そーす太郎の映画感想文

そーす太郎の映画感想文

しれっとネタバレしたりするんで気をつけてください。



  ​バービー





全員にとってのユートピアは存在するのか




何かと話題になってたバービーですが、とにかく撮る映画全部ベスト級みたいなグレタ・ガーウィグ新作ということで楽しみにしてました。

個人的な好みとして、グレタ作品の中ではもっと好きな作品はあるんだけど、でも一貫したグレタ・ガーウィグの精神性みたいなものがとても感じられて、今バービーが作られたのは必然だったなと思ったりしまして、とてもおもしろかったです!この映画が記録的なヒットをしたことで恐らく未来永劫グレタ・ガーウィグは好き勝手に映画が撮れることが確定したと思います。これが何よりも嬉しい!

どういう経緯でこの作品の企画が進んだかはわかりませんが、「バービー人形で映画を撮れ」というお題からここまで映画を持って来れるのが本当に凄いなと思いました。観てみると割と正統派なSFというか、ディストピアSF とカルチャーギャップコメディをベースに鋭い批評性と満点のユーモアと皮肉を込めた映画になっててすごかったです。

人形の世界と人間の世界が実は繋がっていて、ウィル・フェレルも出てるしで、ロード&ミラーの傑作「レゴムービー」とかを思い出したりもしました。これがあってのウィル・フェレルのキャスティングなのかしら。

色んな映画のオマージュがありましたが、何より掴みの2001年宇宙の旅のパロディが凄い優秀でした。バービー人形がいかに革新的だったのか、むちゃくちゃ説明できてるし、それまでの人形遊びと何が違ったのかというのが我々バービー弱者にも2001年を引用することですごくわかりやすく説明されてたなと、あとヴィジュアル含めおもしろかったです。

まあなんやかんやあって主人公が行って帰る物語なわけですが、この映画のすごいなと思ったところは、誰かにとってのユートピアは誰かにとってのディストピアであるという点だったりしました。観た時にディストピアSFだなと思ったのはここで。

では全員にとってのユートピアはどうやって作るんだろう、それは「わからない」と主人公にクライマックスで言わせるあたりが、とても真摯な映画だと思いました。最初のバービーランド、人間界、ケンが支配するバービーランド、価値観が違って、誰かにとってはユートピアではあるけど、その影には粗野にされてる人も出てくる。この価値観が二転三転する感じがすごく良かったです。

一見女性が大活躍だった最初のバービーランドだけど、でもこれって本当にいい世界だったのか?というところまで行くのが、映画として強いなと思いました。映画自身が、自分自身の価値観をひっくり返して観客に考えさせるような、そんな社会的な思考実験を体験できたようなそんな映画でしたし、そここそがものすごく正統派なSFだなと感じた点だったりしました。おもしろかったです。

あと、ラストに婦人科にいくのとかすごい良かったんだけど、そこに繋がってくる繰り返されてた「つるぺた」という字幕。正しくは「ヴァギナがないの!」だと思うんだけど、なんか「つるぺた」でぼやかした結果、まじで途中まで「パイパン」のことかと思ってたっていう友達がいて笑いました。字幕はぼやかさず意図通りにつけよう!しかも文脈上めっちゃ重要なところやん!