欧米における日本のポップ・カルチャーに対する論評などを読んでいると、J-POP=アニメソング、さらにはJapanese Pop Music全体=アニメソングかのように誤解して認識している文章に当たることがあります。
実際、今現在、日本のミュージシャンが日本国外で知られるようになるのはアニメとのタイアップが少なくないのでそう誤解する人が出てもおかしくはないのでしょうが。
日本のポップ・カルチャーと昔から密接な韓国や中国語圏の人たちはもう少し解像度が高く、日本のポップ・ミュージック=アニメソングと認識しているような誤解はないけれど、それでも、K-POPアイドルと日本のアイドルを比較する時に「日本のアイドル」と「声優アイドル」の区別がついていない人が少なくないことが気になる…というよりライブアイドルの概念が理解できていない人も多い。
でも、改めて考えると日本人でもライブアイドルと声優アイドルの区別がついていない人は少なくないのかもしれない。
23年12月、二日にわたる「異次元フェス アイドルマスター♡ラブライブ!歌合戦」と題したイベントが東京ドームで開催されていました。
2005年発表のゲームを起点にメディアミックスでシリーズが続く『THE IDOLM@STER』と、2010年の雑誌連載から始まりメディアミックスでシリーズが続く『ラブライブ!』に参加した声優たちによる合同コンサート。
シリーズの枠を越えた「異次元」を冠したフェスでした。
声優アイドルというジャンルは、少なくとも東京ドームを二日にわたって埋めるだけの動員力を持っています。ただ、現在の日本ではカルチャーが分断され、「テレビ」に映らなければ、何が「大きい」のかすら分からなくなっていますよね。
とはいえ、テレビ界最大のお祭りであるNHK『紅白歌合戦』にも2015年の〈μ's〉、18年には〈Aqours〉が『ラブライブ!』シリーズから出場していますので、テレビに映っていないわけではありません。
よくある「韓国のアイドル比べて日本のアイドルは〇〇だ」という言い回しでイメージされる「日本のアイドル」とは、ライブアイドルではなく声優アイドルのイメージなのではないだろうか? とは以前から書いてきました。
……私自身はルッキズム的な話には加担しないように書いています。でも、例えば『THE IDOLM@STER』の女性向け男性版『SideM』などには、同性の目から見た際の共感性羞恥的な感覚から来るルッキズム的皮肉を言いたくなる気分も分かると言えば分かりますよ。言うべきではないから言いませんが。
2023年に発表されたたかみゆきひさの『アイドル声優の何が悪いのか? アイドル声優マネジメント』のまず「はじめに」から。
「声優」という言葉の持つイメージは、"アニメや洋画のアフレコや、テレビ番組のナレーションをする人たち"ですよね。
昔の声優は「顔」を出さずに「声」のみで仕事をする人たち、といったイメージだったでしょうが、今現在の声優は「声」だけの仕事にとどまらず自らステージに立って活動しています。
この本の帯にはスタイルキューブ社(前身も含め)が発掘した声優として小倉唯、石原夏織、伊藤美来、豊田萌絵の名前が挙げられていますが、彼女たちを見れば、昭和の人たちがイメージするような「アイドル」の世界観は声優の世界で継承されていると思えませんか?
「今のアイドルはグループばかりで顔の区別がつかない」とか「今の若い歌手の歌は歌詞が聴き取れない」、そして「昔のようなソロのアイドルはいないのか」などとお嘆きの方は声優アイドルのジャンルに目を向けてみれば安心できるのではないでしょうか。
アニメや漫画原作ドラマなどで描かれるアイドルのステージや音楽が、ファンも含めた実際のライブアイドルのシーンとはかけ離れた描かれ方になるのは、モデルがライブアイドルではなく声優アイドルだからなのでしょうし、大衆の持つ「日本のアイドル」イメージにしても、「正統派アイドル」とか「王道アイドル」という言葉でイメージしているであろうものも、ライブアイドルよりは声優アイドルのステージが近いように思います。
なので例えば、「韓国と比べて日本のアイドルが~」と始める時などは、イメージしている「日本のアイドル」とは何か明確にしておいたほうが良いと思いますよ。
ここからは、『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章「アイドル化/タレント化した声優業界の現在地」から引用していきます。
新人はまず一話一律15000円で二次使用料なども付かないジュニア契約(期間三年)から始め、二次使用料など追加報酬ありの15000円を下限としてステップランク、ランカーとキャリアを積むにつれ金額は上限45000円まで上昇し、金額制限の無くなるノーランクと呼ばれる声優が最高位になります。この金額は主人公であろうと一言しかセリフがない配役であろうと同じです。
ランク制は声優にとって収入を保証すると同時に足枷にもなります。
2018年に発表された福原慶匡の『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作」の仕組み』第3章「アニメ製作の流れ」より。
クールジャパンだなんだとアニメが注目されても、アニメ制作の現場で働くアニメーターにはカネが回ってこない、という話はよく目にしますが、声優も若くて「安い」声優の間には仕事があっても、キャリアを積んでランクが上がってギャラが高くなると仕事が回ってこなくなる状況があります。
一週間に四本もテレビ放映されるアニメのレギュラーをこなせば相当の売れっ子ですが、若手の間はアニメだけで月に20万円を稼ぐのは大変だし、一本当たりのギャラの単価を上げれば仕事が減るので、アニメの声優業だけで年単位で生計を維持し続けるのは、ごくごく一部のスター声優を除いてかなり困難だという話です。
だから、若い声優がインターネットなどで「有名税だ」とバッシングされているのを見かけると、そんなに高い税金を払わなきゃいけないほどではないだろうに、と可哀そうに私は思ってしまう。
そして、さらに思うところは、『アイドル声優の何が悪い』第1章より。
ここ数年、芸能界で何かトラブルが起きるたびに、マネージメント契約からエージェント契約への移行を正しいかのように論じる言説もありますが、これはこれで大変です。マネージャーがいないということは、バッシングがあれば直に本人に届きますし、素行の悪いクライアントが直に近づくことも発生します。
なので、今の若い声優には声優事務所ではなく一般的な芸能事務所の声優部門に所属するタイプも増えています。ギャラ配分が減少したとしても芸能事務所のマネージメントを受けられるほうが安心できる、というのも一面の事実であり、個人商店的な規模で運営されてきた声優業界がアキバ・ブームでビジネス規模が急拡大した移行期の2000年代には若い女性声優(志望者も含め)がトラブルに巻き込まれるケースは少なくなかったようですから。
そして、アニメ以外の仕事のギャランティーがどの程度のものなのかは、アニメ業界への就職を謳う専門学校の代々木アニメーション学院の進路案内「業界ナビ:声優の年収は?給料の仕組みや仕事別の収入相場を解説」から見てみます。
ゲームは、
当然ながら個人差はありますが、ごくごく少数の声優界の大スター以外は仕事の数を増やそうと思えば最低金額寄りの安い金額で契約しているだろうし、デビューから数年以内のジュニアランク契約の若い声優ともなれば収入は逆算してほぼ推測できますよね。
……しかし、思うのは、
現在の日本のエンタメ業界はテレビも含めどこも「カネがない」と呟くけれど、カネがないわけじゃないのだよな。お笑い芸人とその事務所に吸い上げられる膨大なカネの一部でも他に回せば助かる人はたくさんいるはずなのに。テレビ局のミュージシャンに対する扱いとか本当にひどい。
もし仮に百歩譲って「有名税」とやらがあるのならば、支払うべきはお笑い芸人たちなのだろうけれど、庶民感情ってやつは弱い者いじめ、できれば「若い女」をいじめて楽しみたいものなのでそちらには向かないのですよね。
『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章から続けます。
『アニメプロデューサーになろう!』第4章「知っておきたい関連業界のビジネスモデル」より。
アニメのメインキャストのレギュラー一つで大卒初任給くらいは稼げるようになりました。これが単発ではまだ不安定ですが、アニメ放映終了後もファンがついていくようなヒット作に出れればその後もイベントや二次使用料などが入り、それが複数積み上がれば生活はかなり安定します。
さらにそこからアニメ制作側買い切りのキャラクタービジネスにとどまらず、自身のオリジナル楽曲を出せる声優になれれば歌唱印税、コンサートが開けるようになればグッズ収入なども発生し、声優の生活と声優事務所の経営は安定します。
『ラブライブ!』の現行シリーズの声優で組まれたチーム〈Liella!〉の「現場」を見てもらえば分かるよう、現在の声優アイドルは人気作品ともなればスタジアム級の動員力を持っています。
声優業のアイドル化により若い声優でも生計を立てるに足る収入を得ることが出来るようになりました。
ただ、その代わりに、今から若手としてやっていくにはある程度以上の美人で歌舞音曲の素養があるところから始めないとオーディションを勝ち抜けず、「美人じゃないしステージで歌って踊ることも出来ないけど、声には自信があります」というようなタイプが声優として生き残るのはかなり困難。要求される基準は高度化しています。
冒頭で紹介した「異次元フェス」でも招待されたVtuberがステージに登場した途端に現場のオーディエンスは静まり返ったと聞きます。
ステージパフォーマーとしてアーティスト化したリアルな声優アイドルとそのファンに対し、緩い素人芸を親しみやすいと感じ、生まれながらの顔の美醜や育ちから来る文化資本の蓄積を無効化したヴァーチャルな世界に安心を感じる層がVtuberのファンとなっているのでしょうから相容れないわけです。
リンクしてあるのは、East Of Edenの『Evolve』。
元〈predia〉の湊あかねと、『BanG Dream!』シリーズの〈Morfonica〉でヴァイオリンを担当していたAyasaをフロントに、最近、海外人気の高いJapanese Female Bandを結成するプロジェクト。
Ayasaは声優ではなくヴァイオリニストとして『BanG Dream!』に参加しキャラクターの声も担当したタイプですが、
『アイドル声優の何が悪いのか?』第3章でも
実際、今現在、日本のミュージシャンが日本国外で知られるようになるのはアニメとのタイアップが少なくないのでそう誤解する人が出てもおかしくはないのでしょうが。
日本のポップ・カルチャーと昔から密接な韓国や中国語圏の人たちはもう少し解像度が高く、日本のポップ・ミュージック=アニメソングと認識しているような誤解はないけれど、それでも、K-POPアイドルと日本のアイドルを比較する時に「日本のアイドル」と「声優アイドル」の区別がついていない人が少なくないことが気になる…というよりライブアイドルの概念が理解できていない人も多い。
でも、改めて考えると日本人でもライブアイドルと声優アイドルの区別がついていない人は少なくないのかもしれない。
23年12月、二日にわたる「異次元フェス アイドルマスター♡ラブライブ!歌合戦」と題したイベントが東京ドームで開催されていました。
2005年発表のゲームを起点にメディアミックスでシリーズが続く『THE IDOLM@STER』と、2010年の雑誌連載から始まりメディアミックスでシリーズが続く『ラブライブ!』に参加した声優たちによる合同コンサート。
シリーズの枠を越えた「異次元」を冠したフェスでした。
声優アイドルというジャンルは、少なくとも東京ドームを二日にわたって埋めるだけの動員力を持っています。ただ、現在の日本ではカルチャーが分断され、「テレビ」に映らなければ、何が「大きい」のかすら分からなくなっていますよね。
とはいえ、テレビ界最大のお祭りであるNHK『紅白歌合戦』にも2015年の〈μ's〉、18年には〈Aqours〉が『ラブライブ!』シリーズから出場していますので、テレビに映っていないわけではありません。
よくある「韓国のアイドル比べて日本のアイドルは〇〇だ」という言い回しでイメージされる「日本のアイドル」とは、ライブアイドルではなく声優アイドルのイメージなのではないだろうか? とは以前から書いてきました。
……私自身はルッキズム的な話には加担しないように書いています。でも、例えば『THE IDOLM@STER』の女性向け男性版『SideM』などには、同性の目から見た際の共感性羞恥的な感覚から来るルッキズム的皮肉を言いたくなる気分も分かると言えば分かりますよ。言うべきではないから言いませんが。
2023年に発表されたたかみゆきひさの『アイドル声優の何が悪いのか? アイドル声優マネジメント』のまず「はじめに」から。
みなさんは声優という職業にどんなイメージを持ってますか。まずアニメや洋画のアフレコや、テレビ番組のナレーションをする人たちという声優像が、世代を問わず一般的なイメージとしてあると思います。それは間違いありません。しかし近年はそれだけではなく、アーティスト(歌手)活動やラジオ番組のパーソナリティーやライブ活動など広範に及ぶ、いわゆる一般的な芸能人とそう大きく変わらないタレント業となっていることもご存じかと思います。たかみゆきひさはスタイルキューブ社の創業者。
~(中略)~
いまや声優が雑誌の表紙を飾ったり、アニメキャラクターではなく声優自身がテレビ番組に出演することも珍しくありません。若い方は信じられないことかもしれませんが、一時期は声優が「声」のみの裏方仕事に専念せず、露出して活動しアイドル/タレント化していくことが批判される風潮もありました(現在でもありますが)。ですが、そんな声優像はもはや過去のもので、タレント化した声優がいまではかなり台頭してきています。
「声優」という言葉の持つイメージは、"アニメや洋画のアフレコや、テレビ番組のナレーションをする人たち"ですよね。
昔の声優は「顔」を出さずに「声」のみで仕事をする人たち、といったイメージだったでしょうが、今現在の声優は「声」だけの仕事にとどまらず自らステージに立って活動しています。
この本の帯にはスタイルキューブ社(前身も含め)が発掘した声優として小倉唯、石原夏織、伊藤美来、豊田萌絵の名前が挙げられていますが、彼女たちを見れば、昭和の人たちがイメージするような「アイドル」の世界観は声優の世界で継承されていると思えませんか?
「今のアイドルはグループばかりで顔の区別がつかない」とか「今の若い歌手の歌は歌詞が聴き取れない」、そして「昔のようなソロのアイドルはいないのか」などとお嘆きの方は声優アイドルのジャンルに目を向けてみれば安心できるのではないでしょうか。
アニメや漫画原作ドラマなどで描かれるアイドルのステージや音楽が、ファンも含めた実際のライブアイドルのシーンとはかけ離れた描かれ方になるのは、モデルがライブアイドルではなく声優アイドルだからなのでしょうし、大衆の持つ「日本のアイドル」イメージにしても、「正統派アイドル」とか「王道アイドル」という言葉でイメージしているであろうものも、ライブアイドルよりは声優アイドルのステージが近いように思います。
なので例えば、「韓国と比べて日本のアイドルが~」と始める時などは、イメージしている「日本のアイドル」とは何か明確にしておいたほうが良いと思いますよ。
ここからは、『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章「アイドル化/タレント化した声優業界の現在地」から引用していきます。
まず前提条件として、「役者業=アニメに声をあてる声優業だけでは声優は食べていけない」ということを確認しておきましょう。声優と声優事務所のギャランティーの利益配分が8:2だと数字だけ見ると驚きます。ただ、昔ながらの声優事務所は他のジャンルの一般的な芸能事務所と違い、実質的には「個人事業主としての声優」向け事務代行サービス業で、プロダクション機能やマネージメント機能をほぼ持っていなかったがゆえの配分なんですね。
アイドル化/タレント化する声優像については、声優ファンからは(ときには業界人からも)度々疑問や批判が投げかけられてきました。「声優は声優の仕事だけしてればいい」そういった意見はSNSなどでもよく見ます。
~(中略)~
最初に「食べていける」というのはいったいどのくらい稼ぐことなのか、決めておきましょう。各個人の感覚で「食べていける」レベルというのは違ってくるかと思うので、ここでは世間のスタンダードとして大卒初任給を参考にしてみましょう。令和元年の大卒の初任給は、厚生労働省によると約20万円程とされています。
~(中略)~
声優は個人事業主として事務所と契約し、受けた仕事からギャランティーを配分される歩合制がほとんどです。ある程度の固定給が設定され、仕事量によって報酬が上乗せされるケースもありますが、ここでは完全歩合制を想定しましょう。
さて、新人声優が20万円を稼ぐには所属事務所にいくら入れればよいでしょうか?
声優/声優事務所のギャランティーの配分比率は、事務所によって違いますが声優が8割、事務所が2割というのがかつてよく言われてきたスタンダードです(最近は変わってきています)。
~(中略)~
声優が8割、事務所が2割と設定して声優が月20万円もらう場合、声優事務所には25万円の収入がなければいけません(税金などで引かれる部分は複雑になるのでいまは考えないようにします)。25万円に到達するには、声優はどのくらい働けばよいのでしょうか。
声優のギャランティーには、ランク制というものが採用されています。声優として仕事を始めてから数年間は「ジュニアランク」。30分枠のテレビアニメ1話あたりのギャランティーは1万5千円です。以降は経験年数とともに自動的にランクが上がり、最終的に「Aランク」になると1本あたりの出演料は4万5千円になります。アニメ声優の出演料はランク制が採られており金額はランクによって固定されています。
~(中略)~
一方で、単純にランクが上がる=ギャラが上がるということではなく、出演料が上がってしまったことで起用される機会が減少する可能性があります。結果としてベテランになるほど仕事が減り、総収入も減ってしまう……といったことも発生しうるのです。このため、ずっと1万5千円を通す人もいます。
~(中略)~
つまり、テレビアニメだけだと、週4本のレギュラーをこなしても月収20万円には満たない。
新人はまず一話一律15000円で二次使用料なども付かないジュニア契約(期間三年)から始め、二次使用料など追加報酬ありの15000円を下限としてステップランク、ランカーとキャリアを積むにつれ金額は上限45000円まで上昇し、金額制限の無くなるノーランクと呼ばれる声優が最高位になります。この金額は主人公であろうと一言しかセリフがない配役であろうと同じです。
ランク制は声優にとって収入を保証すると同時に足枷にもなります。
2018年に発表された福原慶匡の『アニメプロデューサーになろう! アニメ「製作」の仕組み』第3章「アニメ製作の流れ」より。
音響制作費の相場は作品によりますが1話100万円~150万円です。そこから音響制作会社が、キャストや音響監督などスタッフへの支払い、スタジオ代などを負担します。「高い」ベテランのスター声優を使うとそれだけで制作予算を圧迫し、脇を固めるのは全員新人、なんて状況も発生するわけです。
~(中略)~
スタジオ経費、音響監督や音響効果の報酬などを引くと「声優のギャラに使えるお金はこれくらいだな」と決まってきます。こういう観点もキャスティングに影響します。
~(中略)~
原作者からの強い指名等で確実に入れないといけない場合、その人だけで1話につき10万円のキャスティング費がかかりますから、他の声優は低いランクにしよう、といった計算をして調整していきます。
実際、ジュニアランクだとギャラが安いということもありよく起用されます。でもジュニアの声優にランクが付くとギャラが上がり、予算に対してギャラが合わなくなってしまうので、ランクが付くと場合によって起用されなくなる
クールジャパンだなんだとアニメが注目されても、アニメ制作の現場で働くアニメーターにはカネが回ってこない、という話はよく目にしますが、声優も若くて「安い」声優の間には仕事があっても、キャリアを積んでランクが上がってギャラが高くなると仕事が回ってこなくなる状況があります。
一週間に四本もテレビ放映されるアニメのレギュラーをこなせば相当の売れっ子ですが、若手の間はアニメだけで月に20万円を稼ぐのは大変だし、一本当たりのギャラの単価を上げれば仕事が減るので、アニメの声優業だけで年単位で生計を維持し続けるのは、ごくごく一部のスター声優を除いてかなり困難だという話です。
だから、若い声優がインターネットなどで「有名税だ」とバッシングされているのを見かけると、そんなに高い税金を払わなきゃいけないほどではないだろうに、と可哀そうに私は思ってしまう。
そして、さらに思うところは、『アイドル声優の何が悪い』第1章より。
声優業界ではフリーや個人事務所の人以外は基本的に声優事務所に「所属」という形をとっているので一見するとマネジメント契約のように見えます。しかし、芸能界と比較すると、先にお話ししたように事務所の取り分が少ないことに起因して、声優業界では事務所側が《タレント=声優》に割くことのできる労力は限定されてしまいます。声優業界は声優と事務所のギャラ配分が慣行上8:2で、一般的な芸能事務所の契約と比べて演者側の取り分が多く設定されていますが、その代わりに声優事務所は一般的な芸能事務所のようなマネージメントは行なわず実質的なエージェント契約制となっています。事務所ではなく声優自身が仕事を獲得し、契約し、メディア対応や制作上の決断も下さなければならないわけです。
~(中略)~
僕が二〇〇〇年代に声優業界で本格的に仕事をするようになって衝撃だったのは、原稿チェックや雑誌やCDジャケットの写真セレクトをマネージャーではなく声優本人がしていたことです。芸能界ではこれらはマネージャーの仕事です。マネージャーはプロなので、それらを即日作業して返すこともよくありますが、声優業界では声優本人がするので一週間待たされることも普通でした。また、とある人気女性声優とお仕事をしたとき、所属事務所からその女性声優の電話番号やメールアドレスを伝えられ、「直接やりとりしてください」と言われたことがあるのですが、芸能界のマネジメントに慣れていた僕は「どういうこと?」とびっくりしました。しかもほかの事務所の声優さんもそうだったので、「そういう業界なんだ」と認識するようになりました。「芸能界とはまったく違うんだ」と。
これ、要するに《実質》エージェント契約みたいなものなんです。決めごとは基本的に声優が行う。
ここ数年、芸能界で何かトラブルが起きるたびに、マネージメント契約からエージェント契約への移行を正しいかのように論じる言説もありますが、これはこれで大変です。マネージャーがいないということは、バッシングがあれば直に本人に届きますし、素行の悪いクライアントが直に近づくことも発生します。
なので、今の若い声優には声優事務所ではなく一般的な芸能事務所の声優部門に所属するタイプも増えています。ギャラ配分が減少したとしても芸能事務所のマネージメントを受けられるほうが安心できる、というのも一面の事実であり、個人商店的な規模で運営されてきた声優業界がアキバ・ブームでビジネス規模が急拡大した移行期の2000年代には若い女性声優(志望者も含め)がトラブルに巻き込まれるケースは少なくなかったようですから。
そして、アニメ以外の仕事のギャランティーがどの程度のものなのかは、アニメ業界への就職を謳う専門学校の代々木アニメーション学院の進路案内「業界ナビ:声優の年収は?給料の仕組みや仕事別の収入相場を解説」から見てみます。
ゲームは、
事務所ごとに報酬体系の考えに違いがありますが、セリフ100ワード(100文章)につき、新人声優で1万円から、ベテラン声優だと10万円以上からが相場とされています。ナレーションは、
相場は1回の出演につき5,000円~100,000円となっています。映画の吹き替えは
ランク制に基づいた報酬決定が一般的となっています。なお、アニメと同様に1本ごとの報酬発生となっているため、2時間の作品のうち、出演時間が5分であっても1時間であっても、あらかじめランクに定めた報酬額から変動が生じないラジオは
ナレーション同様に固定の出演料が支払われる体系となっており、相場は1回の出演につき1,000円~50,000円となっています。これがアニメ業界を希望する学生やその保護者に専門学校が提示する「声のお仕事」の相場。
当然ながら個人差はありますが、ごくごく少数の声優界の大スター以外は仕事の数を増やそうと思えば最低金額寄りの安い金額で契約しているだろうし、デビューから数年以内のジュニアランク契約の若い声優ともなれば収入は逆算してほぼ推測できますよね。
……しかし、思うのは、
タレント活動で代表的なものとしては、テレビ出演が挙げられます。本業で頑張るよりも全然稼げます。たまに「テレビ芸能界」のよそ者のお客さん扱いで出演する声優でもこれだけ貰えるのなら、ゴールデンタイムのテレビ番組を占拠するお笑い芸人たちはどれだけ稼いでいるのやら。
プロダクション所属の声優がタレント活動をする場合、出演料から手数料を引いた額が収入となっており、深夜番組では30,000円~150,000円、ゴールデンタイム番組だと100,000円〜1,000,000円が相場となっています。
現在の日本のエンタメ業界はテレビも含めどこも「カネがない」と呟くけれど、カネがないわけじゃないのだよな。お笑い芸人とその事務所に吸い上げられる膨大なカネの一部でも他に回せば助かる人はたくさんいるはずなのに。テレビ局のミュージシャンに対する扱いとか本当にひどい。
もし仮に百歩譲って「有名税」とやらがあるのならば、支払うべきはお笑い芸人たちなのだろうけれど、庶民感情ってやつは弱い者いじめ、できれば「若い女」をいじめて楽しみたいものなのでそちらには向かないのですよね。
『アイドル声優の何が悪いのか?』第1章から続けます。
声優/声優事務所は、テレビアニメのアフレコによる収入だけでは食っていけないことはこの章の始めで確認しましたよね。そこで声優業界では「アニメのアフレコ」以外で、より高額な収入が発生する仕事が必要となってきました……キャスティングなどの制作業務や養成所などもそうですが、声優業界は大きくなっていった声優人気という需要もあり、声優のアイドル/タレント化を受け入れる方向に進行してきたわけです。いまや声優が歌ったり踊ったりすることは当たり前の時代になり、10代の若い世代の声優も増えました。アニメの声優業だけでは業界は食べていけません。そこで業界内中堅以上の声優事務所や芸能事務所の声優部門は制作に直接関わることのできるプロダクション機能を強化したり、新人養成を兼ねつつ学費収入を得るためのスクールビジネスを始めるなどし、声優自身は顔を出さない"裏方"な声の仕事だけではなく表舞台で歌って踊り、業界全体が業務の多角化で収入を確保するよう変化しました。
これはなるべくしてなった進化であったと思います。これまで裏方であった声優というタレントに付加価値をつけて展開したほうがマーケット/ビジネスは広がります。アニメやゲームを中心とする日本のサブカルチャーが台頭した時代が望んだ流れでもあるでしょう。「付加価値のついた声優」=「アイドル化/タレント化した声優」というものが生まれ、世の中に認知されたおかげで「アイドル化/タレント化した声優」は通常より多くのギャランティーを手にすることができました。これは喜ばしいことだと思います。アニメ業界でも様々なビジネスチャンスが生まれました。なりたい職業ランキングの上位に声優が入るようになりましたし、業界の活性化に繋がったことは間違いありません。
『アニメプロデューサーになろう!』第4章「知っておきたい関連業界のビジネスモデル」より。
朝10時から15時ころまでの5時間のアフレコで2万円稼ぐとすると、額面上の売上は時給4000円です。しかし、所属事務所にマネージメント手数料として2割から3割引かれ、最終的に税金も納めることを考えると、実質的な手取りは1話出て1万円くらいです。ある声優が1クール12話に毎回出演するレギュラーを勝ち取ったとしたら、それだけで狭き門を勝ち上がってきた存在のはずですが、それでも1か月の手取りが4万円。3本レギュラーがあっても12万円。これだけで食べていくのはなかなか困難です。これがアニメに付随して発生する周辺ビジネスの相場。
メインクラスのキャラを担当していれば、キャラクターソングを歌い、そこからの収入も入ります。キャラソンは「歌唱買い取り」と言って権利を買い切ることが多いです。アーティストの場合は歌唱印税となることが多いですが、声優の場合は作品に紐付いている歌唱しかないため買い切りの取り回しのほうが良いからです。これは声優の格によって5万円から10万円(一部の人気声優はそれ以上)が支払われます。
さらに、メイン級のキャストは月に数本イベント出演があり、こちらも1回5万円から10万円(一部の人気声優はそれ以上)ほど出ます。
するとレギュラー4万円、キャラソン1本5万円、イベント月2本として10万円となり、20万円くらいになります。キャラソンを出せている時点で声優としてだいぶ成功していますが、それでも大卒の初任給と同じくらいなのです。
アニメのメインキャストのレギュラー一つで大卒初任給くらいは稼げるようになりました。これが単発ではまだ不安定ですが、アニメ放映終了後もファンがついていくようなヒット作に出れればその後もイベントや二次使用料などが入り、それが複数積み上がれば生活はかなり安定します。
さらにそこからアニメ制作側買い切りのキャラクタービジネスにとどまらず、自身のオリジナル楽曲を出せる声優になれれば歌唱印税、コンサートが開けるようになればグッズ収入なども発生し、声優の生活と声優事務所の経営は安定します。
『ラブライブ!』の現行シリーズの声優で組まれたチーム〈Liella!〉の「現場」を見てもらえば分かるよう、現在の声優アイドルは人気作品ともなればスタジアム級の動員力を持っています。
声優業のアイドル化により若い声優でも生計を立てるに足る収入を得ることが出来るようになりました。
ただ、その代わりに、今から若手としてやっていくにはある程度以上の美人で歌舞音曲の素養があるところから始めないとオーディションを勝ち抜けず、「美人じゃないしステージで歌って踊ることも出来ないけど、声には自信があります」というようなタイプが声優として生き残るのはかなり困難。要求される基準は高度化しています。
「最近のアイドル声優は実力もないのに云々」と言う人がときどきいますが、……こうした状況へのアンチテーゼがVtuberなんだろうな。声優アイドルのファン層とVtuberのファン層が重ならないどころか対立関係にあると言うと驚く人もいますが、両者にはイデオロギーの違いがあるのだから当然です。
~(中略)~
声優界は駆け出しからベテランまで「個人としてスキルを高めなければならない」という意識が高い方が多いのです。さらに、昔と比べると声だけのお芝居だけではなく、容姿も良く歌も歌えてダンスもできて、イベントやラジオでおもしろくしゃべれることが求められますから、相当に芸達者でないと一線級の声優にはなれません。
芸能の仕事をずっとやってきた私から見ても声優に求められるスキルは少し高すぎるのではないかと思うくらい様々な能力を求められています。
冒頭で紹介した「異次元フェス」でも招待されたVtuberがステージに登場した途端に現場のオーディエンスは静まり返ったと聞きます。
ステージパフォーマーとしてアーティスト化したリアルな声優アイドルとそのファンに対し、緩い素人芸を親しみやすいと感じ、生まれながらの顔の美醜や育ちから来る文化資本の蓄積を無効化したヴァーチャルな世界に安心を感じる層がVtuberのファンとなっているのでしょうから相容れないわけです。
リンクしてあるのは、East Of Edenの『Evolve』。
元〈predia〉の湊あかねと、『BanG Dream!』シリーズの〈Morfonica〉でヴァイオリンを担当していたAyasaをフロントに、最近、海外人気の高いJapanese Female Bandを結成するプロジェクト。
Ayasaは声優ではなくヴァイオリニストとして『BanG Dream!』に参加しキャラクターの声も担当したタイプですが、
『アイドル声優の何が悪いのか?』第3章でも
近年で増えた業務でいうと、楽器の練習とSNS運用とネット配信があるでしょうか。とあり、今の若い声優はミュージシャンとしての素養も必要になっているのですから大変な仕事です。
スタイルキューブでは楽器を無理にやらせることはありませんが、業界的には事務所が主導したり、もしくは個人の意思で、戦略的にひとつくらいは楽器をこなせるようにするケースは増えていると感じます。楽器を使った作品も多くなりましたし、そうすることで、請けられる仕事の幅を広げられる。そういったところを意識することも、業務の一環になっている印象はあります。音楽に関係したことだと、ダンスが得意な方もかなり増えました。