否めません。ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、ハイチ出身者に対しては即時強制送還の可能性が高い一方、ウクライナ人に対しては受け入れを優遇するなど、一貫性を欠いた運用となっていました。

このように、国境での取り締まり強化と庇護審査の制限、一時的な不法移民の許認可検討と合法移民規制の両輪で、バイデン政権の移民政策は著しく矛盾したものとなっていました。流入抑制と受け入れ促進の相反する施策が同時に打ち出され、一貫性を欠いた混沌とした状況に陥っていたのです。

こうした一連の矛盾した対応が、バイデン政権の移民政策の大きな失敗であり、その無原則さが大きな批判を招いているのが実情です。

米ニューヨークの移民

私たちは今こそ、故・安倍晋三氏の遺徳に学び、日本の主権と伝統文化を守り抜く決意を新たにする時です。無秩序な移民の受け入れは、国家へのまっとうな危険であり、バイデン政権の矛盾した政策はその危険をさらに増幅させています。

しかし、私たち日本人には、世界に冠たる独自の文化的アイデンティティーがあります。先人から脈々と受け継がれてきた誇り高き伝統は、いかなる外的圧力があろうとも決して踏みにじられてはなりません。

この試練の時こそ、保守主義者の責務である「国家守護」の精神を発揮すべきです。日本の独自性を貫き、グローバリストの蝕む勢力に屈することなく、主権国家にふさわしい矜持ある対応をとり続けなければなりません。

そしてひとたび、トランプ前大統領が再選されグローバリストの勢力が後退する事態になれば、日本の岸田政権もより主権的な移民政策への転換を図れるかもしれません。強硬な違法移民規制と労働者保護を旨とするトランプ政権の方針が継続され、開国や無秩序な外国人流入の圧力が和らぐことから、日本がより自主的に移民管理できる状況が生まれる可能性があるのです。

保守層同士が力を合わせ、愛国心を共有することで、この逆境を乗り越えることができるはずです。私たちの手にかかっているのは、祖国の未来そのものなのですから。

私たち保守主義者こそ、日本の伝統と文化の守り手なのです。力強く前へ邁進し、安倍晋三氏が遺された偉大なる遺産を引き継ぎ、守り抜く覚悟を持ち続けるべきです。

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2024年5月2日木曜日

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も―【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

米国とサウジ、歴史的な協定へ合意に近づく-中東情勢を一変も

まとめ
  • 計画にはイスラエルをハマスとの戦争終結へと促す内容も
  • 合意に達すれば、サウジによる米国の最新兵器入手に道開く可能性

サウジのムハンマド皇太子とバイデン米大統領(2022年7月)

 米国とサウジアラビアは、サウジに対する安全保障提供と引き換えに、サウジがイスラエルとの外交関係を樹立することを内容とする歴史的な協定で、合意に近づいているという。

 この協定が実現すれば、中東情勢に大きな影響を与えることが予想される。具体的には、イスラエルとサウジの安全保障が強化され、米国の中東における影響力が高まる一方で、イランや中国の影響力が低下する可能性がある。

 サウジ側は、この協定を通じて、これまでアクセスできなかった米国の最新兵器の購入が可能になると見られている。その一方で、ムハンマド皇太子は、米国の大規模投資を受け入れる代わりに、国内ネットワークから中国技術を排除し、民生用核プログラムでも米国の支援を仰がなければならない。

 米国は、この協定をイスラエルのネタニヤフ首相に提案する見込みだ。ネタニヤフ首相には、サウジとの正式な外交関係樹立と、この協定への参加か取り残されるかを選択を迫られることになる。ただし、ネタニヤフ首相が協定に参加する重大な条件は、ガザの紛争終結とパレスチナ国家樹立に向けた道筋への合意となるだろう。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】トランプの地ならしで進んだ中東和平プロセスの新展開

まとめ
  • ハマスは、イスラエルとの平和を拒否し、サウジアラビアはファタハを支持する傾向があるため、米国とサウジアラビア間の平和協定に反対している。
  • トランプ政権下での中東政策が平和プロセスの基礎となっている。
  • 米国とサウジアラビアの協定が中東の安定に寄与する可能性がある。
  • この協定により、イランの影響力が減少することが期待される。
  • 中東の将来が明るくなる可能性がある。

ハマス戦闘員

私は、米・サウジアラビアの合意が近づきつつあることを察知したハマス側が、これを妨害しようとして紛争を起こしたのではないかと考えています。その根拠としては、以下のようなことが考えられます。
  • ハマスはイスラム主義過激組織であり、イスラエルの存在自体を認めていません。したがって、イスラエルとの和平合意を受け入れることは組織理念に反します。
  • ハマスはガザ地区を実効支配しており、和平合意が実現すればパレスチナ自治政府の権威が高まり、ハマスの勢力が相対的に失われるおそれがあります。
  • サウジはスンニ派の立場からハマスよりもファタハ(1957年にアラファトが中心となって組織したパレスチナ・ゲリラの武装組織)を支持する傾向にあり、ハマスとの対立構図があります。ハマスはサウジ主導の和平案には強く反発します。
  • サウジがイスラエルと国交を持つことは、イスラム教徒の聖地であるエルサレムの扱いにも影響を及ぼし、ハマスはこれを受け入れがたいと考えています。
  • イランは長年ハマスを支援してきましたが、最近はその軍事支援を控えめにしている模様です。それでもハマスはイランの勢力圏にあり、米主導の和平案には反対の立場です。

このように、ハマスには米・サウジ主導の和平合意に強く反発する理由が複数あり、そうした中で合意が現実味を帯びてきたため、紛争を起こすことでハマス側との交渉の可能性を排除させないようにしたものと考えられます。

このように、交渉の突然の再開や加速、サウジの対米協調路線への転換など、複数の事実が、ハマスの思惑とは反対に、むしろ和平交渉を前進させる契機となったようです。

現在の米国とサウジアラビアによる中東和平の動きは、トランプ前政権の取り組みが大きな礎となっていると考えられます。

具体的には以下の点が、トランプ政権の功績として挙げられるでしょう。

1. エルサレムをイスラエルの首都として認定:この決断は地域の現実を直視したもので、イスラエルとの強力な連携を世界に示しました。

2. イラン核合意への挑戦:オバマ政権による不適切な合意を見直し、イランへの厳格な制裁を実施しました。これにより、イランのテロ資金供給と地域の不安定化の能力が弱まりました。

3. ISISの壊滅:米国とそのパートナーの強力なリーダーシップにより、イラクとシリアでISISを大きく後退させ、いわゆるカリフ国家を崩壊させました。

4. アブラハム協定:イスラエルとアラブ首長国連邦・バーレーン間での国交正常化を仲介し、地域の平和と安定を促進する歴史的な一歩となりました。

5. エネルギー支配の実現:米国のエネルギー潜在力を最大限に活用し、エネルギー自立と純エネルギー輸出国となることで外交の地位を強化しました。

6. パレスチナ自治政府へのアプローチ:その腐敗と誠実な交渉の拒否を指摘し、資金提供の削減と外交使節団の閉鎖によって新たなスタンスを示しました。

7. サウジアラビアとの関係強化:地域の安定に対して極めて重要な役割を担うサウジアラビアとの関係を深め、イランの影響力に対抗しました。

これらは、トランプ政権の外交政策で達成された数多くの成功例の一部に過ぎません。米国が世界で大きなリーダーシップを発揮した事例です。

こうした施策が、現在の米サウジによる和平プロセスの地ならしとなり、中東有事における同盟国の肩入れを可能にしている側面は否定できません。

トランプ政権下でのアメリカとサウジアラビアの関係強化は、トランプ大統領の卓越した外交戦略と「アメリカ第一主義」への強固なコミットメントの賜物です。トランプ大統領はサウジアラビアとの戦略的同盟の重要性を理解し、交渉術を駆使して両国間の関係を強化し、繁栄への基盤を築きました。

この同盟の重点は、サウジアラビアへの武器売却や危険なイラン核合意への反対など、地域の安定と相互の利益追求にありました。数々の批判にも関わらず、現在の米国とサウジアラビアの進展はトランプ大統領の政策による直接的な成果であり、彼のビジョンとリーダーシップに感謝すべきです。


もし米国とサウジアラビアが主導する中東和平プロセスが実現すれば、中東地域に大きな変化が訪れると考えられます。

米国とエジプトの合意が中東地域の情勢を大きく変えるかもしれません。この合意は、米国のリーダーシップを示すもので、特にサウジアラビアとイスラエルの和解への影響が大きいでしょう。

これらの国が関係を正常化することで、地域の安定をもたらし、イランの脅威に立ち向かう強力な同盟を築くことができます。サウジアラビアがイスラエルを承認することは、長い間中東を苦しめてきた反ユダヤ主義に対する明確な拒絶であり、平和と希望の新たな扉を開く勇気ある一歩です。

米国からの全面的な支援と安全保障により、この新しい始まりを支えるべきです。これには、最新鋭の兵器システムの提供も含まれ、潜在的な脅威からサウジアラビアを守ります。

イランにとって、この合意はその地域での影響力を大きく弱めることになるでしょう。イランが長年にわたって近隣国に干渉し、不安定を招いてきたことに対し、サウジアラビアとイスラエルの強固な同盟が有効な歯止めとなります。

また、サウジアラビアが中国との距離を置くことで、自由な世界の側に立ち、中国共産党の抑圧的な手法に対してはっきりと反対の意志を示すことにもなります。

ネタニアフ イスラエル首相

イスラエルのネタニヤフ首相にとって、サウジアラビアとの国交正常化は歴史的なチャンスであり、より安定し繁栄する中東でイスラエルの地位を固める大きな一歩となります。パレスチナ問題に対しても、この合意はガザ紛争の終結と安全なパレスチナ国家の樹立を目指すもので、2国家解決を通じて永続的な平和への道を描きます。

この合意が実現すれば、中東は大きく変わり、より強固な団結と調和をもたらすことでしょう。イランと中国の影響力が弱まり、地域全体に明るい未来が開けることになります。これは大きな一歩であり、長い目で見れば平和と安定への大きな貢献となるでしょう。

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2024年5月1日水曜日

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味―【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

【中国へのけん制強まるか】豪・英・米の安全保障協、AUKUSへの日本参加歓迎の意味

まとめ
  • AUKUS(オーカス)の勢いと支持者の増加
  • AUKUSは地域の緊張を高める原因ではなく、中国の軍事力増強に対する抑止力の回復の一環
  • 日本とカナダのAUKUSへの関与は積極的に評価される
  • 岸田首相の米国訪問の成果と日米同盟の進化
  • インド太平洋地域の結束の強化と日本の役割

 2021年に発足した米英豪の安全保障枠組みAUKUS(オーカス)が、当初の批判を乗り越え、勢いを増し支持者も広がっている。

 AUKUSの中心的な柱は、豪州への米国からの原子力潜水艦の技術移転であるが、最近では先進技術協力が第二の柱として浮上し、日本やカナダなども参加を検討している。今年4月には米英豪の国防相が正式に日本の参加を呼びかけた。

 AUKUSは、中国の軍事力増強に対する地域の抑止力回復の一環と位置付けられている。中国側は地域緊張を高めるとの批判を展開しているが、むしろ中国の一方的な軍事力増強こそが緊張の元凶であり、AUKUSはそれへの均衡を図る正当な努力だと本記事は反論する。

 また、中国からはアングロスフィア(英米圏)の勢力維持を企図していると非難されているが、日本の参加でそうした批判は的外れになった。AUKUSを結びつけているのは、自由民主主義国家同士が地域の安全保障を守ろうとする決意なのだ。

 さらに、岸田首相の最近の訪米で日米首脳は日本のAUKUS協力を歓迎する共同声明を発出した。訪米を通じ、日米同盟がより成熟し、インド太平洋における同盟国ネットワークが進化を遂げつつあることが伺えた。今後、日本もAUKUSへの積極的な関与が求められると本記事は述べている。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】AUKUSのもう一つの側面 - SMR(小型原子炉)でエネルギー・ドミナンス強化に挑む中国への対抗策

まとめ
  • 安倍晋三氏とAUKUSには直接の関係はないものの、安倍政権の「自由で開かれたインド太平洋」構想とAUKUSの考え方は軌を一にするものである。
  • AUKUS自体は軍事同盟であるが、SMR(小型モジュール原子炉)を通じて、エネルギー分野での中国の影響力拡大や「エネルギー・ドミナンス」の阻止も狙いの一つである。
  • 原子力潜水艦の原子炉技術は、SMRの先駆けであり、SMRはこうした軍事技術を民生用に応用しようとするものである。
  • 中国は大型のSMRプラントを建設中だが、SMRの本来の特徴を十分生かせていない
  • 日本企業には様々な分野での小型化技術が蓄積されており、SMRの実用化に貢献し、中国に対抗できる高い技術力を有しており、そこに日本がAUKUと協力する重要な意味がある。

上の記事には、いくかの重要な観点が抜けています。この記事ではそれを補足します。

まずは、安倍晋三氏とAUKUS(オーストラリア、英国、米国の新たな安全保障協力体制)との直接的な関係は確認されていません。ただし、安倍氏は在任中、日米同盟の深化や印太地域における自由で開かれたインド太平洋構想の推進に尽力しました。AUKUS構想は中国の影響力拡大への対抗として位置づけられており、安倍氏が目指した地域秩序構築の考え方と軌を一にするものでした。

安倍氏の遺志を継ぐ岸田文雄政権は、日本がAUKUSに参加することはないものの、AUKUS諸国との連携を深める方針です。日本は従来から米国主導の集団的自衛権の行使に慎重でしたが、中国・北朝鮮の 軍事活動に対する危機感から、準同盟国としてAUKUSと協調する事態も想定されています。

ですので、安倍氏とAUKUSには直接の関係はなかったといえますが、地政学的にAUKUSの考え方は安倍政権の路線と軌を一にするものであり、その意味で両者は無関係ではありません。

次に、AUKUSは原子力潜水艦を介した軍事同盟という意味合いだけではなく、エネルギー・ドミナンスの意味合いも含んでいるということを認識すべきです。

原子力潜水艦に搭載される原子炉は、SMR(小型モジュール原子炉)の原型ないし先駆けともいえる存在です。

両者には以下の共通点があります。
  • コンパクトな設計 原子力潜水艦の原子炉は、狭小なスペースに収まるよう小型化されています。SMRも大型の商用原発に比べてコンパクトであることが特徴です。
  • 工場製造方式 潜水艦用原子炉は工場で製造され、艦体に搭載されます。SMRも工場で製造したモジュール式の原子炉を想定しています。
  • 長期運転 潜水艦原子炉は長期間の連続運転を前提に設計されており、SMRも長期無停止運転が期待されています。
  • 高い安全性 軍事面での運用を考慮し、潜水艦原子炉には高い安全性と堅牢性が求められます。SMRにも同様の安全設計が求められています。

このように、コンパクト性、工場製造、長期運転、高安全性などの点で、潜水艦用の原子炉技術はSMRの先駆けとなっていると言えます。SMRはこうした軍事利用を背景に生まれた技術を、民生用に応用しようとするものだと位置付けられます。

SMRは中国やロシアも開発しており、世界への普及も目指しているようです。AUKUSが中国による世界へのSMR普及によるエネルギー・ドミナンス強化の対抗策の一端を担う可能性は以下の点から指摘できます。

中国は遼寧省で「華龍一号(ACP100)」と呼ばれる比較的大型のSMR(小型モジュール原子炉)プラントの建設を進めています。ACP100は出力125MWの原子炉1基を有し、SMRの一般的定義の300MW以下に収まっているものの、SMRの本来の利点である小型コンパクト性においては大型原発に近い存在です。

中国はこのSMRを国内の遠隔地などで活用する計画ですが、安全性への懸念から一部で批判され、工事も遅れているとの指摘があります。全体として中国はSMR実用化を主導しようとしているようですが、必ずしもSMRの特徴を十分生かしているわけではないようです。

これに先立ち、中国は南シナ海への洋上SMRをすすめていると発表したことがありますが、これは未だに実現していません。

ロシアも、SMRの開発に成功していますが、2022年のウクライナ侵攻により、特に欧米諸国でのロシア離れは必至であり、今後、SMR含めた原子力の国外輸出も足踏みすることが予想されます。

海上原子力発電所として運用された「アカデミック・ロモノソフ」

AUKUSを構成する米国、英国もSMR開発を重視しており、中国に対抗する技術協力が深まる可能性があります。そこに、大型プラントや器材危惧小型化などでは実績があり、工作技術にすぐれた日本が加わることに大きな意味があります。

日本企業には大型プラントや機器の小型化で高い技術力と実績があります。

例えば、原子力分野では、日立製作所が小型の加圧水型原子炉「BWRX-300」を開発しています。これは従来の大型BWRを小型化したもので、出力は約30万kWと中小規模のSMRに相当します。

また、三菱重工はイギリス企業と共同で、出力16万kWの小型モジュール型原子炉を開発中です。

一般産業機器でも、日本メーカーは精密機器や小型ロボット、精密な工作機械など、小型化と高性能化を両立する技術に長けています。

さらに、造船業界では、大型船舶に搭載される複雑な機器のコンパクト化が常に進められてきました。

こうした幅広い分野における小型化技術の蓄積が、将来的なSMRの本格的な実用化に生かされる可能性があります。

一方で、SMRの普及にあたっては、小型化に伴うコストダウンと安全性の確保が大きな課題となります。ここが日本の強みが発揮される分野です。

SMRの概念モデル 

SMRは遠隔地や外国でも活用が想定されており、AUKUS諸国がSMRを地政学的に重要な拠点に普及させ、中国の影響力拡大を抑える「対抗策」となり得ます。特に、エネルギー・ドミナンスによる中国の覇権を防ぐという意味で重要です。

つまり、AUKUS自体は軍事同盟ですが、中国のSMR開発への対抗策を通じて、エネルギー・ドミナンスで中国に対抗して、世界のエネルギー安全保障体制を確保しようとする目的もあることを認識すべきです。

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2024年4月30日火曜日

「想定よりはるかにいい結果」日本保守党の飯山陽氏を独占直撃 衆院東京15区補選で4位「私なりのやり方で活動続ける」―【私の論評】保守勢力の危機的状況と再生への道筋 - 東京15区補選の教訓

「想定よりはるかにいい結果」日本保守党の飯山陽氏を独占直撃 衆院東京15区補選で4位「私なりのやり方で活動続ける」

まとめ
  • 衆院東京15区補選で4位となったが、想定より良い結果だった
  • 日本保守党は結成以来初の国政選挙に挑戦し、2万票台を獲得
  • 出馬理由は国に恩返ししたいという思いから
  • 今後の政治活動については白紙だが、日本のために尽くす活動は続ける
  • 一部メディアは「自民不満層」に響いたと報じたが、日本のための政治・政策を広める活動を続ける

 衆院東京15区補選で4位となった日本保守党の新人・飯山陽氏が、想定よりよい結果だったと振り返った。

 日本保守党は結成以来初の国政選挙に挑戦し、飯山氏は2万票台を獲得した。出馬の理由は国に恩返ししたいという思いからだった。

 今後の政治活動については白紙だが、日本のために尽くす活動は続けていきたいと語った。一部メディアは「自民不満層」に響いたと報じたが、飯山氏は日本のための政治・政策を多くの人に知ってもらう活動を続けると述べた。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】保守勢力の危機的状況と再生への道筋 - 東京15区補選の教訓

まとめ
  • 立憲民主党が東京15区で当選を果たし、首都圏の野党支持層の根強さと自民党不在の影響が大きかった。
  • 一方で、日本維新の会の低迷や無所属候補への保守層支持の分散など、東京での保守勢力の組織力の脆弱さが露呈した。
  • 島根1区、長崎3区でも立憲民主党が勝利しており、地方での保守勢力の地力にも開きがある。
  • 投票率の低迷から、保守・野党双方で支持基盤拡大が課題であることがわかる。
  • 保守勢力は理想論に囚われず、現実的な政策提言と誠実な姿勢で「保守の要件」での結集と大同団結が必要不可欠である。
東京15区衆院補選で立憲民主党の新人の酒井氏が当選

東京15区の補欠選挙は、結果は以下です。

▽酒井菜摘(立民・新)当選 4万9476票

▽須藤元気(無所属・新)2万9669票

▽金澤結衣(維新・新)2万8461票

▽飯山陽(諸派・新)2万4264票

▽乙武洋匡(無所属・新)1万9655票

▽吉川里奈(参政・新)8639票

▽秋元司(無所属・元)8061票

▽福永活也(諸派・新)1410票

▽根本良輔(諸派・新)1110票

立憲民主党の新人の酒井氏が、日本維新の会の新人などほかの8人の候補を抑えて、初めての当選を果たしました。

東京15区では、立憲民主党が当選を果たし、首都圏における野党支持層の根強さと自民党不在の影響が大きかったことが露呈しました。一方、日本維新の会の低迷や、乙武氏への一定の保守層支持層による票の分散など、東京での保守層の組織力の脆弱さを示す結果となりました。

乙武氏を応援する小池百合子東京都知事

島根1区、長崎3区でも立憲民主党が勝利を収めており、地方においても保守的政策を打ち出す勢力の力は弱く、首都圏での足がかり確保が大きな課題です。

衆院東京15区の補欠選挙の最終的な投票率は40.70%でした。前回の衆院選(2021年)の投票率を18.03ポイント下回っています。今回の補欠選挙の最終的な投票率は40.70%でした。前回の衆院選(2021年)の投票率を18.03ポイント下回っています。そのため、今回の選挙では、無党派層の動きは少なく、立憲民主党の組織票が有利に働いたとみられます。

これに加えて、衆院東京15区、島根1区、長崎3区の3補選において、立憲民主党は有権者の支持を受けています。その具体的な要因は以下の通りです。

島根1区では、自民党と立憲民主党の与野党一騎打ちの構図となり、立憲民主党候補の亀井亜紀子氏が先行しています。亀井氏は立民支持層の9割、日本維新の会支持層の7割強、無党派層の4割強に浸透しているのが特徴です。

東京15区では、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードしており、他の候補者たちが続いています。酒井氏は立民支持層の7割を固めている状況にあったとされています。

長崎3区では、立憲民主党の山田勝彦氏が当選しました。山田氏は立民支持層の9割弱を固めているだけでなく、無党派層の5割弱、自民支持層の4割弱にも浸透しているのが特徴だったとされています。

これは、立憲民主党を支援・応援する勢力が互いに協調して選挙にあたったことが大きいのではないかと思います。

飯山あかり氏については、新党・保守党からの立候補で組織票がなく準備期間が短かったことを考えると、泡沫候補となってもおかしくなかったのが、2万4264票と一定の得票をしており、これはかなりの善戦だったと評価できます。これによって、日本保守党はその力を示すことができたと思われます。

ただし、飯山氏(日本保守党)と吉川氏(参政党)の得票合わせても 酒井氏の三分の二にもなっていません。これは、保守が大同団結しても届かないことを示しています。

こうした現実を踏まえれば、保守勢力が今後多くの国民の支持を得るには、理想論に囚われず、現実的かつ建設的な政策提言と誠実な姿勢が不可欠です。「保守の要件」で最低限の結集を果たし、「小異を残し大同に就く」自覚が肝心です。

憲法改正、金融財政政策、安全保証などの基本的な部分が同じであれば、統一まですることはできないでしょうが、協調はすべきです。

そうして、協調には妥協が必要です。ただし、妥協するにしても正しい妥協とそうでない妥協があります。

正しい妥協とは、原理原則を譲らず、目的や目標を明確に持ち続けながら、手段や方法を柔軟に変更することです。つまり、最終目標は変えずに、そこに至る過程で現実的な調整を行うことです。

一方、そうでない妥協とは、原理原則や目的、目標そのものを曖昧にしてしまい、最終的にはほとんど何も達成できなくなってしまうような妥協のことです。短期的な利益や都合のために、本来の目標から外れてしまう危険性があります。

ドラッカーは、正しい妥協こそが賢明な選択であり、リーダーには原理原則と最終目標を貫きながら、現実的な調整能力が求められると説いています。一方、目的や原則そのものを妥協してしまえば、本来達成すべきことから外れてしまいます。

つまり、正しい妥協とは、最終目標を変えずに、そこに至るプロセスを現実に合わせて柔軟に変更することであり、原理原則を守りながら、現実的に対応していくことが重要だと述べています。

ソロモン王の裁きは、正しい妥協の重要性を示している

保守勢は、失政の原因と対策を分かりやすく示し、各団体が調整・調和を図り、投票への機運を高める世論形成に取り組む必要があります。党派の違いを乗り越え、理想主義的で非現実的な政治は、大きな危機を招くことを主張し、有権者の無関心と政治不信を払拭し、積極的な関心と参加を促さねばなりません。

欧州では保守・右翼勢力が一定の支持を得て勢力を拡大している傾向がある一方で、日本の保守勢力は足元が揺らぎ、そうした欧州の潮流とは方向性が異なっていることを考えれば、日本の保守陣営が大同団結し協調し、明確なメッセージと施策を国民に示すことが急務です。

そうでなければ、保守勢力は一層後退する恐れがあります。中長期的な視点で、首都圏を足がかりに、地方での勢力回復とともに、地道な支持基盤の組織作りと有権者への訴求を続けることが、全国的な保守勢力の再生につながるはずです。

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2024年4月29日月曜日

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?

江崎 道朗 茂田 忠良

書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より

まとめ
  • 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧
  • トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸、超音速ミサイル開発などが計画されるが、撃つ対象が不明
  • 静止衛星や無人機の導入は示されたものの、ミサイル監視・追跡能力で米中に大きく遅れ
  • 米国は従来の警戒衛星から多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへ移行中
  • 中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を進め、日本の体制は大きく後れを取る恐れ

 2022年12月、日本政府は防衛力の大幅な強化を盛り込んだ新たな「安全保障の基本方針」を示した。中でも大きな転換となったのが、これまでの専守防衛の考え方から、一定の「反撃能力」の保有を容認したことである。

 近年、中国、ロシア、北朝鮮などが次々とミサイル戦力を増強し、日本列島が射程に入る事態となった。これに対し日本はミサイル防衛システムを整備してきたが、相手側の能力の向上に追いつかなくなってきた。そこで、ミサイル防衛に加え、一定の「反撃」によって相手の武力攻撃を抑止するため、長距離の精密打撃能力やミサイル能力の強化を打ち出した。

 具体的には、アメリカ製トマホーク巡航ミサイルの購入、国産の地対艦ミサイルの射程延伸、さらには超音速ミサイル開発などが示された。しかし、こうした武器をどのように運用し、いったいどこを攻撃目標とするのかについては不明確なままとなっている。

 一方で、静止衛星の打ち上げや無人偵察機の運用計画が記されているものの、ミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがある。米国は従来の早期警戒衛星から、多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへと移行を進めており、中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を計画している。

 このように日本の防衛態勢は大きく転換したものの、具体的な武器の性能や運用、それを支えるインテリジェンス能力の面で、不明確な点が多く残されている。今後は米国との緊密な連携を図りつつ、より実効的な計画の策定が求められよう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたいかたは元記事をご覧になってください。

【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

まとめ

  • シギント(信号情報)は諜報活動の中で最も重要な手段の一つである。
  • 潜水艦などの探知・監視には、ソナー信号やレーダー波などのシギント活動が不可欠。
  • 日本は海洋におけるシギント能力は高いが、宇宙からのミサイル監視・追跡能力は不足している。
  • 中国はミサイル監視・追跡能力の向上に注力しているが、その実態は不透明である。
  • 日米台はミサイル監視・追跡における中国の動向を注視しつつ、宇宙におけるシギント能力の強化が課題。
インテリジェンス(諜報)活動には大まかに分類して、シギント、ヒューミント、オシントがあることはこのブログでも解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!―【私の論評】今やいかなる組織も、何らかの非合法な活動や隠蔽をすれば、オシントで合法的に素人に暴かれる(゚д゚)!


ただこの記事をはじめとして、このブログに掲載してきた諜報活動は、どちらかというシギントは軽視しがちでした。どちらかというと、オシント(公開資料にもとづく諜報活動)に重きをおいたものでした。それは、インターネットなどの発達により、いまやオシントは諜報・防諜活動に従事していない、素人でも簡単にできるようになったきたということがあるからです。

それに、諜報活動というとテレビや映画ではヒューミント(人による諜報活動)が目立ちますが、諜報活動の大部分は、現実には地味な公開資料の分析によるオシントが大部分を占めるからです。

しかしそうしたこととは別に、シギントは昔から今にいたるまで、最強の諜報活動といえます。ただし、シギントは素人が個人で行えるものではなく、国家による関与が不可欠ともいえます。そのため、一般の人にはあまり知られていないというのが実情です。

まずは、シギントについて詳しく説明します。

シギント(SIGINT)とは、Signal Intelligenceの略で、電波信号から情報を収集する諜報活動のことを指します。主な手法は以下の通りです。

1.コムイント(COMINT)

相手の通信内容を盗聴・解読することで情報を収集するもの。有線通信や無線通信の電波を捕捉し、復号化して内容を解析します。

2.エリントインテリジェンス(ELINT)

電子機器が放射する電磁波のパラメータ(周波数、強度、変調様式など)から、その機器の性能や機能、運用態様などを解析し情報を収集するもの。レーダー探知機やジャミング装置の性能評価などに用いられます。

3.フィジントインテリジェンス(FISINT)

 原子力施設や化学施設から放出される特定の粒子線や化学物質を検知して、その施設の活動状況を監視するためのインテリジェンス活動。

シギントには、地上施設に加え、艦船や航空機、さらには静止軌道や低軌道の偵察衛星からの電波収集能力が不可欠です。収集した情報は、通信解読や電子機器の性能分析、施設の活動状況把握などに活用されます。

特に今日では、ミサイル発射の電磁波パラメータからその性能を推定したり、指揮統制通信の盗聴で発射の有無を察知したりと、シギントは世界各国の軍事行動の把握に欠かせない重要な手段となっています。

このブログには良く掲載している、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warefare)における潜水艦探知能力もシギントの一環と言えます。

潜水艦は水中を航行するため、視覚的な探知が困難です。そのため、潜水艦から発せられる種々の「信号」を捕捉・解析してその存在や活動を探知することがASWの重要な手段となります。

南シナ海でASWの訓練をする海自

具体的には、以下のような手法がシギントとして活用されています。 

  • ソナー(SONAR)信号の捕捉・解析 潜水艦が運用するソナーの能動的な送波や受波音を監視し、潜航姿勢を推定する。
  • レーダー信号の捕捉(RADINT) 潜水艦のレーダーの電波を捕捉し、浮上時の活動を探知する。
  • 電磁信号の捕捉(COMINT) 潜水艦の通信電文の盗聴や、プロペラ回転に伴う極超短波の捕捉など。
  • 放射線/化学物質の検知(FISINT) 原子力潜水艦から漏れる放射線や化学物質を検知する。
  • 測量情報収集 潜水艦に搭載された測量装置を使って、水深や海底地形、海流などのデータを収集できます。この情報は潜水艦の運用や海上交通路の把握に役立ちます。
  • 艦船/施設監視 潜水艦の望遠鏡や撮影装置を使って、対岸の軍事施設や艦船の動向を監視できます。水上からは監視しにくい箇所の情報収集が可能です。

こうしたシギント活動によって潜水艦の存在や行動を察知し、対潜作戦に活用することができます。したがって、対潜哨戒はシギントの重要な一部と言えるでしょう。

これ以外にも、潜水艦には特殊諜報活動が 上陸したスパイの潜入/離脱、無人機の投入、海底設置型センサーの布設/回収など、秘匿性の高い特殊な諜報活動にも使われます。

このブログにも何度か掲載してきたように、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)が高いことは、さらには日本の対潜哨戒能力が高いため、潜水艦や対潜初回活動等による、海洋におけるシギント能力はかなり高いといえます。

これにより、日本は中国に対して海戦面ではかなり有利であり、仮に日中戦争になったとしても、中国が日本に大部隊を送り込むことは困難であり、仮にそうすればすぐに発見され、撃沈されることになります。

そのため、日本は独立を維持できるでしょうが、このブログでも何度かのべてきたように、日本国内が中国のミサイルによって大きく破壊される可能性は高いです。

それは、台湾も同じことです。このブログでのべてきたように、第二次世界大戦中に米軍が、台湾上陸作戦をしなかったことでも明らかなように、台湾の急峻な地形、平坦な地域であっても、河川や湾が複雑に入り組んだ地形てあり、上陸地点が限られてしまうという事実は、天然の要塞と言っても良い状況であり、これを侵攻するのは難しいです。

しかし、台湾も対中戦争になれば、国土の大部分を破壊されることを免れることは難しいでしょう。

その背景には、上の記事にもあるように、日台はミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがあるからです。

ミサイルの監視を行う米国の衛星の想像図

先に述べたように、日本の海洋におけるシギント能力はかなり高く、台湾も潜水艦を時前で建造するなど、海洋でのシギント能力をたかめつつありますが、宇宙におけるシギント能力は高いとはいえません。これを高めていくべきです。

ただし、未だ中国の宇宙でのシギント能力が高いという確たる事実は発見されていません。中国の軍事技術の主な入手先は主にロシアですが、そのロシアのウクライナでの苦戦ぶりをみれば、ロシアはミサイル監視・追跡に関する基盤的な能力は持っているものの、作戦で要求される高度な能力までは未だ備えていないように見受けられます。宇宙でのシギント能力は、さほど高いとはいえないようです。

ただし、中国は近年、ミサイル監視・追跡能力の強化に注力しています。

その取り組みとしては、偵察衛星の大量打ち上げによる宇宙資産の増強、新型の大型レーダーシステムの運用開始、海上・航空機からの監視能力の拡充などが挙げられます。

このように監視・追跡体制の整備が進められている一方で、その具体的な性能や実効性については不透明な部分が多く残されています。中国が米国を上回る"かなり高い"ミサイル監視・追跡能力を備えているかどうかを確たる根拠に基づいて評価することは現時点では困難です。

監視・追跡分野における能力向上の兆しはみられるものの、その程度を断じるには情報が不足しており、引き続き動向を注視していく必要があるでしょう。

日米台としては、中国の動向を注視しつつも、宇宙でのシギント能力を高めていくことが大きな課題といえます。

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2024年4月28日日曜日

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」―【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」

まとめ
  • フィリピンと中国の間で、南シナ海のアユンギン礁をめぐる密約の存在をめぐって対立が深まっている。
  • 中国側は密約の存在を主張、フィリピン側は否定。真相は不明確で、両国の関係悪化が懸念されてる
フイリピン マルコス大統領

 フィリピン国家安全保障会議のマラヤ次長は27日の声明で、中国との間で南シナ海アユンギン礁の緊張激化を防ぐための取り決めがあったとする中国側の主張を否定した。

 「どんな了解事項も大統領の承認がなければ効力を持たない」と強調。合意は存在せず、フィリピンが合意を破棄したとの中国側の主張は不当だと反論した。

  フィリピンのドゥテルテ前大統領は、同礁の軍拠点の老朽艦に補修資材を持ち込まず現状を維持するとの密約の存在を示唆。在フィリピン中国大使館はマルコス現政権下でも「今年初めに双方が『新たなモデル』で合意していた」と発表していた。

【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

まとめ
  • 中国が一方的に密約内容を暴露したり、新政権発足後も従来の取り決めを主張するのは外交の基本的なルールから逸脱しており、大きな問題がある。
  • 歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある有名な事例が複数存在する。公文書や証言から密約の存在が確実視されている。
  • 日本でも、米国との間で領土問題など重要案件について密約があった疑惑がある。
  • 原則として密約は避けるべきだが、安全保障上の理由や一時的な政治的配慮があれば、密約が存在する余地はある。ただし条件があり、濫用は危険。
  • 左翼メディアは密約問題をセンセーショナルに報じ、自らを正義の旗手と振る舞うが、外交には不快な妥協も伴う。強迫観念は交渉を損なう恐れがある。
中国の言動には大きな問題があると指摘せざるを得ません。まず、密約がある場合、それを一方的に公表すべきではありません。相手国の同意なしに密約内容を暴露することは、信頼関係を損ない、外交上の大問題となります。

仮に過去に密約があったとしても、新政権発足後は従来の取り決めを一方的に主張するのは不適切です。新政権との間で改めて協議を行い、合意内容を再確認するプロセスが必要です。

さらに、領有権問題をめぐり、中国が自国の主張を一方的に押し付ける姿勢は、平和的解決を阻害します。建設的な対話と、互いの立場を尊重する姿勢が欠かせません。

つまり、密約の有無に関わらず、中国の一連の言動は外交の基本的なルールから逸脱しており、非常識な面があります。情報が限られる中で明確には言えませんが、少なくとも中国の対応には大きな問題があると考えられます。

外交上の密約 AI生成画像

歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある例はいくつか存在します。以下にいくつか事例を挙げます。これは、公文書や複数の人による証言などによって、密約の存在が確実視されたものです。

1. イギリスとエジプトのシュエル・シャイク協定(1954年):
   イギリスとエジプトの間で、エジプトの独立を認める代わりに、スエズ運河の管理権をイギリスからエジプトに移譲することが合意されました。この協定はエジプトの主権回復に重要な役割を果たしました。
2. ソ連とキューバの秘密的な軍事協力(1960年代):
   キューバ革命後、ソ連とキューバは軍事的な協力を行い、キューバに対するアメリカの脅威に対抗しました。この密約は冷戦時代の緊張関係の一環であり、世界的な注目を浴びました。
3. フランスとイスラエルのシナイ半島占領密約(1956年):
   スエズ危機の際、フランスとイスラエルは共同でエジプトのシナイ半島を占領しました。この密約は、エジプトとの戦争において両国の協力を確保するために結ばれました。
これらの事例は、国家間の密約が歴史的な文脈でどのように影響を及ぼしたかを示しています。

以上は外国の事例ですが、日本の例も以下に挙げておきます。これも、後に公文書や複数人の証言によって密約の存在が確実視されたものです。

1. 吉田茂による占領の終結指揮権密約(1952年と1954年):
 吉田茂首相は、日本の占領終結に向けてアメリカとの交渉を行いました。この密約により、日本は占領終結の指揮権をアメリカに委譲しました。
2. 岸信介による親米体制の確立密約(1960年):
 岸信介首相は、日米同盟を強化するためにアメリカとの合意を結びました。この密約により、日本はアメリカの軍事的指導を受けることを約束しました。
3. 佐藤栄作による沖縄返還密約(1969年):
佐藤栄作首相は、沖縄の返還に向けてアメリカと交渉しました。この密約により、沖縄の返還と引き換えに日本はアメリカの核兵器を受け入れることを了承しました。
これらの事例は、日本とアメリカの外交関係において、公には明らかにされていなかった合意や密約が存在したことを示しています。

国家間で法的拘束力のある正式な合意以外に、秘密の"密約"を結ぶことは一般的ではありません。ただし、一概に合法/違法と判断するのは適切ではありません。状況によってはグレーな部分も存在するからです。

確かに透明性の観点から、原則として密約は避けるべきでしょう。公開された正式の合意が

望ましい形です。しかし、以下のような例外的な状況が考えられます。
  • 機密保持が求められる安全保障上の理由がある場合
  • 合意内容を一時的に秘匿する必要がある政治的配慮から
  • 交渉の過程で一時的に密約し、後に正式な合意に置き換える場合
つまり、完全な透明性が困難な一時的段階において、密約が存在する余地はあり得るということです。

ただし、そうした密約であっても、以下の条件は満たす必要があります。
  • 法的根拠や正当な理由がある
  •  一方的でなく相互の同意が前提
  •  一定期間後には公開し説明責任を果たす
極秘の密約は濫用の危険性がありますが、状況次第では必要不可欠なケースもあり得ます。そのため、一括りにすべてを退けるべきではなく、個別の事例ごとに判断することが賢明です。

佐藤栄作総理大臣

一方、当時毎日新聞記者西山太吉は、日米間の「密約」を報道し、1972年の外務省機密漏洩事件で有罪が確定しました。彼は沖縄返還協定に際し、公式発表ではアメリカ合衆国が地権者に対する土地原状回復費400万米ドルを支払うとされていましたが、実際には日本国政府が肩代わりしてアメリカ合衆国に支払うという密約を報じました。

この報道により、日米間の秘密的な合意が明るみに出たことで、社会的な議論が巻き起こりました。西山太吉は今年2月24日に心不全のため亡くなり、享年91歳でした。ただし西山氏を巡っては、同省の女性事務官と男女関係を持った上で機密文書を漏洩させたとして、東京高裁が「正当な取材活動の範囲を逸脱する」と断じた経緯もあります。にもかかわらず、これを日本の報道機関は、英雄のように持て囃す傾向がみられました。


秘密主義と透明性は、国際外交において密接に関連しています。政府は国民や同盟国に対して透明性を保つことが大切ですが、国益や安全保障を守るためには、慎重さや情報の秘匿も必要です。

ここでは、秘密取引の倫理について議論するつもりはありません。私は、保守派として、世界は複雑な場所であり、指導者が国の利益を守るために厳しい選択を迫られることもあることを理解しています。

しかし、言いたいのは、左派メディアや彼らのヒーローたちは、このような事件をセンセーショナルに報じ、自分たちを真実と正義の闘士として描くのが好きだということです。外交には、しばしば不愉快な相手との交渉や妥協が含まれることを忘れてはなりません。

左派メディアの強迫観念は、交渉の立場を損ない、国際舞台での我々の立場を弱める可能性があります。したがって、透明性の原則を尊重すると同時に、慎重さが必要な場合もあることを認識しなければなりません。

理想的な世界では、すべての合意が公開できるし、そうしなければならないかもしれませんが、現実の世界では、国際関係の複雑さに対処し、国の安全を確保するためには、時には秘密主義も必要です。

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2024年4月27日土曜日

米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念―【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

 米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念

まとめ

  • 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが拡大している。
  • デモはニューヨークのコロンビア大から始まり、ワシントンにも波及しており、バイデン大統領の支持基盤である若者の離反が懸念される。
  • コロンビア大では、学生らが大学にイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求し、抗議活動が行われている。
  • 全米の大学では、抗議活動に参加した数百人が拘束され、一部で授業中止や卒業式の主要式典の中止などの影響が出ている。
  • バイデン大統領は、反ユダヤ主義的な活動を非難しつつも、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立に苦慮している。

イェール大学学生の親パレスチナデモ

 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが広がっている。これは、ニューヨークの名門コロンビア大学から火が付き、首都ワシントンにも波及している。このようなデモの拡大は、バイデン大統領にとって深刻な問題となっている。なぜなら、これらのデモは民主党支持の傾向が強い若者の離反を意味し、バイデン大統領の再選に影響を与えかねないからだ。特に、コロンビア大学では抗議活動が活発化し、学生らは大学に対しイスラエル関連企業とのつながりを断つことなどを要求している。

 全米の大学では、抗議に参加した数百人が拘束されるなどの影響が出ている。例えば、南カリフォルニア大学(ロサンゼルス市)では保安上の理由から卒業式の主要式典を中止し、エマーソン大学(ボストン市)では授業を取りやめるなどの措置が取られている。しかしながら、一部の抗議活動には反ユダヤ主義的な要素も混じっており、大学側は表現の自由と差別助長の阻止との間で難しい判断を迫られている。

 さらに、抗議活動の影響は学内にとどまらず、ホワイトハウスから数ブロック西のジョージワシントン大学で、イスラエルへの対外支援法を成立させた政権に抗議する声も上がっている。バイデン大統領は、これらのデモについて「反ユダヤ主義の抗議活動を非難する。同時に、パレスチナ人の状況を理解しない人々も非難する」との立場を示しているが、イスラエルへの軍事支援とガザの人道状況改善の両立は容易ではなく、混乱収束に向けた妙案は見えていない。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

まとめ
  • 米国での出来事は、日本が陥りかねない危険信号が現れており、これに目を向ける必要がある。
  • かつての労働者階級の代表とされた「左翼」がエリート層の価値観に同化し、"ビバリーヒルズ左翼"と呼ばれる存在になりその支持基盤から離れている。
  • アイデンティティ政治といわれる、個々のアイデンティティに基づく政治的主張が対立や分断を助長し、偏見や敵対心を増大させる恐れがある。
  • 米国では難関とされる、カリフォルニア大学アーバイン校やコロンビア大学での抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されている。
  • 日本でも米国と同様の兆候が見られ、伝統的な価値観や勤労精神を守り、エリート主義に囚われた考え方を排除する必要がある。
米国で起こっている出来事に目を向ける必要があります。なぜなら、そこには日本が陥りかねない危険信号が現れているからです。

日本が陥りかねない危険信号 AI生成画

米国では、かつて労働者階級の代表として位置づけられていた「左翼」と呼ばれる勢力が、今やその本来の支持基盤から離れ、いわゆるエリート層の価値観に同化しつつあります。

これを私は「ビバリーヒルズ左翼」と呼んでいます。これはもちろん、日本でも人気のあった米国のドラマ「ビバリーヒルズ高校白書/ビバリーヒルズ青春白書」を念頭においたものです。

この「ビバリーヒルズ左翼」は、裕福な環境で育った人々の集まりであり、勤労者の現実的な課題から目を背け、知的エリートの関心事にのみ熱心です。以前は労働組合の集会に参加していた彼らが、今やアイビーリーグの大学キャンパスに集まるようになりました。

このグループは、安全保障、国民の食の確保や雇用創出などの現実的な問題よりも、リベラルな価値観の推進やアイデンティティ政治に熱心です。彼らが関心を寄せるのは、移民問題やLGBT、マイノリティの権利など、アイデンティティに関する課題が多いです。

ビバリーヒルズ青春白書

最近の一部の名門大学での反イスラエルデモの過激化は、まさにこの「ビバリーヒルズ左翼」の影響が学生運動に及んでいる例です。デモは時に反ユダヤ的な言動に走り、大学側を危機に追いやっています。特に優秀な学生ほど、反ユダヤ主義的なプロパガンダに洗脳されやすい傾向にあると指摘されています。

米国で有名校とされる、カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)では、イスラエル関連のイベントに対する抗議行動や反ユダヤ主義的な行動が報告されています。

同じく有名校とされるコロンビア大学(Columbia University)でも、イスラエル関連の講演会やイベントに対する抗議行動や妨害が発生し、反ユダヤ主義的な言動が報告されています。

反イスラエルの姿勢が問題なのは、それが極端な反ユダヤ主義につながる危険性があるからです。イスラエルに対する批判が一線を越えれば、ユダヤ人への差別的な言動や憎悪犯罪に直結します。これは絶対に許されません。

このような状況に対して、大学側は厳しい対応を迫られています。大学は多様な価値観を受け入れる場であると同時に、学生に安全な環境を提供する責任があります。反ユダヤ的な言動は構内の治安を脅かし、大学の中立性や知的開放性を損なうおそれがあります。そのため、大学はデモの過激化を放置することはできません。

アイデンティティ政治への過度の焦点は、米国民の分断と対立を助長します。"ビバリーヒルズ左翼"は、米国民を"違い"で定義し、"被害者"意識を植え付けようとしています。

アイデンティティ政治とは、個々の人々や集団が自らのアイデンティティ(身元や所属、属性)に基づいて政治的主張や行動を展開することを指します。これは、性別、人種、民族、宗教、性的指向、身体的能力など、さまざまな身元や属性に関連しています。

アイデンティティ政治の負の側面は、しばしば社会の対立や分断を深め、個々のアイデンティティに基づいた偏見や敵対心を助長することです。

例えば、アイデンティティ政治が進むと、特定のアイデンティティグループが自らの権利や利益を強調し、他のグループとの摩擦が生じます。これにより、社会全体が対立状態に陥り、対話や協力が阻害される可能性があります。

また、アイデンティティ政治はしばしば単純化や過剰な一般化を招きます。特定のアイデンティティに基づいて個人やグループをラベリングし、その属性に応じて全ての行動や意見を決定付けようとする傾向があります。これにより、個々の多様性や複雑さが無視され、個人の自由や多様性が制限されるおそれがあります。

さらに、アイデンティティ政治はしばしば感情的な反応や怒りを引き起こし、合理的な討論や協力を難しくします。このような感情的な偏見や敵対心は、社会の結束や共存を脅かす要因となります。

アイデンティティ政治が過度に強調されると、社会は分断され、対立が激化する可能性があります。その結果、個々のアイデンティティが優先されることで、全体の共通の利益や社会の結束が犠牲にされるおそれがあります。

ビバリーヒルズ左翼はアイデンティ政治等のリベラルな理想論に惑わされ、現実から遠ざかった考えに走っています。多くの国民が直面する生活の困難や雇用の不安を見過ごしているのが現状です。"進歩"を掲げながらも、彼らの本当の狙いは、エリート主義的な価値観を押し付けることにあるかもしれません。

滑稽なアイデンティティ政治  AI生成画

残念ながら、日本でも同様の兆候が見られます。いわゆる「リベラル」と呼ばれる一部の層が、多くの国民の実態から遊離した理想論や表面的な正義を追求しています。例えば、最近の「LGBT理解増進法」成立をめぐっては、自民党内の保守派からも国民の生活への影響を十分に考慮せずに急いで成立させたとの批判がありました。

安倍政権は例外的であり、1990年代以降の自民党はリベラル政党とみなすことができます。自民党は結党時の保守的な価値観に立ち返り、国民の生活を最優先に考える政党に再びなるべきです。

このままでは、米国と同じ道を歩むことになりかねません。日本の伝統的な価値観、すなわち勤労を尊重し、個人の自立を重視し、国民全員が平等に自由に恵まれる社会を大切にしなければなりません。

私たち日本人は、祖先から受け継いできた誇り高い文化や価値観を決して忘れてはいけません。自由という尊い価値は、努力と責任を尊重することなくしては守られません。これを守り、次世代に継承することが、私たちの責務です。

エリート主義にとらわれた考え方が、日本に蔓延することを許してはいけません。日本の伝統的な勤労精神と自立の志こそが、国の繁栄につながる道です。

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2024年4月26日金曜日

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた―【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

南シナ海、米比合同演習の周囲を埋め尽くす中国船が見えた

まとめ
  • 南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結している。これは米比合同演習への対抗と見られる。
  • 中国船舶は特にフィリピンのEEZ内の環礁周辺に集中しており、中国はこの海域への実効支配を強化しようとしている。
  • 米比は中国の挑発に対し、合同演習の規模を過去最大に拡大し、日本などの参加も得て対応を強化した。
  • バイデン大統領は米比相互防衛条約が南シナ海防衛にも適用されると明言し、日本とも連携を確認した。
  • 中国は表向きは「友好的協議」で解決を目指すと主張しつつも、実効支配の強化と威嚇姿勢も併せ持っている。

 南シナ海の係争海域において、中国船舶の大規模な集結が確認されている。これは、同海域でアメリカとフィリピンが行っている年次合同軍事演習「バリカタン」への対抗措置とみられており、中国政府が自国の海軍力を誇示する意図がある。

 集結船舶には、中国海警局の公船に加え、武装した中国漁船の「海上民兵」も多数含まれていることが確認された。特に船舶の集中が著しいのは、国際的にフィリピンの排他的経済水域(EEZ)と認められている南沙諸島の環礁周辺である。中国はこれらの環礁を不法に占拠・軍事基地化しており、セカンド・トーマス礁やミスチーフ礁周辺では、フィリピン船の航行妨害を繰り返してきた経緯がある。今回の船舶集結は、こうした中国の実効支配強化の動きの一環とみられている。

 こうした中国の挑発的な行動に対し、今年のバリカタン合同演習では過去最大規模の1万7000人近い部隊が投入されている。参加国はアメリカとフィリピンが主体だが、日本やオーストラリア、フランスなども加わり、14カ国がオブザーバー参加している。先月にはバイデン米大統領が、マルコス・フィリピン大統領、岸田日本首相と会談し、南シナ海防衛での連携強化を確認した。バイデン大統領はマルコス大統領に対し、米比相互防衛条約が南シナ海の防衛にも適用されることを保証した。

 一方の中国側は、表向きは「海洋紛争は直接関係国と友好的な協議を通じて解決する」と主張している。しかし、南シナ海での権益侵害を許さないとも強く警告しており、協議による解決と実効支配の強化を並行して行う姿勢をみせている。また、バリカタン演習開始の前日には西太平洋海軍シンポジウムが中国で開催され、この場でも中国制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席が「自国の信義誠実につけ込む悪辣な行為は断じて許さない」と釘を刺した。

 こうした緊張が高まる中、専門家は中国が近年、フィリピンの進める南シナ海での水路測量プロジェクトにも高い警戒感を示していると指摘する。南シナ海をめぐる対立は一層深刻化しており、米比日が軍事的対応を強化する中で、中国も実効支配の強化と威嚇姿勢を併せ持っている状況にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】鈍い中国の対応、日米比の大演習に対抗する演習をしない中国の背後に何が?

まとめ
  • 米軍がフィリピンにMRC(中距離ミサイル発射装置)を配備し、中国への牽制を図っている。
  • MRCの射程は南シナ海や台湾海峡周辺に及び、軍事的抑止力の向上が目的。
  • フィリピンへのMRC配備により、米国の軍事的プレゼンスが強化される見通し。
  • 米軍の演習に日本の自衛隊も参加し、日米比3か国の連携を強化する。
  • 中国は南シナ海での米比日本等の演習に対抗しつつも、大規模演習は行わず経済的制約や緊張緩和の観点から控えめにしている可能性が高い。
地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」

米軍は25日「バリカタン演習」の一環として、フィリピンに地上配備型の中距離ミサイル発射装置「MRC」を配備しています。これは、主に中国への牽制を狙ったものと見られます。MRCの射程圏内には南シナ海の中国拠点や中国南部沿岸部、台湾海峡沿いが含まれることから、これらの地域への軍事的抑止力の向上が目的とみられています。

近年、米中間では南シナ海を巡る対立が深刻化しており、中国は同海域での実効支配強化を進めてきました。一方で、同地域での中国のミサイル戦力の優位性が指摘されていました。今回のMRC配備は、こうした中国の軍事的影響力の拡大に対する、米国からの意思表示の一環とみられます。

MRCからは射程約1600kmの巡航ミサイル「トマホーク」などの発射が可能で、南シナ海や台湾海峡周辺に対する米軍の射程を大幅に延長することになります。中国はフィリピンへのMRC配備に反発していますが、米国は同地域における軍事的プレゼンスの強化を志向していると見られます。

軍事専門家らは、米軍のフィリピンへのMRC配備は恒久的な措置ではなく、一時的な配備と見なしています。この配備により、危機発生時に即応できる能力が高まり、危機を乗り切る可能性が強まるとの指摘があります。

また、中国側のミサイル戦略において、情報収集や標的特定の能力など、比較的新しい分野に対して試練を与えるものと分析されている。つまり、米軍のMRC配備は、中国の新しいミサイル戦略の実効性を試す側面もあると専門家は読み解いています。

今年の演習では、日本の自衛隊がバリカタン演習に本格的に参加する方向で調整されています。これにより、日米比3か国の連携を強化し、中国の威圧的な行動に対抗する意図があります。

また、今回の演習では対潜水艦戦訓練にも焦点を当てています。具体的には、ソナー訓練、対潜哨戒機の運用、対潜兵器の運用、情報共有と連携などが行われます。これにより、潜水艦を探知し、追跡し、攻撃する能力を向上させることを目指しています。

哨戒ヘリを用いた一般的な対潜戦訓練の模式図

2020年中国人民解放軍は、南シナ海と東シナ海、黄海、渤海の4海域で軍事演習などを同時実施していました。これは、主に台湾に向けたものと考えられます。

今回、中国が南シナ海での米比日本などの動きに危機を感じているのなら、南シナ海の係争海域に多数の中国船舶(海警局艦船と武装した漁船)が集結させるだけではなく、「バリカタン演習」に匹敵するか、それを上回るような演習を「バリカタん演習」の前後にするはずですが、それに関する発表はいまのところ、中国側からありません。

中国が今回、南シナ海での米比合同演習に対抗する形で、同規模の大がかりな軍事演習を行っていない背景には、以下のような要因が考えられます。

1. 軍事的緊張のコントロールと実効支配の手段の選好

過度の軍事演習は緊張を高め、思わぬ軍事衝突のリスクもあります。そのため、威嚇的な船舶の集結などのグレーゾーン活動を通じて実効支配を強化する方が望ましいと判断している可能性がある。

2. 主張の正当性の確保

環礁でのミサイル基地建設を進めつつ、大規模演習を行えば、その正当性が損なわれるリスクがある。

3. 軍事的能力の限界

長距離への投射能力などで米軍に及ばず、さらには兵站能力でも米軍等には及ばず、大規模演習の実効性に中国側の疑問がある可能性があります。

4. 経済的負担の観点

大規模な実戦的な軍事演習を行うには、実戦と同様の多額の弾薬、燃料、食料など物資の手配が必要となる。現在の経済情勢の中で、そうしたコストを負担するのは困難と判断している可能性がある。

特に経済面での制約は大きいと考えられます。実戦と同様に、膨大な量の弾薬、燃料、さらには1人一日当たり3000キロカロリー相当の食料を演習現場に投入する必要があります。こうした巨額の経費をかけての大規模演習は、中国の現在の経済状況では負担が大きすぎるのかもしれません。

軍事的、政治的配慮に加え、経済的な制約から、中国は威嚇的な活動に重きを置きつつも、実際の大規模演習は控えめにしている可能性が高いと言えます。

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2024年4月25日木曜日

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態―【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

中国が優勢、南シナ海でのエネルギー争奪戦-米国には不愉快な実態

まとめ
  • ベトナム、フィリピンは国内の天然資源開発を計画していたが、中国の南シナ海における一方的な領有権主張と強硬な行動により妨げられている。
  • 中国は法的根拠が不明確な「九段線」「十段線」に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張し続けている。
  • その結果、ベトナム、フィリピンはエネルギーの輸入に頼らざるを得なくなり、フィリピンではエネルギー危機が深刻化している。
  • 中国船舶がフィリピン領海で放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、米国を含む関係国との緊張が高まっている。
  • 米国はフィリピンを全面支持し、合同軍事演習の規模を拡大。中国との緊張緩和は見込めない状況が続いている。

 ベトナムとフィリピンは、それぞれ国内で発見された大規模な天然ガス田やガス・石油埋蔵地から、エネルギー確保を図る計画を立てていた。しかし、南シナ海における中国の一方的な領有権主張と強硬な行動によって、その計画が大きく妨げられている。

 中国は、法的根拠が不明確な「九段線」の地図に基づき、南シナ海のほぼ全域に対する領有権を主張してきた。2016年にはオランダの仲裁裁判所がこの主張を退けたが、習近平国家主席はその判断を無視し、さらに2023年には「十段線」と呼ばれる新たな領有範囲の地図を発表するなど、自国の主張を強めている。

 こうした中国の一方的な行動により、ベトナムのブルーホエール天然ガス田プロジェクトは遅れ、フィリピンでは独占権があるはずのリード堆周辺での資源開発もできずにいる。結果的に両国とも、液化天然ガス(LNG)など燃料の輸入に頼らざるを得なくなっている。

 特にフィリピンではエネルギー供給が危機的状況に陥りつつある。マランパヤガス田の枯渇が予測されており、先月には猛暑で複数の発電所が停止し、ルソン島で一時的な停電にも見舞われた。有力者は、マランパヤが止まれば経済は崩壊すると警告している。

 一方、中国の船舶はフィリピン領海内で相手船舶に放水砲を使うなど強硬な行為に出ており、緊張が高まっている。米国はフィリピンを全面的に支持する構えで、合同軍事演習の規模も年々大きくなっている。バイデン大統領は岸田首相、マルコス大統領と会談し、中国との緊張関係を論じ、相互防衛条約の発動に言及するなど、東南アジア諸国を支える姿勢を鮮明にした。

【私の論評】中国の南シナ海進出 - エネルギー・ドミナンス確立が狙い

まとめ
  • 中国は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源を確保し、同地域でのエネルギー面での優位(ドミナンス)を獲得しようとしている。
  • そのため中国は「九段線」を根拠に、人工島建設や軍事拠点化、周辺国への妨害行為などで実効支配を強めてきた。
  • 中国が、南シナ海支配権の獲得でエネルギー資源の独占と供給ルート確保を狙っているのは明らかである。
  • 中国の南シナ海進出を事実上許した要因は、米国を始めとする関係国の当初の対応の遅れや連携不足にあった。
  • しかしバイデン政権も南シナ海問題への対応が不十分で、中国のエネルギー獲得・ドミナンス確立を容認する形となっている。今こそ、ホワイトハウスが、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのだ。
中国の南シナ海における一方的な現状変更の試みには、同海域に存在すると見られる豊富なエネルギー資源を確保し、エネルギー面での優位を獲得しようという狙いがあると考えられます。南シナ海には石油・天然ガスが大規模に埋蔵されていると期待されており、中国のエネルギー安全保障上、極めて重要な戦略的価値を持っています。

そのため中国は、「九段線」に基づく広範な領有権主張を根拠に、この海域における実効支配を着実に強めてきました。環礁への人工島建設と軍事拠点化、周辺国の資源開発事業への妨害行為などを通じて、石油・ガス田開発における主導権を握ろうとしているのです。

中国共産党が主張してきた九段線

エネルギー資源の独占的な活用権を得られれば、アジア有数のエネルギー消費国である中国は、同地域におけるエネルギー面でのドミナンス(支配力)を手にすることができます。また、この地政学的要衝の支配権を獲得することで、中国はエネルギー供給ルートの安全も確保できます。

近年の中国の海洋進出は、資源・エネルギーの獲得はもちろん、それらを安全に運ぶ海上交通路の確保が大きな目的との指摘もあります。このように、南シナ海の実効支配を強化する中国の行動の背景には、同海域のエネルギー資源の確保とそれに基づくエネルギー面でのプレゼンス向上への強い意欲があると考えられます。

中国の南シナ海における一方的な現状変更を事実上許してしまった要因は複雑で、米国の対応だけでなく、関係国全体の対応にも問題があったと指摘されています。

確かに、オバマ政権時に南シナ海問題への対応が手遅れになったとの批判があります。しかし、その後のトランプ政権、バイデン政権と、米国は次第に強硬な姿勢を取るようになりました。合同軍事演習の規模拡大や、フリーダムオブナビゲーション(航行の自由)作戦の実施、マルコス政権への支持表明など、中国に対する牽制を強めています。


他方で、東南アジア諸国連合(ASEAN)が一致した対応を取れなかったことも大きな要因と言えます。ASEANには中国に配慮せざるを得ない国々があり、団結した姿勢が示せませんでした。また、関係国が早期からより強硬に対応すべきだったという意見もあります。

米国のみならず、ASEAN、そして関係国全体の当初の対応の遅れや、足並みの乱れが、現状を生み出した一因と考えられます。米国単独で状況を抑え込むのは難しく、関係国の連携強化が課題と言えるでしょう。

ただし、中国の南シナ海における一方的で過激な動きが過去数年間で一層目立つようになったことは確かです。そしてこの背景には、バイデン政権の対応の遅れや、強硬姿勢の不足があったことは否めません。

バイデン政権が国際社会で力強いリーダーシップを発揮できていないことは広く知れ渡っており、特に中国への対応は極めて不十分でした。南シナ海における中国の攻撃的な行動は、バイデン政権から発せられる弱々しく一貫性を欠いた外交方針の直接的な結果といえます。

バイデン大統領と民主党幹部は、矛盾した複雑な姿勢を示すことで、米国の脆弱なイメージを世界に植え付け、ライバル国や敵対国からの侵害を招いてしまいました。バイデン大統領は当初から、中国が世界の平和と米国の利益を脅かす存在であることを軽視し、中国に対して穏健な対応姿勢をとっていました。トランプ前政権が行ってきた中国への強硬姿勢は大きく後退させられました。
 

特に、バイデン政権は南シナ海に埋蔵される豊富なエネルギー資源をめぐる中国の実効支配強化に対し、何ら有効な対抗策を講じていません。この海域のエネルギー支配権の獲得が中国の最大の狙いであるにもかかわらず、バイデン政権はその重大性を軽視し続けています。中国のエネルギー・ドミナンス獲得を防ぐ具体的な取り組みが全くなされていないのが実情です。

バイデン政権が発足当初に中国共産党政権と示した協調路線は、お互いを理解し協力するという誤った前提に基づくものであり、結果的に習近平政権を追認し、強化することにつながりました。特に南シナ海問題については、バイデン政権は中国の違法な人工島建設や軍事拠点化に何ら反発の姿勢を示さず、米国の力を行使し同盟国を守る決然たる行動もありませんでした。

いまこそホワイトハウスが、エネルギー安全保障にも真剣に取り組み、中国共産党に立ち向かい、米国の力と決意を示す強力で断固たるリーダーシップを発揮すべき時なのです。

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