「刀使ノ巫女 湖底楽園」感想

 めちゃめちゃ面白いドラマCDでした。前作ドラマCD「名残花蝶」がアニメ本編の総括と未来へのプロローグであるならば、今作はその未来に広がっているものの大きさ、刀使ノ巫女世界の広さを描く作品だったように思います。キーワードとして感じたのは「役割分担」あるいは「適材適所」でしょうか。刀使それぞれが自分に合ったそれぞれの役目を持ってあの世界を生きていること、それによって人と荒魂の新しい共存の形が見えてくること、そしてそれが私たち視聴者に新しい刀使ノ巫女の姿を見せてくれること。そんな情景の見えるドラマCDだったように思います。

役割の分担

 今作はそれぞれの刀使が持つ役目が明確に示されながら、お話が進んでいったように思います。まずエレンからして、捜索隊が見つけられなかった荒魂の捜索のために特別な役目を課されています。桐生隊がエレンの捜索隊として派遣される一方、捜索は専門外の薫は登場から大きな荒魂を、沙耶香は小さいが(おそらく個体数の多い)荒魂と戦っています。真庭本部長が薫に説く理屈も「自分の役目を果たせ」というものでした。

 逆に言えば、それぞれが担っている役目はそれぞれにしか果たせない専門技能だということです。捜索部隊はそれ相応の技能をもって荒魂の痕跡を追い位置を特定するまでが仕事で、そこから先は薫のような火力持ちの領分です(アニメ15話の延長ですね)。逆に薫には捜索部隊の仕事はできません。ねねの力を借りれば荒魂捜索はできますが、人を探すための技能は持ち合わせていないわけです。また、荒魂の巣の封鎖は一般の刀使たちの部隊でも出来ますが、巣の駆除のためには特別遊撃隊のような高い戦力が必要です。ですが、同時多発した荒魂を封鎖したり、周囲の避難誘導をするためには特別遊撃隊だけでは人数が足りません。どちらも荒魂から人々を守るためには必要というわけです。

 真庭本部長と薫の会話からだけでも、荒魂との戦いにおいて刀使それぞれがそれぞれの役目を持っている様子がコンパクトによく伝わってきました。アニメで描かれていた刀使という仕事を補完し、世界の広がりを感じさせるものとして、よく出来た描写だったように思います。

戦闘での適材適所

 役割の分担は後半のエレン捜索~化け蟹討伐にも引き継がれます。透覚や明眼の能力を見込まれて助っ人を頼まれる舞衣。親衛隊で夜見さんが担っていた立場の延長とも言えるでしょうか。実際に透覚や明眼による捜索を行うだけでなく、隠世の浅瀬に潜む荒魂の発見にまで至り、戦闘では指揮官として作戦の立案までこなします。沙耶香は無念無想という特殊技能を活かして足止め兼囮役を、薫は最大段階の八幡力を使える技能を活かして止め役、そしてS装備は薫の八幡力をサポートする形で、全てのものがそれぞれの役目を果たして化け蟹を仕留めます。これが例えば薫が足止め役をやろうとしても上手く行かないわけですから、まさに適材適所であったように思います。

 しかしこう描写されてみるとS装備はすごいですね。燃料を使い果たして自力では八幡力が使えなくなった薫が、S装備の補助があれば普通に八幡力が使えてしまうと……。琉球剣風録では珠鋼搭載型のすごさというのが描かれていましたが、それとは数段スペックの落ちる現在運用されているS装備でもそこまでできてしまうのですね。アニメ本編放送時は一部では「クソダサアーマー」とも揶揄されていたS装備ですが(今この文書くためにクソダサアーマーで検索したら刀使ノ巫女に関するページがずらっと並んで苦笑しました)、琉球剣風録と本作で“手分け”してS装備の価値についてはだいぶ印象が変わってきたように思いますね。

 ともあれ、誰一人欠けても成り立たない戦闘で、さらにS装備の持つ意味までしっかりと示してくれるという、「そうそう、これが見たかったんだよ」と感じる理想的な戦闘シーンでした。個人的に、公式で見せてほしい荒魂との戦闘描写として完璧なものが出てきたように思います。非常に満足度の高い一戦でした。

広がる世界

 ねねも隠世の浅瀬に潜れるという技能を活かして自分の役目を果たす中で、助け出されたエレンは夢を語るという形で「刀使ノ巫女」という作品への役目を果たします。荒魂ランドとは、言葉だけ見るとなかなか物騒な夢ですが……。湖底に育まれた楽園はヌシがいなくなったことでやがて消える運命にあるのでしょうが、それを見た刀使たちに荒魂と人間の共存の形を想像させます。単独行動をしていたからこそエレンは楽園に連れ去られたのだと、そして楽園を見たのがエレンであったからこそその価値を理解できたのだろうと思うと、調査にエレンを単独で向かわせた真庭本部長の判断は結果的には正しかったのかもとも思いますね。こういうお話を聞くと、これから先の刀使ノ巫女世界でエレンがどう夢を叶えていくのかと楽しみになってしまいます。荒魂と人間の関係を描くお話として、刀使ノ巫女にはまだまだたくさんの未来が広がっているんだと実に感じさせられるドラマCDでした。

 単体でも非常に面白く、そしてこのタイミングでの刀使ノ巫女を「繋ぐ」ドラマCDとしても、非常に満足度の高い一作でした。楽しませていただいてありがとうございました。

 

その他

 前節で感想の締めのようなことを言っておきながらまだ続くのですが、今回のドラマCDも前作「名残花蝶」に引き続き、刀使ノ巫女世界の設定をいろいろと開示してくれていて聞いてて大変ワクワクしました。というわけでメモも兼ねて、前節までで拾い損ねたアレやコレやを雑多に上げていこうと思います。設定とは特に関係ない感想も含みます。

  • カテゴリー4の荒魂という発言。荒魂にそういう分類があったんですね。知らなんだ……。こういう作品内の専門用語がさらっと自然に口から出てくる感じ、結構好きです。
  • 「クソダサ羽織厚化粧」という罵倒。その前にもいろいろ薫が本部長を罵倒してましたが、これは聞いた瞬間悪いなとは思いつつ笑ってしまいました。個人的には真庭本部長の羽織は結構好きだけど、多分これS装備がクソダサアーマーって呼ばれてたのを受けて言わせてますよね……w
  • 薫の「特務警備隊は!?」という発言からは、薫が普段、自分も特務警備隊の一員であることを意識していない様子が伝わってきますね。名残花蝶でも真希・寿々花の側から言われていましたが、こっちの側面からも描写された感じでしょうか。
  • 本部長としては全ての刀使を平等に扱うという発言に、抑えたトーンで「そうだな、そうあるべきだ」と返す薫さん。薫さんはこういうところでしっかりと本質が見えているのがかっこいいなと思います。だから特別遊撃隊の隊長をさせられてしまうし、ブラック労働を課せられてしまうのだけど……w
  • 真庭本部長の「誰が本部長だ――あ、合ってるか」が好き。めちゃ笑いました。しかし薫を手のひらの上で転がす真庭本部長ずるいわ、好き。アニメ本編(特に15話)でも楽しかった薫と真庭本部長のやり取り、今回のドラマCDでも大変笑わせていただきました。小気味いいテンポ感でやり合いながら、大事な話ではするっとシリアストーンにも戻る。さすがの演技だったなぁ。
  • ヘリコプター内での会話、良いですねぇ。沙耶香に自分の「好き」という意識が生まれたのは、舞衣じゃなくても成長したんだなぁという気持ちになります。アニメ7話では舞衣のクッキーぐらいしか思い浮かばなかったものが、彼女自身の目や耳で世界を感じるようになったことで世界に好きが広がっていったんですね。Heart of Goldも思い出して少しじわっと来ました。まあ、それを食べ物の好き嫌いの肯定に使っていいのかはどうだろうとも思いますが……w
  • 舞衣から見た可奈美という円盤5巻SSの要素の補完というか発展が描かれたのにはハッとしました。またいろいろと舞衣の気持ちについても妄想が捗りますね。
  • 舞衣と沙耶香の甘々雰囲気に、薫のツッコミ・ぼやきがよく刺さる。何なら薫さんの方がお姉さんしてるような気もしますね(むしろお父さん?)。言うようになった沙耶香もすごく楽しいし、あー、この会話ずっと聞いてたい……。
  • 透覚の表現は今回のドラマCDの最大の特徴の一つでもあったように思います。音声媒体だからこそ、音声部分には最大に拘る。呼吸や鼓動の音まで響いてくるのは臨場感があってすごく良かったです。
  • 隠世の浅瀬や明眼で浅瀬が見えるといった円盤4巻SSでの要素を再び取り上げたのは面白いなと思いました。しかしこの浅瀬に潜む能力強すぎません? ずっと潜られたら普通の刀使には手出しができないが……。
  • 荒魂さんが金剛身も使ってくることがあるっていうの、結構大きな設定な気がします。実は御刀由来の力はどれも使ってくる可能性があるのか、それとも金剛身だけなのか、それぞれの荒魂によって違うのか、まあ妄想の域は出ないわけですがいろいろ考えちゃいますね。ところで薫が金剛身のタイミングを縫って当てる必要があるってなったときに「やるだけだ」って言うのめちゃくちゃ格好よかった。
  • チョコミントブラックライトニング大明神
  • エレンの「ヒャッホーーーイ!」、マジで薫さんが前半に言ってた「心配するだけ無駄」をやってますね……。一気に空気感を変える「ヒャッホーーーイ!」ですごかったです。そういえば薫の、誰もがエレンの心配をする必要はないがオレはするっていうの、これも役割分担だなって思いました。
  • 役割分担で言うと、舞衣のおっぱい担当も役割分担か……? ひどい役割分担だ……。
  • エレンの薫呼びも一部ファンの間では話題になっていた話で、痒いところに手が届くドラマCDだなぁ!と思いました。経緯としてはそうかもしれないけど、今となってはエレンにとっては特別の証になってるのかも、とか考えてニヤニヤしちゃいますね。

「刀使ノ巫女 琉球剣風録」感想

 発売からかなり時間が経ってしまいましたが。

 すらすらと読める、大変面白い小説でした。中でも私が感じたのは以下の三点の面白さです。

  • 刀使ノ巫女」としての面白さ
  • 刀使ノ巫女を拡張する作品」としての面白さ
  • 「異能力剣術バトルもの」としての面白さ

 

刀使ノ巫女」としての面白さ

 本小説を読み終えて、私の一言目の感想は「刀使ノ巫女だった」でした。ツイッターでもそういった感想は多く見られますし、多くの人が同様の感想を抱いたのではないかと思います。

 琉球剣風録は実に刀使ノ巫女でした。そう感じた理由はいくつかあるのですが、大きな理由として、キャラクター性とそれに伴うシナリオの方向性の類似が挙げられると思います。

 既に多く指摘があるように、朝比奈北斗の置かれた状況は姫和のそれによく似ています。かつて大切な人から掛けられた言葉が、現在の自分を縛る呪いになっているという状況です。また北斗は姫和とだけではなく、かつて自分の弱さで仲間の刀使を救えず、それをきっかけに強さを求めたという点で真希と、また自分の(技能的・身体的)限界を超えるために正道ではない力に手を出したという点で結芽、ひいては親衛隊の全員とも共通する部分があります。
 姫和と真希はアニメにおいて、「対」である隣に立つ存在によってそれらの呪縛から解き放たれます。姫和は可奈美によって、真希は寿々花によって。
 本作においても、それは同じでした。北斗を呪縛から解き放ったのは、栖羽の覚悟、北斗を助けたいという強い決意です。「対」に焦点を当て、その「対」によって問題の解決が行われる。そんな物語構造が、私は極めて刀使ノ巫女的であったと感じました。

 ところで栖羽の方に目を向けてみると、作中で彼女は彼女なりの戦う理由を見つけ、大きく成長を遂げています。私はこの栖羽の成長も、実に刀使ノ巫女的だと感じました。アニメ「刀使ノ巫女」ではしばしば「戦う理由」がテーマの一つとして描かれています。第4話では可奈美が姫和と共に戦おうとする理由を、第10話では舞衣が彼女なりの戦う理由を見出し、語ります。第15話では薫が沙耶香に益子家の戦う理由を説き、それから自分なりの戦う理由について考え続けた沙耶香は第23話のタギツヒメ戦を経て「荒魂を救う」という理由を見出します。また他にも、波瀾編全体は姫和の戦う理由、戦ってきた理由に焦点が当たるエピソードだと捉えることもでき、それが第21話での姫和の慟哭に繋がっています。登場人物それぞれの戦う理由の獲得と、それに伴う成長は、まさに刀使ノ巫女の扱うテーマの一つだと言えるでしょう。
 栖羽の「大切な人を守りたい」という理由で私が思い出したのは、舞衣の戦う理由でした。舞衣が上述のように第10話で語った理由もまた、「彼女の手に届く範囲の人たちを守りたい」というものです。舞衣は非常に優秀な刀使ですが、しかし天才としては描かれていません。円盤第5巻のブックレットSSでは、純粋に剣術を楽しんでいる可奈美に、舞衣自身との差を感じている描写もあります。強引な捉え方ではありますが、その「取り残される」という感覚は、栖羽と舞衣で共通するところかもしれません。そんな二人が似たような戦う理由に至ったことに、強い納得感がありました。

 

刀使ノ巫女を拡張する作品」としての面白さ

 アニメが放送されていた頃から、私は時々この作品のノベライズが読みたいということを口にしていました。それはこの作品が剣術の理合の上に立っており、その理合をより深く知りたかったためと、小説ならではの深い心情描写を読みたかったからでした。(その願望はある程度、円盤のブックレットSSで叶えられることになりました。)琉球剣風録はその方面で「小説だからできること」を意識して書かれた作品だということが、本編を読んでいても、あとがきからも伝わってきます。北斗の強さへの執着や、栖羽の戦う理由の欠如に対する悩み。そういった心理的要素を明確に提示し、文章を尽くして説明することで理解しやすくできるのは、やはり小説という媒体の強みのように思います。

 その小説ならではの強みを生かすことで、本作ではこれまでに語られていなかった設定をいくつも開示し、刀使ノ巫女の世界観を大きく拡張したと思います。これは刀使ノ巫女の世界を知ろうとする上で、大変面白いものでした。特に私が大きく感じたのが、写シの使用感についてです。
 これまで写シの仕組みやダメージを受けたときの精神的負荷などについて説明はされてきましたが、実際に写シを斬られた際の感覚について具体的に表現されたのは、本作が初めてだったように思います。それも小説ならではの具体性をもって、です。その描写に、私の想像が甘かったことを思い知らされました。私は写シという能力はもっとふわっとしたものだと捉えていて、痛みなどの感覚は全て写シが剥がれる瞬間までカットされ、剥がれる瞬間に疲労のような感覚でもって精神に押し寄せるのだと思っていたのです。ですが、琉球剣風録で描かれた写シはそんな温いものではありませんでした。ページ数で言うと183ページの冒頭、刃が身体の中を通り、身体組織を破壊していく感覚が描写されています。それは自分の感覚として想像すると強い嫌悪感を催すもので、栖羽が写シを嫌がる気持ちもよく分かるというものです。
 この描写を読んで、写シを斬られるとはこれほど苦しいものなのかと、認識が改まりました。また、これまで何気なく眺めていたアニメの描写についても認識が変わりました。例えば第9話での対刀使用途で開発された矢は、打ち込まれればあんなものが体内に留まる感覚が残り続けるわけです。第22話の可奈美とタギツヒメの戦いを思い出してみると、タギツヒメの突きで可奈美が写シを切らさなかったのが、いかに紫様の言う通り、強い精神力のなせる業だったのか分かります。写シの使用感が具体的に表現されたことで、刀使ノ巫女世界への理解が深まり、アニメの描写の理解まで深まったように思います。

 

「異能力剣術バトルもの」としての面白さ

 本作は間違いなく「刀使ノ巫女」であり、そのシリーズに連なる作品だったわけですが、仮にそれを忘れて単体のバトル小説と見たときでも、本作は面白い小説だったと思います。

 本作の肝とも言える栖羽と北斗の立ち合いパートにおいて、鍵となるのは栖羽の能力と、雲弘流という剣術流派でした。十数回も写シを張れる栖羽の特殊技能が、長期戦に不慣れという北斗自身の弱点を、そして雲弘流の相討ちを厭わない剣が、同時に八幡力と金剛身を発動できないというS装備の弱点を突きます。
 写シの再展開能力は、戦闘の継続性という意味では効果的なものではありますが、作中でも語られている通り、普通はそれ単体で勝負をひっくり返せるようなものではありません。「蟻がいくら集まっても~」という例えは、まさしくその通りだと思いました。ですがこの能力は、北斗に対してだけは絶大な効果を持つのです。普通なら大したことのない能力が、今倒したい特定の相手に対してだけ極めて有効になるというシチュエーションは、相性バトルの肝の一つだと思っています。大好きな展開に、読んでいて心が熱くなりました。
 また、これは再び刀使ノ巫女的とも言えますが、キャラクターの修める流派が物語上で大きな意味を持ってくるというのは、非常に良かったと思います。本作の物語はさらに、栖羽は雲弘流の剣士とは言えない状態から開始します。作中、流派の要諦として何度か相討ちというキーワードが繰り返されますが、栖羽はその観念を自分のものとして理解できていません。その状態では、仮に流派の技を扱えていたとしても、流派を自分のものにしたとは言えないでしょう。
 そんな栖羽が北斗との立ち合いの決め手としたのが、相討ちでした。雲弘流の観念の獲得です。写シの再展開能力の使用は、栖羽が本当の意味で刀使になったことを示すものでした。そしてこの相討ちは、栖羽が本当の意味で雲弘流の剣士になったことを示すものです。
 登場人物の成長と、肝となるバトルの決着を綺麗に一致させたその展開は実に納得のいくものでした。強い能力に手持ちの能力でどう挑むか、場合によってはどう勝利するのか。それは異能力バトルものの楽しさの詰まった部分であり、そこを刀使ノ巫女らしさを交えつつ描き切ったのは、見事だと感じました。

 

 以上、刀使ノ巫女シリーズの一作であり、単体でも楽しめる作品として、本作は実に面白い小説でした。今後もこのような刀使ノ巫女の世界を広げる作品が楽しめていけたら、とても嬉しいことだと思います。

「刀使ノ巫女 名残花蝶」感想

 標語的に言うなら「親衛隊にとっての第24話」であり、そして「刀使ノ巫女の可能性」を感じさせる大変素晴らしいドラマCDでした。初回もめちゃくちゃ泣きましたし、この感想を書くために聞き直してまた泣きました。

親衛隊にとっての第24話

 先日の「とじらじ!生 # 01」でも「この話数がえーで!」の第2位に挙がった第24話。第23話で戦闘自体に決着をつけ、第24話を丸々使って母と娘の想いを描き切る構成に対して、放送当時から多くの賞賛や感謝の声が見られました。第24話は可奈美の母への未練や、姫和の呪いを断ち切る話数だったと言えるのではないかと思います。隠世での母との邂逅は、本当ならばもう二度と会うことのできない死者との邂逅です。その邂逅は、彼女たちが胸に抱えていた悩みや苦しみを解き放ち、救いを与えてくれました。

 元折神家親衛隊、現特別任務警備隊(特務警備隊)の真希と寿々花は、アニメ本編において仲間であった結芽と夜見を失います。真希と寿々花はアニメにおいて、ついぞ結芽と夜見の本心を知ることは出来ませんでした。二人の前に遺されるのは亡骸のみで、その本心が言葉として残されることはありませんでした。

 本ドラマCD「名残花蝶」は、そんな真希と寿々花に救いを与える話であったのだと思います。荒魂「ヨミ」(と呼ぶことにします)を介して皐月夜見の想いが伝えられます。ヨミが真希の嘘を見抜いたのが高津学長という単語を出したからだとするならば、それは真希がアニメ全24話で夜見のことを少しは理解できたことによる帰結とも捉えられます。そんな真希にヨミが語ったのは、紛れもない夜見の本心だったのでしょう。真希や寿々花、結芽(そして紫様)への羨望と感謝。その想いが語られたことは、きっと真希と寿々花にとって何よりも大切な救いであったのではないかと思います。

 特筆すべきは、彼女のその想いが剣を通じて語られたことです。アニメで夜見が御刀を振るって戦ったシーンはほとんどありません。彼女の武器は常にその血液から生み出した荒魂であり、特に後半クールでの真希と寿々花との戦いでは、防御のために御刀を使うことはあっても、なるべく剣で戦うことは避けているように見えました。おそらく夜見は、自分自身が剣の実力で二人に遠く及ばないことを強く自覚していたのだと思います。勝つために夜見が取れる手段は、剣での立ち合いをなるべく避けることでした。

 そんな中でヨミは真希に対して剣での立ち合いを申し込みました。それは第20話の再来であり、やり直しでもあります。刀使ノ巫女において剣はコミュニケーションの大切なツールです。夜見は剣を合わせないことで相互理解を拒みました。ヨミは真希を知るために立ち合いを申し込みました。敵わないことは分かっていてそれでもなお、夜見の望みを一つ果たすために。きっと真希と打ち合った経験は、ヨミあるいは夜見にとっても救いとなったことでしょう。

 真希や寿々花、夜見に対して、現世の理屈では起こりえない邂逅を果たしてあげることで、真希と寿々花にとって大きな区切りとなる、とても切なくて優しいお話だったように思います。なんといっても、二人は笑って消えゆく夜見(ヨミ)を看取ることができたのですから。

刀使ノ巫女の可能性

このドラマCDについて、事前に髙橋さんが、本編のエピローグかつ次章のプロローグである感じを意識したと仰っていました。その言葉の通り、このドラマCDでは刀使ノ巫女においてまだ掘り下げることの可能な様々な要素が提示されたように思います。そもそもがこのドラマCD自体、そういった視点から新しいエピソードが作れるのかと驚きましたし、姫和と親衛隊のわだかまりについてはアニメ内では実は未解決だったことなど、気付かされることがたくさんあったのですが。

まずは何といっても、主題であった夜見の荒魂について。真希との戦いで消滅したと思いきや、雪那さんの前に姿を現し(?)ます。雪那さんは現在静岡特祭病院所属とのことで地理的にも近いですし、真希と戦ったものと同一個体と見ることもできなくはないですし、違う個体だと見ることもできます。そうでなくとも、夜見は当然山狩りのときだけではなくアニメ後半クールでも何度も荒魂を放っているのですから、生き残りが他にもいる可能性は十分にあります。ドラマCD内でも語られているように、一年以上も存在している夜見の荒魂のことが広く知られれば各種研究機関の関心を集めますし、事態は複雑化していくことでしょう。雪那さんがどう動くかも予測できませんし、この切り口から新しいお話をどんどん作っていくことができそうです。

次に姫和について。これもドラマCD内で語られていますが、彼女の存在は下手すると夜見の荒魂以上に大変な火種となりえます。イチキシマヒメの記憶は隠世技術の根幹をなすものであり、技術研究的な価値が非常に高いばかりか、刀剣類管理局に対抗する組織――つまり、ちょうど琉球剣風録でもフォーカスされたDARPAから見れば、管理局の非道を暴く証拠足りうるわけですから。紫様が何か対策を講じるらしいとはいえ、ここを起点にかなりのストーリーが作れそうではあります。

(余談ですが、この姫和の持つイチキシマヒメの記憶は、おそらくは年齢が上がって刀使としての能力が消えた後でも残り続けるのではないでしょうか。そうすると姫和はいつになっても平穏な日々に戻ることはできないということになり、実はものすごく辛い未来が待っているのではないかと考えてしまいます。進化系Colorsの「運命はどうして どうして私なんか構うの」を思い出しました。)

アニメ本編が大団円という空気で終わっていたので、てっきり問題はもう全て片付いて、後は明るい未来が待っているだけ!ぐらいの心持ちでいたのですが、意外とそうでもないのだなぁと思い知らされた感覚です。ちょうど、第12話が終わってこれから何やるんだろう?と思っていたのが、第13話でなるほどと納得させられたのと同じような感じですね。

そんな状況で明るい希望たりうるのが、これまたドラマCD内で語られていますが、可奈美です。6巻ブックレットSSでも出てきた「心眼」の要素も補足され、可奈美の可能性がますます輝くエピソードになりました。この先にどんな辛いことが待ち受けていても、この二人が一緒なら大丈夫、そう思わせてくれる前向きな力が可奈美にはあるように思います。

 

以上、小さな感想は他にもいくつかありますが、親衛隊のエピローグや、可奈美や姫和のお話の整理、設定面の解説に加えて、刀使ノ巫女の未来への可能性を感じさせるエピソードと、本当に素晴らしいドラマCDでした。刀使ノ巫女のこの先に何が待っているのか、楽しみにしていたいと思います。

刀使ノ巫女クイズ

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calender 2018 20日目の記事として書かれました。
……記事?

adventar.org

 

一週間ほど前、刀使ノ巫女の全巻購入特典が届きました。
全巻購入特典には特製小冊子と生原画があり、皆さんも届いた生原画がどのシーンなのかの特定を楽しんだのではないでしょうか。
ちなみに私は大分苦戦しました。

ところで私、こういうシーン特定みたいなクイズ(と言うと語弊があるかもしれませんが)結構好きなんです。
でも、自分で作ると当然答えは自分で知ってるので、回答する楽しみが味わえない!
誰かに作ってほしい!

とはいえ欲しいというだけでは誰も作ってはくれないと思うので、ひとまず自分で作ってみました。
出題範囲はアニメのみに限定しています。

kentei.cc

割と簡単めの難易度のつもりです。
ただし、さっきふと思い付いて作り出したので本編をちゃんと見返したわけではありません。
出題と解答が間違ってたらごめんなさい。教えてください。*1

で、別にこれを遊んでくれなくても構いません。
目的はアレです。誰かクイズ作って出題してくれると私が喜びます……これを読んでいる誰か、お願いします……ということを言いたいだけの記事でした。

おしまい!

 

……こんな記事をアドベントカレンダーに登録して大丈夫なのだろうか。

 

22日追記:今更ながら、アニメ内に二回以上登場した台詞について

「半分持つって言ったじゃない。もっと信頼して預けてよ」
→「半分持ってあげるって言ったでしょ」が正しい台詞。

「分かるよ。全部この剣に込めたから」
→「この『刃』」が正しい台詞。さらに、第22話の歩の回想で「全部この刃に込めたから」はもう一度出てきているとも言えるので、選択肢を変更しました。

もう遊んでくれる人もほとんどいなくなったタイミングだとは思うけど、一応。

*1:どうでもいい話ですが、上のサイトが一つのクイズに10問までしか設定できないということを知らず、20問ぐらい問題を作ってしまいました。その中から適当に10問選んで出題しています。

刀使ノ巫女の「剣による会話」

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calendar 2018 13日目の記事です。
本当は13日中に投稿するつもりだったのですが、間に合いませんでした……。
adventar.org

 

唐突なのですが、日付的には一昨日*1、私の手元に刀使ノ巫女の全巻購入特典である特製小冊子と生原画が届きました。
小冊子はまだざっとしか眺めていないのですが、見ていて何だかとても嬉しくて幸せな気持ちになりました。
好きな作品のスタッフ・キャストの方々がその作品をとても大切にされている、愛してらっしゃることが伝わってくる場があるというのは、すごく恵まれたことだと感じます。
まだまだまだまだ終わりたくない、終わらせたくない、という意思の乗ったコメントがたくさんある中で、実際に今、コンテンツが次の展開を見せているという事実に胸が熱くなります。
来年1月からの『みにとじ』、今から楽しみです。

ところで、私のところにはこの原画が届きました。

このシーンを探して本編の戦闘シーンをたくさん見返したから……というわけでもないのですが、今回の記事のテーマとしては刀使ノ巫女の剣術要素を取り上げようと思います。

剣による会話

剣術と言っても、私は各流派の具体的な技や型、理合について語れるほど剣術について詳しいわけではありません。
この記事では、記事タイトルでもある「剣による会話」について考えたいと思います。

アニメ第23話「刹那の果て」で、四段階迅移の世界に追いついた可奈美が言っていました。
打ち合わせた御刀から相手が何を考えているのか伝わってくる。立ち合いは剣を通じた会話なのだと。*2
私が最初に「剣による会話」という見方を知ったのは、アニメ第18話「荒魂の跳梁」の他の方の感想からでした。
第18話で可奈美はタキリヒメと立ち合うことによってお互いのことを知り合います。
人と荒魂、あるいは人と神との間で、口からの言葉だけでは分かり合えない、伝えきれないものが、言語を越えた剣の打ち合いによって伝わっていったということです。
人智を超えた存在と人とを結ぶ存在として、確かに刀使たちは「巫女」なのだと納得のいった話数でした。
そこから暗示されていた「会話」という要素が明示的に肯定されたのが、先述の第23話における可奈美の台詞です。
この台詞に、当時私は「おお、この見方は間違ってなかったんだ!」と興奮した記憶があります。

さて、「剣による会話」という見方を踏まえてアニメ本編を振り返ってみると、実は最初からこの要素が散りばめられていたということに気づかされます。
本記事では、いくつか本編からこの「剣による会話」の視点で捉えることのできるシーンを取り上げ、彼女たちの剣に何が乗っていたのかを考えてみたいと思います。

第1話「切っ先の向く先」

第1話で取り上げたいのは、御前試合本選準々決勝での可奈美と舞衣の試合です。
「剣による会話」と言っておきながら、さっそく剣を交えていないシーンで恐縮なのですが、ここは舞衣の意思がものすごく乗ったシーンだと思っています。

お互いに御刀を構え、可奈美が舞衣をどう崩すか考えを巡らす中、舞衣の取った戦法は居合でした。
ざわつく場内。寿々花さんも「居合なんて!」と声を上げるように、少なくとも相手が刀を既に抜いている状況での居合の選択は、通常は有利にはなり得ないはずです。*3
当然舞衣もそのことは知っているはず。
それでも舞衣が居合を選択したのは、「私は私のやり方で可奈美ちゃんに追いつくんだ!」と言うように、舞衣の可奈美を相手にする上での工夫だと思っています。

円盤第5巻の特典ショートストーリーで、舞衣と可奈美の立ち合いは、舞衣が工夫をし、仮に勝てたとしても今度は次の立ち合いまでに可奈美が対策を用意し、舞衣はそのままでは勝てないのでまた工夫をする……ということの繰り返しだったということが語られています。
強い弱い、有利不利は置いておいて、舞衣の居合は可奈美に勝つために舞衣が用意した工夫の一環なのです。
そして可奈美は可奈美で「相手の妙技や工夫を見ると楽しくなってしまう(公式サイトキャラクター紹介より)」とあるように、舞衣の居合に嬉しくなっている表情が描かれています。*4
それでも今回は、決勝に進んで姫和と戦うためにも敗れるわけにはいきません。
居合に対する可奈美の戦術は、勝ちを第一に目指したものだったように感じます。

第2話「二人の距離」

思ったより第1話が長くなったので、ここからはサクサクいきます。

第2話で取り上げたいのは、荒魂の討伐を終えた姫和と舞衣の斬り合いです。
斬り合う中で、舞衣が姫和に「私はこの一年、可奈美ちゃんの剣を受けてきました。十条さん、あなたの剣は可奈美ちゃんのより真っ直ぐでいなしやすいです!」と言います。*5
これはまさに、舞衣が姫和の剣から「姫和の真っ直ぐな心」を読み取ったということに他なりません。
姫和が悪人ではない(荒魂も討伐していますし)と感じたのが、舞衣が可奈美の言葉を信じ、姫和に可奈美を託して送り出した理由の一つになっているのかもしれませんね。

追記:姫和に斬りかかる舞衣の御刀を払った後、可奈美の御刀の切っ先が舞衣を向かないのも、舞衣と斬り合いたくないという可奈美の心の表れた広義の会話なのかもしれません。

第4話「覚悟の重さ」

もうタイトルにありますね。*6
第4話での会話は、「ここで別れよう」という姫和に付いていくと主張する可奈美に対し、姫和が放った重い一撃です。
この話の後半で可奈美が言うように、姫和の剣には覚悟が乗っているのです。
逆に、斬りかかった姫和は可奈美が防ぐだけなのを見て、「ぬるいな」と言い放ちます。
とじステでは、姫和はこのシーンで「殺意を向けられても防ぐばかりで斬り返すこともできない。それがお前のぬるさだ」みたいなことを言っていた記憶があります。
可奈美が姫和の想いを読み取っただけでなく、姫和も可奈美の覚悟の甘さを読み取ったという意味で、まさにこの一撃は二人の間の会話と言えるのかもしれません。

第15話「怠け者の一分」

一気に話数が飛びました。
第15話での会話は、タギツヒメを追う真希の剣からタギツヒメが焦燥や悲嘆を感じるシーン。
今書いていて気付いたのですが、人と神との剣を通じた会話をしたのは、実はタキリヒメではなくタギツヒメの方が先だったのですね。
第23話でタギツヒメは姫和から、人と一度融合したことで人との違いを思い知り、寂しいのだろうと看破されます。
その意味では、第15話のこのシーンも人という存在に興味を持っているタギツヒメを描いていると言えるのかもしれません。

第16話「牢監の拝謁」

第16話の会話は、可奈美と姫和の稽古シーンです……が、これについては私はあまりよく分かってません。
どこが会話かと言うと、立ち合いの後で姫和が自分の右手を見つめているカットがあると思います。
きっと直前のカットで可奈美の「何か」を読み取ったからだと思うのですが……。

第20話「最後の女神」・第22話「隠世の門」

歩ちゃんですね。
それぞれ、可奈美と歩の「分かるよ、歩ちゃんなら。全部この剣に込めたから」と、沙耶香と歩の「そんな魂のこもってない剣じゃ、何も斬れない!」です。
剣は想いを伝える会話の媒体。
その精神が、可奈美から沙耶香に受け継がれているということでもあります。

番外:第3話「無想の剣」・第5話「山狩りの夜」・第11話「月下の閃き」・第18話「荒魂の跳梁」

第18話は冒頭で取り上げた可奈美とタキリヒメの会話がある話数でもありますが、ここでは逆に「剣による会話」が行われていない話数を挙げてみます。

第3話は、可奈美と沙耶香の「そんな魂のこもってない剣じゃ、何も斬れない!」です。
第1話の御前試合では想いが乗って可奈美をドキドキさせていた沙耶香の剣が、『無念無想』を発動させたことによって可奈美との会話を拒むものになっていたということです。
これは、第18話での歩の剣にも通ずるところがあります。
歩の剣は歩自身が努力して獲得したものではないため、魂が乗っていないのです――というのは放送中に見た他の方の感想の受け売りですが。

第5話は、薫相手に御刀で戦わない夜見です。
生み出した荒魂を薫に差し向けるという戦い方しかしておらず、薫に斬られる前に写シを張るなどはしますが、御刀を交えることはしません。
夜見も全ての話数で御刀を使わないのかというとそうではなく、事実次の第6話ではエレンと御刀「も」使って戦うのですが、その戦い方は荒魂の力を用いた、普通の刀使とは大きく異なるものです。
第11話や第18話でも同様に、夜見はほとんど御刀では戦いません。
ほとんど誰とも会話が行われなかった結果として、作中で夜見の意思を理解した人は唯一最後に高津学長に伝わったのか、というぐらいでした。

番外2:第11話「月下の閃き」

もう一つ触れておきたいのは、剣を通じた「視聴者への」会話です。*7
作中の特定の誰かに届いたというわけではなくとも、視聴者がその剣からそのキャラクターの想いを読み取ったとき、そこには会話があったと言ってもいいのではないかと思っています。

いくつかそういったシーンはあるのですが、ここでは第11話の結芽と薫エレンコンビとの戦いを挙げたいと思います。
第11話が放送された当時、結芽の立ち回りが話題になっていたのを覚えています。
これに関しては剣術監修の神無月さんの解説が詳しかったと思うのですが、薫とエレンのコンビネーションによって一撃を喰らって以降、結芽はうまく立ち回ることによって連携攻撃を喰らうことを防いでいるということだそうです。
具体的には、エレンを挟んで薫の反対側に回り続けることで、薫の大太刀による威力のある一撃を容易に放てないようにしているわけです。
集団戦において一対一に持ち込むのは基本の戦術――という話を読んだ記憶があります。

そして視聴者はその動きから、結芽が真に剣術の天才であることを読み取ります。
ただ剣術に優れているだけではなく、ただの戦闘狂というわけでもなく、冷静な思考と抜群の戦闘勘を持ち合わせている、それが結芽なのだと。
薫とエレンを倒した後、二人を庇うねねに対しても、結芽は御刀を振り下ろしはしますが斬ってはいません。
この動作も、視聴者に対して結芽という少女がどういう子なのかを伝える動作の一つという気がします。

おわりに

ということで各話から「剣による会話」に関するシーンを挙げてみました。

冒頭にも書いたように、この記事を書く前に全巻購入特典の生原画のシーンを探して、各話数の戦闘シーンを見返していました。
特に各キャラクターの構えについて注目して見ていたのですが、その中で、姫和は腰を落とした構えが多く、舞衣は背筋を伸ばし中央に御刀を構えた正眼の構えが多いことを感じました。
これは当時2話が放送された後にツイッターのいわゆる剣術クラスタの方が仰っていたことでもあるのですが、構え一つとっても流派やそのキャラクターの性格が対照的に現れているのは面白く感じます。

剣術は刀使ノ巫女の主要な要素の一つですし、これからも注目して見ていきたいですね。
このアドベントカレンダーの記事も合わせて、改めてそう感じるいい機会になりました。

*1:と書いていたけど、結局昨日中に投稿できなかったので3日前。

*2:正確な台詞は覚えていませんが、だいたいこんな感じだったはず。

*3:諸説あるようです。また、刀使の場合は迅移が使えるため、居合の抜刀動作に伴う初動の遅れを軽減できるという違いもあるのかもしれません。

*4:この辺り、円盤第3巻の特典ショートストーリーで描かれた美奈都さんの癖とも似ていて、母娘だなぁと感じます。

*5:これも正確な台詞ではありませんが、大体こんな感じだったはずです。

*6:追記:第4話においては、薫とエレンが舞草の試験官として姫和と可奈美を見定めようとしたのも会話だと捉えられるのかもしれません。

*7:一方向なので会話と呼ぶのは相応しくないかもしれませんが。

今までに書いた刀使ノ巫女SS振り返り

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calendar 2018 8日目の記事として書かれました。今は12月8日42時30分です。

12月7日→舞台刀使ノ巫女を4/7見た結果の気づきを羅列する - 非論理的ドリル
12月9日→刀使ノ巫女のキャラクターに関する備忘録 - Ephemeris Humilis

adventar.org

 

4日目は真面目な記事を書いたので、今回は自分語りをします。

SSとは、ウィキペディアによると「二次創作小説/外伝(side story)」「短編小説(short story)」「ショートショート(short short)」の略語だそうです。
この記事の中では最初の「二次創作小説」という意味で使います。
いきなり自分語りなのですが、私にとってSSを書く行為は以下の意味を持っています。

  • 作品やキャラクターに向き合い、理解を深める
  • 自分の中にある「好き」(物語の構造が好き、キャラクターが好き、キャラクター同士の関係性が好き、など)の表現
  • 作品世界観の中で「こんなやり取り・お話があったらいいな」(見たい・読みたい)の実現

技術も表現したい内容も未熟だとは思うのですが、この記事ではこれまで書いてきたSS(pixivに投稿したもの)について振り返っていきたいと思います。
すなわち自分語りなのですが、同時に作品語りにもなっている……はず。

しかし果たしてこの記事を読む人はいるのか……?

胸の内のあたたかさ

2月9日(金)投稿。刀使ノ巫女で私が初めて書いたSS。
タイミング的にはアニメ6話の放送直前です。
この数日前にふとpixivで刀使ノ巫女で検索したところ1件だけ小説が書かれており、それに刺激を受けて書いたSSでした。

内容は本編補完で、3話で可奈美の『熱』を受けた沙耶香が5話で舞衣の『あったかさ』に触れるまで何を想っていたのか、そして舞衣に触れた(触れられた?)ことでどう変わっていったのか、を私なりに想像したものになります。
触れた『熱』の意味が分からない沙耶香の心の動きをどう表現するか、に気を遣って書いた覚えがあります。

こだわったのは、この次のSSもそうですが、この作品ならではの要素である剣術を使うこと。
これはアニメ4話で使われていた「斬る剣」「守る剣」に影響を受けていて、このSSでも同じく「斬る剣」「守る剣」を使っています。
一つ心残りは、後に『Heart of Gold』の歌詞を見たら「あたたかい」じゃなくて「あったかい」だったこと。痛恨……。

踏み出した一歩の先に

2月16日(金)投稿。タイミング的にはアニメ第7話の直前。
刀使ノ巫女AT-X最速放送が金曜日21:30~だったはずで、放送前に投稿しようと金曜日の夜に頑張って書いていた記憶があります。
この後のSSでもいくつかそうやって金曜夜に書いていたものがあったはず。

内容は舞衣の誕生日祝い(2日遅れ)で、舞衣と可奈美の出会いを妄想したものです。
舞衣の誕生日祝いとして舞衣が可奈美に型稽古を見せてもらうことを頼み、その流れから二人の出会いを振り返る、といったお話。
今もそうですが、この頃から私は舞衣と可奈美の関係が好きでした。
コミック1巻の書き下ろし前日譚に特によく表れていると思うのですが、この二人は互いが互いの心の支えになってきた関係だと思っています。
舞衣は自分の剣の目指す先として。
可奈美は自分の剣に向き合ってくれる存在として。
それぞれ相手をかけがえのない相手として見ていると思っています。
その二人の関係への「好き」を表現したくて書いたお話でした。

同時に、このSSから一年にわたる誕生日記念SSの旅が始まりました。
この一週間前に智恵、1月には姫和の誕生日があったのですが、その頃はSSを書こうという意識がまだ無かったので。
確か、智恵の誕生日をとじとも公式ツイッターで見て、へ~と他の子の誕生日を調べたら舞衣の誕生日がすごく近くて、それで迷った末に書こうと決めた記憶があります。
なぜ迷ったかというと、この時点で約16人の誕生日が公開されていたわけで、確実に大変な一年になると予想できたからです(実際現在進行形で大変なことになっていますが……)。
それでも書こうと思ったのは、全員分の誕生日SSを書く過程で、必然的に全員と真剣に向き合い理解を深めることになるから、です。

ちなみに過去妄想としては、後に円盤特典ショートストーリーなどで舞衣と可奈美の出会いは美濃関に入ってからっぽいことが語られており、このお話のような出会いはありえないことになっています。

お友達

3月10日(土)投稿。アニメ10話放送直後。
結芽の誕生日祝い(7日遅れ)で書いたSSで、内容は7話で沙耶香が舞衣に探し出される前に結芽に見つけられていたら、というif物。
結芽は殺伐とした斬り合いをしようとするのですが、沙耶香に流されている間に二人で遊園地で遊ぶことになっている、というお話です。

やりたかったことは二つあって、一つは、沙耶香と結芽は何かが違っていれば仲の良い友達になれていたんじゃないか、という妄想でした。
同じ天才と呼ばれる中等部一年生同士の刀使として、互いに心を許して遊んでいる(斬り合いの意味ではなく)姿を見たい、というもの。
結芽が年相応の笑顔を見せる姿を見たかったのでした。

もう一つは、結芽の「かっこいい部分」を扱いたいというもの。
具体的には、9話で見せた「戦闘に荒魂の力なんてこれっぽっちも使ってない」です。
結芽の強さはあくまで結芽自身の強さであり、その強さにプライドを抱いているところが、結芽という人物を扱う上で大事な部分だと思っていました。
私が「戦闘『に』」の機微を読み取れなかったことで、SS内では結芽は体にノロを打ち込んでいないことにしちゃってますが……。

そしてここから先、誕生日SSと言いながら誕生日の話を一切しないSSが書かれていくことになります。

前人未到の彼方へ

5月2日(水)投稿。時期的にはアニメ16話と17話の放映の間。イベント『四の太刀』の直後でもあります。
内容は、アニメ12話でタギツヒメを隠世に追い払った(ということにこの時はまだなっていた)姫和が病室で目覚め、可奈美と話をし、過去の呪縛から解放されるという話です。
タイトルは言わずもがな「Shining Double Star」の2番の歌詞から。
この時系列の話は後にドラマCD第12.5話で扱われており、そこではむしろ可奈美の方が入院が長かったことが描写されていますね。

このSSでやりたかったことは、アニメ12話での姫和と可奈美の感情を掘り下げることでした。
姫和が真のひとつの太刀を使う前に可奈美をちらっと見て微笑むところ。
そして可奈美が姫和をどういう想いで引き止めたのか、その結果として(ではなかったわけですが)関東に荒魂が頻出するようになってどう思っているのか。
その上で、姫和がどういう想いで再び刀使として戦うことを決意したのか。
そういった部分を掘り下げたかった、という動機です。
最後に可奈美が窓を開けるのは溢れそうな涙を姫和に見せたくなかったからなんですが、伝わっているのだろうか。

実は元々、私はアニメ13話でこういう話をやるんじゃないかと思ってたんですね。
姫和がベッドの上で目を覚ますと、ぶわあっと白いカーテンが風に舞って、髪を靡かせる可奈美の横顔が目に入る――みたいなやつです。
で、それが13話で無かったので、じゃあ14話の頭でやるのかな、と思ったらそれも無くて。
なら自分で書くしかないと書き始めたのですが、思ったより時間が掛かってる内に5月になってしまっていました。

さらに後々になって見ると、姫和が過去の呪縛から解き放たれるのは24話でまだ先だったという……。
この時の私は、波瀾編は今度は可奈美を姫和が救う話になると思ってたんですよね。
間違いではないにしろ、姫和がどういう想いを過去に置いたままなのかは完全に読み間違えていました。

大好きな相棒

5月15日(火)投稿。時期的にはアニメ18話と19話の放映の間。
エレンの誕生日SS(当日!)です。
内容は、体調の悪いエレン(自覚なし)が休暇の薫を気遣って一人で荒魂討伐の任務に出たところ窮地に陥り、薫に助けられるというもの。

やりたかったことは二つあって、一つはエレンと薫の関係をしっかりと描くことでした。
エレンは明るくてハイテンションに見えて、実は頭が回る切れ者でもある……というのがよく言われることだと思うのですが、さらに言うと頭が回るだけに他者への気遣いを優先して、自分が疎かになりがちな子でもあると思っています。
そして、アニメ6話冒頭の薫の「あのバカ」や、後にアニメ21話でも「お姉さんぶりやがって」という台詞があるように、薫はエレンのそういう危うさに気付いています。
エレンがそうやってリスクを背負ってしまったところに、薫がヒーローのように助けに来るという関係が、この二人の関係の一側面なんじゃないかと思います。
薫の誕生日の方でもう一度言及しますが、エレンの誕生日では「エレンから見た薫のかっこいいところ」を描き、薫の誕生日では「薫から見たエレンのかっこいいところを描く」ということがしたかったのでした。

もう一つは明るい地の文へのチャレンジで、このためにこのSSはエレンの一人称になっています。
しかし、うまく書けたかというとちょっと……という気はします。
カタカナを使うタイミングが難しかった。

お悩みは何?

5月31日(木)投稿。アニメ20話と21話の放送の間。
姫和が大変なことになって、21話はいったいどうなるんだと胸をざわつかせていた時期ですが、これは美炎の誕生日SS(当日)です。
内容はアニメ12話と13話の間、美炎が落ち込んでいる様子を感じた清香・呼吹・ミルヤの三人が、落ち込む理由を「可奈美と実力差を感じたから」だと考え励まそうとするが、実は髪飾りを片方失くしたのが原因だった、というものです。
ですが、可奈美との実力差による焦りもゼロというわけではなく、それを見抜いていた智恵に美炎が前向きな心情を語ります。

これは結構何を書くかで悩んだ誕生日SSでした。
美炎を掘り下げるとなると、すぐに思い浮かぶのは加州清光の欠片や美炎の集中力のことですが、二次創作で扱うには本編での情報開示がまだ足りず、ちょっと書ける気がしませんでした。
代わってテーマに据えたのが、美炎は可奈美をどう思っているのか、でした。
当時はまだとじともメインストーリーも第1部までしか開放されていなかったので、上に書いたようなあらすじの話が妄想できたわけですね。

やりたいことは二つあって、一つは調査隊のわちゃわちゃでした。
調査隊は5人のセット感(今は5人から増えましたが)が好きで、誰か二人の関係にフォーカスを当てるというよりは、全員でわちゃわちゃやっているところが見たかったという動機です。
そのせいで、調査隊は初書きだというのに、さらに5人分の台詞感覚を掴む必要があって、なかなか大変だった記憶があります。

もう一つは、美炎の前向きな性格を描くことでした。
「なせばなる!」という台詞に象徴されるように、美炎はどんな場面でも前向きな明るさで皆を助けてきました。
特にその前向きさに惹かれてきたのが智恵なんじゃないかな、と、そういう気持ちでSSの終盤の展開を書いたはずです。

実は誕生日SSはそのキャラの一人称視点か、そのキャラ寄りの三人称視点で書くという縛りで書いているのですが、4人目にして既にその縛りが破られているという……。

かけがえのない

6月16日(土)投稿。アニメ23話最速放送後、ただし投稿は23話を見る前です。
薫の誕生日なのですが、SSは紫様の誕生日(3日遅れ)です。
内容は、タギツヒメを身に宿した紫様が、誕生日プレゼントと称してタギツヒメから「あり得たかもしれない幸せな未来」の悪夢を見せられるというものです。

この手のお話は別ジャンルで二つほど書いたことがあり、このSSは私の趣味と手癖がものすごく出たお話な気がします。
いわゆるどんでん返し系(のごく小さいもの)を書いてみた、という感じです。

やりたかったことは、学長陣の会話と、本来の紫様の柔らかい口調を書くことでした。
このSSは誕生日当日である6月13日に書き始めていて、とじともでの過去の学長陣に祝われている紫様のイラストを見て、ああいいなぁ、と書いたものだったりします。
しかし、いろはさんの方言が再現できる気が全くせず学長全員を書くのは挫折。
最終的に(時間の都合もあって)人数を大分絞り、相楽学長と美奈都・篝(+紫)だけを登場させました。

「あり得たかもしれない幸せな未来」、すなわち美奈都と篝がタギツヒメとの戦いで犠牲にならなかった世界を描いたわけですが、これは私が見たい未来でもありました。
特に、この後に円盤3巻の特典ショートストーリーを読み、ますます美奈都と篝が紫様の周りにいる未来(現在)であったなら、と思うようになりました。
美奈都と篝のかわいい喧嘩や、紫様の意外とお茶目なところがちゃんと描けていたらいいなと思います。

きっといつまでも一緒

6月22日(金)投稿。アニメ23話と24話の放送の間。
薫の誕生日SS(6日遅れ)です。紫様と薫の誕生日が3日しかないの厳しすぎるって思いながら書いていた気がします。
内容は、アニメ1話よりも前(ドラマCD0.5話よりも前)で、薫が将来長船を卒業したときにエレンと離れ離れになることを考え、不安になるというお話です。

やりたかったことは前述の通り「薫から見たエレンのかっこいいところ」を描くことでした。
このSSの元になっているのは、とじとも「刀使のエピソード」でエレンが研究者を目指していると笹野美也子さんに語るお話で、それを読んだときからエレンの誕生日ではこのお話を書こうと思っていました。
アニメ14話でも描かれましたが、エレンのしっかりと自分を持っているところ、これから進む道についてしっかりとした意志と決意を抱いているところがかっこいいと思っています。
それに加えて、薫を包み込む包容力もある。これはエレンの誕生日のときの逆で、薫の不安をエレンが支える方ですね。
そういったエレンの心の大きい一面を描きたいな、と思ったのがこのSSでした。
終盤のエレンの「『刀使』は御刀で実際に戦っている人たちだけを指すわけじゃない」という台詞が、一番書きたかった台詞だったように思います。

まあ、これも後に円盤4巻の特典ショートストーリーと矛盾することが判明するわけですが……。
そんなもんだよね。

心からの笑顔

9月20日投稿。しばらく忙しかったことで、前のSSから大分から日付が空きました。
ミルヤさんの誕生日SS(63日遅れ)です。
内容は、これまたアニメ12話と13話の間で、自分の笑顔について悩むミルヤさんと、「ミルヤさんは笑うときはちゃんと笑う人だと思うけどなぁ」と思う清香がショッピングに出掛けるお話です。

テーマの元ネタは、とじとものミルヤさんのホーム画面ボイスです。
余談ですが、「一部の方に顔が怖いと指摘された」は呼吹なのかなぁと私は思ってますね。
笑顔の話をするというのはすぐに決まったのですが、どうお話を展開させていくかにはかなり悩みました。
あらすじが決まってから間を繋いでいくのにもかなり苦労し、実際このSSには1ヶ月くらい時間が掛かっているはずです。
でも、やりたいこととして「ミルヤさんにとっても調査隊という場所が大切な場所であってほしい」という軸を定めてからは、まあまあすんなり最後まで流れたかなという気がします。

同じ眼をした人

10月2日投稿。タイトルは「Heart of Gold」の歌詞が元ですが、沙耶香は出てきません。
舞衣と、姫和の平城学館でのパートナー岩倉早苗の類似性についてのお話です。
元はツイッターに上げたSSで、それを1から大幅に書き直したものになります。
ツイッターとかprivatterに書いた(即興)SSはいくつかあって、その内手直ししてpixivに上げたいとずっと思っているのですが全然できてない……。

やりたかったことはそのまま『舞衣と早苗が似ている』ということです。
可奈美に対しての舞衣と、姫和に対しての早苗の立場は近いものがあると思います。
もちろん近いだけで、全く同じというわけではないのですが。
二人とも、それぞれの相手の心の弱いところに気付いているのですが、それをどうにかできるのは自分ではない誰か。
だとしても可奈美にとって舞衣は、姫和にとって早苗は、確かに心の支えであったはずです。
円盤1巻の特典ショートストーリーで、姫和は早苗のことをあんなにも想っているわけですから。

未来へ歩く

10月16日投稿。歩の誕生日SS(当日)です。
アニメを見返す中で3話に累さん、16・17話に歩の誕生日が書かれていることに気付き、書くかどうかは正直迷ったのですが、どちらも書きたい話がすぐに浮かんできたので書くことにしました。
内容は、アニメ24話で可奈美と姫和が現世に戻ってきてから御前試合までの間に、病院でリハビリをする歩のところに可奈美がやってきて話をする、というものです。
実は結構お気に入り。

やりたかったことは、歩に可奈美と『話』をしてほしかった、というものです。
この『話』は当然口で話すだけではなく、剣も交えた対話です。
20話の可奈美、22話の沙耶香によって自らの過ちに気付いた歩が、23話の終わりに「衛藤さんに謝らないと」と言う、その対話の結果が見たかった、というのがモチベーションでした。
謝って、可奈美から立ち合いに誘って、歩が打ちひしがれて、可奈美の言葉で立ち直る――という話の流れはすぐに浮かんだのですが、実際書くにあたっては歩の謝罪と自己嫌悪をどう書くか、そこから何を可奈美が剣によって語るか、を考えるのに苦労した記憶があります。
なんせ可奈美ちゃん、リハビリ中というのもあって実力差のある相手に対して、すごく冷酷な戦術を取ってくるので。
書きながら、「ちょっと可奈美さん、本当に歩を元気付ける気あります!?」と内心思っていたりしました。
自分で書いてるはずなのにキャラクターが全然制御できない動きをして困ること、割とある。

もう一つやりたかったのは、可奈美を歩の側から書くことでした。
アニメ13話で見せ、20話で語った後輩への喜びは、間違いなく可奈美の本心でしょう。
その可奈美がノロの抜けた歩とどのように接するのかを考えることで、可奈美の内面をより掘り下げたい、というのも一つの目標でした。
剣術による対話と口頭での会話によって、可奈美の想いがちゃんと表現できていたらいいなと思います。
最後に自分から立ち合いを申し込む歩と、それを受ける可奈美の嬉しくてたまらない笑顔が、このSSで一番描きたいシーンでした。

ちなみに歩と可奈美の立ち合いをセッティングしたのは美弥というつもりで書いていて、可奈美が「歩が御刀を振れるくらいには回復した」ことを知っているのは、美弥から聞いたという裏設定でした。

鞘の中の覚悟

10月24日投稿。真希の誕生日SS(92日遅れ)です。
これだけ遅れると誕生日とは、という感じですが。
内容はアニメ1話より前のお話で、夜見が親衛隊に加入してからどのように真希と信頼関係を築いたのか妄想したものになります。
親衛隊を書いたSSはこれが初めてなんですが、これのネタが固まったぐらいのときに、練習として夜見の心情を書いたワンライ(1時間ライティング)をしていたりしました。

真希の誕生日SSで何を書こうかと考えていたときにふと思いついたのが、まだ夜見が親衛隊に加入して日が浅いころは、真希は戦う力のない(ように見える)夜見を助けようとするのではないかということでした。
真希が荒魂を受け入れた理由は、救えなかった自らの部下のような人をもう出さないことなのですから。
一方の夜見が荒魂を受け入れた理由は、舞台に上るためです。
誰かに自らが守られることを良しとはしないでしょう。
だから、この両者は最初はぶつかり合うこともあったんじゃないのか――という妄想の下で書いたのがこのSSです。

実は、投稿したSSとは別に5千文字近くを没にしています。
元のバージョンでは、刀剣類管理局で真希と夜見が集合して山中に出動するまでのシーンがあったり、夜見に能力で助けられてからの展開が全然違っていたりして、一度二人で撤退してから夜見の索敵を使って荒魂の群れを各個撃破していました。
ですが、話の主題がどんどんブレて「夜見が自分のノロへの耐性の高さを自覚する」方になってしまっていたので、丸ごと書き直して現行のものになりました。
SS書いてる内に当初意図していた要素とは異なる要素が増えてくることはままあるのですが、ちゃんと取捨選択しないと収拾がつかなくなるということを実感した経験でもあります。

一人じゃないから

11月17日投稿。沙耶香の誕生日SS(当日)です。
タイトルは、とじともの戦闘でWaveが変わるときの「もう、一人じゃないから」が元です。
内容は、体調の悪い沙耶香が無理をしてこじらせ、舞衣に看病されるお話です。

やりたかったことは、沙耶香の成長でした。
沙耶香は元々戦う目的が自分の中に無く、命じられたから、任務だから戦っていた子でした。
その沙耶香が自分の頭で考えて行動するようになった、というのがアニメ内での大きな成長要素だと思っています。
可奈美や舞衣のおかげで『自分』というものを意識するようになり、薫から「考えること」の大切さを教わったわけです。
その沙耶香が、21話で舞衣に「強くなりたい」と話します。
これは円盤5巻特典ショートストーリーで、強くなることで可奈美や姫和を含めて皆を守れるようになりたいから――という理由であることが明示されています。
さらに沙耶香は23話で荒魂の持つ「寂しさ」を知り、24話では斬り祓った荒魂に「もう、寂しくないから」と語る姿が描かれます。
沙耶香は「強くなりたい理由」と「戦う理由」を手に入れたのです。

その沙耶香が次にぶつかる壁は何かと考えたときに、私は「全てを自分で背負い込もうとしてしまうこと」なんじゃないかと思いました。
強くなって、全てを自分が守れるようになりたい。
そう思う沙耶香だからこそ、人に頼るという発想ができなくなってしまうのではないだろうか、と。

その考えから、一人ではどうしようもない事態に沙耶香を追い込もうとして設定を組んだのがこのSSでした。
加えて一番書きたかった台詞が、舞衣の「私はいいタイミングで来れたって思うな。だって、沙耶香ちゃんが一番寂しくてたまらないときに、一緒に居られるから」でした。
他にも私の好きな舞衣と沙耶香のやり取りを、結構たくさん入れられたつもりです。
沙耶香が「舞衣」って連呼するところは、とじとも宣伝4コマのチア回を思い浮かべながら書いてました。
ただ、舞衣の「皆を頼っていい」という台詞は、SSのテーマ的に避けては通れないけれども、解釈違いを生み得ると思いながら書いていたり。

実際書いてみて意外だったのは、薫と沙耶香のやり取りが思ったより膨れ上がったこと。
その結果、全体のバランスとしては舞衣と沙耶香のやり取りが少なめになってしまったような気もしますが……。
自分で書いておいてアレですが、最後に「薫が倒れたら、私、薫の分まで働く」と薫に呼びかける沙耶香と、それに背中越しに手を振って応える薫が大好き。

進化の真価

11月24日投稿。累さんの誕生日SS(当日)です。
タイトルはまあダジャレなんですが、イチキシマヒメの話をしていることもあって、「進化」というキーワードを入れたかったというのがあります。
「進化系Colors」でもありますし。
内容は、アニメ24話以後、累さんが約束通りに皆をおいしいスイーツのお店に連れていき、そこで姫和とイチキシマヒメの話をするというものです。

累さんも誕生日を知ったとき、SS書くかどうかは正直迷ったのですが、すぐに姫和とイチキシマヒメの話をする姿が思いついたので書くことにしました。
アニメ21話で可奈美たちに合流した累さんが「私、イチキシマヒメと話が合ったんだよね」と語る姿が印象的だったのですが、この話をしてたときに当然ですが姫和はいないわけです。
累さんの姿というのは、まさに人と荒魂を区別せず同一視する、人と荒魂の共存の形の一つだったわけで、この話を姫和が聞いたときにどのような反応するのかに興味がありました。

そういう話をするという意味では、このSSは少し消化不良かもしれません。
今思うと、もう少しその辺りの姫和と累さんの会話を掘り下げたかったようにも思います。
私の悪い癖なんですが、SSの導入を書いている間にいろいろと脱線をしてそっちで話が膨れ上がり、本題にやっと辿り着いたと思ったら全然掘り下げずに通り過ぎてしまうことがしばしばあって……。
本当は一度書き終えた後で全体のバランスを加味して調整したり加筆したりする必要があったように思います。反省点。
とはいえ、姫和がどう変化をしたのかという軸では一応ちゃんとまとまりのある話にはなったようには思っています。
……なってるといいのですが。

居場所

12月4日投稿。呼吹の誕生日SS(当日)です。
内容は、これもアニメ12話と13話の間で、ざっくり言うと自分の性格の特殊性に悩む呼吹が、存在を肯定される話……でしょうか。
自分でも要素を整理しきれてないのが、文字数が膨れ上がってしまった原因かもしれません。
高津学長がいなくなった鎌府に真庭学長の査察が入り、今まで自由にやれていた鎌府という居場所が奪われるかもしれないと不安を抱き、呼吹の機嫌が悪くなる、という出だしです。

呼吹は荒魂が絡まなければすごく常識人で、意外と物事を冷静に観察しているところは一つ魅力だと思っています。
ですが、呼吹の精神性について掘り下げるとなると、私は荒魂への執着を掘り下げていきたくなります。
彼女が荒魂に対して用いる単語はなかなかに特殊で、「バラバラにする」「ぶっ壊す」などの猟奇的な発言がしばしば見られます。
なぜ呼吹が荒魂に関しての執着を持っているのか。
とじともがリリースされた直後は何か特別な理由があるのだろうと思いましたし、実際そうで、これから先のメインストーリーで描かれる予定なのかもしれません。
ただ、このSSでは「気が付いたら荒魂を斬るのが好きだった」という立場で書いています。
何か劇的な出来事があって『異常』になったほうがある意味楽とも言える、という視点が書かれた話を前に見たことがあります。
自分でも『異常』をその出来事の結果として受け入れられますし、『異常』が解消される可能性もあるからです。
そこで今回は、呼吹が自ら自然に抱いてしまった『異常性』について冷静に観察することができ、苦悩もしているという立場でSSを書きました。

もう一つやりたかったことは、呼吹と他のキャラクターの様々な絡みでした。
呼吹は誰と絡んでも面白い化学反応の起きる子だとよく感じていて(というかそういう話をツイッターで見るのですが)、その中で今回はつぐみや智恵との絡みを書きました。
出来上がったSSは実はプロットと変わっていて、最初は呼吹の存在を肯定するのはミルヤの予定でした。
時系列順に並べれば、智恵と喧嘩(というのは適切じゃないと思うけど)し、つぐみにあやされ、ミルヤに肯定され、智恵と仲直り(というのはこれまた適切じゃないと思うけど)するというプロット。
ただ、ミルヤとの話の後で智恵と何の話をすればいいのか分からなくなったのと、時間と文字数の関係でミルヤパートを削除することにしました。
ただ、それはそれで話の構造がはっきりしたように思うので、よかったんじゃないかと思っています。

最後に

こんな長くなるとは思ってなかった。
絶対ここまで読んでる人いないと思う。

ところで、今年中に書きたいSSが

  • 可奈美誕生日SS(ネタはある)
  • 清香誕生日SS(ネタはある)
  • 寿々花誕生日SS(ネタは一応ある)
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  • かなひよ合同
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とあるんですが、これ絶対全部は書けませんよね……。

刀使ノ巫女アニメ第3話『無想の剣』の話

この記事は 刀使ノ巫女 Advent Calendar 2018 4日目の記事として書かれました。この記事を書き始めた時点で23時半過ぎてるけど、私の12月4日は布団に入るまでなので大丈夫。
※最終的に投稿は12月4日25時半でした。

12月3日→舞台刀使ノ巫女の皐月夜見について - 非論理的ドリル
12月5日→舞台刀使ノ巫女における獅童真希のジャージについて - 非論理的ドリル

 

今日は12月4日、ゲーム「刀使ノ巫女 ~刻みし一閃の燈火~」のキャラクター、七之里呼吹ちゃんの誕生日ですね。
ということでこの記事では、鎌府繋がり(というわけでもないけど)で糸見沙耶香ちゃんが最初に大きくクローズアップされる回である、アニメ第3話『無想の剣』について考えていることを少し書こうと思います。
と、ここまで書いて気付いたけど、書こうとしてることに沙耶香ちゃんは関係してないのであった。

アニメ第3話『無想の剣』

公式サイトストーリー
初放送は2018年1月19日(金)。
前話で「どこにいるの……?」でおなじみ(誇張表現があります)可奈美の親友、舞衣ちゃんを説得し、逃亡を続ける可奈美と姫和が、羽島学長が舞衣のクッキー袋に忍ばせたメモを頼りに元美濃関の刀使である恩田累さんの下に身を寄せる……という流れ。
皆大好き(過度な一般化だけどきっとそんなに間違ってない)鎌府の高津雪那学長が初登場する回でもあります。

上のリンクから公式サイトに飛ぶと場面写が六枚並んでいるのですが、私が取り上げたいのは左から二つ目と三つ目。
累家に身を寄せた可奈美と姫和がお風呂を終え、作中で初めてちゃんと向き合って話し合うシーン……だと私は思っています。

思い付きで記事を書き始めたのでちゃんと確認したわけじゃないのですが、話の内容は大体こんな感じ:
まず姫和が可奈美を「ちょっといいか。訊きたいことがある」と話に誘います。
訊ねるのは、第1話で姫和が御当主、折神紫に襲い掛かった時に、可奈美が折神紫の後ろに見たという荒魂について。
姫和は正座、可奈美は体育座りです。
「うーん」と悩む可奈美に、姫和は身を乗り出して「見たんだろう?」と催促します。
それに合わせるように可奈美は上体を後ろに反らし、「はっきりと見たわけじゃないから」と答える――という流れ。

ここで私が注目したいのは、姫和と可奈美の姿勢です。
姫和は可奈美に距離を詰める。可奈美は姫和から距離を取る。
この動作だけを取り出しても、二人の内面がよく表れていると言えるのではないでしょうか。

姫和はこの時点ではまだ、折神紫への復讐で頭がいっぱいです。
この後に姫和は可奈美に、回復したら御当主様に挑むのかと訊ねられ、肯定しています。
そんな姫和にとっての一番の関心事は折神紫、そしてそれに取り憑く大荒魂のことで、その情報を持っている可奈美の話が聞きたくてしょうがありません。
人が何かに興味を強く惹かれたときに思わず身を乗り出すというのは、往々にして見られる現象です。
姫和の姿勢の変化も、その一種として捉えられるという風に私は考えています。

可奈美の方はどうでしょうか。
第2話までの可奈美は、むしろ姫和にぐいぐいと距離を詰めていく側でした。
神社での「私も一緒に逃げる」は言わずもがな、東京へ向かうトラックの中でもスペクトラム計を眺める姫和に「それってスペクトラム計?」や「もしかして姫和ちゃんのお母さんも刀使だったの?」と訊ね、どんどん心理的な距離を詰めていきます。
鹿島新當流剣術鴫の羽返しへの語りはむしろ姫和との距離は開いていたかもしれませんが、決定的に踏み込むのは「捕まるのが怖くて荒魂を放置するっていうなら、姫和ちゃんのやってることもおかしくなるよ!」でしょう。
そういえば第2話の副題は「二人の距離」でした。
(距離を詰めつつも、姫和の心の最も奥底にある復讐心の理由には踏み込まない辺りが可奈美のうまい(語弊がある)ところで、第2話も第2話で「距離」を題材にいろいろ当時から語られているところを見た話数ではあるのですが、ここではこれ以上は触れません。)
第3話で可奈美が上体を反らしたのは、もちろん、考え込む過程でただ楽な姿勢になっただけと見ることもできます。
実際、体育座りって意外とずっと姿勢を維持していると疲れる気がします。私だけかもしれませんが。
ですが、第2話までの可奈美と合わせて考えると、初めて姫和と距離を取った、と見ることができるのではないでしょうか。

ではなぜ可奈美は距離を取ったのか。
私は、可奈美が姫和に紫様と戦ってほしくないと思っている、その内心の表れだと思っています。
詳しく話そうとすると『Blu-ray&DVD 刀使ノ巫女 第2巻』のブックレットに収録されている『可奈美と姫和』にも触れたくなるのでここでは掘り下げませんが、第3話のこの後に続く会話にも、可奈美のその内心が表れています。
すなわち、先ほども触れたように、回復したら再び折神紫に挑むつもりだと答える姫和に対し、可奈美は「姫和ちゃんは勝てない。御当主様は、次元の違う強さだと思う」と言うわけです。
これは、淡々と可奈美の感じた事実を述べているだけとも言えるでしょう。
ただ可奈美は、第4話「覚悟の重さ」で語っている通り、御前試合で全く自分を見ていなかった姫和への怒りや、もっと踏み込んで言えば(これは私の解釈ですが)「姫和に折神紫だけじゃなくて自分を見て欲しい」という欲求を抱いてもいます。
なので私はこの可奈美の言葉を、姫和ちゃんは御当主様に勝てない、だから戦おうと思わないでほしい、という意味で捉えています。

話を戻すと、そういうわけで、可奈美は姫和に対して紫様の話をしたくありません。
紫様の話をすれば、姫和の意識はどんどんそちらに向いてしまうからです。
復讐に気を取られ、どんどん可奈美のことを見てくれなくなります。
それは可奈美にとって望ましくありません。

上体を反らして距離を取った可奈美の動作には、そんな心境が表れているのではないかと考えています。

刀使ノ巫女と『対話』

さて、第3話から1シーンの動作について切り出し、その動作が「言外に語る」ことについて考えてみました。
ですがここで大事なのは、むしろ「何を語らなかったか」にあると思っています。
正確に言うと、何を言葉にして相手に伝えなかったか、です。

私は、刀使ノ巫女の軸の一つに『対話』があると思っています。
互いを知らない者同士が、言葉や剣術といった形で対話し、理解を深めていく。
終盤で紫様もイチキシマヒメに「話をしよう」と言っていますね(第20話「最後の女神」)。
そして『対話』を読み解く上で重要になるのは、何を対話し、逆に何を対話しなかったか、です。

可奈美は姫和に紫様に戦いを挑んでほしくありません。
ですがそれを姫和に面と向かっては言いません。
それはなぜでしょうか。

対話しない者として即座に思い浮かぶのは夜見さんです。
彼女は言葉で自分のことを語らず、戦闘の基本戦術が御刀も用いない戦い方のため、剣術で語ることもしません。
ですが、だからこそ、その姿が如実に語る夜見さんの意志があります。
(余談ですが、第6話「人と穢れの狭間」にて夜見さんがその戦い方で語り、可奈美が受け取ったものが何だったのか、個人的にずっと気になっています。なぜ可奈美は夜見さんに組み敷かれて目を瞑ったのでしょうか。)

刀使ノ巫女は様々な要素が『対』になっている、というのは『Blu-ray&DVD 刀使ノ巫女 第4巻』のブックレットで髙橋さんが仰っていることでもあります(ちょっと拡大解釈かもしれませんが)。
第3話に限らず、それぞれのシーンでそれぞれのキャラクターが何を語り、何を語らなかったのか。
その結果として全体として何が表現されているのか。
そういったことに注目して刀使ノ巫女を考えてみるのも、また一つ面白い見方なのかもしれないと思います。