双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

お嬢の災難続き

|猫随想|


膀胱炎も快癒したお外っ子のお嬢、先週から何だかんだと災難続きなのである。
先ず先週の土曜に右前足の上部、前腕に裂傷を拵えて帰って来た。出血こそ無かったものの、あんまりにもぱっくりと皮膚が裂けて軟組織が丸見えだったのと、本人が非常に痛がったため、予め電話で事情を説明の後、お医者 (若旦那&忍びちゃんの掛かりつけ) へ連れて行った訳だが、いやはや。野生の危機感と処置が痛いのと恐怖心とで、想像を遥かに上回る凄まじき大騒ぎ(笑)。傷口を洗浄する先生の手を引っ掻くわ、牙をむき出しにして未だかつて聞いたことの無い「シャーーーーーッ!!!!」を連発するわで、こちらは只々申し訳なくて「もう本当にすみません…」と平謝りである。
先生曰く「お外の子だから縫合してエリカラってのは無理だから、傷は洗浄・消毒してお薬つけてこのままにしておきます。一週間後くらいにまた連れて来て下さい」はい、そうですよね。尚、裂傷は恐らく対動物で負ったものではなく、何か尖った木の枝とか金属などへ、引っ掛けるか刺さるかしてできたものであろう、とのこと。最後に抗生剤と消炎鎮痛の注射を打って貰って、翌日からの飲み薬を七日分貰って帰宅した次第。

それから三日後の火曜。薬を飲ませようと口を開けると、ううぅと唸り始めたので口内を確認したところ、前々から状態の良くなかった左の前臼歯がぐらぐらして居り、手早くピンセットで掴んで引っ張ったら、呆気なくぽろっと抜けたのであった。抜けた歯は歯石らしきがこびりついて傷んで居り、是については私もずっと気にはかかって居たのだが、どのみち抜歯が必要であったとすれば、手間が省けたと考えれば良いのだろか。歯周炎と思しき炎症で腫れた歯茎に、ぽかっと空いた穴が何やら痛々しいが、本人は今までうずうずと痛くて不快だった原因が、ぽろりと消えたことで幾らか楽になったと見え、心なしかさっぱりした顔をして居た。
次亜水を含ませた脱脂綿で患部を拭いてから、綿棒でクマザサエキスを塗布しておく。前足の傷のために服用中の抗生剤と消炎鎮痛剤が、ついでと云っては何だが、こっちの歯茎の方にも役立った格好で、結果的に一石二鳥と相成った次第。

しかしまぁ、お外っ子と云うのは、家猫であれば当たり前にしてやれることが、どうしてもしてやれぬもどかしさ、切なさが常に付いて回る。あれこれと心配の種は尽きない。けれど当のお嬢はこちらの感傷など何処吹く風で、毎日地に足着けて逞しく健気に生きて居る。早いところ家に入っておくれよ、などと思うのは我々人間の都合や勝手なのだろな。きっと、入る気になったら入ってくれる時期が来るだろ。私にできることは、そんなお嬢を日々見守って、出来得る限りのお世話をすることである。



野っ原の草の布団の上で日光浴兼療養中。差し詰めハイジか。

See you someday.

|縷々|


五月晴れの土曜日の昼下がり。びゅうと強い南風に乗って、
Tさんご夫妻が遠方より訪ねて下さった。お会いするのは実に七年ぶり。
嬉しいのと切ないのと色んなのが、ぶわあっと一緒くたで胸がいっぱいになる。

経過した月日はコロナ禍と云う大き過ぎる空白を挟んで、
実際よりもずっとずっと、長く遠く感じられて。
七年間の中にそれぞれの七年分の出来事が在って。
しんどかったり重たかったり。
ままならぬ苛立ちや落胆に心をすり減らしたり。
恐らくは、あんなことも在った。こんなことも在った。
しんどかったね。大変だったね。
そうした話もできたのだろうけれど、口にはせず、
取り留めのない話の中へ、そっと溶かした。
大丈夫、ちゃんと分かって居るよ、と。

言葉にできない、言葉にならない思い。それらはきっと
感情と云う形の無いものの中から、溢れてこぼれ出すもので、
どうにかして必ず言葉に変換する必要は無いのだと思う。
何と云うことのない話、取り留めのない話に安堵を感じながら、
知らぬ間に空白は埋まって、見慣れた日常みたいになって居た。

さよならは、いつだって寂しい。
あんまりにも華奢な背中が段々と小さくなるのを見送りながら、
目頭がつうと熱くなって、ぽろっと落ちた。
有難う。この場所へ会いに来てくださって。

この数年の間に世界の形も仕組みも、すっかり変わってしまった。
パンデミック、戦争、大災害。在ったもの、在るべきものが消え、
高速で回転する巨大な渦となった世界は、
変化上等とばかりに更に加速しながら進んでゆく。
行きつく先が何処なのか、何が在ってどんな風景になって居るのか、
知らぬままに突き進んでゆく。だからこそ。
行きたい場所へ行き、会いたい人に会おう。その思いがぎゅっと強くなる。

さようなら。またいつかお会いする日まで。

陰謀

|戯言| |雑記|


「連休が明けた途端に、この異常なほどの静けさって… ホビダー。
つまりこれがあなたの云う、彼らによる陰謀ってことなのね」

「ああそうとも、スカリー。ようやく分かってきたじゃないか。
そもそも大型連休そのものが、或る目的を遂行するため
連中、即ち政府によって意図的に作られたものなんだ。
しかもそれは巨大な計画の中の、ほんの一部に過ぎない。

そしてまぁ、君も思い知っただろうが、国民から意思を奪い、
自分たちの意のままにコントロールし、ああして連休を使って
僕らを右往左往させ、心身を消耗させて苦しめて居るって訳だ。
そして更に悪いことには、これ以上考えたくもないが…
そいつは連休が終わった後も、しばらくの間じわじわ続くのさ。
つまり、だ。
例のチップを使って、大衆の意識から完全に僕らを消してるんだよ!」

「なんて恐ろしいことを…」
「ああ、スカリー。まったくだ」


かくして我々は、大型連休などと云う政府によって仕組まれた
ロクでもない陰謀に振り回され、生気を削がれてゆくのである。

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