Mike Nockというピアニストの名を知ったのはThe Fourth Wayといバンドのアルバムを手に入れた時であった。Jazz Rock関係の音盤を手当たり次第に漁りまくっていた頃、意味深なバンド名と4人のMusicianが笑顔をふりまくジャケットに妙に違和感を覚えつつ手に入れたのだが、当時はそれほど夢中になることはなかった。Michael Whiteが弾くViolinをFeatureして殆どの楽曲を手掛けるLeaderのMike Nockがエレピを弾いているのであるが、自分がそれまでに耳にしたViolin、エレピ入りのJazz Rock超絶名盤の数々の衝撃度があまりにも強すぎたのかもしれない。ベースのRon McClureとドラムスのEddie Marshallは共にお気に入りのMusicianでリズム隊はご機嫌であったのだが、楽曲としては当時の自分にピンとくるものがなかった。そして、本作と出会うことになり、Mike Nockというピアニストに興味を持つようになった。その頃はECMのアルバムを真剣に次々と聴き始めた頃であった。そのMike NockがECMに唯一残したこのアルバムは、硬質なLyricismとジャケットのように幽玄な世界が描き出された正にECMとしか言いようがない作品。当時、このアルバムをJazzではないと評した人が少なからず存在したのがよくわかる。ジャンルなど全く関係がない、これはECMの作品としか例えようがないのだから。Mike NockはNew ZealandはChristchurchに生まれ、11歳でPianoを習い始め、18歳の頃にはAustraliaで演奏するようになっていた。60年代に渡米しBerklee College of Musicで学び、Yusef LateefのGroupに参加して『Live at Pep's』や『1984』といったアルバムでピアノを弾いている。60年代後半にはエレピ、70年代にはSynthesizerに積極的に取り組み、柔軟性をも持ち合わせた鍵盤奏者ではあるが、本質は唯一のECM作である本作にあるのかもしれない。
『Ondas』はMike Nockが82年にECMからリリースしたアルバム。ベースにEddie Gómez、ドラムスはNorwayが生んだECMには欠かせない独特の世界を持った名手Jon Christensen。
アルバム1曲目は“Forgotten Love”。左手のベースと右手のBlock ChordをまじえたゆったりとしたピアノのRiffで始まり、Eddie Gómezのベースがピアノのフレーズと絡む。MinimalなピアノがHipnoticにずっと鳴り響いていく。Jon Christensenは殆ど叩かずSymbalでアクセントをつけているが、後半にようやく本領発揮でNockの繰り出すフレーズに呼応して盛り上げる。Gómezのベース・ソロは、まあ音数多く、いつもの手癖などが出てはしまうが雰囲気をうまく出してはいる。
タイトル曲“Ondas”は打ち寄せる波のように強弱をつけては浮遊するNockのフレージングに酔いしれる。Steve KuhnやRichard Beirachとも異なる、その硬質な抒情は独特だ。
“Visionary”は静謐で深遠な正にECMらしいNockのPianismが表現されたナンバー。ECM独特の素晴らしい録音がNockの明確なタッチが生み出す抒情的な世界を申し分なく伝えている。
“Land Of The Long White Cloud”は美しく儚い、幾分抒情成分が多い、映像を喚起させる音世界ではあるが、Steve Kuhn同様に安直ともいえる耽美的な抒情に終わらないImaginativeで深遠な世界が繰り広げられている。
“Doors”はChristensenの繊細で思慮深いCymbalとSnareから始まる。NockはMysteriousなChordを刻み、この時点でグイグイ惹きこまれてしまう。Gomezのウネるベースと共にNockは心地良く次々にフレーズを繰り出していく。Gomezのベース・ソロはやはり弾きすぎではあるが、それほど雰囲気を壊していないので良しとしよう。終盤のChristensenのドラミングは素晴らしい。
(Hit-C Fiore)