孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

気候変動  影響で紛争増加 「気候正義」を求める途上国 対策不十分な政府は「人権侵害」

2024-04-18 23:18:24 | 環境

(アラブ首長国連邦(UAE)ドバイの冠水した道路(2024年4月17日撮影)【4月18日 AFP】
これも気候変動の影響か?)

【様々な事象と気候変動の関連性は?】
個々の異常気象・災害が長期的な温暖化に起因する気候変動に関係するものかどうかは素人的にはなかなか判断が難しいところもあります。

昨年6月以降、10か月連続で記録が更新されている気温上昇はおそらく温暖化によるもののようです。

****「史上最も暑い3月」 10か月連続で記録更新*****
欧州連合の気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」は9日、先月が観測史上で最も暑い3月になったとし、2023年6月以降、10か月連続で記録が更新されていると発表した。

C3Sによると、先月の世界の気温は、1850〜1900年(産業革命前)の3月の平均気温を1.68度上回った。
アフリカからグリーンランド、南米、南極まで、世界の広い地域で平均を上回る気温が観測された。 【4月9日 AFP】
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“C3Sのサマンサ・バージェス副所長はロイターに、「異常な記録が長期的な傾向となっており、非常に懸念している。このような記録が毎月続くことは、気候が急速に変化しつつある事態を示している」と述べた。”【4月9日 ロイター】 

いろんな事象はある限界を超えると変化が一気に加速することがよくありますが、そういう限界が近づいているのでしょうか。

ロシア・カザフスタン国境で起きた大洪水は、地球温暖化現象とは直接は関係がないとのことです。

****ロシア、カザフスタン:洪水により10万人以上の住民が安全な場所に避難する*****
『フランス24チャンネル』4月10日付けでは、ロシアやカザフスタンの洪水のピークにはまだ達していないがウラル山脈地域や西シベリアの多くの地域では記録的な洪水の被害が起きていると伝えている。そのため、10万人以上の住民が避難生活を余儀なくされているという。

ロシア大統領府のドミトリ・ペスコフ報道官は、4月10日、テレビを通じて「現状はかなり緊迫している。備えは不充分で、水位は上がり続けている。 ウラル山脈周りと西シベリアの多くの地域は記録的な洪水にみまわれている。」と伝えた。

カザフスタンとロシアで起きている洪水は、気温上昇による大雨の発生、雪解け水の増加、さらに河川を覆っていた氷が解け始めたことが相重なったためで、地球温暖化現象とは直接は関係がないという。【4月11日 JCC】
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砂漠の国UAEなど中東地域での大雨は、最近行われている人工降雨の影響ではないかとの話もあるようですが、専門家の話では人工的なものではなく、やはり地球温暖化などの気候変動のひとつと見るべきということのようです。

****“1日で1年半分の雨”街に襲来 空港も大規模冠水「人生で初めて」****
■空港も大規模冠水「人生で初めて」
中東・アラブ首長国連邦を襲った暴風雨。ドバイ国際空港では駐機場が冠水し、まるで湖のように…。24時間雨量は142ミリを記録。平年の年間降水量が94.7ミリのため、一日で1年半分の雨が降ったことになります。

この国で観測が始まった1949年以来、最大となる記録的な大雨によって各地で洪水や冠水が発生。(中略)
週末からアラビア半島で続いていた嵐。なぜ、ここまでの大雨となったのでしょうか。

UAE国立気象センター アルナクビ上級予報官
「もし、人工的に雨を降らせようとしたなら、その影響はあっただろうと思います」

可能性の一つと指摘されているのが「クラウド・シーディング」。“雲の種まき”です。
雲の中に氷の核となる物質を放出。人工的に雨を降らせる技術で、干ばつや水不足対策としてUAEなど中東の国々で利用されています。しかし、今回の嵐が来る前はこの試みは行われていなかったということです。

そこで考えられるもう一つの原因が…。

気候学者 コリーン・コルジャ氏
「今回は気候変動によって、嵐の勢力が過剰に増強された可能性が高い」 「地球温暖化などの気候変動が多くの異常気象が引き起こしている」。専門家たちは警告しています。【4月18日 テレ朝news】
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分かりやすいところでは、暑くなれば熱中症が増える・・・まあ、それはそうでしょう。

****熱中症搬送者、40年に倍増予測 3都府県で、名工大チーム****
地球温暖化による気温上昇が続き、2040年に世界の平均気温が産業革命前より2度上昇すると仮定すると、夏場の熱中症による救急搬送者数が東京、愛知、大阪の3都府県で10年代と比べて倍増するとの試算を、名古屋工業大などのチームが18日までに発表した。救急医療の逼迫が懸念されるとしている。

チームは、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最も気温上昇が高いシナリオに基づき、3都府県の気温を算出。熱中症の搬送者数を予測した。(後略)【4月18日 共同】
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おそらく感染症などの地域分布も変わるのでしょう。デング熱など、これまでは熱帯地域特有の病気とされていたものがその他の地域にも拡散することになるのでしょう。

【気候変動による被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルとの予測も】
気候変動の影響は災害、農業など経済、健康など多岐にわたりますが、分かりやすい指標として金額換算すると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達するとの報告が。

****気候変動の被害、2050年までに年38兆ドルか=独研究所****
ドイツ政府の支援を受けているポツダム気候影響研究所(PIK)が17日発表した報告書によると、気候変動による農業やインフラ、生産性、健康への被害総額は2050年までに推計で年間38兆ドルに達し、人類が排出する温室効果ガスの量が増えるにつれ、さらに被害額が膨らむことがほぼ確実と分かった。

気候変動の経済的影響は完全には理解されておらず、エコノミストの間では頻繁に見解が分かれる。PIK報告書は深刻さで際立っており、今世紀半ばまでに国内総生産(GDP)が世界規模で17%落ち込むと試算している。

報告書の共著者レオニー・ウェンツ氏は「気候を守ることの方が、気候を守らないよりも格段に安上がりだ」と述べた。

報告書によると、2050年までに産業革命前からの気温上昇を2度以内に抑える地球温暖化対策には推定6兆ドルの費用がかかるものの、対策を怠って2度超上がった場合の推定損害額の6分の1未満にとどまるという。

従来の研究では、気候変動は一部の国の経済に恩恵をもたらす可能性があると結論づけられていたが、今回のPIK報告書では、ほぼすべての国に被害をもたらし、最も大きな打撃を受けるのは貧しい発展途上国であることが判明した。

ただ、各国政府は排出量を抑制するための歳出が少なすぎるだけでなく、気候変動の影響に適応するための対策費も不足している。

今回の報告書に至る研究過程では、過去40年間の1600以上の地域の気温データと降雨量を調べ、どの事象が被害をもたらしたかを検討した。

さらに、その被害評価と気候モデルの予測を使用し、将来の被害を推計した。それによると、排出量が現在のペースで続き、産業革命前からの気温上昇が平均で4度を超えた場合、経済的損失は2050年から2100年までに推計60%の所得損失に達することがうかがわれる。気温上昇を2度以内にとどめると、所得損失は平均20%に抑え込める可能性がある。【4月18日 ロイター】
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【気候変動がもたらす紛争増加 「気候正義」を求める途上国】
単に経済的に大きな損失を被るだけでなく、気候変動は資源の減少を通して、その稀少となった資源の奪い合いという紛争を多発させることが予想されます。

****アフリカの異常気象による「最悪のシナリオ」が現実に… 気候変動→資源減少→紛争増加 日本も他人事ではいられない****
2023年11月下旬、アフリカ・ケニア東部のトゥーラ近郊。取材のため車で通りがかった私は、赤茶色の濁流を前に立ち往生していた。(中略)

この場面だけ見れば一地域の大雨被害と思われるかもしれない。しかし、ここから北西に約400キロ、東京―大阪間ほどしか離れていないエリアでは、前年のこの時期は干ばつに見舞われていた。しかも、国連が「過去40年間で最悪」と評したほどのひどさ。ケニア・ソマリア・エチオピアの国境が接する一帯は23年前半まで苦しんだ。

それが一転して、その年の後半からは水害が多発している。ロイター通信は、ソマリアでは70万人以上が洪水で家を追われたと報じた。

地球各地で見られる気候変動。アフリカでは近年、異常気象による災害が顕在化。乏しい資源を奪い合って紛争が増えるという「最悪のシナリオ」も危ぐされている。現地では何が起きているのか。

▽ウクライナ侵攻の裏で進む食料危機
ロシアのウクライナへの全面侵攻開始が世界の目を集めていた2022年2月下旬、ケニア北部マルサビット郡には深刻な食料危機が直撃していた。

「食べ物がほしい」  車を走らせると、やせ細った子どもたちが訴えかけてくる。文字通り「不毛の大地」に、衰弱して息絶えた家畜の死骸が散在していた。

ケニアの「国家干ばつ管理機関」でマルサビットを担当するマモ・イサコさん(29)は恨めしそうに空をにらんだ。 「最後に雨が降ったのは昨年4月です」 家畜をはぐくむ緑はうせ、乾いた黄土色の砂地がかなたの山裾まで続いていた。(中略)

干ばつでも、地下水をくみ上げたり雨が豊富な遠方から輸送したりして、マルサビットの住民は渇きから逃れていた。だが、飢えは深刻だ。集落の副首長アンドリュー・レマロさん(34)は、食料危機が起きるメカニズムをこう説明する。

「集落の住民のほとんどは放牧をなりわいとしてきましたが、干ばつで牛やヤギ、ラクダといった家畜の餌となる植物が集落の周辺に生えなくなりました。家畜を避難させるため、集落の男たちはまだ植生がある100キロ以上離れた餌場まで家畜を連れて行ったきり、半年近く戻りません。集落に家畜がいなくなった結果、女性や子どもの栄養源となるミルクや肉が手に入らなくなったのです」

▽気温上昇が多様な被害に 
気候変動は、国連によると1800年以降は主に人間活動によって引き起こされた。化石燃料(石炭、石油、ガスなど)の燃焼によって温室効果ガスが発生し、気温が上昇する「地球温暖化」が問題視されている。

気温上昇によってもたらされる被害は多様だ。国連はまずこう説明する。
「気温が高い状態が長期化すると、気候のパターンが変化し、通常の自然界のバランスが崩れる」 

その上で、世界的に嵐や干ばつの被害が増えていると指摘する。
気候変動の影響は日本も含め世界に及ぶが、堤防やかんがい設備といったインフラの乏しいアフリカは異常気象への耐性が弱く、被害がより甚大になることが予想されてきた。

2023年にはアフリカ各地で大規模な水害が発生。2〜3月には、1カ月以上にわたり勢力を保ったサイクロンが南部のマラウイやマダガスカル、モザンビークを直撃。多数の死者が出た。北部リビアでも9月に大規模洪水で約4千人が死亡している。

▽紛争増加の原因にも…
気候変動に対して脆弱な国は一般的に貧しく、これまでも食料や水の不足がたびたび問題になってきた。こういった国では気象災害の増加で資源がさらに希少になり、紛争が増加するとの懸念も高まる。

国際通貨基金(IMF)はアフリカの貧困国を念頭にした予測を公表している。 「最悪のケースでは2060年までに、一部の国で人口に占める紛争犠牲者の割合が14%増える」(中略)

▽「不公平ただせ」、いらだつ途上国
気候変動対策を話し合う国際会議などでは近年「気候正義」というキーワードをよく聞くようになった。簡単に言い換えると次のようになる。

「気候変動が進んだのは長期にわたり温室効果ガスを大量排出してきた先進諸国の責任だが、甚大な被害を受けているのは発展途上国だ。この不公平をただそう」

貧困国が多いアフリカではとりわけ、気候正義を意識したような発言が聞かれる機会が増えた。
 「空っぽな約束だけで傍観してきた」(赤道ギニアのヌゲマ大統領)
 「連帯と信頼を崩す」(タンザニアのサミア大統領)

アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで2023年11〜12月に開かれた国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)。首脳級会合ではアフリカ各国首脳から先進国へのいらだちをあらわにする言葉が相次いだ。

背景にあるのは、先進国側の姿勢に対する怒り。2020年までに低所得国に、気候変動対策資金を年1千億ドル拠出すると先進国側は約束していたが、守られなかった。

中央アフリカのトゥアデラ大統領は「アフリカは第一の被害者だ」と断言し、先進諸国に対して、アフリカの気象災害に対する補償を求めた。

COP28で補償は議題にならなかったが、一方で「損失と被害」基金の運営ルールが採択された。この基金は、気候災害に見舞われた途上国に対する復興支援に当てられる。

気象災害激化という現実を前に、国際社会では気候変動対策について、アフリカ諸国を始めとした途上国の意見をより真剣に聞かなければならないという雰囲気がこれまで以上に強まってきたようだ。【4月18日 47NEWS】
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途上国は対策を講じるにために必要な資金がありません。もし必要な資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあります。

****発展途上国は気候変動対応で債務不履行の恐れ=米大学報告****
ボストン大学グローバル開発政策センターなどは14日公表した報告書で、発展途上国は今年の利払いを含む対外債務返済額が過去最大の4000億ドルに達すると予想、50カ国近くは向こう5年間にわたり気候変動対応や持続可能な開発に必要や資金を投じれば債務不履行(デフォルト)に陥る恐れがあるとの見方を示した。(中略)

発展途上国47カ国は温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の2030年の目標達成に必要な資金を拠出すると、対外債務が今後5年以内に国際通貨基金(IMF)が定める返済不能の状態に陥るという。また19カ国は返済不能までには至らないものの、流動性が不足して歳出が目標を達成できなくなり、支援が必要になるという。

ボストン大学グローバル開発政策センターのディレクター、ケビン・ギャラハー氏は「発展途上国の債務負担は非常に重く、現在の債務状況を考えると、そのような資金調達に動けば(債務不履行に向かって)進みかねない」と述べた。【4月15日 ロイター】
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【欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」】
残された時間は少ない・・・というのはいつも言われる話。

****温暖化から地球救う猶予「あと2年」、国連高官が対策強化訴え****
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は10日、地球温暖化が政治家の課題から抜け落ちているとし、気候変動の大幅な悪化を回避するのに各国政府と企業幹部、開発銀行に残された猶予はあと2年だと述べた。

極端な気象や熱波の爆発的発生を防ぐために気温上昇を1.5度以下に抑制するには、2030年までに温室効果ガス排出量を半減させる必要があるとされる。しかし、昨年に世界で排出されたエネルギー関連の二酸化炭素量は過去最高を記録した。

現状の取り組みでは30年までに排出量はほとんど抑制されないとみられている。(後略)【4月11日 ロイター】
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スティル氏は「温室効果ガス排出を大幅に削減できるチャンスはまだある。だが、さらに強力な計画が今必要だ」とも語っていますが、私は確信をもって悲観的です。

人間は漠然とした将来の不安のために目の前の利害を犠牲にできるほど賢くありません。気付いたときにはすでに後戻り出来ない所に立っているでしょう。

賢くないのであれば、訴えてでも無理やりにでも・・・

****欧州人権裁判所、スイス政府の気候変動対策は「人権侵害」と初判断 各国に影響も****
欧州人権裁判所(フランス・ストラスブール)は9日、スイス政府の不十分な気候変動対策が人権侵害にあたるとする判決を下した。欧州メディアによると、欧州人権裁が政府の気候変動対策の責任を指摘する判断を示したのは初めて。

スイス政府は上訴できず判決に従う義務があるため、気候変動対策の強化を迫られそうだ。

会員2千人超の高齢女性の団体が、スイス政府が気候変動対策を十分にしなかったとして欧州人権裁に提訴。気候変動による熱波で健康や生活の質が損なわれ、死亡するリスクがあると主張していた。

スイスメディアなどによると、欧州人権裁はスイス政府が過去の温室効果ガス削減目標を達成していないなどとして「将来の世代がますます深刻な負担を負う可能性が高いことは明らかだ」と指摘した。十分な気候変動対策を講じなかったことにより、欧州人権条約が定める「私生活と家族生活の尊重を受ける権利」が侵されたと結論づけた。

ロイター通信によると、スイス政府の代表は「判決を分析し、スイスが今後どのような措置をとるか検討する」とした。今回の判決が適用されるのはスイス政府だけだが、欧州各国の気候変動対策にも影響を与えそうだ。人権侵害を基にした気候変動訴訟が欧州全体で増加する可能性もある。

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんは欧州人権裁の判決を称賛し、「これは始まりに過ぎない。私たちはもっと闘わなければならない」などと訴えた。【4月10日 産経】
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スーダン  武力衝突から1年 国連の仲介・支援活動の限界

2024-04-17 23:51:46 | スーダン

(スーダン北東部ポートスーダンで撮影に応じる正規軍兵士ら=2023年4月(AFP時事)【4月16日 時事】
正規軍兵士には見えませんが、双方のこうした「兵士」が戦っているのが実態でしょう)

【スーダン武力衝突1年 国民の6人にひとりが避難民となっており、パレスチナ・ガザの5倍】
「忘れられた紛争」スーダン内戦については、3月29日ブログ“スーダン内戦  「忘れられた紛争」で拡大する被害 「代理戦争」の側面も 武器としての性暴力”で取り上げました。

スーダンでは、昨年4月15日、国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突が発生して、今もなお続いています。

「忘れられた・・・」というのは、“推計で約1万5000人が死亡し、家を追われた避難民の数はガザの5倍近い約830万人に上る。ところが米国やロシアといった大国の思惑があまり絡まないこともあり、国際社会の関心は低いままだ。”【4月8日 毎日】という事情。

そのスーダン内戦も1年が経過した節目ということで各メディアが取り上げています。

****スーダン武力衝突1年 戦闘続く “820万人が住む場所追われる”****
(中略)
戦闘は首都ハルツームやその周辺などで続いていて、国連は世界の紛争地のデータを集めているNGOの数字として、先月上旬までに1万4790人が死亡したとしていて、犠牲者はさらに多いおそれがあると指摘しています。

また、OCHA(国連人道問題調整事務所)によりますと、少なくとも820万人が住む場所を追われ、このうち170万人以上が国境を越えてエジプトやチャドなどの周辺国で避難生活を余儀なくされています。

日本を含む各国の大使館や国連機関などは安全を確保できないとしてハルツームから退避していて、現地の実情の把握も難しくなっています。

WFP(世界食糧計画)は、スーダン国内では1800万人が深刻な食料不安を抱え、5歳未満の子どもおよそ380万人が栄養失調に陥っているとしています。

一方で、パレスチナのガザ地区やウクライナの情勢などに国際社会の目が向けられるなか、スーダンへの支援にことし必要な27億ドルのうち、集まったのはわずか6%にとどまっていて、国連は人道状況がさらに悪化しかねないとして各国に支援を訴えています。

スーダン武力衝突 1年の経緯
スーダンでは2019年に独裁的な長期政権が崩壊したあと、民主化への模索が続いたものの、2021年に軍がクーデターを起こして実権を握りました。

その後、軍の傘下にある準軍事組織のRSFが軍の再編などに反発し、去年4月15日、首都ハルツームや国際空港などで激しい衝突が発生しました。

軍事衝突が拡大する中、各国が自国民を退避させる動きが広がります。

日本も自衛隊機を派遣し、4月24日には日本大使館やJICA(国際協力機構)、それに支援団体などの関係者やその家族あわせて45人が東部の都市ポートスーダンから自衛隊機でジブチに退避しました。

国連のほかエジプトやサウジアラビアなど周辺国が停戦や和平交渉を呼びかけていますが道筋はたっておらず、1年たったいまも現地では戦闘が続いています。

このため教育や医療など社会基盤の崩壊が進み、人道危機が深まっていて、国連はおよそ4800万の人口の2人に1人が人道支援を必要としているとしています。

ただ、多くの支援関係者が退避を余儀なくされたほか、治安の悪化で支援を届けるのは容易ではなく、周辺国に逃れた避難民の支援も含め厳しい状況が続いています。

支援活動のNPO「現地に目を向けて」
武力衝突から1年となるのにあわせ、現地で支援活動をしてきた日本の団体などがオンラインの報告会を開き、人道危機が深まる現地への支援と関心の継続を訴えました。

今月9日に行われた報道機関向けの報告会にはスーダンへの支援活動を続けてきたNPOの「ロシナンテス」と「難民を助ける会」の職員などが参加しました。

スーダンでは、いまも軍と準軍事組織の戦闘が続き、人道危機が深まる一方、治安への懸念などで支援活動は困難に直面しています。

このうち医療や教育の支援を行ってきたロシナンテスは遠隔の支援を続けスーダン北部の2600人以上が身を寄せる3つの避難所で衛生環境の改善を目指してトイレなどの整備を進めることにしています。

ロシナンテスの川原尚行理事長は「単独での活動は難しいですが、国連機関などとともに現地に戻れないか調整を続けています。気持ちとしては年内にでも戻りたいと思っていますが、治安状況によるので情報収集を続け、判断したいです」と話していました。

また、「難民を助ける会」の職員でウガンダから支援を続ける相波優太さんは、スーダンにとどまる現地スタッフを通じて避難民に食料配付などの支援を行っていることを紹介しました。ただ、スタッフ自身も何度も避難を余儀なくされ、厳しい状況に置かれていると話していました。

相波さんは「情勢が安定したら、感染症対策事業なども再開したいと思っています。メディアにも関心をもってもらい、現地で何が起きているのか少しでも多くの人に目を向けてもらいたいと思います」と訴えていました。【4月15日 NHK】
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避難民が820~830万人・・・パレスチナ・ガザの5倍、総人口(約4810万人)のおよそ6人に1人に当たります。

【欧米は20億ユーロの支援表明】
国際社会も“見捨てた”訳ではない・・・ということで、飢餓寸前に陥った数百万人れを支援する国際会議がパリで開催され、20億ユーロ(21億3000万ドル)の支援が表明されてはいます。

****スーダン内戦1年、欧米諸国が飢餓対策で20億ユーロ支援表明****
アフリカ北東部スーダンで政府軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘が始まって1年となる15日、飢餓寸前に陥った数百万人を支援する国際会議がパリで開かれ、フランスのマクロン大統領は支援総額が20億ユーロ(21億3000万ドル)を超える規模に上ることになったと表明した。

会議はフランスとドイツが共催し、両国はそれぞれ1億1000万ユーロと2億4400万ユーロの拠出を確約。欧州連合(EU)は3億5000万ユーロ、米国は1億4700万ドル、英国は1億1000万ドルを約束した。

これまでのスーダン向けの国際的な人道支援は、戦闘継続や紛争当事者側からのさまざまな制限に加え、パレスチナ自治区ガザやウクライナなど他の地域で起きている危機に対する支援の需要も生じている影響で、思うように進んでいない。

マクロン氏は会議の締めくくり演説で、紛争解決と紛争当事者への外国からの支援を停止するため国際協調の必要性を強調。「残念ながら、われわれが本日躍起になって集めた額は、戦争が始まって以来、複数の国が紛争当事者同士の殺し合いを手助けするためにかき集めた額よりも恐らく少ないだろう」と述べた。

国連の専門家らは、アラブ首長国連邦(UAE)がRSFに武器支援を実施したとの疑惑に信憑性があると述べている。一方で、複数の情報筋はスーダン軍がイランから武器を受け取ったと述べている。ただ、紛争当事者双方はそうした報道を否定している。

スーダンのインフラは機能不全に陥り、避難民は850万人を超えている。ドイツのベーアボック外相は「即座に協力し合えた場合にのみ、大規模な飢餓を回避できる」と発言するとともに、事態が最悪となる場合は今年中に100万人が餓死する恐れがあると付け加えた。

スーダン国内では2500万人が支援を必要としており、国連は今年27億ドルのスーダン向け支援を要請。また、数十万人の難民を受け入れている近隣諸国への支援として別途14億ドルの支援を求めている。【4月16日 ロイター】
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もちろん内戦状態を止めることが第一ですが、20億ユーロが実際に飢餓に直面している人々の救済に使われるなら大きな助けにはなるでしょう。ただ、(本当に拠出されたとしても)戦闘状態にあるなかで現実にどのように運用されるのか・・・。

【「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」】
グテレス国連事務総長はスーダンでの民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告、一方で、「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明しています。

****国連総長、無差別攻撃は「戦争犯罪」 スーダン戦闘1年****
スーダンで正規軍と準軍事組織の戦闘が始まって15日で1年となったのに合わせ、アントニオ・グテレス国連事務総長は同日、民間人への無差別攻撃は「戦争犯罪や人道に対する犯罪」となり得ると警告した。

スーダンでは昨年4月、正規軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力衝突が勃発。グテレス氏は報道陣の取材に応じ、これまでに1万人以上が死亡しており、1800万人が飢餓に直面しているとし、「これはもはや二つの勢力間の紛争にとどまらず、スーダンの人々に対する戦争となっている」と語った。

その上で、「民間人を無差別に攻撃して殺傷したり、恐怖に陥れたりすることは戦争犯罪や人道に対する犯罪に該当し得る」と強調。特に成人女性や少女に対する性暴力、援助物資を積んだ車両への攻撃を非難した。

また、北ダルフール州の州都エルファシェルでの情勢不安と人道状況の悪化に懸念を表明した。 【4月16日 AFP】******************

****スーダンへの関心低下 国連危機感、戦闘1年****
国連のグテレス事務総長は(中略)中東情勢などに各国や市民の関心が移り「世界がスーダンの人々を忘れようとしている」と危機感を表明した。

グテレス氏は、1800万人が飢餓に直面し、2500万人が支援を必要としていると指摘。「スーダンの人々が熱望する平和で安全な未来への呼びかけをやめるつもりはない」と述べ、双方に戦闘停止を求めた。【4月16日 共同】
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【昨年末に民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了】
しかし、現実には「忘れようとしている」のは国連も同じ・・・と言ったら言い過ぎでしょうが、国連のスーダンへの関与も低下しています。
国連安保理は昨年末、民主化を支援する国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の活動終了を決めています。

これは国連と緊張状態にあるスーダン政府からの要請に基づくものであり、国連は、「国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ。人道・開発支援を提供する国連の国別チームはスーダンにとどまる」とはしていますが、危機が継続・深刻化するなかで関与の低下は否めません。

****安保理、国連スーダン・ミッションの終了を決議****
1日、国連安全保障理事会は、スーダンにおける国連ミッションの任務終了を決議した。理事会15カ国のうち14カ国が決議案に賛成、ロシアは棄権した。

同決議案は、国連スーダン統合移行支援ミッションに対し、12月4日から活動の縮小を開始し、その任務を他の国連機関に移管するよう求めるものだ。可能であれば、2月までに移管を完了させることを目標としている。その後、3月1日にミッションの閉鎖を開始する。(中略)

国連スーダン派遣団とスーダン当局との関係は、紛争勃発以来、緊張状態にある。5月、(スーダン政府軍を率いる)アル・ブルハン氏はアントニオ・グテーレス国連事務総長に書簡を送り、当時グテーレスのスーダン担当特別代表だったフォルカー・ペルテス氏の交代を要求した。

国連がペルテス氏を擁護すると、アル・ブルハン氏は彼を「ペルソナ・ノン・グラータ」に指定した。関係が悪化の一途をたどるなか、ペルテス特使は9月、スーダンの外から効果的に仕事を遂行することは不可能だとして辞任した。

それ以来、スーダンの国連ミッションは、ポートスーダンに駐在するクレメンタイン・ンクウェタ・サラミ副特別代表兼スーダン常駐・人道調整官の指導の下にある。

先月開かれた安全保障理事会で、スーダンのアルハリス・イドリス・モハメッド国連大使は、スーダンの国連ミッションの閉鎖を求める自国の決定を伝えた。スーダン外務省は、現在の状況を鑑みると、同ミッションはもはやスーダン国民と同国政府の望みに沿うものではない、と述べた。

米国のロバート・ウッド特別政治問題担当代表代理は、1日の安保理決議後、理事会に対し、同国は「ミッションの安全かつ秩序ある撤退」を可能にするため決議案に賛成票を投じたが、スーダンにおける国際的プレゼンスの低下は「残虐行為の加害者を増長させるだけであり、民間人に悲惨な結果をもたらす」と引き続き懸念していると述べた。

同氏は「UNITAMSの活動は、現在進行中の紛争、残虐行為、人権侵害や虐待、数千万人のスーダン人に対する悲惨な人道的状況、地域の安全と安定を脅かす波及リスクの増大を考慮すれば、全ての面で極めて重要である」と付け加えた。

11月30日、ステファン・デュジャリック国連報道官は次のように述べた。「国連がスーダンから撤退することはない。私たちは、戦争の終結、人道支援の促進、文民統治への移行の回復を目指し、全ての努力を継続する」

「政治ミッションがどうなっているかにかかわらず、スーダンには人道支援に携わる仲間が大勢残っており、人道支援を切実に必要としている人々を支援していることを忘れてはならない」。「そのため、国連がスーダンから撤退するというのは、事実誤認だ」【2023年12月2日 ARAB NEWS】
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国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)は国連平和維持活動(PKO)ではなく、国連特別政治ミッション(Special Political Mission: SPM)です。

“PKOは軍事・警察の部隊派遣を伴い、時には国連憲章第7条に基づいた武力行使も用いて文民保護、治安回復、和平合意実施を行うが、SPMの主眼は紛争予防や和平合意の締結、選挙支援、平和構築など政治的プロセスに特化している”【2023年7月7日 中谷 純江氏(一橋大学講師 国際連合平和活動 安全調整担当官) IINA“国連特別政治ミッションはPKOの代替案となりうるのか――マリからのPKO撤収で問われるスーダンの教訓”】という目的の違いがあります。

現実にはPKOに比べ、SPMはコンパクトな活動になります。

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SPMはPKOより費用対効果の良いオプションと捉えられる傾向にある。またホスト国においては、国連憲章第7条の(武力行使)可能性が視野に入るPKOを避けてSPMという形でのみ国連ミッションの受け入れを容認する場合もある。

よって政治ミッションとは言っても武装解除(ネパール、コロンビア)や停戦監視(イエメン、リビア)などの軍事・警察機能を兼ね備えるSPMも増えてきた。またイラク、リビア、ソマリアなどの危険地帯で展開しているSPMでは安全確保のために警備部隊(Guard Unit)も展開している。

しかしながら、概してSPMの規模はPKOの10分の1程度で、アフガニスタン・UNAMAやイラク・UNAMIの規模で予算がつくミッションは稀である。”【同上】
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イメージ的には、国内の内戦状態・混乱にPKOで対処し、混乱が一定に収まった段階で、新たな統治体制確立をサポートするSMPに移行する・・・といったところでしょうか。

しかし、現実にはスーダン・ダルフールで活動してたPKOの国連・アフリカ連合合同ミッション(UNAMID)がはスーダン政府の要請に基づき撤収することになり、選挙や憲法改正などの権力移譲措置の実施、またダルフールのみならず南スーダンとの国境地域での紛争解決など広い委任権限がSPMの UNITAMSに与えられました。

当初から人員的にも非常に厳しいものがありました。
“縮小しながらもダルフールで文民保護にあたっていた(PKOの)UNAMID(2019年段階で要員7000人前後が13箇所に展開)の撤退と(SMPの)UNITAMSへの引き継ぎも定められた。この全国規模の新ミッションは首都ハルツーム以外では地方事務所7箇所で総勢250名というスリムな形で発足した。国連財政状況の厳しさから当初のミッションコンセプトを3分の1まで削らざるを得なかったからである。”

準軍事組織の存在は引継ぎ当時から懸念されてはいましたが、その懸念が現実となり政府軍と準軍事組織の間で紛争が勃発、SMPのUNITAMSは事態に対処することもかなわないなかで、スーダン政府の要請により撤退を余儀なくされた・・・というのが現実です。

SMPとしての国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の失敗と言うより、現実世界において国連が果たしうる役割の限界を示している・・・と言うべきでしょうか。

【リビアでも 国連リビア特別代表が辞意】
スーダン以上に最近情報が少ないのが東西勢力が分裂状態で争うリビアですが・・・

****国連リビア特別代表が辞意 和平見通せず、仲介断念****
東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は16日、ニューヨークの国連本部で記者団に対して辞意を表明した。「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず、和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明した。後任は未定。

バシリー氏は2022年9月から同代表。内戦状態のリビアを外国勢力が代理戦争に利用していると指摘し「状況は悪化している」と訴えた。

リビアでは40年以上統治したカダフィ独裁政権が、11年に北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を受けて崩壊した。【4月17日 共同】
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よく知りませんが、国連リビア支援団(UNSMIL)もSMPのひとつではないでしょうか。(違うかも)
いずれにしても、そのリビア国内でプレゼンスを強化するための改革案が安保理で議論されましたが、ロシアが反対していました。【2021年10月1日 ARAB NEWS“国連リビア支援団をめぐる安保理の紛糾が続く”】
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韓国 「怒れる人々」 高度成長原動力の教育の過熱の結果「少子化」 成長を可能にしたのも「少子化」

2024-04-16 23:33:03 | 東アジア

(塾の授業を終えて帰宅する子どもら=2022年5月26日、ソウル江南区の大峙洞で【2022年5月30日 中日】

【40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の怒り・不満】
周知のように今月10日に行われた韓国総選挙では保守系与党が敗北しましたが、背景には40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の怒り・不満があると指摘されています。

また、一般に韓国の世論調査結果は日本と比べて変動・振れ幅が非常に大きいように思えます。(調査の精度、あるいは国民の気質のせいかと思っていましたが)そのあたりの背景にも40歳以下の「怒れる人々」の存在があるようです。

****「40歳以下の世代」の怒りのわけは? 韓国総選挙で浮き彫りに…社会を揺るがす「若者たちの不満」とは****
韓国で10日、総選挙(定数300)の投開票が行われた。最大野党「共に民主党」と衛星政党「共に民主連合」は計175議席、文在寅(ムン・ジェイン)政権で法相を務めた曺国(チョ・グク)氏が率いる「祖国革新党」12議席など、左派・進歩(革新)系が過半数を大きく上回る議席を占めて圧勝した。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持基盤、保守系与党の「国民の力」と比例区用の衛星政党「国民の未来」は108議席にとどまった。与党は選挙戦中盤で一時、過半数を獲得するのではないかという観測も出ていたが、しりすぼみの結果に終わった。

「長ネギ事件」が勃発
与党陣営としては、選挙戦を通じて、尹大統領のイメージを悪化させる事件が相次いだことが痛かった。その一つが「長ネギ事件」だ。

尹大統領は3月18日、ソウル市内のスーパーを訪れた。そこで、長ネギ1束が875ウォン(約100円)で売られているのをみて、「合理的な値段だ」と言ってしまった。ソウルでは最近、長ネギの価格が3000〜4000ウォンで推移している。875ウォンは特別割引価格だったが、尹氏はそれが「普通の値段」だと思ったらしい。

韓国では選挙のたびに、政治家が電車の運賃や卵の値段などを知らずに言及し、「特権階級」「世間知らず」という批判を浴びてきた。案の定、尹氏もSNSを中心に「庶民の生活を知らない」という攻撃を受けることになった。(中略)

尹政権は「死に体」なのか
尹政権は現在、任期を3年残しているものの、韓国政界のなかでは「これから緩やかなレイムダック化(任期中の政治家が政治的影響力を失うこと)が進む」という見方が支配的だ。

まず、第一に国民の最大の関心事である経済分野で展望が開けていない事情がある。韓国銀行(中央銀行)が1月に発表した、2023年GDP(国内総生産)成長率は1.4%増にとどまった。

半導体不況や物価高が影響し、22年GDP成長率の2.6%増からほぼ半減した。来年1月に米国でトランプ政権が再登場すれば、韓国は経済でも安全保障でも、ますます負担を強いられることになる。(中略)

そして何より、今回の韓国総選挙の展開自体が、「尹政権のレイムダック化が進む」という予測を裏付けている。選挙が浮き彫りにしたのは、40歳以下の「怒れる人々(アングリーピープル)」の姿だった。

彼らが怒る理由は「不公平」「不正義」だ。与党は、選挙戦の序盤で苦しい立ち上がりを迫られた。尹大統領の「不公平な姿勢」が嫌気されたからだ。

尹政権はこれまで、検察官のほか、尹氏の学歴である「ソウル大卒」の人物、「MBライン」と呼ばれる李明博(イ・ミョンバク)政権当時の幹部らを次々に起用してきた。

極めつけが、妻の金建希(キム・ゴンヒ)女史の「特別扱い」疑惑だ。尹氏は1月、金女史がからむ株価操作疑惑事件を捜査する特別検察官任命法案に再議要求権(拒否権)を行使した。昨年11月には金女史がブランド品のバッグを受け取る隠し撮り映像がYouTubeで公開されたが、尹氏は直接の謝罪を避けた。

乱高下する支持率
ところが選挙戦中盤で、保守陣営が息を吹き返した時期もあった。(中略)一つは共に民主党の公認候補選びを巡る混乱だ。(中略) もう一つの事情は、尹錫悦政権が2月6日に発表した大学医学部定員の大幅増員政策だ。(中略)有権者は「医師の不正義」をなじる尹政権の医療改革を拍手喝采して迎え、支持率が上向いた。

「不公平」に再び焦点
そしてさらに、選挙終盤になると保守陣営の支持が再び急降下した。(中略)これは、尹政権の「不公平」に再び焦点が当たった結果だった。

尹政権は、職権乱用の疑いで捜査を受けている李鍾燮(イ・ジョンソプ)前国防相を駐オーストラリア大使に就任させたため、「捜査逃れだ」という批判を浴びた。李氏は結局、大使を辞任した。

3月には、元KBS記者で、大統領室の黄相武(ファン・サンム)市民社会首席秘書官が舌禍事件を起こして辞任した。尹氏が側近を特別扱いする姿が「長ネギ事件」もあって市民の怒りを買い、「KAIST強制退場事件」で若者の反感を買う結果になった。

なぜ、40歳以下の世代は怒るのか
尹政権を悩ませているのが、比較的保守的な考えが多いとされる40歳以下の若い世代での不人気ぶりだ。(中略)40〜50代は1980年代の民主化闘争の記憶を残す世代で、ほぼ「進歩支持」を変えない世代という特徴がある。

韓国の40歳以下の世代は保守的とはいえ、その時々の「不正義」で怒り、支持層を変えるのだ。これが、韓国総選挙の期間中、保守と進歩の支持がたびたび変動した背景と言える。

では、なぜ、40歳以下の世代は怒るのか。ソウルに住む50代の男性は「それは、韓国の戦後の歴史と大きな関係がある」と語る。1960年代までの韓国は失業率の高い、世界の最貧国の一つだった。(中略)

韓国人が「漢江の奇跡」として世界に誇る経済成長は、朴正熙(パク・チョンヒ)政権の開発独裁とともに、個々人の「自分は良いから、せめて子供を貧困から脱出させたい」という強い思いから実現したとされる。

「こんなに努力したのに、こんな就職口しかないのか」
「貧困からの脱出」としての手段が教育だった。韓国統計庁によれば、韓国の高校生の1日当たりの平均勉強時間は8時間を超える。ほとんどの高校生が通う学院(塾)では「高校生活の3年間は(大学受験に励むため)お前たちの人生から削り取れ」と言われる。激烈な競争は大学に入っても続く。少しでも良い就職を勝ち取るため、「スペック」と呼ばれる付加価値をつけるために皆必死になる。

知人によれば、韓国企業が求めるTOEICの最低スコアが700点以上。ソウル勤務時代の2017年ごろに取材した大学生は「良い会社に入りたかったら、900点くらいとらないとだめです」と語っていた。

韓国統計庁によれば、15〜29歳の青年失業率は24年2月現在6.5%で、26万4000人の青年失業者がいる。この数値は24年3月時点での韓国全体の失業率2.6%の倍以上の数値だ。これは、「こんなに努力したのに、こんな就職口しかないのか」と怒る若い人々が多い結果だとされる。

政治家の娘の「不正入学」
だから、彼らは不公平な社会が許せない。今回の選挙で曺国氏が率いる祖国革新党が支持を集めたが、「既存の進歩派勢力が分裂しただけ。若い世代は見向きもしなかった」(韓国政界筋)という。曺国氏の娘が韓国の名門、高麗大学に入学する際、不正を働いたからだ。(中略)

この怒りは、大統領の妻としてセレブな生活を楽しむばかりで、女性の権利向上には動かない金建希夫人、自分たちの権利を守ることに汲々とする(ように見える)医師たち、自分の逮捕を免れるために党を私物化する李在明氏、大統領と親しいというだけで、専門分野でもない駐オーストラリア大使や大統領室市民社会首席秘書官に就任してしまう尹氏の側近たちに向かった。

一方、前出のソウルに住む50代の男性は、アングリーピープルの特徴の一つとして「若くて社会経験が浅いうえ、SNSを使いこなすため、直情的・爆発的に行動する傾向がある」と語る。これが、その都度の社会的な話題ごとに、支持する政党がコロコロ変わった理由なのだという。(後略)【4月12日 牧野愛博氏 文春オンライン】
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【「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となった「教育」への思いが、韓国社会の「少子化」という大きな負担に】
「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となった「教育」への思いが、今韓国社会に大きな負担となっています。
「人口減少で地球から消滅する最初の国」とも評される韓国の「少子化」の最大原因は教育負担(教育に対する強迫観念を含めて)であると言われています。

****小学生が医大へ向け猛勉強、世帯月収の4割が教育費…出生率0.72人という「超少子化」を招いた韓国の「私教育問題」****
(中略)韓国で深刻な社会問題と化しているのが「超少子化」である。このままでは国家そのものが消滅すると指摘される中、その原因とされるのが過熱する教育問題だ。韓国で何が起きているのか。(

世界でも類を見ない韓国の超少子化現象
 韓国統計庁が発表した2023年の韓国の合計出生率(暫定集計)は0.72人、出生児数は初めて23万人台に落ちこんだ。直近の23年第4四半期(10月-12月)だけを見ると、韓国の出生率は0.65人で、軍事侵攻されているウクライナの0.7人よりも低い数字となっている。世界で類例のない韓国の超少子化現象に対して、海外ですら「国家消滅の危険性」を指摘しているが、韓国政府としては解決策が見いだせていない状況だ。(中略)

世界でも類を見ない韓国の超少子化現象は、国際的な関心事となっている。すでに2006年の国連の人口フォーラムで「韓国は少子化で地球上から消える最初の国家」と名指しした世界的な人口学者、オックスフォード大学のデービッド・コールマン名誉教授は、23年に訪韓した席で「韓国は2750年に国家消滅の危険にさらされる」と再度警告した。米ニューヨークタイムズ誌は、「韓国の人口減少速度が過去にペストが蔓延していた中世ヨーロッパより速い」と分析した。

子供が親を恨むのではないか
ペストによる人口減少に比肩する自国の超少子化現象について、韓国の多くの専門家は、過度な「競争圧力」によって若い世代が未来に対する不安を感じるのが最大の原因だと指摘する。就職難による雇用不安や高い住宅価格上昇による住まいへの不安、そして子育てに寛容でない企業文化、行き過ぎた教育費などが挙げられるだろう。
 
中でも、一般国民は子供の教育への負担感を強く感じていることが分かった。最近、保健福祉部は子供を産まないと決めた青年世代の夫婦を対象に「ファミリーストーミング(ファミリ+ブレーンストーミング)」という意見聴衆を実施しているが、この場で教育への懸念が集中的に語られている。

会議に出席した若い夫婦の口からは、「1歳の誕生日パーティーで子供が歩いているかどうかから始まって、どこの学校に通っているかとか、職場はどうなったかとか、長期間にわたってほかの子と比較し続ける。その無限競争に親として参戦する自信がない」「入試戦争が不安でしょうがない」「わが子が学校でめげないようにと、無理してでも、学校への送り迎えのための外車を買う友人もたくさんいる」「他の人のように子供に投資できないようなら、子供が親を恨むのではないかと心配だ」など、容赦のない本音が飛び出した。
 
ソウル市の江南区大峙洞はこのような「わが子を成功へと導かなければならない」という韓国の親たちの強迫観念が集結した場所といっていいだろう。韓国では学校などで実施する「公教育」に対し、私設の塾などによる教育を「私教育」と呼ぶ。この大峙洞は3.53平方キロメートルほどの狭い面積の中に実に1000以上の塾が密集する塾街として有名だ。

大峙洞キッズたちのロイヤルロード
大峙洞の名門塾には全国各地から受験生が集まるため、大峙洞の名門塾入試のための勉強を教える「セキ(セキとは子という意味)塾」も登場した。自分の体重の3分の1にもなる重いカバンを背負って塾を転々とする小学生や、大学受験対策を始めなければならない中学生、夜明けまで眠れないほど不法な授業を受けなければならない高校生たちはここ大峙洞の主人公で、いわゆる「大峙洞キッズ」と呼ばれる存在だ。

近年、大峙洞の塾では小学生を対象にした「大学医学部入試準備クラス」が旋風ともいえる人気を呼んでいる。小学生医学部クラスでは小学校3年生の時から高校の数学課程の微積分を教える。中でも英語専門の幼稚園から小学校医大入試クラス(塾)を経て自私高(自立型私立高校、名門大学進学率の高い超難関高校)に入学する進学コースは、大学医学部を目標とする大峙洞キッズたちのロイヤルロードだという。

ソウル市江西区に居住するキム・ヨンウン氏は、中学校3年生の長男の塾通学のために、この大峙洞への短期間の引っ越しを検討している。学校で成績トップという彼女の長男は現在の自宅近くの最も大きな塾街である木洞で3つの塾に通っているが、夏休みを利用して大峙洞塾の集中講義を受けることを考えている。

「平日は木洞の塾に通って、週末だけ大峙洞にある塾に通っています。大峙洞までは往復2時間近くかかるので、毎回車で送り迎えする主人も大変ですが、息子がとても疲れていて……。今度の夏休みには大峙洞で集中コースを受けなければならないので、家から通うより塾の近くの部屋を借りて住むようにしたほうがいいと考えています」(キム氏)

老後の準備ができない
大峙洞の塾街の不動産屋はキム氏のように子供の塾のために引っ越しをしようとする教育ママたちが行列をなしている。特に夏休みと冬休みには1ヶ月から3ヶ月の超短期契約が急増する。ここで不動産屋を運営するパク氏によると、超短期契約の賃貸料は一般的な賃料より、50%も高いのに物件が足りないくらいだという。(中略)

ごく普通の共働き夫婦であるキム氏の家庭は、1ヶ月の世帯収入1000万ウォン(約110万円)のうち、4割程度が2人の子供の教育費に消えてしまう。キム氏が続ける。

「各種の塾代をはじめ、子供たちが学校でくじけないよう、息抜きとして休みのたびに海外旅行も行かなければならないなど、絶えずお金がかかります。子供の教育のおかげで貯金など老後の準備は全然できていません」

少子化で学生数が急減している韓国。かたや、私教育費はむしろ着実に右肩上がりとなり、21年以降、毎年、過去最高を更新している。尹錫悦政権は、私教育費の節減のため「塾など、学校の授業外で学ぶような内容を入試問題に出題することを禁止する」という「キラー問題排除案」を発表した。しかし、効果は薄く、23年度の私教育市場は前年比で4.5%の成長を見せ、市場規模で27兆1000億ウォン(約2兆9800億円)に達した。

「少子化」の呪いから逃れるためには
韓国経済人協会は少子化現象の約26%が私教育費増加に起因するという分析結果を出した。さらに、住宅価格より私教育費が少子化問題に対し、2〜3倍もの影響を及ぼすという調査結果まである。韓国の私教育が少子化の根本原因として名指しされているのだ。

歴代政権も過度な私教育ブームを鎮めるために学校などの公教育を強化する各種政策を展開したものの、国民の公教育に対する不信はなかなか消えない。

韓国を国家消滅に導く「少子化」の呪いから逃れるためにも、私教育に過度に依存している韓国の教育文化が変わっていかなければならないだろう。だが、多くの国民が「学歴こそ無限競争社会を勝ち抜く最高の武器」と信じている限り、解決が容易ではないのも、また事実なのである。【4月16日 金敬哲氏 デイリー新潮】
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小学校3年生の時から高校の数学課程の微積分・・・息抜きとして休みのたびに海外旅行・・・良い会社に入りたかったら、TOEIC900点・・・・客観的に見たら異常ですが、渦中にいる者にとっては頑張るしかないというのが現実です。

そんな非人間的とも言える過酷な競争を勝ち抜いて医師になった若者が、その医師の特権を揺るがすような定員増に憤るのもわかるものがあります。「不正入学」に憤るのも当然でしょう。

“小中高生が習い事に費やした金額は3年連続で過去最高を更新。小中高生のおよそ8割が習い事に通い、高校生1人当たりの出費は月平均でおよそ8万2000円。(2023年 中学生は約6万6000円、小学生は約5万円)韓国では収入より教育費の支出が上回る「エデュプア(教育貧困層)」という言葉も広がっています。

しかし、今、韓国の4年制大学に通う学生の就職率は6割ほどであり、3人に1人は就職できない状況だといいます。”【4月14日 テレ朝news】

【厳しい現実のなかで若者の人生観に大きな変化 その結果としての「少子化」加速】
「子供を生まない」「結婚しない」というのもそうした現実への対応です。

****「人口減少で地球から消滅する最初の国」 “非婚手当”も 韓国で何が起きている****
(中略)こうしたなか、若者の人生観に大きな変化が生まれていました。実際に韓国の若者に結婚観や、子どもの有無の希望について聞いてみると。

韓国の若者
「子どもを持つのもいいですが、それよりも2人で旅行したりして、2人の人生に集中したいです」
「私は結婚しなくても、自分の家族がいればいいですよ」
「子どもを持つと経済的に大変です。住居費も高いし、教育費もたくさんかかりますから」
「子どもは欲しいけど、経済的キャリアを考えたら厳しいかなと思います。韓国では正直難しいと思いますね。特に女性は。子ども生んだら女性が育てないといけないという認識があるので…」
「結婚して子どもがいれば幸せそうですが、子どもを生んだら、韓国で育てたいとは全く思いません。あまりに競争が激しい環境のなかでストレスを多く受けました。学生時代に戻りたいかと聞かれたら、私は『絶対に嫌だ』と答えます。そんな思いを子どもにはさせたくありません」

韓国経済と社会に詳しい亜細亜大学の金明中(キムミョンジュン)特任准教授は、出生率を改善するためには、従来の経済支援と競争社会の見直しのほか、男女間の意識改革が重要だと話します。

亜細亜大学 金明中特任准教授
「国の経済的な支援というのが 『子育て世代に偏っている』。これは日本も韓国も同じ。ただ(この世代への)経済的な支援だけでは大きな効果を得ることは難しい。日本も韓国も『性別役割分担意識』が残っている。これも少子化にかなりマイナスの影響を与えている。この部分をだんだん意識改革する。改善する必要がある」【4月14日 テレ朝news】
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【「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」を可能にしたのも「少子化」であったが、「人口の配当」期間を終えると・・・】
「教育」が「漢江の奇跡」「貧困からの脱出」の原動力となったと、また、現在の最大の問題が「少子化」にあると再三にわたり述べていますが、客観的に分析すれば、「家族計画」による出生率抑制・「少子化」こそが「人口ボーナス」となって「漢江の奇跡」を可能にしました。

しかし、少子化のもたらす「人口の配当」をもらえる期間がすぎると、少子化の悲惨な結末も。

****
人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる「唯一の現実的な方法」とは?****
(中略)
「人口の配当」が成長を後押し
出生率の低下は、人口統計学者が「人口の配当」と呼ぶものを介して、特定の状況下ではプラスの効果をもたらす可能性がある。
人口の配当は、出生率の低下によって国民の年齢構成が変化し、生産年齢の人口が増え、生産労働に寄与しない年少者と高齢者の割合が減って、その国の経済が加速度的に増加することで得られる。

実際、過去の出生率低下は韓国を非常に貧しい国から非常に豊かな国へと変貌させるのに役立った。韓国の少子化が始まった60年代は、政府が計画的な経済開発に着手し、家族計画を採用して人口の調整に乗り出した時期と重なっている。

当時の韓国は朝鮮戦争の後遺症で、経済も社会も疲弊していた。実際、50年代後半の韓国は世界で最も貧しい国の1つであり、61年の時点でも国民1人当たりGNPは約82ドルにすぎなかった。
だが韓国政府が経済開発5カ年計画を導入した62年から、劇的な経済成長が始まった。

重要なのは、政府が国の出生率を下げるために積極的な家族計画を導入したことだ。そこには、既婚男女の45%に避妊の知識と手段を提供するという目標も含まれていた(当時の韓国ではほとんど避妊が行われていなかった)。
家族計画の普及は少子化に拍車をかけた。多くの夫婦が、子供を産む数を減らせば家族の生活水準が向上することを理解したからだ。

経済政策と家族計画が両輪となって、韓国は出生率の高い国から低い国へと変身を遂げた。結果として、総人口に占める従属人口(年少者と高齢者)の割合は生産年齢人口に比べて減少した。こうした人口動態の変化は経済成長の起爆剤となり、それは90年代半ばまで続いた。生産性の向上と労働力の増加、失業率の緩やかな減少が相まって、GDPの成長率は年6~10%の高水準で推移していた。

おかげで今の韓国は世界有数の豊かな国となり、国民1人当たりGDPは3万5000ドルに上る。

韓国が貧しい国から豊かな国へと変貌を遂げたのは、少子化のもたらす「人口の配当」によるところが大きい。だが、この配当をもらえる期間は限られている。その期間を越えて少子化が続けば、その国には往々にして悲惨な結果が待っている。(後略)【4月16日 Newsweek】
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上記記事は解決策として“韓国がこの状況を好転させる唯一の現実的な方法は、移民を大幅に増やすことだ”と指摘しています。
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ミャンマー国軍  「アラカン軍」との戦いにロヒンギャを「盾」として利用 両者の対立を利用

2024-04-15 23:04:06 | ミャンマー

(バングラデシュ領に逃げ、投降したミャンマー国軍の兵士。国境管理が強まり、難民としてロヒンギャが避難することの妨げになっている(現地SNSから)【4月15日 デイリー新潮】

【重層的な差別の構図 ラカイン族とロヒンギャの対立を利用する国軍】
もとより戦争は「殺し合い」ですから、そこに「正義」とか「公正さ」を求める筋合いのものではない・・・とは思うものの、それでも「えげつないな・・・」と感じてしまうことも。

ミャンマー情勢については1週間まえの4月8日ブログ“ミャンマー  首都でも国境地帯でも厳しい状況が報じられる国軍”で取り上げたばかりですが、現在の“主戦場”のひとつとなっているのが西部ラカイン州における少数民族武装勢力「アラカン軍」と国軍の戦いです。

アラカン軍(AA)は、(ミャンマー全体では少数民族ですが)ラカイン州海岸部で多数派である仏教徒ラカイン族(アラカン族)の主権回復を闘争目的とする武装組織です。

そのラカイン州は、イスラム教徒の少数民族ロヒンギャが多く暮らす地域で、国軍とその協力者により民族浄化的な迫害が行われる地域でもあります。

ラカイン族(アラカン族)は多数派ビルマ族からは少数派として差別を受ける一方で、更に劣後する状況にあるイスラム教徒ロヒンギャに対してはこれを差別する側でもあります。ラカイン族とロヒンギャの間には対立・憎しみがあります。

こうした差別される者が、更に弱い立場の者を差別する差別の重層構造は珍しくはありませんが、ラカイン州の状況もそのひとつです。

戦闘で劣勢にたたされ、兵員不足を補うために徴兵実施に踏み出した国軍は、この差別の構造を利用して、無国籍状態に置かれているロヒンギャを兵員に取り込み、アラカン軍との戦いにおける使い捨ての盾のように利用しているとの情報があります。

****ミャンマー兵にされるロヒンギャの悲劇… 嘘つき「国軍」の酷すぎる所業とは****
2021年に国軍が起こしたクーデターによって、緊張状態がつづくミャンマー。今、国軍は、国籍がないロヒンギャを兵士にして、戦闘の前線に送りはじめている。

ミャンマー西部のラカイン州に暮らすロヒンギャは50万人とも60万人ともいわれている。

ラカイン州を中心に暮らすベンガル系イスラム教徒のロヒンギャは、国軍による迫害から逃れるために、2017年に多くの人々が隣国バングラデシュに避難した。

いまでも100万人を超える人々が、バングラデシュ南部の難民キャンプに収容されている。彼らが置かれている現況は「2017年のときよりひどい」といわれる。

利用される対立の構図
今回のクーデターでは、国民の多くが国軍に反発し、少数民族の武装組織も反旗を翻した。ミャンマーは半ば内戦状態に陥っているが、とくに戦闘が激しいのはラカイン州で、地元の少数民族軍であるアラカン軍と国軍が衝突している。ロヒンギャはその戦闘の盾のように使われている可能性が高い。

ラカイン州の民族地図は錯綜している。土地問題などをめぐり、ラカイン族とロヒンギャは長く対立してきた。その両派を、ビルマ族を中心にしたミャンマー国軍が武力で抑え込む構図ができあがっていた。

アラカン軍との戦闘で劣勢に立たされている国軍の兵力不足は深刻で、それを補う目的で、国軍はロヒンギャを戦闘に駆り立てはじめている。ラカイン族とロヒンギャの対立を利用しようとしているわけだ。

現地は電話、ネットなどの通信環境が遮断されている。強制的に国軍兵士に仕立てられたロヒンギャの数の把握は難しいが、少なくとも1,000人、1万人を超えているという人もいる。

国籍、弔慰金も「嘘」
国軍はロヒンギャに対し、国軍の兵士になれば国籍を与えるといって勧誘していると,もいわれる。しかし、在日ビルマロヒンギャ協会のアドバイザー、アウンティンさん(55)は、「真っ赤な嘘。国籍をもらったというロヒンギャはひとりもいない」と語る。

犠牲者は増えている。3月初旬には、ラカイン州の州都シットウェ近くで100人を超えるロヒンギャが連行され、国軍の基地に送られた。

それから1週間もたたない3月13日、97人の遺体がロヒンギャの元へ届けられた。国軍の船に乗せられ、前線に向かう途中でアラカン軍の襲撃を受けたと説明された。国軍は遺族に100万チャット(約7万円)と米2袋を渡すと通知したという。

あまりに少ないが、これにも前出のアウンティンさんは憤りを隠せない。「これも国軍の嘘。遺族の誰ももらっていませんよ」

さらに3月14日には、国軍基地内で7人のロヒンギャが死亡した。国軍は訓練中に地雷が爆発したと説明していた。しかしその後、基地から逃げようとしたロヒンギャを国軍が殺害したことがわかってきた。

国境管理が厳重に
ラカイン州ではアラカン軍の攻勢がつづいている。ほぼ半分はアラカン軍の支配エリアになったという。毎日のように、「アラカン軍がミンビアにある国軍基地を占領」といった情報が入る。国軍と対立してきたラカイン人の意気はあがる。

しかしこの戦況も、ロヒンギャを追い込めることになっている。アラカン軍に追われた国軍兵士は、隣国のインドとバングラデシュに越境し、投降するケースが後をたたない。

結果、インドとバングラデシュは国境管理をより強めている。ロヒンギャは難民としてバングラデシュに向かうことが難しくなってきているのだ。

ロヒンギャはガザ地区のパレスチナ人のようにラカイン州に閉じ込められ、国軍の暴挙におびえている。【4月15日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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国軍は「国籍のない者は徴兵していない」としていますが、夜中に国軍が村に来て徴兵に適した若者を探し出し、30人以上を連れていった・・・といったロヒンギャ住民の証言なども報じられています。

イギリスに拠点を置く人権団体「ビルマ・ロヒンギャ協会」は2月28日の声明で、「ロヒンギャは国軍に『人間の盾』にされ、結果的にアラカン軍(AA)の攻撃の標的にされている」と主張しています。

【苦戦が続く国軍 貧困が深刻化する経済危機】
戦況については、国軍の劣勢が続いているようです。南東部カイン州では国境貿易の要衝が少数民族武装勢力の手に落ちています。

****少数民族武装勢力が“国境貿易の要衝”にある軍拠点占拠と発表 ミャンマー****
ミャンマー南東部の少数民族武装勢力は11日、国境貿易の要衝ミャワディにある軍の拠点を占拠したと発表しました。地元メディアは、首都の空軍基地も複数の砲撃を受けたと報じていて、軍の支配力が低下しています。

ミャンマー南東部カイン州の少数民族武装勢力「カレン民族同盟」は、ミャワディにある軍の最後の拠点を占拠し、武器を押収したと発表しました。

ミャワディをめぐっては、軍が今月、隣国のタイ政府に対し、タイ側に逃れた軍関係者を帰国させるために特別チャーター便の運航許可を求める事態となっていました。

また、地元メディアは11日、首都ネピドーにある空軍基地が複数の砲撃を受け、死傷者が出たと報じました。ネピドーの軍事施設は今月4日にも無人機で攻撃を受けています。

ミャンマーでは、去年10月に少数民族武装勢力が一斉蜂起して以降、軍は各地で拠点を奪われるなど支配力が低下しています。【4月11日 日テレNEWS】
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国軍兵士・関係者が国境を超えて逃げ込んでいるタイではセター首が7日、ミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、今こそ協議を開始する好機との見方を示しています。

****ミャンマー紛争、タイは中立維持 避難民受け入れの用意=外相****
タイのパーンプリー外相は9日、ミャンマーの紛争でタイは中立を維持しているとし、混乱によって住居を追われた最大10万人の人々を受け入れる用意があると表明した。

ミャンマーの紛争激化を協議する閣議に先立ち、対立する両勢力に和平協議に参加するよう促した。

また、セター首相はこの日、「ミャンマー情勢はタイにとって極めて重要だ」とソーシャルメディアXに投稿し、政府は平和と安定のためにあらゆる関係者の協力を推進する用意があると述べた。

セター氏はこのほど行われたロイターとのインタビューで、2021年のクーデターで政権を掌握したミャンマー国軍が弱体化しつつあるとし、協議を開始する好機と述べていた。【4月9日 ロイター】
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内戦の混乱のなか、市民生活は困窮しています。

****ミャンマー貧困率、50%に急増 国連報告、経済危機続く****
国連開発計画(UNDP)は11日、ミャンマーの経済状況に関する報告書を公表し、2017年に24.8%だった貧困率が23年には49.7%に急増したと明らかにした。

21年2月の国軍によるクーデター以降、危機が続いていると指摘。「中間層が消えつつある」として年間推定40億ドル(約6100億円)の支援が必要だと各国に呼びかけた。

報告書は約1万3千世帯への調査をまとめた。貧困を抜け出して安定した収入を得られているのは、人口の25%に満たないと指摘。多くの家庭で医療費や教育費などを削減して日々の生活をしのいでいると分析した。【4月11日 共同】
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この一点をもってしても国軍による統治は失敗していると言え、すみやかに政権の座から去るべきでしょう。
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チャイナ・ショック2.0  中国の「過剰生産」「余剰生産能力」がもたらす輸出急増を世界が懸念

2024-04-14 22:01:13 | 中国
(チャイナ・ショック
弱い国内需要と膨らみ続ける生産能力が 中国の輸出価格を押し下げている

そして中国企業が外国に買い手を 求める中、出荷量を押し上げている
【4月10日 WSJ】)

【世界経済が懸念する中国の「過剰生産」「余剰生産能力」】
中国経済の低迷は相変わらずですが、最近世界で注目されているのは中国の「過剰生産」「余剰生産能力」。

中国政府が莫大な補助金を使って企業活動を後押しすることで安価な製品が大量に生産されるものの、国内の需要は不十分で、その製品が海外に輸出される。その結果、アメリカなどの先進国だけでなくブラジル、アルゼンチン、インドネシア、メキシコ、フィリピンなどの新興国を含む世界の多くの国が安価な中国製の洪水にさらされ国内産業がダメージを受ける・・・というものです。

****米中対立の新たな火種に!? 中国新スローガン「新質生産力」が“世界経済に悪影響”とみるワケ****
中国政府が最近打ち出した「新質生産力」という新しいスローガン。これが「世界経済に悪影響を及ぼしかねない」とアメリカが警戒しています。(中略)

最近、中国政府が打ち出した新しいスローガン「新質生産力」。AIなど最先端技術を活かし生産力を向上させようというもので、関連産業には今後、20兆円とも言われる巨額の国費が投入されるとの観測もあります。

「新質生産力の模範」と紹介されたEVフォークリフトのメーカー。製造工程を自動化したことで生産力が向上、売り上げが伸びたと盛んにアピールしていました。
EVフォークリフトメーカー幹部 「このEV車をますます強化して、市場シェアをますます広げていきたいです」

ただ、このスローガンのもと、中国政府が莫大な補助金を使って企業活動を後押しすることが世界経済に悪影響を及ぼしかねないとの懸念が高まっています。その理由はこうです。

(1)政府の補助金をもらって作られた中国製品は価格が安くなります。
(2)これにより競争力が上がりシェアを拡大させることができます。
(3)また政府の後押しによって「過剰なまでにたくさん生産」されることになり…
(4)その結果、次々と海外に輸出され、欧米や日本の競合メーカーがシェアを奪われる可能性が出てくるのです。(後略)【4月5日 TBS NEWS DIG】
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後述のようにアメリカはこの問題を重視して米中関係の争点ともなっていますが、冒頭にも書いたようにアメリカだけでなく、新興国なども含めた多くの国で問題となっています。 
例えば中国との関係を重視するルラ大統領のブラジルでも・・・。

****【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?****
フィナンシャル・タイムズ紙の3月17日付け記事‘Brazil launches China anti-dumping probes after imports soar’が、ブラジルが中国の反ダンピング調査を開始したことを報じている。要旨は次の通り。

ブラジル産業省は、産業界からの要請に基づき、中国による工業製品ダンピング疑惑について、過去半年間に金属薄板、鉄鋼材、化学製品、タイヤなどに関して、少なくとも10余りの調査を開始した。

今般のブラジルの措置は、世界第2位の経済大国、中国が不動産セクターの減速と内需低迷の中で生産能力過剰に苦しんでおり、世界が中国からの輸出の洪水に備えている時にとられた措置である。

経済活性化のため、中国は先進的な製造業、特に太陽光発電、電気自動車、バッテリーに投資している。
中国の輸出は今年1〜2月の間に7.1%増加し、輸入の伸びを大きく上回った。中国の輸出価格下落が長引けば、中国と主要経済大国との貿易摩擦が高まる可能性がある。
中国税関のデータによれば、中国の対ブラジル輸出・輸入ともに、今年最初の2ヵ月間で3分の1以上増加した。

北京との関係を強化しつつ、国内産業を保護、発展させようとしている左派のルーラ大統領にとって、貿易摩擦はジレンマをもたらしている。昨年、大統領に返り咲いたルーラは、産業政策を経済戦略の中心に据えている。ブラジル政府としては、最大の貿易相手国であり、大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している北京との対立を避けたいようでもある。

ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入した鉄鋼製品に対して、9.6%から25%の関税をかけるよう政府に要求している。中国からの鉄鋼と鉄の輸入は、2014年の16億ドルから昨年は27億ドルに増加した。

中南米諸国は鉄鋼生産の主原料である鉄鉱石の世界有数の輸出国であるが、急増する安価な鉄鋼輸入は、ブラジル政府にとって頭の痛い問題だ。

また化学品とタイヤも問題になっており、産業省はここ数カ月、別個に調査を開始している。(中略)

*   *   *

G20議長国ブラジルの頭痛の種
「世界の工場」として世界第二の経済大国となった「中国」は、この20年近くの間に、世界の多くの国にとって最大の貿易相手国になった。

この記事は、「コロナ以降、中国経済の不調が深刻化し、生産設備が過剰となる中、安値攻勢で製品輸出を増加させ、他国経済に悪影響を与えるようになっている。そして、各国は対抗措置をとるために調査を開始した」と報じている。中国経済の悪化が世界に与える影響を把握する上で重要な報道である。

09年以降、中国は輸出入ともに、ブラジルにとって最大の貿易相手国となった。2位は米国である。23年、ブラジルから中国への輸出総額は、大豆、食肉、石油、鉄鉱石など1043億ドル(史上最高額)であった。

ブラジルの中国からの輸入総額は532億ドル(機械類・電気機器、紡織用繊維、化学工業品等)であり、ブラジルの対中貿易黒字額は500億ドルを超えている。中国が大豆など食料や天然資源の備蓄を増加させているのは、気候変動や有事に備えているからとも言われている。

記事では、ブラジルによる中国製品アンチ・ダンピング調査の開始に触れているが、中国は逆に24年2月、19年からブラジル産鶏肉に適用していたアンチ・ダンピング措置の撤廃を公表した。ブラジル国内を「分断」しようとする「中国らしい措置」である。

今年、ブラジルは主要20カ国・地域(G20)議長国であり、また、中国との国交樹立50周年を迎える。来年は有力新興5カ国で構成するBRICS首脳会議と第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)がブラジルで開催予定である。

昨年、中国との二国間貿易において米ドル排除を決定する等、中国との一層の関係強化を期待しているルーラ大統領にとって、中国製品のダンピングは間違いなく「頭痛の種」である。(後略)【4月8日 WEDGE】
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【イエレン米財務長官 「2000年代初頭の「中国ショック」の再来をバイデン大統領も私もは許さない」】
アメリカのイエレン財務長官訪中(4月3~9日)の中心議題もこの「過剰生産」でした。
中国側は、この主張を拠がないと一蹴しています。

****安価な中国製品による新産業の破壊、米国は認めず=財務長官****
中国を訪問中のイエレン米財務長官は8日会見し、政府の補助金を受けた安価な中国製品の流入で新たな産業が壊滅的な打撃を受けることを米国は認めないと表明、10年前にも鉄鋼産業で同じことがあったと述べた。

イエレン氏は、中国製品の大量流入で米製造業で約200万の雇用が失われた2000年代初頭の「中国ショック」の再来をバイデン大統領は許さないと述べた。

「これは以前にも起きたことだ。10年前にも中国政府の大規模な支援により、原価割れの中国製鉄鋼製品が世界の市場にあふれ、米国など世界中の産業が壊滅的な打撃を受けた」と指摘。「バイデン大統領と私はそのような現実を二度と受け入れないと明言している」と述べた。

4日間にわたる中国当局者との会談について、米国の利益を促進するものだったと指摘。会談では中国の内需低迷に懸念を示したほか、電気自動車(EV)、バッテリー、太陽光産業などへの「大規模な政府支援」に支えられた過剰投資にも懸念を表明したと述べた。

人為的に安価に設定された中国製品が世界の市場にあふれた場合「米国など外国企業の存続に疑問符が付く」との認識も示した。

ただ、中国政府の支援が続いた場合、追加関税、その他の通商上の制裁措置を取るとまでは踏み込まなかった。

過剰生産能力問題は、それを扱う新設のフォーラムで解決策を模索するが、合意達成には時間が必要だと指摘した。

<中国は個人消費促進を>
イエレン氏は、余剰生産能力に対する米国の懸念は、欧州の同盟国や日本のほか、メキシコ、フィリピンなどの新興国にも共有されていると述べた。

短期的な解決策としては、中国が個人消費を下支えし、供給サイドへの投資による成長モデルからの転換が考えられると述べた。

同氏は中国訪問中、この問題を李強首相と協議。藍仏安財政相、人民銀行(中央銀行)の潘功勝総裁、劉鶴前副首相とも会談した。

米財務省当局者によると、米中は金融安定を巡る問題で協力を深めている。大手銀行の破綻に対処する演習を最近実施したのに続き、金融ショックの模擬演習をさらに2回予定しているという。

<中国は一蹴>
中国で3月に開催された全国人民代表大会(全人代)は、製造業の過剰生産能力を抑える措置を取る方針を示した。

しかし、米欧が最近、中国の過剰生産能力が他国に及ぼすリスクを指摘することには反発している。

新華社によると、李強氏は「(米国は)経済・貿易問題を政治や安全保障の問題にすることを慎む」べきだと主張。「市場原理やグローバルな観点から」生産能力の問題を扱うべきだと述べた。

中国の王文濤商務相も7日、同国の「過剰生産能力」に対する米国や欧州の批判には根拠がないと一蹴した。【4月8日 ロイター】
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イエレン米財務長官は「輸出をてこにして急成長を遂げるには中国は大き過ぎる」とも指摘しています。

【「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」】
アメリカは一部で中国をサプライチェーン(供給網)から排除しようともしていますが、「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」との指摘も。

****チャイナ・ショック2.0 世界中で反発強まる****
中国からの輸入急増を食い止めようと欧米も新興国も防御策を講じている

経済復活を目指す中国は世界中に安価な製品をあふれさせつつあり、20年余り前に世界の製造業を席巻した「チャイナ・ショック」の続編を数兆ドル規模で引き起こしている。

だが今回、世界は反撃に出ている。
米国と欧州連合(EU)は中国製の電気自動車(EV)や再生可能エネルギー関連機器に対し、貿易障壁を引き上げると警告している。

今回はブラジルやインド、メキシコ、インドネシアなどの新興国もこの輪に加わり、鉄鋼やセラミック、化学製品など、ダンピング(不当廉売)の疑いがある中国製品に狙いを定めている。

「輸出をてこにして急成長を遂げるには中国は大き過ぎる」。同国を訪れたジャネット・イエレン米財務長官は5日、最初の訪問地である広州でこう述べた。同長官は中国滞在中、安価な物品の大量生産によって経済活性化を図ることに繰り返し警告を発した。「もし供給を生み出すことだけを重視した政策を進め、同時に需要を喚起しなければ、世界に予期せぬ影響が波及することになる」

各国はすでに大量に押し寄せる格安の製品から自国メーカーを守る措置を講じている。インドでは、中国製のボルトやねじ、ガラスの鏡や真空断熱ボトルなどあらゆる製品が反ダンピング調査の対象となっている。アルゼンチンは中国製エレベーターを調査している。英国は掘削機や電動自転車を詳しく調べている。

こうした動きは、新たなチャイナ・ショックがすでにほころびの兆しがある世界貿易システムにおいて緊張をいかに高めているかを物語る。背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や、米国主導で西側諸国が国内産業を振興し、経済の一部で脱中国を進めていることがある。この圧力は世界経済の分断を加速させるリスクがある。サプライチェーン(供給網)から中国を排除しようとする国々と中国依存に縛られる国々との溝が深まるためだ。

「米国が国境を閉じれば閉じるほど、中国は世界の他の地域に安価な物品を送り込むだろう。その状況は始まったばかりだ」。カナダの調査会社BCAリサーチの新興国市場・中国担当チーフストラテジスト、アーサー・ブダギャン氏はこう述べた。

深刻な不動産危機を埋め合わせようと中国指導部は国内の広大な製造現場に投資を振り向けている。中国企業は国策に基づく低利融資に支えられ、国内で売れない大量の余剰品の買い手を外国に求めている。この傾向は、2000年代初めに中国の輸出急増で米製造業の雇用が推定約200万人分失われたこと(この現象をエコノミストは「チャイナ・ショック」と名づけた)を思い起こさせる。

中国から押し寄せる輸出品はすでに一部の業種で外国の競合企業を打ち負かしつつある。チリの鉄鋼最大手CAPは3月、ウアチパト製鉄所の操業停止を発表した。これに先立ち、チリ製の鉄鋼よりも40%安い中国からの輸入品にもはや太刀打ちできないと幹部が述べていた。

不当に安いと訴える地元企業の苦情を受け、チリの政府諮問委員会は中国製の鉄鋼に15%の輸入関税を課すことを勧告した。CAPは同委員会に対し、25%の輸入関税を勧告するよう働きかけていた。

世界各国は2023年の年初以降、中国を標的にしたものだけでも70件以上の輸入関連措置を発表している。開かれた貿易を推進する非営利団体(NPO)グローバル・トレード・アラート(本部・スイス)の集計で明らかになった。
標的となる複数の対象国の一つが中国であるものを含めると、23~24年の輸入関連措置の合計は300件以上となる。これには反ダンピング調査や輸入関税、輸入割り当てなどが含まれる。

「標準的な価格をつけた製品では対抗できない」。インドネシアの合成繊維大手アジア・パシフィック・ファイバーズの広報担当者プラマ・ユダ・アムダン氏はこう話す。インドネシア当局は昨年、中国から輸入される合成糸に関して調査を始めた。ジャカルタ市場に上場する同社の昨年の売上高は前年比27%減の2億8850万ドル(約432億円)だった。アムダン氏は減収の要因として競合する中国企業のダンピングとみられる行為を挙げた。

世界中で強まる反発に対し、中国は保護主義の台頭を非難しており、それは同国がやり方を変えるつもりはないことの表れだ。国営メディアは、中国の過剰生産能力についての西側諸国の不満は大げさで偽善的だと非難する記事を掲載している。さらに重要なのは、米国のEV補助金が中国製部品を除外しているのは不公平だとして中国が世界貿易機関(WTO)に提訴したことだ。

中国商務省と、指導部に対する報道機関の問い合わせに対応する国務院新聞弁公室は、コメントの求めに応じなかった。

現在調査を受けている製品の広範さからは、中国が経済を改革しWTOに加盟した2000年代初め以降、世界の製造業における同国の地位がいかに高まったかが浮き彫りになる。

「中国の現在の軌道で人々が脅威に感じるのは、製品の質向上に伴い、中所得国とも高所得国とも激しく競争していることだ」。スイスのザンクトガレン大学のサイモン・イバネット教授(国際貿易)はそう指摘する。

先進国は、数十年前に中国の攻勢で家具などの製造業の雇用が失われたように、同国が輸出を拡大させることで自国経済の強みだった産業が空洞化することを懸念している。

一方、発展途上国にとって中国からの輸入急増は、独自の製造業を築き上げることで中国のように経済発展の階段を上ろうとする希望を打ち砕く可能性がある。

ブラジルの化学業界は、昨年の工場稼働率がデータ集計の始まった17年前以降で最低の64%に落ち込んだのは、中国からの輸入増加が原因だとみている。業界団体Abiquim(ブラジル化学工業会)の経済担当ディレクター、ファティマ・コビエロ・フェレイラ氏は、工場閉鎖や大量の雇用喪失を避けるためには一時的な関税が必要になるとの見方を示す。「あれほど激しく流入する輸入品にはかなわない」【4月10日 WSJ】
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肝心の中国国内需要は弱含みです。
2023年通年の消費者物価指数(CPI)は0.2%にまで落ち込み、「中国がデフレに陥ったのではないか」とも懸念されています。

消費者は従来の高価な商品から、より安価な商品に乗り換えています。こうした消費者動向は「消費降級」(消費ダウングレード)、「平替」(高級品を通常価格の品物に代替する)というビジネス用語であらわされています。

そしてこうした消費者ニーズに応えるべく「赤字覚悟」「赤字上等」で安価な商品生産を急拡大する新興企業も現れますが、すぐにまた競争相手が出現します。

こうした目まぐるしい新興企業の興亡、「多産多死」の中からごく一部とはいえ本当の技術力やブランド力を兼ね備えた優良企業が生まれてくるという点でポジティブな側面もあって、中国政府はこのジェットコースターのような新興企業の多産多死を歓迎、推進する立場をとるようになっています。

*****中国でスタバの売り上げが激減している理由。「安い中国」「中国発のデフレ」が世界を破壊する!?****
(中略)赤字上等の成長戦略をとるためには、お金の出し手が必要となる。ベンチャーキャピタルがこの役割を担ってきた。爆発的な成長を遂げれば上場や事業売却で出資金のもとは取れるというソロバン勘定である。

ところがベンチャーマネーだけならばまだしも、近年では政府系ファンドがベンチャーキャピタルに出資することで、赤字上等戦略を支えるようになってきた。今や政府系ファンドの資金規模は13兆元(約270兆円)に達しているとされる。

世界各地を“荒らし”、撤退する懸念
この膨大なマネーによって突き動かされるジェットコースターのような浮き沈みの新興企業群は今や中国国内のみならず、全世界に影響をもたらすようになっている。赤字上等戦略で生み出された、高コスパのアパレル、バッテリー、EVなどが全世界で売れまくっている。

消費者の視点からすると、ありがたい話ではあるが、企業や労働者の視点からすると、このせわしなく“しんどい”経済に否応なくまきこまれるのは勘弁してほしいという気持ちになるも事実だ。

地方に出店したショッピングモールが地元のお店を軒並み倒産させてから撤退するように、中国の新興企業が世界各地のローカル企業を潰滅させてから潰れるというのも困る。

“中国のデフレ”とともに、世界に波及する“中国発のデフレ”を懸念する声が高まっているのだ。【4月1日 WEDGE】
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台頭する極右勢力 民主主義と自国制度への信頼の揺らぎ 既存政治への幻滅

2024-04-13 22:17:24 | 民主主義・社会問題

(「これはスウェーデンの研究機関が、今年(2022年)発表した世界地図です。民主的な度合いが高い国や地域ほど濃い青で、低いほど濃い赤で示されています。

民主的だとされる基準は、“公正な選挙”や“基本的人権の尊重”、“言論の自由”などが実現しているか、さらに、政治権力の暴走を食い止めるための“法の支配”が徹底されているかです。

現在、自由で民主的とされているのは、60の国や地域。一方、こうした基準を満たさず、非民主的だとされているのは119の国と地域です」【2022年11月14日 NHK「混迷の世紀 第3回 岐路に立つ“民主主義”〜権威主義拡大はなぜ〜」】)

【世論が右傾化する背景 移民の増加と経済的苦境、格差の拡大以外に地政学上の不安もあるとの指摘も】
これまでも再三取り上げてきたように欧州では「極右」政党が勢いを増しています。6月の欧州議会選挙では、その傾向が明確に示されるとも予想されています。

一般に、世論が右傾化する背景には移民の増加と経済的苦境、格差の拡大があるとされていますが、現在はそうした環境がそんなに悪化しているわけでもなく、極右政党・排外的な愛国主義が拡大する原因は他にもあるのではないかとの指摘も。

下記記事は、ロシアのウクライナ侵攻以降の国際情勢の変化に対し、これまでの政治では対応できないのではないかという人々の意識変化・不安を極右拡大の背景にあげています。

****6月の欧州議会選挙へ、ヨーロッパで「排外的な愛国主義」が流行する移民と経済以外の理由****
<排外的な主張が支持されるのはなぜか。注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、極右政党の支持率が目立って上昇していることだ>

欧州議会の選挙が6月に迫っている。気になるのは、移民排斥を声高に叫ぶ極右勢力が議席を増やしそうなことだ。
排外的な愛国主義の波は南のポルトガルから北のスカンディナビア諸国にまで広がっているが、とりわけ憂慮すべきは、70年以上も前に率先してヨーロッパ統合への道を切り開いた6カ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)の右傾化だ。

イタリアでは、往年のファシズムの流れをくむジョルジャ・メローニが2年前に首相となり、今も高い支持率を誇る。オランダでは過激な移民排斥主義者ヘールト・ウィルダースの率いる自由党が昨年の総選挙で第1党に躍進した。

フランスでも各種の世論調査によれば、極右のマリーヌ・ルペン率いる国民連合が30%近い支持率でトップに立つ。
ベルギーでは極右民族主義政党フラームス・ベラングが強く、ドイツでも右派のドイツのための選択肢(AfD)が堂々の第2党。1952年に欧州石炭鉄鋼共同体を結成した6カ国のうち、今も中道路線を堅持しているのはルクセンブルクだけだ。

中には穏健な保守派のベールをかぶった政治家もいる。いい例がイタリアのメローニで、彼女は表向き西側陣営の結束を重視しており、内政の舵取りも巧みだ。

一般論として、世論が右傾化する背景には移民の増加と経済的苦境、格差の拡大があるとされる。しかし今は、こうした問題もおおむね改善に向かっている。

インフレで購買力が低下したのは事実だが、2008年に起きた世界金融危機の直後ほどひどくはない。失業率も、ここ数十年では最も低い。格差も少しは縮まり、例えばフランスでは所得格差を示すジニ係数が10年から下降し続けている。

それでも排外的な主張が支持されるのはなぜか。まず注意すべきは、ロシアによるウクライナ侵攻の開始以来、こうした極右政党の支持率が目立って上昇している点だ。

陸続きの欧州諸国の人々は、あれを見て「冷戦終結以後」の国際秩序が崩壊へと向かう不気味な予感を抱いた。

冷戦の時代には、ソ連の影響力を最小限に抑えるため、西欧諸国の経済統合を進める機運が生まれた。89年のベルリンの壁崩壊で冷戦が終わると、東欧圏も巻き込んで政治的・経済的な統合を進めることが新たなミッションとなった。

そうして加盟国の増えたEUは自信をつけ、経済政策でも気候変動対策でも、自分たちが率先して模範を示せばいいと考え始めた。

しかし、そこにロシアによるウクライナ侵攻が起きた。中東でも戦争が始まり、アメリカではドナルド・トランプが大統領に復帰しかねない気配だ。流れが変わった。人々はその変化を察知し、この30年間とは異なる道を指し示す指導者を求め始めた。

ロシアがウクライナに攻め込むのを見て、自分たちの主権が完全なものではないと気付いた。気候変動対策を主導しようにも、今の欧州には必要な技術力がない。

今のところ、メローニは穏健なふりをしている。だが実際は、ひそかに既存の体制を崩そうとしているのではないか。現に政府の要職に続々と自分の支持者を送り込んでいる。
大統領と議会の権限を弱め、首相に権力を集中する憲法改正案も用意した。まずは国内を掌握し、次にEUを内部から変えていくつもりだろう。

だが欧州で広がる右傾化の核心に地政学上の不安がある以上、それに対抗するために必要なのは政治統合のさらなる深化だ。現状維持のままでは安全と主権を守れない。排外主義ではなく、統合推進こそが正しい道だ。【4月2日 Newsweek】
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単に極右政党が議席を増やすだけでなく、そうした流れに対抗するために、従来の中道勢力が極右勢力の主張を一部取り込む形で右傾化して支持を守ろうとすることにもなります。

****欧州議会、移民・難民受け入れ巡るEUの枠組み改正案承認****
欧州連合(EU)欧州議会は10日、EUの移民・難民受け入れの枠組みの改正案を承認した。

加盟国国境における難民認定手続きの迅速化や、難民申請が認められない人々の送還を拡大することなどが盛り込まれ、イタリアなど移民・難民希望者が最初に到着する国と、比較的財政が豊かなドイツなどの国の負担をより公平にする。

欧州委員会のヨハンソン委員(内政担当)は改正案によって「国境の守りが強化されると同時に、弱者や難民の保護が進み、滞在資格のない人々は速やかに送還され、加盟国は果たす義務の面で団結する」と説明した。

6月の欧州議会選で極右勢力の躍進が予想され、こうした勢力が移民抑制を求めている中で、現在多数派の中道側が対応を迫られて今回の改正案を打ち出した形だ。

ただ極右勢力は移民を阻止するには不十分だと批判。左派からも、重大な人権侵害だと反対の声が出ている。【4月11日 ロイター】
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【極右政党AfDが台頭するドイツ】
「排外的な愛国主義」が流行・・・・これも再三指摘されるように、ドイツでは極右政党AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が第2位となる状況が続いています。

****ドイツの右傾化が止まらない…移民受け入れ・グローバル経済を推し進めてきた「リベラル政治家」が真に向き合うべき相手とは****
不動産危機は「あと2年続く」との予想
欧州最大のドイツ経済の雲行きがあやしくなっている。 ウクライナ戦争に起因するインフレを抑止するため、欧州中央銀行(ECB)が大幅な利上げを余儀なくされ、そのせいでドイツの不動産市場が大打撃を被っている。(中略)

ドイツの不動産危機について、業界関係者から「あと2年は続く」との予測が出ている(3月14日付ロイター)。しかし、バブル崩壊後の日本の例にかんがみれば、危機は10年以上続くのではないかとの不安も頭をよぎる。

経済成長率は2年連続でマイナス成長か
企業の業績も大きく悪化している。ドイツ政府によれば、昨年の企業倒産は前年比22.1%増の1万7814件だった。「産業の空洞化」も顕在化しており、昨年の海外企業によるドイツへの投資は過去10年で最低水準だった。一方、国内の事業コストの増加を嫌気して、海外投資を検討する企業も増加している(3月12日・14日付ロイター)。

ドイツ経済を牽引してきた自動車産業も苦境に陥っている。成長が期待される電気自動車(EV)市場で中国メーカーとの競争に敗れつつあり、「ドイツの自動車産業は生存の危機にある」との嘆き節が聞こえてくる。

昨年は0.3%減だった経済成長率が、今年もマイナス成長となることが現実味を帯びてきているのだ。

経済が不調になれば政治に悪影響が及ぶのが世の常だ。「反移民」などを訴える政党・AfD(ドイツのための選択肢)の支持率が第2位となる状況が続いており、ドイツ政府関係者の頭痛の種となっている。

極右支持が若者のトレンドに
ドイツ連邦銀行(中央銀行)のナーゲル総裁は3月23日、「右翼過激派が同国の繁栄を脅かしている」と警告を発した。ナーゲル氏の懸念とは、反移民の風潮が海外の熟練労働者をドイツから遠ざけてしまうことだ。

ドイツ政府の推計によれば、2035年までにドイツ全体で700万人の熟練労働者が不足する。だが、反移民ムードの高まりから、ドイツ経済にとって不可欠な存在となった外国人熟練労働者の離職が増加し始めている(3月27日付ロイター)。

これに対し、AfDは「国内経済の悪化から目をそらすために我が党をスケープゴートにしているだけだ」と、政財界からの批判に耳を傾けようとしていない。

ドイツに限らず欧州では「極右」と呼ばれる政党が支持を伸ばしており、特に若者の間で浸透している感が強い。3月10日に総選挙が実施されたポルトガルでは、極右政党のシェーガが議席数をこれまでの約4倍に伸ばした。この成功の秘訣は、カリスマ的な若いインフルエンサーを利用したことだと言われている。

ドイツでもAfDは若者をターゲットにした戦略を積極に進めている。既存政党は若者の言葉を話していないが、急進的な極右政党は若者に響く言葉を話しており、「極右を支持することが若者の間でクールなことだ」との風潮が生まれているという(3月19日付クーリエ・ジャポン)。

危機に瀕しているのはリベラリズム
「西側諸国の民主主義の危機」が叫ばれているが、筆者は「危機に瀕しているのは民主主義ではなく、これまで政治を主導してきたリベラリズムなのではないか」と考えている。

リベラリズムを信奉する政治家(リベラル政治家)は、移民などの積極的な受け入れや経済のグローバル化などを重視するが、生活費の高騰で不満が高まる中間層のことにはあまり関心を示さない印象が強い。

これに対し、「極右」の政治家たちは中間層の怒りを代弁し、リベラル政治家への不満を糧に支持を伸ばしてきた。

70年以上前に欧州統合の先鞭を付けた6ヵ国のうち5ヵ国(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー)で極右化が進んでいる(4月2日付ニューズウィーク日本版)。

これまでのところ、大きな混乱は発生していないが、極右の政治手腕には不確実さがつきまとう。社会的な対立が先鋭化している状況下で、いつ想定外の事態が起きても不思議ではないだろう。

リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向き合わない限り、ドイツをはじめ欧州で政治の危機が発生する可能性は排除できないのではないだろうか。【4月10日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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リベラル政治家が中間層の怒りに正面から向きった結果が、先述の中道の右傾化でしょうか。
ただ、守るべき価値観はあるでしょう。

ドイツにおける若者らの既存政治への不満がもたらすものは極右勢力拡大だけではないようです。
下記のような過激思想へ傾斜する若者がどれだけいるかはわかりませんが・・・いつの時代でも、こういうものは存在するかも。あるいは、問題とすべきはISのプロパガンダ活動なのかも。

****テロ計画容疑で少女ら拘束 ドイツ、IS賛美か****
ドイツ検察は12日、テロを計画した疑いで、西部ノルトライン・ウェストファーレン州の15歳と16歳の少女2人と15歳の少年を拘束したと発表した。大衆紙ビルトによると、3人は過激派組織「イスラム国」(IS)を賛美し、キリスト教会や警察署の襲撃を企てていた。

地元メディアによると、別の州に住む16歳の少年も3人との関連で同様の疑いで拘束された。

パレスチナ自治区ガザ情勢や、ISが犯行声明を出したモスクワ郊外での銃乱射事件を受け、欧州ではテロへの懸念が高まり、ドイツをはじめ各国が警戒を強めている。【4月12日 共同】
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【自国の民主主義と制度への信頼の揺らぎ、既存政治への幻滅あるとの】
極右台頭にしても、過激主義にしても、自国の民主主義と制度への信頼が揺らぎ、既存政治への幻滅が広がっていることと表裏の関係にあるのでしょう。期せずして似たような調査結果がふたつ。

****多くの国の有権者が民主主義に懐疑的=政府間組織IDEA****
多くの国の有権者が自国の民主主義と制度への信頼に危機感を抱いている――。スウェーデンに本拠を置く政府間組織「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」は11日公表した報告書でこう指摘した。

世界人口の半分以上を占める米国、インド、英国、欧州連合(EU)が今年選挙を控えている中、多くの民主主義国家の健全性について暗い認識が持たれていることが浮き彫りになった。

調査対象19カ国のうち米国とインドを含む11カ国の有権者の間で、直近の選挙が自由で公正だったと考える人の割合は半数以下だった。

デンマークの有権者だけが、裁判所が司法制度へのアクセスを「常に」ないし「しばしば」提供していると回答。19カ国中8カ国で「議会や選挙に煩わされない強力な指導者」について好意的な見方をする人が、そうでない人よりも多かった。

IDEAのケビン・カサス・ザモラ事務総長は声明で「民主主義国家は、ガバナンスを改善するとともに、信頼できる選挙に対する虚偽の告発を助長している偽情報文化に対抗することによって、国民の懐疑心に対応しなくてはならない」と述べた。

今年の米大統領選では、現職の民主党候補に指名される見通しのバイデン大統領と、2020年の大統領選で敗北した際に不正投票がまん延していると虚偽の主張を行ったトランプ前大統領が再び対決することになりそうだ。

こうした中で米国の回答者のうち、自国の選挙プロセスを信頼できると答えた人は47%にとどまった。

6月に行なわれる欧州議会選挙では、極右勢力が大きく躍進する可能性があり、ロシアと戦うウクライナへの支持から気候変動対策まで、政策に影響を与える可能性がある。

調査は2023年7月から24年1月にかけて、19カ国のそれぞれ約1500人を対象に実施。19カ国にはブラジル、チリ、コロンビア、ガンビア、イラク、イタリア、レバノン、リトアニア、パキスタン、ルーマニア、セネガル、シエラレオネ、韓国、タンザニアなどが含まれる。【4月11日 ロイター】
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****政治への幻滅が急拡大、米若年層の保守化が顕著=国際調査****
既存の政治に対する幻滅と絶望が世界的に急拡大していることが12日公表された調査で明らかになった。この傾向は特に米国の若い男性で顕著だった。

調査は国際調査機関グロカリティーズが行った。「希望」と「絶望」、「統制(保守)」と「自由(リベラル)」の間のそれぞれどこに位置するか回答者に尋ねた。

平均すると世界は2014年から23年の間に、より悲観的になる一方でよりリベラルになった。

調査責任者のマルティン・ランパート氏は世界中の若者が特に社会に失望していると述べ、米国の若年層の絶望の急増はEU諸国の若年層をはるかに上回っていると指摘した。

米国と欧州連合(EU)加盟国7カ国で、14年からより保守的になったのは米国の若年層だけだった。

ランパート氏は「(世界中で)絶望感、社会への幻滅、コスモポリタンな価値観への反抗が反体制極右政党の台頭の一因となっている」と分析した。

ソーシャルメディアのアルゴリズムは、穏健的保守の若い男性をより過激で急進的な保守派の男性像や世界観に引き寄せることで、この傾向を拡大させていたという。

<若い女性は史上最もリベラル>
18─24歳の男性が55─70歳の男性を抜いて最も社会的に保守的なグループとなった一方で、18─24歳の女性はよりリベラルで反父長制的な傾向が強まった。

18─24歳の女性のリベラル度(1が最も保守的、5が最もリベラル)は14年が3.55、23年は3.78と、いずれもどの年齢層よりも高かった。

同年齢の男性は14年が3.29、23年は3.36だった。米国の18─34歳の男性はリベラル度が3.48から3.46に低下した。

報告書は「世界的に見て若い女性は人類史上最もリベラルなグループだろう」と結論付けた。

調査はオーストラリア、ブラジル、中国、ドイツ、インド、日本、ロシア、南アフリカ、米国など20カ国で実施された。【4月12日 ロイター】
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アメリカが“より保守的になった”のは世論動向とも一致しますが、欧州が“悲観的になる一方でよりリベラルになった”というのはよくわからないところも。詳しい調査結果を見ないと何を意味するのかはよくわかりません。
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アメリカによる対ロシア第二次制裁(決済支援した銀行が対象)の中国などの銀行への影響拡大

2024-04-12 23:14:24 | ロシア

(中国の王毅外相は、北京を訪問しているロシアのラブロフ外相と9日に会談しました。

会談後、王毅外相はラブロフ外相と共同で会見し、アメリカによる中国への先端半導体の輸出規制などを念頭に、「中国とロシアはサプライチェーンに障壁を構築することや、デカップリングに共同で反対する」と述べ、欧米などから制裁を受けるロシアとの協力を深めていく考えを強調しました。

一方、ロシアのラブロフ外相は会談の冒頭で「ロシアと中国の包括的なパートナーシップと戦略的な相互関係は、前例のないレベルに達している」と述べたうえで、3月にモスクワ郊外で起きたテロ事件にも言及して、テロ対策でも中国と協力していくと強調しました。【4月9日 NHK】

こうした政府間の蜜月ぶりの一方で、経済取引の現場ではアメリカの経済制裁の影響が出ていることが報じられています)

【アメリカが昨年12月に導入した対ロシア第二次制裁】
アメリカなどが主導する対ロシア経済制裁については、ロシア経済が“しぶとい”ことから、効いていない、効いているとの論議があります。

このブログでも、3月23日ブログ“ロシア石油精製施設へのウクライナのドローン攻撃で露呈するウクライナとアメリカの立場の違い”で、G7が導入したロシア産原油に価格上限を設ける経済制裁についてとりあげました。

世界の原油取引を混乱に陥れるロシアの原油生産抑制という行動を回避しつつ、ロシアの原油取引収益を相当程度に抑え込むという意味で、一定の効果をあげているというものでした。

今回取り上げるのは、アメリカが昨年12月に導入した第二次制裁、制裁を受けているロシア企業の資金決済に関与した場合、銀行に対し厳しい罰則を課すものです。

****米国、対ロシア「二次制裁」発動へ-決済支援した銀行が対象****
米国はロシアの軍産複合体による資金決済に関与した銀行を対象とする新たな制裁措置を講じる。ウクライナ侵略を続けるプーチン政権に手を貸す資金の流れを断つ取り組みの一環だ。

バイデン米大統領は22日、2本の大統領令を修正し、ウクライナでの戦争を巡りいわゆる「二次制裁」を米国として初めて発動できるようにする。記者団に説明した政府高官が匿名を条件に明らかにした。

これにより、すでに関連の制裁を受けている企業と取引をした場合、銀行に対し金銭面での厳しい罰則が科せられることになる。取引相手がロシア絡みの制裁を受けていることについての認識の有無にかかわらず制裁の対象になる。

米国の銀行はすでに制裁違反にならいようコンプライアンス(法令順守)対応で多額の資金を投じており、新たな制裁措置をさらなる頭痛の種と捉える銀行もあるとみられる。

国際的な銀行の多くはロシアとの直接取引はすでに行っていないが、ロシアとの貿易に関係する金融活動を続けている第3国の金融機関向けにコルレス銀行業務を行うことはあり得る。

イエレン米財務長官は声明で、制裁の「迂回(うかい)・回避を意図的もしくは意図せずして手助けすることがないよう金融機関があらゆる取り組みをすると見込んでいる」とし、ロシアの戦争に絡み便宜を図った金融機関に対し断固たる措置を講じるため今回の大統領令で認められた「新たな手段の活用をためらうことはない」と表明した。

米当局は今後数週間にわたり、米国と欧州の銀行に大統領令について説明し、制裁違反にならないよう対応する必要があると警告する予定。【2023年12月22日 Bloomberg】
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コルレス銀行については、以下のようなものです。

****コルレス銀行とは:海外送金の仕組みを知る****
海外の銀行同士には、直接的なつながりがないことがほとんどです。そのため、海外送金の際に、銀行はSWIFTと呼ばれる国際的な銀行のネットワークを利用します。

このSWIFT送金で、送金銀行と受け取り銀行をつなぐ役割を果たすのが、コルレス銀行(仲介銀行、中継銀行、経由銀行とも呼ばれる)です。ちなみに「コルレス」はCorrespondentの略です。

例えば、日本からアメリカに海外送金する場合、その流れは、以下のように表すことができます。
日本の送金人の銀行 → コルレス銀行1 → コルレス銀行2 → アメリカの受取人の銀行
海外送金では、大抵2つ、多くて3つものコルレス銀行(中継銀行)を経由することがあります。【WISE】
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【中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行がアメリカからの報復を恐れ、ロシア経済への影響拡大】
昨年末に始まったこの「第二次制裁」を今取り上げるのは、この制裁の影響を報じる記事を最近よく目にするからです。

****中国や中東の銀行、ロシア石油会社への送金遅延 二次的制裁を懸念****
ロシアの石油会社に対する中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行の原油・燃料売却代金送金が遅れている。ロシアのウクライナ侵攻を受けた米国の対ロシア制裁の影響を銀行側は懸念しており、最大数カ月の遅れが生じているという。事情に詳しい関係者8人が明らかにした。

米政府の制裁は、国際市場を混乱させることなく、ロシアの戦費につながる石油収入源を絶つことを主眼としている。

侵攻開始直後は、ロシア産石油の輸出や代金支払いが滞ったが、ロシアが新たな輸出ルートを開拓し石油収入は正常化した。

ところが、銀行や貿易関連の関係者によると、中国、UAE、トルコの一部銀行がここ数週間、制裁順守の要件を強化。その結果、ロシアへの送金の遅延や拒否の事例が出ている。

関係筋の一人は、非自国民のロシアとの取引を規制する米国の二次的制裁が影響していると説明。米財務省は昨年12月、ロシア産石油の価格上限規制に抵触した外国銀行は制裁対象になる可能性があるとし、制裁の順守を求めた。【3月27日 ロイター】
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****中国経由のロシア石油決済に最大6カ月、欧米の金融制裁で****
ロシア産石油の輸入代金の支払いを中国経由で行う際、決済に最大6カ月かかることがロイターの取材で分かった。ロシアのウクライナ侵攻に伴う米国や西側諸国の金融制裁が背景にある。

ロシアの銀行の90%が2022年末までに中国で口座を開設し制裁回避を図った。しかし、中国などの銀行は、ロシア産原油や燃料油の貿易決済に関われば、ロシアに加担したとして米国からロシア同様の制裁(二次制裁)を受けかねないと警戒するようになった。

ロシアの石油会社は原油や燃料の輸出代金の受け取りが最大数カ月遅れるようになり、決済の迂回ルートを模索した。

この結果、ロシアの銀行として中国で唯一、本格的な支店機能を持つ国営VTB銀行(VTBR.MM),上海支店に口座開設の申し込みが殺到した。関係者によると、支店スタッフの陣容は限られているため口座開設に6カ月も待たされるケースがあるという。VTB銀行はロイターの取材に対しコメントを控えた。【4月5日 ロイター】
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*****ロシア企業からの支払い、中国が精査厳格化か 電子部品に影響****
ロシア企業が中国への支払いに際して、ますます大きな障害に直面していると、2つのロシア系ニュースメディアが12日報じた。特に、電子部品が絡む取引が影響を受けているという。

コメルサント紙が市場関係者の話を引用して報じたところによると、一部の中国の銀行が3月下旬以降、サーバーやストレージシステム、ラップトップに必要な重要な電子部品などに関して、ロシアからの支払いをブロックし始めた。

これまでにも主に完成品を対象に制限がかけられていたが、これをさらに拡大するものだとしている。

コメルサント紙が引用した専門家によれば、このような部品のサプライヤーは中国だけであり、電子機器を組み立てるロシア企業は深刻な困難と生産遅延に直面する可能性があるという。

一方、イズベスチヤ紙によると、中国銀行や長城華西銀行など複数の中国系銀行は、ロシアの顧客に対し取引に関する詳細な質問をするようになった。具体的には、ロシア軍やロシアが支配するウクライナ地域、あるいはキューバ、イラン、シリアといった国々と関連があるかどうかなどだという。【4月12日 ロイター】
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「制裁による圧力が高まり、ロシア経済に影響を与えている」との指摘も。

****中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界がロシアを見放しつつある****
<アメリカの対ロシア制裁が拡大、強化されるとともに、ロシアとの取引を停止する同盟国が増えてきた。この動きは今後のロシア経済に大きな影響を与えるだろう>

アメリカがウクライナに侵攻するロシアへの制裁を強化するなかで、ロシアと同盟関係にある国々も、次々とロシアを見放そうとしている。

ロシアの長年の同盟国である中国、トルコ、アラブ首長国連邦、インドなどの最近の動きを見ると、アメリカの二次制裁を恐れていることがうかがえる。

中国の多くの大手銀行は、制裁対象となっているロシアの金融機関からの支払いの受け入れを停止している。また、アルメニアとキルギスタンの銀行は、制裁によってロシア国内で扱いが止められているビザやマスターカードに代わるロシアの決済システム「ミール」を利用したカードの取り扱いを停止した。

かつてロシアの石油を最も多く購入していたインドは、ロシアのプレミアム原油の支払いを停止したと報じられている。

一方、中国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)の銀行がアメリカからの報復を恐れているため、ロシアの石油会社は原油や燃料の売却代金の送金が最大数カ月の遅れに直面している、と27日付のロイター通信は報じている。

米財務省によれば、これらの国々は戦争中もロシアとの関係を維持しており、ロシアは現在進行中の制裁を回避するためますます頼るようになっている相手だ。

拡大する対ロ制裁
昨年12月、ジョー・バイデン大統領は、ロシアとの重要な取引を促進する外国の銀行をアメリカが直接制裁することを可能にする大統領令を発布した。米政府は、ロシアの防衛産業を支援する企業と取引を行う銀行を金融システムから遮断すると脅した。

ジャネット・イエレン財務長官は当時、「われわれは、金融機関が故意、あるいは偶然に、迂回や制裁回避を助長することのないよう、あらゆる努力を払うことを期待している」と述べた。「われわれは、この権限による新たな手段を躊躇することなく行使し、ロシアの戦争マシンへの供給を促進する金融機関に対して、断固とした行動を取る」

アメリカは、プーチンが2022年2月にウクライナ戦争を開始して以来、対ロ制裁を徐々に拡大してきた。外貨準備が凍結し、ロシアがSWIFT(国際銀行間金融通信協会)の銀行システムから締め出したことで、ロシア経済は打撃を受けた。

バイデンはまた、2022年3月にロシアの石油輸入を禁止すると発表し、この動きはロシア経済の「大動脈」を標的にするものだと述べた。一方、G7、EU、オーストラリアは、1バレル60ドル以上で販売されるロシアの海上石油輸出の保険、融資、船積みを禁止する価格上限規制を課した。

ロイターは事情に詳しい銀行・貿易関係者8人の発言を引用し、中国、UAE、トルコの多くの銀行がアメリカからの圧力に警戒を強めていると伝えた。ある情報筋によると、12月のバイデン大統領令によって、銀行や企業は「アメリカの二次制裁の脅威が現実のものである」ことを認識したという。

2人の情報筋によると、UAEではファースト・アブダビ銀行(FAB)とドバイ・イスラム銀行(DIB)が、ロシア製品の取引に関連する口座をいくつか凍結した。UAEのマシュレク銀行、トルコのジラート銀行とバキフ銀行、中国工商銀行、中国銀行は決済処理こそ続けているものの、大幅な遅延が発生していると、4人の情報筋がロイターに語った。

ロシアのドミトリー・ペスコフ報道官は最近の記者会見で、中国の銀行の処理遅延を認め、「中華人民共和国に対するアメリカとEUからの前例のない圧力が続いている」と述べた。
「もちろん、これは一定の問題を引き起こすが、(中国との)貿易・経済関係のさらなる発展の障害にはならない」とペスコフは語った。

ワシントンのシンクタンク、ウィルソン・センターは2月に発表した報告書で、「制裁による圧力が高まり、ロシア経済に影響を与えている」と指摘した。「ロシア経済の健全性に対する懸念が再燃している。それで最近の国内の弾圧強化と支出増大の説明がつくだろう」

「経済制裁には否定的な意見もあるが、対ロ制裁は機能している。時間をかけ、圧力をしっかりかけることで、ロシア経済にさらに大きな影響が出るはずだ」と報告書は付け加えた。【4月10日 Newsweek】
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国際金融に疎い私などにはわかりにくい仕組みですが、要するにウクライナ絡みのロシア企業の取引の決済に関与する銀行はアメリカから制裁を受けるというものです。

ロシアと中国は、政府間では蜜月ぶりを誇示していますが、中国側の銀行はアメリカから制裁を受けるのは死活問題ですので、ロシアの取引に関与するのに及び腰になっているようです。

資金の流れを止められると取引も出来なくなりますので、相当の影響があるようです。
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アメリカ  中絶禁止・容認論議の争点化を嫌うトランプ氏 「全国禁止」を支持せず

2024-04-11 22:52:39 | アメリカ

(【4月9日 日テレNEWS】)

【これからの国際情勢を左右するアメリカの中絶議論】
ウクライナやパレスチナ情勢、米中関係、アメリカと欧州・日本など同盟国との関係・・・世界の情勢を大きく左右する「もしトラ」ですが、その「もしトラ」が現実のものとなるのかどうかを大きく左右するのがアメリカ国内の中絶をめぐる議論です。

世界の何億の人々の生命・生活が、あるいは日米安保の在り方が、アメリカの中絶論議で左右される・・・世界の人々には納得できないものもあるでしょうが、それが現実です。

【共和党が優勢な各州で中絶を禁じる動きが拡大】
アメリカでは中絶を女性の権利として容認するか、あるいは「殺人」として厳しく規制すべきか・・・国を二分する(時に中絶を行う医師が殺害されたり、医療施設が銃武装暴徒に襲撃されたり、日本では想像できない)激しい議論が続いており、「分断」の象徴ともなっています。

保守派優勢の連邦最高裁は2022年、中絶の合憲性を認めた1973年の判例「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下しました。

中絶の権利については州の判断に委ねられ、共和党が優勢な各州で中絶を禁じる動きが拡大、20を超える州が中絶を全面・一部禁止しています。

また、勢いづいたキリスト教福音派などの宗教保守層は、全国一律での中絶禁止を目指しています。

共和党予備選挙を戦った保守派デサンティス知事のフロリダ州では、女性がまだ妊娠に気づいていないことが多い妊娠6週目以降の中絶も禁止する法案が州最高裁判断を待って施行されるという形で成立していますが、その州最高裁判断のGOサインがでたことで発効に道が開けています。

****フロリダ、妊娠中絶ほぼ全面禁止に一歩 州裁判断 11月住民投票も****
米フロリダ州最高裁判所は1日、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を禁止する現行法を支持する判断を下した。これにより妊娠6週以降の中絶禁止法の発効に道を開いた。

一方、11月に行われる選挙に合わせ、中絶の権利を認めるかどうかを問う住民投票を行うことも認めた。

同州では2022年にデサンティス知事が署名した法律を受け、妊娠15週以降の中絶は違法とされている。

これに対し、フロリダ州で中絶処置を提供する団体は同年、15週間以降の中絶禁止は州憲法に違反するとして提訴していた。

共和党が多数派の州議会はその後、妊娠6週目以降の中絶も禁止する法案を可決し、デサンティス氏が23年4月に署名。

同法には、州最高裁が15カ週以降の中絶禁止を支持した1カ月後にほぼ全面禁止を導入する条項が盛り込まれている。妊娠6週目では女性がまだ妊娠に気づいていないことが多い。【4月2日 ロイター】
*******************

またアリゾナ州では、160年前に制定されたものの、1973年に連邦最高裁が中絶を憲法上の権利だと認める「ロー対ウェード」判決を出したため死文化していた中絶禁止の法律が州最高裁によって「有効」と認められています。

****アメリカの州で160年前の中絶禁止法復活 反発必至、大統領選に風****
米西部アリゾナ州最高裁は9日、1864年に制定された人工妊娠中絶を禁止する法の施行を認める判断を示した。

母体の健康に危険がある場合以外は中絶が禁止され、レイプや近親相姦(そうかん)の被害者も例外にならない。アリゾナ州は11月の大統領選で勝敗のカギを握る接戦州の一つ。全米で最も厳しい中絶規制への反発は大きく、中絶の権利擁護を掲げる民主党のバイデン大統領には追い風となる。

州最高裁は今回の判断について「中絶に関する公共政策のあり方や合憲性には関係なく、法令解釈に関するものだ。中絶の権利が連邦の憲法で保障されていない以上、禁止法の施行を止める規定はない」と述べた。禁止法は14日間の猶予期間を経て施行される。

州最高裁の判事7人はいずれも過去の共和党の知事に指名されており、今回の判断は4対2(1人は忌避)だった。バイデン氏は声明で「150年以上前の残酷な禁止だ。今回の判断は共和党の過激な政策の結果だ」と批判した。

同州では中絶合法化の是非を問う住民投票を求める署名集めが続いており、11月の大統領選と同時に住民投票が行われる可能性がある。バイデン氏の陣営は中絶擁護運動との相乗効果を期待している。一方、共和党のトランプ前大統領は8日、中絶の争点化を避けるため、中絶規制は各州の判断に委ねる方針を表明していた。

米メディアによると、アリゾナ州の中絶禁止法は1864年(日本の江戸時代末期)に最初に慣例として成立し、1901年に成文化された。中絶を手助けした医師らには禁錮2〜5年の罰則が科せられる。73年に連邦最高裁が中絶を選ぶ権利は保障されるとの憲法判断を示し、同州でも中絶禁止法の施行は差し止められた。

しかし、州法自体は無効とされずに残っていた。連邦最高裁は2022年6月、憲法判断を49年ぶりに覆し、州による中絶禁止を容認。アリゾナ州では妊娠15週より後の中絶を原則禁止する州法が施行されたが、差し止められていた1864年の州法の施行を再開するかどうかを巡って訴訟になっていた。【4月10日 毎日】
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【世論では容認派が優勢 中絶禁止は選挙戦では不利に バイデン・民主党は争点化をはかる】
ただ、全体的世論傾向としては中絶を容認する者が多く、この中絶論争が選挙で争点になると中絶禁止を求める共和党側には不利、寛容な与党民主党側には有利に作用する傾向もあります。

民主党の苦戦が予想されていた先の中間選挙で、民主党が予想を上回り善戦できたのは、この中絶論議が争点となったことが大きいとされています。上記アリゾナ州の住民投票も、そうした点を踏まえての運動です。

トランプ前大統領に対し苦戦が予想されているバイデン大統領にとっても、数少ない苦境の突破口がこの中絶論議を争点化することです。

前述フロリダ州の件についても、“バイデン氏は「女性の健康と生命を危険にさらす。言語道断だ」と述べた。妊娠6週では妊娠に気づかないことが多いため、中絶の選択肢をほぼ全面的に奪うことになる。11月の大統領選で再選を狙うバイデン氏は中絶の権利擁護をアピールし、女性票取り込みを図る。”【4月3日 共同】とのこと。

そのあたりはの事情は、当然に共和党指導部も考慮せざるを得ないところで・・・・

****米共和党、中絶巡り新戦略 「率直に議論すべき」****
議員宛てのメモには女性への共感を奨励することなどが記されている

11月の米大統領選挙で下院議席の過半数維持に向けた共和党の取り組みを主導する議員らは人工妊娠中絶を巡り、同僚議員に自らの立場を率直に議論するよう促している。前回の選挙では中絶問題にあえて踏み込まない姿勢が目立っていたが、接戦を制する上では新たな対応が重要になるとみている。

下院共和党の選挙対策を手掛ける議員らが作成したメモは、同党は「政策の問題ではなく、ブランドの問題」を抱えていると指摘した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)がメモの内容を確認した。

共和党は中絶問題を議論することに消極的だったため、同党の立場は民主党が定義することになったとの見立てだ。有権者の多くは共和党の候補者がいかなる状況下でも中絶に反対しているとみているが、実際には候補者によってさまざまな立場があり、激戦区では特にそれが当てはまるという。

選挙対策として候補者には、自らの立場を「自信を持って明確に」伝えるべきとの指針を示し、「有権者に明確な立場を示そうとしないことは最悪の解決策」とした。

中絶問題は近年、共和党に重くのしかかっている。2022年の中間選挙では共和党は下院で過半数を奪還したものの、党のシンボルカラーの赤にちなむ「レッドウエーブ(赤い波)」が起きるとの期待は大きく外れ、予想よりも極めて僅差で民主の議席数を上回るにとどまった。

妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェード」判決を覆す判断を連邦最高裁が同年に示したことで中絶の権利を擁護する有権者が奮い立ち、民主党の議席維持に貢献したと両党の議員は語る。

今秋の大統領選に向けて共和党は取り組み方の改善を模索している。選挙ではホワイトハウス、上院、下院のいずれも、民主と共和どちらが制しても不思議はないとみられている。

選挙対策を担う全国共和党下院委員会(NRCC)の委員長を務めるリチャード・ハドソン下院議員(ノースカロライナ州)が同僚議員に提示する今回の指針では、女性への共感を表明すること、「常識的な」解決策を議論することなどを奨励している。中絶問題で民主党は過激主義に走っているとの認識で、こうした主張に対抗するよう提言もしている。ハドソン氏は13日夜、ウェストバージニア州での3日間の党内会合期間中に指針を示す予定だ。

ハドソン氏は議論を補強する材料として、世論調査担当者でドナルド・トランプ前大統領の上級顧問を務めたケリーアン・コンウェー氏が行った調査を取り上げるとみられる。

下院の60以上の激戦区を対象としたこの世論調査では、回答者の約3分の1が、共和党はあらゆる中絶の違法化を望んでいると考えていることが示された。民主党はどんな理由であれ常に中絶に賛成していると考える回答者も同じような割合だった。

共和党の見解は、「中絶の権利擁護」と「中絶反対」という基本的な色分けがあるものの、有権者は全体的に中絶に関する何らかの制限を支持しており、民主党よりも共和党の立場に近いというものだ。

民主党は、有権者に寄り添っているのは同党の方だと反論する。民主党下院選挙運動委員会(DCCC)の広報担当者、ベト・シェルトン氏は、もし共和党が「不評の反中絶政策について、人々がもっと聞く必要があると思うなら、そうすればいい。われわれは有権者が11月にしかるべき答えを出すと確信している」と述べた。

中絶を巡り共和党が発するメッセージはこの2年間、混迷していた。連邦政府の新たな規制を支持する議員もいれば、中絶問題は各州に対応を任せるべきだという議員もいた。共和党が主導権を握る10州以上では、中絶をほぼ全面的に禁止する法律を制定している。多くは、レイプや近親相姦(そうかん)での妊娠の例外扱いをほとんど認めていない。フロリダのように、妊娠6週目以降の中絶を禁止した州もある。

大統領選で共和党の候補者指名獲得が確実となっているトランプ氏は、自身の立場を明確にしていない。同氏は「ロー対ウェード」判決を覆す判断について、在任中に最高裁に保守派判事を送り込んだ自らの手柄とする一方で、フロリダ州の法律については「ひどいことであり、とんでもない間違いだ」と批判している。

共和党議員の間では、中絶のほぼ全面的な禁止や、妊娠6週目からの制限を支持する向きもあれば、妊娠15週目以降の禁止を支持する者もいる。また一部では、レイプや近親相姦、母体の命が危険にさらされている場合などの例外扱いへの支持もある。

今回のメモは共和党の候補者に対し、中絶に関する制限を支持するかどうかを民主党の候補者にも立場をはっきりさせるよう迫るべきとしている。

リプロダクティブ・ライツ(性と生殖に関する権利)を巡る問題は、大統領選を控えて共和党にとってすでに頭痛の種となっている。アラバマ州の最高裁が2月に体外受精を巡り、「凍結胚」を「子ども」とみなす判断を示したことで、体外受精の合法性に疑問が投げかけられた。このため、共和党は体外受精を擁護する立場を表明する対応に追われた。

連邦議会下院の共和党議員の半数以上が、受精の瞬間などを「人間」の定義とする法案に署名していたため、不妊に悩む多くの米国人が利用している体外受精について、共和党はどのような立場なのかという議論も広がっていた。

この法案に署名していたミシェル・スティール下院議員(共和、カリフォルニア州)は選挙で苦戦するとみられており、先週に署名を撤回した。議会でその理由について、「体外受精で子どもを授かる幸せを私が支持することについて、混乱を招きかねない」と述べ(中略)

中絶は大統領選で有権者が重視する争点の一つであることを、共和・民主両党とも認識している。WSJが先月実施した世論調査では、両党の有権者はいずれも、自らと候補者が同じ見解でなければならない問題の最上位として中絶を挙げた。見解が異なれば候補者には投票しない問題を一つ挙げる質問では、22%の回答者が中絶を、20%が移民政策を挙げた。【3月14日 WSJ】
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【世論傾向を見て“進化する”トランプ氏】
記事にもあるようにトランプ氏も、問題の重要性もあって、自身の立場を明確にしてきませんでした。中絶禁止で踏み込むと選挙戦に不利に作用しますが、踏み込みが不十分だと支持層の宗教的保守層の離反を招きます。

ただ、トランプ氏としてもだんまりを決め込む訳にもいかないので、3月段階では、レイプや近親相姦による妊娠や母体に危険がある場合は例外を認める形で、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を全米で禁止する方向に傾いていることを示唆していました。【3月21日 ロイター「トランプ氏、15週以降の中絶禁止に傾く 例外認める方針」より】

例外を認めることに関しては、「選挙に勝たなければならない」と訴えていました。

しかし、トランプ前大統領は4月8日、中絶の規制の是非は各州が決めるべきだとの見解を表明、全米での一律禁止には言及しませんでした。

選挙の争点に浮上する中絶問題で穏健な姿勢を示し、無党派層などの支持を取り込む狙いとみられていますが、宗教的保守層には失望も広がっています。

****トランプ氏が中絶の「全国禁止」支持せず 宗教保守の強硬論と距離、失望誘う****
11月の米大統領選で返り咲きを狙う共和党のトランプ前大統領(77)が、宗教保守層が主張する人工妊娠中絶の「全国禁止」に反対する考えを示し、波紋を広げている。宗教保守層はトランプ氏の支持基盤だ。これまで妊娠15週以降の中絶を全国的に禁じることを支持する考えを示唆してきたが、立場を一転させ、支持者を失望させている。

トランプ氏は8日、自身の交流サイト(SNS)に投稿したビデオ声明で、中絶を禁じるかどうかは「州が決めることだ」と述べ、連邦レベルでの中絶禁止法の制定を否定した。

10日も訪問先の南部ジョージア州で、自身が大統領になれば、中絶禁止の連邦法が議会を通過しても、法案成立に必要な署名を「しない」と明言した。

保守派優勢の連邦最高裁は2022年、中絶の合憲性を認めた1973年の判例を覆す判断を下した。これを受け、共和党が優勢な各州で中絶を禁じる動きが拡大。勢いづいたキリスト教福音派などの宗教保守層が、全国一律での中絶禁止を目指している。

一方、22年の最高裁判断は、女性や若者を中心に中絶を選ぶ権利が奪われるとの危機感を生んだ。
保健政策の調査機関「KFF」の2月の世論調査で、中絶は合法であるべきとの回答が71%に上った。

中絶問題は、大統領選の行方を左右する都市郊外の女性や無党派層にとって強い関心事と指摘される。
民主党のバイデン大統領(81)陣営は、中絶の権利擁護を公約に掲げる。

トランプ氏は、各種世論調査で中絶の権利擁護を求める意見が多数派となっているのを踏まえ、中絶問題で強硬な態度を続けることは得策ではないと判断。宗教保守層が支持する中絶反対論と距離を置く「軌道修正」を図り、支持層を広げる思惑があるとみられる。

ただ、トランプ氏の発言には、主要な中絶反対派団体が「深く失望した」との声明を出すなど、反発もある。また、同氏は中絶の権利そのものを擁護するとは明言しておらず、今回の発言の効果は未知数だ。【4月11日 産経】
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そもそもトランプ氏には宗教的保守層のような「確信」「信念」はなく、大統領になる前は中絶の権利を支持していました。

それが2016年の大統領選挙の共和党予備選挙では、中絶が違法化されたら中絶した女性を罰するべきだと発言。

その後中絶反対派と容認派の両方から反発を受け、中絶した女性ではなく中絶の施術者だけが法的な責任を負うべきだとする声明を発表し、当初の発言を修正しています。

以前は中絶の権利を支持していたことに関しては、“ウィスコンシン州ミルウォーキーで(2016年3月)29日夜にCNNの主催で開催されたタウンホール式のイベントで、トランプ氏は考えが変わったのか、それとも失敗から学んだのかと問われ、「私は中絶反対派だ。もともとは『プロチョイス』(中絶容認派)だった」と述べた。その後、「私は進化した」と付け加えた。”【2016年3月31日 WSJ】

「進化」・・・選挙で有利に働く方へなびくということでしょう。
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アラブ首長国連邦(UAE)  アフリカ向け投資などで存在感を強めるUAEとはどんな国?

2024-04-10 23:45:20 | 中東情勢

(【2023年8月21日 中東協力センター】UAEが標榜する「寛容」の象徴として、2023年3 月、アブダビにイスラム教、ユダヤ 教、キリスト教の3宗教の礼拝所 を近接して配置した統合的宗教 施設アブラハム・ファミリー・ハウス が開館 )

【急減した中国のアフリカ向け融資】
中国にとってアフリカは毛沢東の時代から、協調して欧米先進国に対抗する、国連などの場において支持国を確保するといったことで非常に重要な位置づけにあり、歴代政権はアフリカ外交を重視してきました。

習近平国家主席の「一帯一路」においても同様でしたが、「一帯一路」の方針が“大盤振る舞い”から経済合理性を重視するものへと変化するなかで、中国のアフリカ向け融資も急減しています。

****中国のアフリカ向け融資が急減、過去20年で最低に―独メディア****
2023年9月24日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国によるアフリカ向けの融資規模が急速に縮小しており、融資額がこの20年で最低水準になったと報じた。

記事は、ボストン大学グローバル開発政策センターの「グローバル・チャイナ・イニシアチブ」が発表した最新の調査で、昨年の中国による対アフリカ融資額が10億ドル(約1480億円)を下回って過去20年間で最低水準となったことが分かり、同センターが「この研究は、中国が数十年続けてきたアフリカ大陸におけるインフラブームから脱却しつつあることを浮き彫りにしている」と論じたことを紹介した。

そして、アフリカが中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が2013年に始めた「一帯一路」構想の焦点となっており、ボストン大学の調査によると2000年から22年までに中国がアフリカに1700億ドル(約25兆円)の融資を行ったと推定される一方、融資規模は16年にピークを迎えた後急速に減少し始めており、昨年合意に至った融資案件は9件、融資総額は9億9400万ドル(約1480億円)で、04年以来の低水準にとどまったと伝えている。

中国の対アフリカ融資が急速に縮小している理由について記事は、アフリカ諸国の債務負担の深刻化と中国経済の悪化の2点を指摘。

中国による対アフリカ諸国インフラプロジェクトをめぐって欧米の専門家の間で「中国が貧しい国々に持続不可能な債務負担を負わせている」と論じられてきた中で、20年に東アフリカのザンビアが債務不履行に陥り、ガーナ、ケニア、エチオピアといった国々もまた債務の泥沼に苦しんでいるとした。

また、中国も不動産市場の低迷、不安定な人民元為替レート、世界的な中国製品需要の低下など多くの問題を抱えているとし、これまでアフリカ向け融資の大部分を担ってきた中国開発銀行と中国輸出入銀行が戦略を転換し、国内の成長サポートを重視するとともに、海外向け融資も自国に近い市場に向けるようになったと伝えた。

記事はその上で「融資額の減少は必ずしも中国のアフリカへの関与の終わりを意味するものではない」とし、 中国のアフリカ向け支援や「一帯一路」構想が従来のインフラ建設重視から質の高さや環境への配慮といった点を強調するようになったことの表れであるとの見方を示している。【2023年9月25日 レコードチャイナ】
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ただ、今も多くの中国企業がアフリカで活動しており、“中国からの融資が大幅に減少しても両者は依然として相思相愛の状態にある”とも。

****中国とアフリカの関係に変化、中国からの融資が激減―仏メディア****
2024年1月8日、仏国際放送局RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトは、中国がアフリカとの関係を変化させ、融資を大幅に削減していると報じた。

記事は、中国とアフリカ大陸の関係は転換期を迎えており、中国によるサハラ以南アフリカ諸国への中国からの融資が大幅に減少しているとする仏紙ル・モンドの8日付報道を紹介。

国際通貨基金(IMF)が昨年10月に発表した報告書の中で、中国とアフリカの関係は「岐路に立っている」と表現したほか、同6月に中国湖南省で開催された中国・アフリカ経済貿易博覧会(CAETE)でも契約プロジェクト総額が約100億ドル(約1兆4400億円)と、19年に開かれた前回の半分にも満たなかったと伝えた。

そして、変化の背景に中国が国内経済の減速という困難に直面していることがあり、不動産危機、若者の失業、輸出減少の影響を受けて中国が現実予算主義に転じていると指摘。あらゆる資金源が枯渇する中、中国による融資縮小はアフリカにとっては非常に頭の痛い問題だとした。

一方で、「評判を守りたい中国も、アフリカの政府を崩壊させるようなことはしたくない。また、アフリカに対する中国の関心は低下していない」との見方を示し、建設、エネルギーから電気通信に至るまで、数多の中国企業が自らの力でアフリカ市場に進出していると指摘する専門家もいることを紹介した。

その上で、20年間アフリカ各地を渡ってきた欧州の政府関係者が「今では、すべての公共入札に中国企業が参加している。技術的には、中国企業のオファーは欧州とほぼ同等であるものの、欧州の駐在員は現場から離れた冷房完備のホテルを求めるのに対し、中国の駐在員は現場付近の小屋で寝ることを良しとするため、中国人が市場の大半を占めつつある」と語ったことを伝えている。

記事は、中国がアフリカ大陸に注目し続ける理由について、天然資源へのアクセス確保と現地政府の囲い込みという二つの点が少なくとも存在するとし、現時点で中国側の思惑は奏功していると紹介。

そして、アフリカ政府も中国がこれ以上支援から手を引くようなことを望んでおらず、中国からの融資が大幅に減少しても両者は依然として相思相愛の状態にあるとする一方で「アフリカの中国に対する依存度が、中国のアフリカに対する依存度よりもはるかに大きい」という非対称性も今後さらに続くことになるだろうとした。【2024年1月11日 レコードチャイナ】
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【中東産油国、特にアラブ首長国連邦(UAE)からアフリカへの資金が増加】
中国からの融資が減少するなかで、それを埋めるかのように増加しているのが中東産油国、特にアラブ首長国連邦(UAE)からの資金とのこと。

****〈中東産油国が進めるアフリカへの投資〉東西ではない、新興国も参戦する争奪戦****
Economist誌3月16日号の社説‘The Gulf’s scramble for Africa is reshaping the continent’が、最近の経済面及び外交面での湾岸諸国のアフリカ進出の拡大を中国の台頭にとって代わるものとして期待することは、特にアラブ首長国連邦の動きに鑑みれば危険なことだと警告している。要旨は次の通り。

冷戦時代、アフリカの指導者たちは、しばしば西側かソ連のいずれか味方し、援助や武器、投資等彼らが望むものを引き出した。冷戦終結後、道路や港湾の建設を望む場合は中国と取引した。

今日では、ブラジルやインド、トルコなどの中堅大国が経済面及び外交面で進出してきている。しかし、最も衝撃的なのは、アラブ首長国連邦(UAE)、それに次いでサウジアラビアとカタールの突出である。アフリカをめぐる湾岸諸国の影響力争いは、大きな経済的利益をもたらすと同時に恐ろしい戦争の火種にもなりかねない。

湾岸諸国の影響力はお金に由来する。11月、サウジアラビアは初のアフリカ・サミットを開催し、数十億ドルの投資を発表したが、それさえも 2022年に米国企業の投資の7倍に相当する投資を表明したUAEに比べれば小さく見える。

それ以前の10年間は、UAEのアフリカへの投資は、中国、欧州連合(EU)、米国に次いで4位であった。20年と21年、ドバイのサブ・サハラ・アフリカとの貿易額は米国を上回り、ドバイは、財産権の保障が確実で金融規制が緩いこともあり、2万6000以上のアフリカ企業が進出している。

資金不足に直面するアフリカ諸国にとり注目を浴びることは利益をもたらすだろう。22年までの4年間で、アフリカに供与された中国の新規融資は、その前の4年間に比べ80%も減少し、欧米の援助に占めるアフリカの割合は、ウクライナ戦争の影響で減少している。欧米の政府関係者には、中国の手に渡ってしまうかもしれない鉱山への投資を湾岸諸国が行うことで、そのギャップを埋め、地政学的なライバルを出し抜く手助けになることを期待するものもいる。

しかし、アフリカを湾岸諸国の野心と競争の舞台とすることは、大きなリスクを伴う。湾岸の王国独裁国家は、アフリカの民主主義の擁護者でも人権の擁護者でもない。UAEは軍閥を武装させ、混乱を広げ、腐敗したエリートたちに避難所を提供する危険な国である。

そのもっとも典型的な例がスーダンであり、UAEが大量虐殺を行う民兵組織である即応支援部隊(RSF)を支援し国軍と内戦を繰り広げており、約2500万人が援助を必要とする世界最大の人道危機となっている。UAEの友人には、RSF指導者のダガロ、リビアの軍閥ハフタル、チャドのクーデターで権力を握ったマデビ、そしてエチオピアで血なまぐさい内戦を繰り広げたアビイなどがいる。

石油と天然ガスの富は、UAE、サウジアラビア及びカタールが何年にもわたって魅力あるパートナーであることを意味する。しかし、スーダンとリビアから広がる騒乱の波紋は、価値観を共有しない国々にアフリカ政策を委託することの危険性を西側諸国に警告するものだ。そしてアフリカ諸国は、自らが他国の地政学的ゲームの駒として使われることのリスクを知るべきである。

*   *   *

UAEの中国、米国、EU超えの可能性
(中略)このような湾岸諸国とアフリカとの急速な関係緊密化の背景には、湾岸諸国側には、脱石油化を念頭にアフリカの将来性への期待、多極化する国際社会における影響力の拡大といった戦略的考慮があるが、そのような動きを後押しする太古からの歴史的な繋がり、地理的近接性、イスラム教を通じた連帯や文化的な親和性などの基礎的な要素もある。

アフリカ側から湾岸諸国の投資が歓迎される理由としては、潤沢な資金、意思決定の迅速性、欧米のような上から目線でないことなどが指摘されている。これらの要素を勘案すると、関係緊密化の傾向は一時的なものではなく持続性があり、まさにアフリカの在り方を変える可能性があろう。

負の面の要素は、この社説が後段で触れているアフリカの独裁政権や一方の紛争当事者への支援といった特に政治的介入とアフリカの支配者層との好ましくない癒着である。特にUAEが資金や武器面で支援しているとされる、リビア、エチオピア、チャド、スーダンの政治指導者は、人権尊重や民主主義とは対極的な存在である。

また、経済的繁栄を謳歌しているドバイの裏の面として、違法採掘された金の流出先となってこれら指導者の資金源となっているとの疑いや、ドバイ進出のアフリカ企業数が26,000を超えるというのも驚きであるが、ドバイの不動産がアフリカ・エリートの蓄財に活用されているとの報道もあり、このような面でのアフリカのガバナンスの低下が懸念される。

湾岸諸国への関与の必要性
アフリカの安定は欧州をはじめ世界の安定や発展にとり重要であり、テロの温床となるイスラム過激派を押さえ、政治的安定や民主主義、健全な経済発展に障害となるような中国の経済進出やロシアの軍事的影響力拡大に対抗する必要がある。

他方、サヘル地域等では、フランスの影響力が駆逐され、マリ、ブルキナファソに続き米国の重要拠点であったニジェールもクーデターにより、米国からロシアとの協力強化に舵を切ろうとしている。

このような状況において、西側諸国としては、多極化する世界の中でアフリカに関与して自らの地位を高めようと競争するUAEやサウジアラビアとの連携を模索することが望ましいのではなかろうか。

湾岸諸国は、建前上、米国か中国・ロシアかのいずれの側にも与さない立場であろうが、少なくともロシアや中国との協調に向かわないようには留意すべきであろう。そのためには、米国を中心に西側諸国と湾岸諸国の対話と協力関係の強化が必要であり、またアフリカのそれぞれに事情の異なる国ごとにきめの細かい分析と対応が必要である。【4月10日 WEDGE】
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【アラブ首長国連邦(UAE)とはどんな国?】
今更の話ですが、サウジアラビアとセットで語られることも多いアラブ首長国連邦(UAE)ってどんな国?

アブダビとドバイ、そしてその他五つ、合計七つの首長国の連邦国家ですが、それぞれの首長国は絶対君主制政。

*******************:
連邦の最高意思決定機関は連邦最高評議会(FSC、Federal Supreme Council)で、連邦を構成する7首長国の首長で構成される。結党は禁止されており、UAEには政党が存在しない。

議決にはアブダビ(首都アブダビ市がある)、ドバイ(最大の都市ドバイ市がある)を含む5首長国の賛成が必要になる。

憲法規定によると、国家元首である大統領、および首相を兼任する副大統領はFSCにより選出されることとなっているが、実際には大統領はアブダビ首長のナヒヤーン家、副大統領はドバイ首長のマクトゥーム家が世襲により継ぐのが慣例化している。閣僚評議会(内閣相当)評議員は、大統領が任命する。【ウィキペディア】
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UAE原油の大部分を産出するアブダビと、貿易、観光及び金融に力を入れているドバイの2首長国が、政治・経済・軍事の面で主導権を握っているといえます。

“連邦予算は8割がアブダビ、1割がドバイ、残りの1割は連邦政府の税収によって賄われており、残りの5首長国の負担額はゼロである。事実上、アブダビが北部5首長国を支援する形になっていると言える。”【ウィキペディア】

政党もない絶対君主制、リビア、エチオピア、チャド、スーダンなどを資金・武器で支援・・・欧米的価値観とは異なる国ですが、UAEの政治システム自体は中東・アフリカ世界にあっては“クリーン”と言えるようです。

****腐敗認識指数ランキング、中東・北アフリカではUAEが最もクリーンとの結果****
世界各国の腐敗や汚職を監視する国際的なNGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」は1月30日、「2023年度腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index:CPI)ランキング」(注1)を発表した。

ランキングは世界180カ国を対象としており、腐敗・汚職が少ないほど高位となる。中東・北アフリカ地域では、アラブ首長国連邦(UAE)が26位で最も高く、クリーン(腐敗していない)とされており、イスラエルが33位、カタールが40位と続いた。

UAEとカタールのほかの湾岸協力会議(GCC)加盟国は、サウジアラビが53位、クウェートが63位、オマーンが70位、バーレーンが76位だった。中東・北アフリカの指数で180カ国中100位以内の国は次のとおり(かっこ内は前年からの変動)。(中略)なお、首位はデンマーク、日本は16位だった。【2月14日 JETRO】
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資金面でのアフリカなど世界各地における存在感、紛争国・強権支配国への資金・武器支援の他、イスラエルとの国交正常化の口火を切るなど国際政治面でも注目されます。

2020年8月13日にUAEとイスラエルの国交正常化合意が発表され、その1カ月後、9月11日にはバハレーンが国交正常化合意を発表し、スーダンとモロッコもこれに続いた・・・いわゆる「アブラハム合意」です。

昨年の国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)においては、産油国ながら、「化石燃料からの脱却」に向けた会議の議長国としての役割を果たしています。

その外交姿勢はアメリカに追随することのない独自のものがあります。

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中東有数の経済国であるUAEにとって、軍事的緊張の高まりは最も避けなければならない事態だ。イランを中心に中東地域の緊張が強まる中、UAEは融和策に舵を切った。

2020年にはイスラエルと国交を樹立し、その後イランやカタール、トルコなど対立していた周辺国との関係も正常化させた。いまやUAEは、地域の主要国と積極的かつ戦略的にバランスをとっている。

また、アメリカの同盟国でありながら、同国と対立する中国やロシア、シリアとの外交的・経済的関係も拡大している。

例えば対中関係では中国製の5G(第5世代移動通信システム)技術を導入し、アブダビの港湾では中国による軍事施設の建設を進めていると報じられている。

アメリカはUAEとこれらの国々との関係に懸念を示し、是正の申し入れをしているが、UAEは意に介していない。【2023年11月2日 二階堂遼馬氏 東洋経済オンライン“「脱アメリカ依存」進める湾岸諸国の巧みな交渉術多極化する世界で「存在感」が増している”】
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駐アラブ首長国連邦大使 磯俣秋男氏によれば

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日本の国益から見たUAEの特色
(1)石油・ガス資源国なるも脱炭素化も強力に推進 →エネルギー安定供給源であり、脱炭素化への取組・貢献のパートナー 
(2)政治・社会の安定の下、開放性や良好なビジネス環境を基に経済 多角化・ハブ機能拡大 →潜在性、資金力等を有する中東・アフリカ向けビジネス展開のパートナー 
(3)対話と経済交流をベースにした緊張緩和を推進する外交を志向・展開 →中東外交における安定的パートナー。グローバルな課題でも協働可能 

UAEの外交~「寛容」の精神・政策に基づく対話外交
• UAEが標榜する「寛容」のイスラム価値観を外交面でも発揮 
•「寛容」の精神・政策は、経済面ではUAEのビジネス環境整備、投資誘致、ハブ機 能強化も促進 

「寛容」の象徴として、2023年3 月、アブダビにイスラム教、ユダヤ 教、キリスト教の3宗教の礼拝所 を近接して配置した統合的宗教 施設アブラハム・ファミリー・ハウス が開館 【2023年8月21日 中東協力センター】
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とのことです。もちろん、ポジティブな面に焦点をあてれば・・・ということですが。
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カザフスタン  喧伝される中央アジア諸国の「ロシア離れ」 一方で「腐ってもロシア」の現実

2024-04-09 23:39:22 | 中央アジア

(【2023年11月9日 日経】 カザフスタンを訪問したプーチン大統領とカザフスタン・トカエフ大統領)

【ロシアと欧米のはざまでバランスをとる中央アジア】
かつて「ロシアの裏庭」と呼ばれたように、旧ソ連の中央アジア諸国はロシアの影響力が強い地域ですが、最近では中国の経済進出に加え、ロシアがウクライナで手一杯なこともあって、中央アジア諸国の「ロシア離れ」が指摘もされます。

もともとこれらの国々においては、カザフスタンやウズベキスタンで見られるように、ロシア・キリル文字の使用をラテン文字に変更しようするような動きなど、自国の文化的なアイデンティティを強めようとする動きは以前から見られたものでもあります。

圧倒的なロシアの存在感とアイデンティティ強化の動きがあるなかで、ウクライナをめぐるロシアと欧米の対立によって、“綱渡り”的なバランスが必要とされていることは事実でしょう。(“綱渡り”・・・あるいは“いいとこ取り”でしょうか)

欧米の対ロシア制裁にどこまで付き合うのか“揺らぎ”もありました。

****カザフ、対ロシア制裁による禁輸を否定****
カザフスタンの貿易省は19日夜、西側諸国の対ロシア制裁の一環として、軍事転用可能な民生品106品目について、ロシアへの輸出を禁止するとの貿易副大臣の発言を否定した。

現地メディアが同日、これに先立ち伝えたところによると、カイラト・トレバエフ貿易副大臣は、「ドローンとその電子部品、特殊装備、チップ」を含む106品目のロシアへの輸出を禁止すると述べていた。
 
だが、貿易省は夜になって、「正確ではない」として副大臣の発言内容を否定。
「対ロシア制裁に関連して、ロシア連邦へのいかなる品目の輸出も禁止されていない」「同時に、輸出規制の対象となっている『二重用途』品目の貿易に関しては、カザフスタンの国際義務に従って行われる」と発表した。

カザフは中央アジアに位置する旧ソ連構成国で、同地域に強い影響力を持つロシアと、西側諸国の間で綱渡りの外交を余儀なくされている。

ロシアは、ウクライナ侵攻に伴い、西側諸国に制裁を科されているにもかかわらず、いまだにカザフなどの第三国を介して必需品を輸入しているのではないかとの疑念を持たれている。 【2023年10月21日 AFP】
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中央アジア諸国の中にあっても地域大国カザフスタンは、ロシアとの歴史的関係、豊富な地下資源などで、ロシアにとっては特別な存在でもあります。

この機に乗じて、揺れる中央アジアに“手を突っ込もう”とするような動きも。

なお、マクロン大統領の中央アジア歴訪の一義的な狙いは、原発に使うウランの安定調達を図ることとされています。フランスはウランをカザフスタンやウズベキスタン、西アフリカの旧植民地ニジェールなどから調達してきたが、ニジェールでは昨年7月にクーデターが起き、先行きが不透明となっているためです。

****仏マクロン大統領が中央アジア歴訪 「ロシア離れ」を加速させたい考えか****
フランスのマクロン大統領が中央アジアを訪問しています。中央アジアの「ロシア離れ」を加速させたい考えです。

マクロン大統領は1日、中央アジアのカザフスタンを訪問し、トカエフ統領と会談しました。 フランスへのウランの供給拡大などが話し合われたとみられます。

ロシアメディアは、ヨーロッパとの関係強化により、中央アジアの国々のロシア離れを加速させたい考えだと報じています。

ロシア大統領府のペスコフ報道官はマクロン大統領の訪問について、「カザフスタンの問題だ」としてコメントを避けました。 マクロン大統領はこの後、ウズベキスタンを訪問します。

旧ソ連圏の中央アジアは石油や天然ガス、ウランなどの鉱物資源に恵まれていて、これまでロシアの勢力圏にありました。 カザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻には支持を表明しないなど、ロシアと距離を置き始めています。【2023年11月2日 テレ朝news】
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“カザフスタンのトカエフ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻には支持を表明しない”・・・開戦直後、トカエフ・カザフスタン大統領が、プーチン大統領の面前で、ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の「独立」を承認しない旨発言したことは西側では大きく取り上げられました。

ウクライナ侵攻に関して国連総会で行われてきたロシア非難の決議案についても何度も(反対ではなく)「棄権」を選択しています。

2022年1月、カザフスタンが内乱一歩手前の情勢になった時、ロシアはトカエフ大統領の要請に応えて、僅か数日で2000名を越える兵力を送ってトカレフ政権を支えたことがあります。

それだけに、上記のようなカザフスタンのロシアと距離を置く姿勢は、ロシアにとっては“恩をあだで返ような腹立たしいものにも受け取られ、後述のようなカザフスタンへの厳しい“脅迫”じみた言動にもなっています。

ただ、カザフスタンのこうした外交姿勢は、国連憲章の尊重、所謂「自称国家」は一切認めない立場、全方位外交という従来からの外交姿勢であり、これをもって直ちに「ロシア離れ」とするべきではないとの指摘もあります。(4月2日 田中佑真氏 新潮社フォーサイト“「中央アジアのロシア離れ」は本当か?――ロシア・ウクライナ戦争が浮彫りにする地域秩序の複雑性”)

一方、ロシアも「ロシア離れ」を食い止めようとしています。

****プーチン氏、カザフと結束確認 ロシア影響力低下の食い止め図る****
ロシアのプーチン大統領は9日、中央アジアの旧ソ連構成国カザフスタンを訪れ、同国のトカエフ大統領と会談した。

ロシアのウクライナ侵略に否定的な立場を示してきたトカエフ氏は今月、フランスのマクロン大統領ら外国首脳と相次いで会談し、協力推進で一致したばかり。中央アジアを自身の「勢力圏」とみなすロシアは地域大国カザフとの結束を確認し、同国が欧米側などに傾斜する事態を食い止める構えだ。

プーチン氏は会談後の記者発表で、トカエフ氏との会談を「生産的だった」と指摘。両国の軍事・経済協力などを協議したとし、「ロシアとカザフは最も緊密な同盟国だ」と満足感を示した。両首脳は二国間関係を今後も発展させるとした共同声明に署名した。(中略)

プーチン氏のカザフ訪問には、欧米やトルコ、中国が中央アジア諸国との関係強化を進める中、地域でのロシアの影響力を維持する思惑があるとみられる。(中略)

さらにカザフでは今月3日、チュルク系言語を共有するトルコや中央アジア3カ国などでつくる「チュルク諸国機構」の首脳会議が開かれ、トルコのエルドアン大統領やオブザーバー国ハンガリーのオルバン首相らが参加。両氏はトカエフ氏とも会談し、相互協力の拡大で一致した。

中国も巨大経済圏構想「一帯一路」の重要地域とする中央アジアへの投資を進めている。

ロシアはこれらの動きが中央アジアでの自国の影響力低下につながることを危惧。プーチン氏は今回のカザフ訪問で両国の結束を改めて誇示した形だ。【2023年11月10日 産経】
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【“西側諸国ににじり寄るカザフスタンのトカエフ政権”との指摘もあるが・・・・】
上記のような中央アジア・カザフスタンをめぐる情勢があるなかで、改めて、カザフスタンの「ロシア離れ」を指摘するのが下記記事。

*****ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクライナの次」に侵略すると脅される****
<かつて反政府デモの鎮圧を手助けして貰った「恩人」ロシアにも背を向け、西側諸国ににじり寄るカザフスタンのトカエフ政権>

ロシアとウクライナの戦争、および西側諸国との対立が続くなか、ロシアと旧ソ連構成国であるカザフスタンとの歴史的な結びつきにもほころびが生じつつあるようだ。ある大手営利団体によれば、カザフスタンで事業を展開するロシア企業が今、さまざまな問題に直面している。

ロシア中小企業の利益を代表する非政府組織Opora Rossii(オポラ・ロシア)のニコライ・ドゥナエフ副社長は、4月8日にロシアの有力紙イズベスチヤに対し、ロシアからカザフスタンへの送金処理に遅延が生じていると語った。カザフスタンの銀行がアメリカの二次制裁の対象になることを恐れて、ロシアとの取引に慎重になっているからだ。

ロシアからカザフスタンへの送金は、もう数週間にわたって処理が保留になっている。カザフスタンを本拠にキルギスタン、ジョージア、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンで事業を展開しているカザフスタンの商業銀行「ハルク・バンク」などの金融機関が、ロシアとつながりのある取引の処理を拒んでいるためだ。

ジョー・バイデン米大統領が2023年12月、対ロ制裁を強化する大統領令の中で米財務省に対して二次制裁を科す権限を与えたことを受けて、複数の国の銀行がロシア企業との取引にこれまで以上に慎重になっている。中国、トルコやアラブ首長国連邦などの国でも、ロシアの個人や企業との取引に問題が生じていることが報告されている。

親ロの中央アジア諸国に動揺
問題の背景には、2022年2月に始まったロシアとウクライナの戦争が続くなか、中央アジア諸国がロシアとの関係を見直していることがある。ロシアによるウクライナへの本格侵攻とそれに続く西側諸国による対ロ制裁を受け、これまでロシアと緊密な関係にあった中央アジア諸国の間に動揺が広がっているのだ。

カザフスタンはロシアがこの地域で最も信頼を寄せる同盟国の一つであり、2022年1月に大規模な反政府デモが起きた際には、カザフスタンの要請を受けたロシア治安部隊が暴動の鎮圧を手助けした。カザフスタンはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)およびユーラシア経済同盟(EEU)にも加盟している。

しかしカザフスタンは、ウクライナ侵攻に関して国連総会で行われてきたロシア非難の決議案については何度も(反対ではなく)「棄権」を選択してきた。2022年9月には、ロシアによるウクライナ東部4州の一方的な併合を承認することを拒否した。

この翌月、カザフスタン政府のある高官はロイター通信に対して、カザフスタンのカシムジョマルト・トカエフ大統領がロシアとの二国間関係の見直しを行っていると述べていた。カザフスタンは一方で、欧州連合(EU)との経済協力の強化を目指して西側に接近する姿勢を見せている。

トカエフはまた、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とも数回にわたって会談を行い、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領による動員令を逃れるために出国した大勢のロシア人を自国に受け入れてきた。

ロシアの戦争支持派の間では、カザフスタンがロシア支持に消極的だという怒りの声が上がっている。
たとえばロシアの前大統領で現首相のドミトリー・メドベージェフは、カザフスタンを「似非(えせ)国家」だと一蹴し、「スラブ人」の下にソビエト連邦を復活させるべきだと呼びかけた。

この週末には、カザフスタンがこのまま態度を変えなければロシアとして軍事行動で対応する可能性があると示唆するアンドレイ・グルリョフ議員の発言音声が流出した。

このような考え方は新しいものではなく、2022年11月には政治アナリストであるドミトリー・ドロブニツキーはロシア政府のプロパガンダ拡散役を担うテレビ司会者、ウラジーミル・ソロビヨフの番組に出演し、カザフスタンはロシアにとって脅威になり得ると述べていた。

ドロブニツキーは同番組の中で、ウクライナ政府はファシストだとするロシア政府の主張を引き合いに出し、「(ウクライナの)次の問題はカザフスタンだ。ウクライナで起きているのと同じナチ化が、カザフスタンでも始まる可能性があるからだ」と述べていた。

対ロ制裁の「抜け穴」
カザフスタンの国民もロシアの動きに注目している。2023年5月にカザフスタンの非政府組織「メディアネット」と「ペーパーラブ」が1100人を対象に行った調査では、ロシアがカザフスタンに侵攻する可能性があると考えている人の割合が前回調査の8.3%から15%に増加した。

しかしカザフスタンはロシアを見捨てた訳ではない。西側諸国が対ロ制裁を強化するなか、カザフスタンはロシアにとって、最先端兵器(マイクロチップやドローンなど)に必要な技術を入手するための制裁回避ルートの役割を果たしている。(中略)

カザフスタンのセリク・ジュマンガリン貿易・統合相は2023年夏、米政府が資金提供するメディア「自由欧州放送(RFE/RL)」に対して、全ての制裁対象品目の対ロ輸出を止めることはできないと説明。カザフスタンに提供されたリストには、「制裁対象として7000種類もの品目が記されていた」と述べた。
「西側諸国には、『全てを阻止または追跡することは不可能だ』と告げた」と、ジュマンガリンは語った。

2022年1月にロシア政府がカザフスタンのトカエフ政権を手助けして以降、ロシア・カザフスタン間では経済協力が強化されており、貿易額は2022年に260億ドル、2023年には270億ドルと過去最高を記録した。

英シンクタンク「王立国際問題研究所」のケイト・マリンソンは2月に、「カザフスタンは西側諸国による対ロ制裁を支持すると約束している。しかしカザフスタンの閣僚たちは米ワシントンを訪れて制裁について協議する一方で、ロシアを訪問してプーチンとの連携継続を約束している」と指摘した。【4月9日 Newsweek】
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【カザフスタンは対ロ制裁の「抜け穴」という現実も】
上記記事も指摘するように、カザフスタンは対ロ制裁の「抜け穴」的な存在になっているという面もあって、単純には「ロシア離れ」を云々することもできません。

最近では、ガソリン供給でもロシア・カザフスタンの連携が報じられています。

****ロシア、カザフからのガソリン供給を模索 不足に備え****
ロシアはカザフスタンに10万トンのガソリン供給の準備を依頼したもようだ。

ウクライナ軍のドローン(無人機)攻撃の影響で燃料不足が悪化した場合に備える。業界関係者3人がロイターに語った。このうち1人によると、カザフは備蓄をロシアに振り向けることで合意している。

一方、カザフのエネルギー相顧問は、エネルギー省はそうした要請は受けていないと話した。

ウクライナのドローン攻撃を受け、3月末時点でロシアは製油能力の約14%を失った。ロシア当局は現時点で国内燃料市場は安定し、在庫は潤沢だと報告している。通常ロシアは燃料の純輸出国だが、製油所の混乱で石油会社は輸入を余儀なくされている。

深刻な供給不足を回避するため、ロシアは3月1日から半年間のガソリン輸出禁止措置を導入した。
またカザフも、人道目的を除き、年末まで燃料輸出を制限している。【4月8日 ロイター】
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【「もしプーチンがウクライナで勝利したら」・・・・ないがしろにできない「腐ってもロシア」】
更に“ウクライナで手一杯のロシアに対し、中央アジア諸国が「ロシア離れ」を進めている”という話を難しくするのが、最近のウクライナ情勢。

ウクライナの反攻失敗でロシア優位の戦況ともなっており、「もしトラ」ではありませんが、ウクライナでプーチンが(戦術的な限られた意味合いではありますが)勝利する可能性も強まっています。

****5月に一斉攻撃か。攻撃準備を終えたロシアに滅ぼされるウクライナとプーチンに破壊される世界の安定***
(中略)
複数の分析を見てみると、5月ごろを目途にロシア軍は再度一斉攻勢をかける計画のようです。
(中略)5月のロシアによる大攻勢でウクライナが総崩れになれば、ロシアにとって非常に有利な状況が出来上がることになり、戦争で決着するか、それともロシアの条件に従った“停戦”を受け入れることで、実質的にウクライナが消える可能性が出てきてしまいます。

それを見て、恐怖を一気に高めているのがスタン系の国々です。ウクライナの反転攻勢が始まった頃は対ロで強気な発言や態度が目立ったスタン系ですが、このところ“プーチンを怒らせたら、後で必ず報復される”という恐怖が高まっているようです。

ウクライナ戦争の“おかげで”軍事介入はしばらくないと思われますが、ロシアは政治的な介入・情報工作を行ってスタン系の国内政情を荒らしてくるのではないかと戦々恐々としています。

特にロシアと7,600キロメートルにわたって国境線を接し、人口の2割強がロシア系である地域最大の資源国カザフスタンは、一時期、ロシアと距離を置くスタンスをとっていましたが、ロシアが戦況優位になると再接近して、プーチン大統領の逆鱗に触れて基盤を失わないように躍起になっています。

昨年11月にはプーチン大統領がカザフスタンを訪問しましたが、その際、プーチン大統領が「カザフスタンとロシアは最も親密な同盟国だ」と発言したのは、実は「ロシアに対する配慮を決して忘れるなよ」というカザフスタンのトカレフ大統領への警告だったのではないかと考えられます。

ロシア、そしてプーチン大統領が周辺、特に旧ソ連の国々に対して発する恐怖は、ウクライナが敗北してしまうと、一気にユーラシア大陸全体に向けられることになりかねません。(後略)【4月6日 島田久仁彦氏 MAG2NEWS】
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中央アジア諸国にとってロシアとの関係を変えることは容易なことではありません・

****中央アジアではロシアは「腐っても鯛」****
中央アジアも、西側メディアではロシア離れや対中傾斜、あるいは米国の進出などが喧伝される地域だ。しかし実際の事態はそれほど大きくは動かない。

中央アジアの諸国は海千山千で、大国の力、意図、関心度を十分見極めて動いては、いいとこ取りをする。  

そして北方に大きく覆いかぶさり、いつでも兵力を送ってこられるロシアは、腐っても鯛であることを、彼等はよく心得ている。

2022年1月、カザフスタンが内乱一歩手前の情勢になった時、ロシアはトカエフ大統領の要請に応えて、僅か数日で2000名を越える兵力を送ってきたのだ。  

米国は、兵站の難しい内陸の中央アジアに介入することを嫌うし、それだけの経済的・政治的利益も持っていない。中国は、演習を除いては海外に兵力を送ることをしていないし、その能力も未開発である。  

つまり中央アジア諸国にとってロシアは重要な存在だし、不可欠の外交・経済カードでもある。中央アジアをロシアから引きはがすのは難しいし、米欧、日本にとってそんなことをする意味もない。(後略)【3月20日 現代ビジネス“実は「ウクライナの次」は起きそうもない、あまりに分が悪いプーチンのロシアの対外関係”】
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