法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『わんだふるぷりきゅあ!』第16話 鏡石のふしぎ

 街の道路にある巨石が光ると願いがかなうという伝説を、犬飼いろはたちはクラスで聞く。犬飼両親から動物にまつわるくわしい内容を聞かされ、キラリンアニマルがここにだけあらわれることにも関係しているのではないかと考えるが……


 成田良美脚本、頂真司コンテで、主人公が対話の重要性を知って両親と情報を共有しあう物語を描いて、そこから物語の根幹につながる設定が開示されていく。
 昨日に放送*1された『クレヨンしんちゃん』につづいて番組をこえたコラボレーション回でもある。こちらは公式サイトのあらすじでも省略しているように*2、通りすがりに出会っただけ。たがいのコラボレーションで異なる出会いを描いているので、同じ世界の出来事だとすると矛盾する。とはいえ対話の意義を主人公に感じさせる本筋に関係しているし、まったく異なる絵柄のしんのすけとシロがそのまま画面に登場しても青山充原画の適度なクセで全体的な統一感はあるが。
 子供が危険な戦いにおもむくことを説得する展開は難しそうだと思ったが、キラリンアニマルを見つけるだけとメエメエが説明して親を納得させた顛末は良かった。危険ではあるが敵との戦いではなく保護が目的という今作の設定のおかげでぎりぎり嘘をつかずに成立している。猫屋敷家ではキュアニャミーが他人に説明せず一方的にひとりだけ保護している描写もあわせて、対話の難しさと大切さを描くドラマになっている。

『クレヨンしんちゃん』まいごのコブタだゾ/すき焼きをゲットだゾ/オラ、プリキュアだゾ

 前半ふたつは再放送だが、ムトウユージ監督がコンテを切っていて放送された全話のレイアウトに統一感がある。「まいごのコブタだゾ」は野原家にもちこまれた動物によってトラブルが起こり、シロが活躍するという意味で新作のテーマとも一致。


「オラ、プリキュアだゾ」は野原でシロとしんのすけが遊んでいるところに散歩中のこむぎといろはが通りがかるシンプルな内容。他のサブキャラクターとからみあう妙味はないが、しんのすけとシロもプリキュアに変身する展開でイベント的な面白味は充分ある。
 やや『クレヨンしんちゃん』のキャラクターとしては情報量が多いものの、簡素な線でいてちゃんとかわいいプリキュアが動きまわるアニメーションも楽しい。ぶりぶりざえもんオチで笑わせ、いろはが違う遊びの良さも認める結末でドラマとしてもきちんと閉じた。
 もっと長いSPで見たかった気持ちはあるが、ED前の挨拶などもあり、見て損のない内容。

『大魔獣激闘 鋼の鬼』

 ひとりの青年が親友に呼ばれて、謎の軍事実験をおこなっている島へやってくる。待っていたのは親友とその彼女。彼女は青年のかつての恋人だった。そして実験をおこなっている親友が、変調をきたしているらしいことを知らされる……


 1987年に発売された約1時間のOVA平野俊弘監督と会川昇脚本でAICが制作という、『戦え!!イクサー1』からつづくスタッフ構成に、恩田尚之をキャラクターデザインにむかえて作られた。

 大畑晃一がデザインを担当した「鬼」は生体的な魅力があり、グッドスマイルカンパニーがMODEROIDブランドでプラモデル化し、7月に発売予定。

 いい機会なので以前に書いた感想をエントリとして上げておこうかと思ったわけだが……


 ……肝心のアニメの内容といえば、別作品と同時発売するためスケジュールがまったくなかったらしく、原案と脚本をつとめた會川昇がDVDブックレットで言外に語っているように、あつまったスタッフのわりに映像はきびしいしあがり。
 湖川友謙がたちあげたビーボォー系の恩田尚之らしく煽り構図は多いが、真横から顔をクローズアップしたカットともども、どうにも似たような角度ばかりで印象は単調。作画枚数も影も少なめで、直前の初キャラクターデザイン作『魔龍戦記』に迫力で劣っている。芋っぽい太眉デザインとインド系っぽい褐色デザインのダブルヒロインは魅力的だが、省力のためか顔面クローズアップばかりの絵コンテのせいで印象に残らない。
 異次元から呼び出された人型メカは線が多く、先述のように魅力的なデザインでよく動くが、対比物が何もない場所で一対一で戦うだけなので巨大感がなさすぎる。一般的な風景に架空の存在が映りこむ異化効果も、戦闘が人類や自然を傷つける緊迫感もない。
 ストーリーにいたっては何らかの意思で人格が変わった親友に対して主人公が戦うだけなので、異なる意思がぶつりかりあうドラマの妙味もない。おそらくは映像の魅力をひきだすために、あえてドラマは浅く単純に整理した企画ゆえとは思うのだが……

ピッコマのヨーロッパ撤退は縦読み漫画形式の失敗と同じではないし、日本の漫画もスマートフォンへ対応した形式に進化しているよ

 ウェブトゥーンがヨーロッパから撤退したというライトノベル作家のSOW氏によるツイートから、縦読み漫画が世界標準にならなかったと論じるTogetterが注目をあつめていた。
縦読み漫画ウェブトゥーンの『ピッコマ』中国に続き欧州も撤退、タテヨミ漫画は世界標準だって言ってたじゃないですかーー! - Togetter


ウエブトゥーンが中国に続き、欧州からも撤退か・・・中華市場は政治的な問題もあったのかもだが、欧州市場はまた別の事情もありそうやね。
mk.co.krから

 はてなブックマークも同調するコメントが多く、あくまで一社が撤退しただけという指摘は、Togetterの異論コメントを引いたid:x100jp氏のコメントが初めて。
[B! 漫画] 縦読み漫画ウェブトゥーンの『ピッコマ』中国に続き欧州も撤退、タテヨミ漫画は世界標準だって言ってたじゃないですかーー!

x100jp 棘コメ"この業者だけ不調なのか、縦読み漫画が不調なのか、そのへんはどうなんだろう?" それな。

 実際に記事を読んでも、縦読み漫画をメインコンテンツのひとつにしているピッコマというサービスひとつが撤退しただけで、ウェブトゥーンが受けいれられなかったという情報はない。
カカオのウェブトゥーンをはじめとするコンテンツ子会社であるカカオピッコマが欧州事業を撤退する。 欧州進出から約3年後に廃業することになる。 フランスを含めた欧州ウェブトゥーン市場の成長傾向が当初の予.. - MK

カカオのウェブトゥーンをはじめとするコンテンツ子会社であるカカオピッコマが欧州事業を撤退する。 欧州進出から約3年後に廃業することになる。
フランスを含めた欧州ウェブトゥーン市場の成長傾向が当初の予想より遅い中、現地企業の出血競争が深刻化すると、収益性の高い地域に集中するために下した決定と解釈される。

 同じサイトの別記事を読むと、利益を損失が上回っただけでなく、フランス現地でウェブトゥーンを配信する競合が複数出てきたことも撤退理由のひとつとされている。
カカオピッコマがヨーロッパ市場進出拠点である「ピッコマヨーロッパ」法人撤収カードを取り出したのは主力である日本市場に集中するという意味と解説される。カカオピッコマは日本でウェブトゥーン·ウェブ小説プラ.. - MK

色々な業者がウェブトゥーン市場に続々と参入し、現地市場が「レッドオーシャン化」されている点も負担として作用したという分析だ。 欧州最大規模の漫画出版社であるフランスのメディアパティシファシオンは今年初め、子会社のエリプスアニマシオンを通じてウェブトゥーン事業に進出した。 フランス現地のメジャー業者である「ピクソマガジン」はディズニーIPを基盤にした購読型ウェブトゥーンプラットフォームを作った。 現在、フランス市場ではデリートゥーン、タピトゥーン、ポケットコミックスなど多様なプラットフォーム会社が出血競争を繰り広げている。 さらに、グローバルビッグテックも欧州ウェブトゥーン市場への参入時期を予想している。

 以前に簡単に報道をまとめたことがあるが、中国漫画は電子書籍が大半で、縦書き漫画が強いと報じられていた。
「Webtoon」の勢いは台湾のgoogleトレンドを見ると少し実感できるかもしれない - 法華狼の日記

2018年で中国漫画の売りあげは2600億円ほど、うち4/5を右肩あがりの電子書籍がしめているという。

NHKの「クローズアップ現代+」で、中国の漫画はスマートホン向けの縦書きが強いと報じられてもいた。

 同時期の韓国のウェブトゥーンの売り上げが600憶円なので、縦読み漫画の世界全体の市場と韓国限定のウェブトゥーンの売り上げは同一ではない。


 そもそもピッコマは、日本ではウェブトーンではない1ページ単位のコマ割り漫画も多数配信しているし、実はフランスでも日本の一般的な漫画を配信している*1
https://piccoma.com/fr/
 フランス版ピッコマのツイッター公式アカウントを見ても、日本のホラー漫画として伊藤潤二作品を特筆して推していたりする*2


ジャパニーズ・オブ・ホラーはピッコマで配信中!今年は最悪のスタートを切ったような気がしませんか?伊藤潤二の貧弱なキャラクターを考えてみると、さらに悪いことになる可能性があります。慰めが必要な場合は、彼の猫日記がまだあります。
https:// lire.piccoma.com/Kaon/1tzfx0k8

 つまりピッコマの参入失敗をコンテンツの力不足と単純に考えるならば、日本漫画も力不足だった可能性が出てきてしまう。もちろん実際にはもっと複雑な理由があるだろう。
 日本漫画を読ませる時のピッコマの問題として、どのような作品でも縦読みにするか、横読みでも1頁単位でスライドするしかなく、見開き形式にできない。縦長モニターで見る場合しか想定されていない。
 たとえば見開きの頁をまたぐ変型コマを多用する長谷川裕一作品を読むと、ダイナミックでいて明確な視線誘導で読みやすい代表作『マップス』が、しばしば読みづらく位置関係もよくわからなくなる。
マップス|無料漫画(まんが)ならピッコマ|長谷川裕一
 実際に無料で確認できる範囲でいうと、「ACT.1 地図は白かった (2)」で見開きの左から主人公が攻撃する場面など、左から右への視線誘導にあわせて頁をもどしながら読む必要がある*3
ACT.1 地図は白かった (2)|マップス(長谷川裕一)|ピッコマ
 縦読み化に向いていそうな4コマ漫画も、さまざまな作者の作品を試し読みすると、意外と読みづらいものが多い*4。日本の漫画をコンテンツとして読ませるには、まだピッコマは選択肢や工夫が足りない段階に見える。


 一方で日本においては、スマートフォンでの読書に特化したウェブトゥーンと違って、旧来のコマ割りでありながらスマートフォンでも効果的に読める作品も増えてきた。
 特にジャンプ+の見開きは、右から左へスライドしながら1頁ずつ読む可能性を念頭にしたものが多くなっている。具体的にはキャラクターの動きの起点を見開きの右端に配置し、左へ向かうキャラクターのアクションと誘導される読者の視線を一致させている。
目標は鬼滅超え。大ヒットを生み出す「少年ジャンプ+」 SPY×FAMILY・怪獣8号 - Impress Watch

「怪獣8号」第1話にある見開きページ。スマートフォンの縦長の画面で表示すると、最初のページ(右半分)だけでも無理なく理解でき、次のページで全貌が分かるという構成。もちろん横長の画面で見開き2ページを一気に表示してもインパクトがある

 上記の記事でとりあげられている『怪獣8号』の他にも、読切では『勇者ご一行の帰り道』の見開きがWEB配信漫画ならではの演出として印象深い。
勇者ご一行の帰り道 - 平野稜二 | 少年ジャンプ+
 これはウェブトゥーンのような縦書き漫画が下にスライドして読ませる制限から生んだ新たな演出を、横倒しにしてとりいれたようなものではないかと思っている。
 かつて漫画の見開きといえば、先述の『マップス』でも多用されていたように、左右に配置された敵味方がたがいに攻撃しあう互角の演出も多かった。そのようなスマートフォンでは見づらい見開きは近年は少なくなったように感じる。


 もうひとつ、1話ごとの衝撃的な展開で注目をあつめていた『タコピーの原罪』に、内容だけでなく第4話の見開き演出に印象深いものがあった。
[第4話]タコピーの原罪 - タイザン5 | 少年ジャンプ+

 左右頁にそれぞれ顔面をいっぱいに描いて、見開きとして読むなら頁を盛大につかって圧迫感のある2コマとして、1頁ずつ読むスマートフォンならパラパラ漫画やADVゲームの差分のような表情変化の演出として読める。
 このように同じ構図や関連する情景を左右にならべた見開きは、この前後に発表された別作品でも見かけるようになった。スマートフォンで読むことを想定した演出ではないかもしれないが、1頁単位で切りとられて読まれても効果がある。

*1:ただし日本からのアクセスは遮断されている。

*2:文章の日本語化はgoogle翻訳をてなおしせずにつかった。

*3:ピッコマの18~19ページ。

*4:理由は言語化できていないし、個人差があるかもしれない。

『ささめきこと』雑多な感想

 女子高生のひそやかな同性へのれないを描いた2009年のTVアニメ。いけだたかしによる漫画の連載途中に、菅沼栄治監督に倉田英之シリーズ構成というスタッフ構成でAICがTVアニメ化した。

 原作とアニメ、それぞれ序盤だけ見た作品を、あらためて最終回まで視聴。倉田英之脚本作品でくりかえしサブテーマや裏テーマにされていた百合を、正面からメインテーマにした数少ない作品のひとつ。
 レズビアンだけでなくトランスベスタイトなどもふくめてセクシャルマイノリティの片思いがねじくれていく物語展開はよくできているし、菅沼栄治のTVアニメ監督2作目ながら演出も作画も全体をとおして上品に安定している。
 もちろんモブの作画の粗さなどは現在の水準とは異なるが、要所でTVアニメなりに動かしているし、止め絵でも体型や姿勢を描きわけていて、3DCGにたよる現在よりも見ごたえがある。自動車なども静止スライドが基本ではあるものの手描き作画で描写され、デジタル技術は地面などのパース移動で必要最小限に効果的な使用。TVアニメはこれくらいでちょうどいい。


 映像で良くない印象をおぼえたところとして、十数年ぶりに見ると、序盤から頻出する体育時のブルマ姿に意外な違和感があった。時代を感じさせる良さもない。
 かわいい女子をもとめる同性愛者の物語で、セクシャルな消費がされるだけでファッションとしてかわいいとはされなかった服装がなじまない。エロティックだから悪いというわけではなく、むしろかわいい下着を着替え場面などで描写したなら違和感は少なかったと思う。実際、女子高生でありながら中二男子のように妄想する主人公が、恋している相手の水着姿などで妄想する描写は違和感が少なかった。
 たぶん制服がブレザーなのに体育着が旧態依然なところも違和感の原因だろう。セーラー服や詰襟が制服の学校として設定されていれば、ブルマももう少し情景になじんだと思う。スポーツ万能な主人公が長髪をまとめないまま活躍する描写もあわせて、体育関係だけは奇妙にふわふわと現実味がない。


 物語としては、基本的に原作を再現する方向のアニメ化らしく、明確なアニメオリジナル回は校舎内で謎解きを楽しむなかでサブキャラクターにひとつのオチをつける第12話だけ。原作が連載途中ということもあり明確なピリオドは描かないが、第11話で主人公カップルのひとつの決着を見せてから、第1話を受けるように日常のなかで少しの変化を見せる最終話というダメ押しで完結した印象は充分にある。田舎は携帯電話が通じにくいというギミックが良い意味で時代を感じさせる。
 ただし第1話が読切だった原作に対して作品の方向性をつたえるためアバンタイトルで別の少女同士のキスシーンを先行して描写した時系列アレンジなどはある。他にオーディオコメンタリーで特に言及されたアレンジとして、愛する人の名前の一部がタイトルに入った書籍を気にする描写が追加されているが、視聴している時はまったく気づかなかった。オーディオコメンタリーでも反省しているように村雨という名字と『雨月物語』の「雨」だけというのは共通項が少ないし、人物名が漢字で表記される漫画や小説と違って音で印象づけられるアニメでは気づきづらい。


 いくつかの引っかかりは感じたが、全体をとおして今でも鑑賞にたえるのに、埋もれているのが不思議。百合を題材にしたTVアニメとして、2004年ごろの『神無月の巫女』などのブームがいったんとだえ、2011年の『ゆるゆり』からふたたびブームとなるまでの端境期に放映されたのが良くなかったか。