前のエントリーでは、ついつい表形式にしてしまいがちなPowerPointのシートを、表を使わずにすっきり分かりやすく作成する(しかも翻訳料の節約になる)方法について考えました。今回は、表は表でも、より分かりやすい(訳しやすい)表にする方法について考えてみます。

 

まずはサンプルをご覧ください。

 

 

また編み物の話で申し訳ありませんにひひ 

こちらにもツッコミを入れていきます。

 

 

①: 同じ文言が何度も出てくる

前回の例と同じです。2回目の赤線で消した部分と3回目は不要ですね。

②: 表の内容が1行しかない

表にする必要自体ありませんよね。

③: 見出しと内容が合っていない

前回の例と同じです。「項目」を Item でなく Material と訳すと、ソークラ様から「ご指摘」が入ったりすることがありますので、それに備えて申し送りする手間と時間がかかってしまいます。あと、番号列はやはり不要です。

④: 誰でも知っていることが書かれている

前回の例と同じです。ただ、場合によっては必要なこともありますので、修正例では少しその点を考慮します。

⑤: なんとなく重複している感じがある

必要な情報ではあるのですが、「~を作るときに用いられます」という記述が毎回出てきて煩わしい感じがします(個人の感想です)。できれば重複は減らしたい。

 

それを踏まえて書き直したシートがこちらです。

 

 

① 重複する記述を削除しました。

② 内容に合った分かりやすい見出しに書き直しました。

③ サンプルではただ思いついた順に書いていた各項目を、大きく2つに分類しました。

④ 周知の事実ではあるものの場合によっては必要な記述を括弧書きにしました。

⑤ 用途を項目として新たに設定しました。一目で分かりますね。

⑥ 注意すべき点を強調しました。

⑦ 2文で書かれていた記述を1文にまとめました。

 

⑥と⑦については私の好みですので、単なる提案と捉えていただければと思います。重要なのは①~③と⑤でしょうか。分類と並べ替えを行うだけで、長々と文を書かなくても一目で理解できる表になりました。

 

ちなみにこちらの例だと、前のシートでは387字、後のシートでは268字となります。クライアント様は前回と今回のエントリーのようなことを念頭に置いて執筆していただくだけで翻訳料の節約になリますし、我々翻訳者としても楽に良い訳文を書くことができます。

 

ちなみに、前のシートのような原文を渡すから後のシートのような訳文を上げてくれ、というご依頼は、その分の手間と時間と頭脳がかかるため別途料金を頂戴することになります。ですので、やはり翻訳者としてはクライアント様にも頑張っていただきたい。良い成果物が必要ならできるだけ良い素材が欲しい、そんなことを思いながら毎日作業しています。

 

 

海外経験のほとんどないワタシですが、この数年はありがたいことに日英の案件をいただくことが多く、中でもPowerPointを使ったプレゼン資料やセミナー資料の割合が多くなっています。そういう案件に取り組む中でよく思うことを、(自分の実力はさておき)ちょっと書かせていただきます。

 

さすがに実際の案件や近い分野のネタを上げるわけにはいかないので、趣味の編み物をネタにした例を作ってみました。ここで書くのはあくまでもパワポの書き方のことであり、編み物のことではないので、内容についてのツッコミはご容赦くださいにひひ

 

サンプルとして、よく頂戴する感じのシートをご覧ください。

 

 

パワポで表を挿入すると表示されるデフォルトの表ですね。一見読みやすそうに思えるこのシートですが、翻訳という観点で見るとツッコミどころがたくさんあります。ここではその辺をあえてウザめに盛り込んでみました。

 

というわけで自らツッコんでいきます。

 

①~④: 同じ文言が何度も出てくる

「編み物に必要な道具」が4回も出てきます。タイトルで大きく「編み物に必要な道具と材料」と書いてありますので、4回も言わなくても編み物の道具の話であることは分かります。場合により②はあってもよいでしょうが、③の赤線で消した部分と④は不要でしょう。

⑤: 見出しと内容が合っていない

よく見かけるのが、「番号」「項目」「説明」という列見出しです。

これをそのまま訳すと"Number""Item""Description"などとなりますが、特に「項目」などはざっくりしすぎていて、原文の意図が伝わりません。そこで Item を Tool や Tool name に変えると、ソークラ様によっては「原文と訳語が違うから直せ」というご指摘があったりしますので、それに備えて「原稿の内容を考慮すると“項目”をそのまま訳した“Item”ではコンテキストと合わないため、内容に合わせて“Tool”という訳語を当てました。ご確認ください」という申し送りをすることになり、その手間と時間が余計にかかってしまいますしょぼん

 

というか、そもそもこの列見出しと行見出し自体、不要だと思うのです。特に番号。もっと言えば、表にする必要すらない。もっと見やすく、分かりやすい書き方があるはずです。

⑥: 同じ文言が何度も出てくる

①~④と同じです。

⑦: 誰でも知っていることが書かれている

はさみの用途は普通誰でも知っていることなので、あえて書く必要はありません。普段と違う使い方をすることがあるなら、その都度説明すればよいでしょう。

 

もっと言えば、「説明」列の a) から c) も、他の場所で言及しないのであれば不要です。

 

というわけで、ここまでのツッコミを踏まえて、このシートを書き直してみます。

 

 

① 表ではなく箇条書きにしました。列見出しの文言と行見出しの番号をなくしましたが、十分内容は伝わっているはずです。重複した文言もなくしました。

② ここは分かりやすいように少し文言を補いました。

③ 同じ文言を1ヵ所にまとめました。

④ 元のシートで2文に分かれていたところを1文にまとめました。

 

ずいぶん画面がすっきりしました。すっきりしすぎて逆に少々殺風景なほどです。ですが、「翻訳する」という観点だけで見れば、この方が圧倒的に楽に作業できますし、翻訳後のレイアウトの調整もしやすいはずです。(よくありませんか?訳文がシートの下の方までずずーーーいと伸びてしまってページに収まらないこととか)

 

また文字数の点でも前のシートでは364字、後のシートでは312字となり、当然訳上げの語数も違ってきます。その差にそれぞれの単価をかけてみれば、その分お得になるのがお分かりいただけるかと思います。

 

次のエントリーでは、逆に表形式を使った方が分かりやすい例を書きます。

 

 

今日、ふと思い立ってとある音楽製作ソフトの名前をぐぐったら、昨年末で販売終了してることが判明した。ふーん、なら書いても大丈夫かしら。

 

数年前、お付き合いのある翻訳会社からマニュアルの無償トライアルの依頼がありまして。一応その業界にいたことがあるから声がかかったんだなと思って引き受けたんだけど、原稿を見ておやっと思った。

 

普通トライアルというと、数パラグラフ~1ページくらいの原文を渡されて、これを全部訳してくださいと言われることが多い。さらにその前後の文章も参考用にくれることがある。一方このトライアルでは、別個のパラグラフがいくつか渡されて、そのところどころにマーカーが引いてあり、マーカーの箇所だけを訳せと指示された。変なのとは思ったけど、まあそういうこともあるかと思って訳して送った。結果はなしのつぶて。そのときは他にいい人が見つかったのかと思ってたんだけどね。

 

その翌年か2年後に、別の翻訳会社からまた無償トライアルの話があって、原稿をもらってみたら同じソフトのマニュアルっぽい原文。今度はExcelで、左のセルに原文があり、右のセルに訳文を入力しろと。原文はそれぞれまったくつながりがなく、明らかに必要なところだけ抜き出した感じで。怪しいなあとは思ったが、引き受けちゃった以上しかたないので送った。結果はやはりなしのつぶて。

 

これってまさか、トライアルの体で訳させておいて、その訳文をまんま製品のマニュアルに流用してんじゃなかろうな、とここへ来て思った。で、何度も同じ翻訳会社に頼むとバレるかもしれないからそのたびに発注先変えたりとかして。

 

この音楽製作ソフトはその時点でけっこうバージョンが進んでいたので、アップデートもそんなに大きくはないはず。ちょこっと機能が増えたとか変わったとかの程度なら、安く、いやできればタダですませt(以下略)という考えも想像できなくはないけど、それって詐欺よねきっと。

 

これでもう一度他の翻訳会社からトライアルの話があったら、かくかくしかじかで受けたくない、というか断った方がいいと言うつもりでいたんだけど、そうかー販売終了したのかー残念だなー(゚Д゚)

 

発注元の企業の皆様は決して真似をなさらないようお願い申し上げます。同業の皆様は、変なトライアルの話が来たときはご注意くださいませね。

この業界、他の人が放り投げた案件の尻ぬぐいというのはときどきありますが、先日すさまじいヘルプ要請がありました。

とある筋からの紹介で「元の翻訳者が投げてしまったスペイン語案件を引き受けてくれる人がいないか」という話がきました。で、先方に話を聞いたところ、元の翻訳者は引き受けた分の一部を訳したところでタイムアップ、「これだけしかできませんでした」と送ってきたのだそうです。その残った分量というのがなんと○万ワード。しかも誤訳など絶対に許されない専門性の高い分野で、締切は私が電話を受けた日の前日(!)でした。
 
西日で専門性の高い分野ということを考えると、私が普段請けているITなどよりも多めに日数をいただかないといけない案件です。前の人がどんな条件で請けたのか、請けた後に何があったのかは分かりませんが、もしまともな納期をもらっていてこの状態だとすると、かなり残念ですね(先方と話しながら「うわー、それはやられましたね汗」と思わず言ってしまいました)
 
残念ながら私も別件が入っていて手が空いておらず、お役に立つことはできませんでした。少量ならなんとかできたかもしれませんが、さすがに久しぶりの西日を短期間で○万ワードは無理ですガーン
 
確かにスペイン語は案件も少ないので、話が来たら何でも引き受けてしまいたくなりがちなんですが、言語が何であろうが、引き受けるときは自分の能力的・時間的キャパをきちんと見極めた上で引き受ける、いったん引き受けたらなんとしてでも締切までに仕上げる、そしてもし仮に雲行きが怪しくなってきたらすぐにエージェントに連絡して対策を考えてもらう、プロならそのくらいのことはしたいものです。
 

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明けましておめでとうございます。今年もNearly開店休業中のこのブログをよろしくお願いします。

 

2016年は、というか2016年も、全体的には停滞気味の1年でした。その上、秋頃に仕事じゃないところでかなりクリティカルな失敗をしてしまい、それが今まで尾を引いています。2017年はまずそのリカバリーで幕を開けました。

 

今年は大きな目標は立てずに行こうと思います。この数年、年頭に大風呂敷を広げたときに限ってその後に大きな落とし穴が待っていたりするので、高望みはせず、日々の小さな幸せを楽しみに、粛々と仕事に精を出す所存です。

 

春の翻訳フォーラム大オフくらいは行けるといいな…( ゚-゚)