続・吾輩はヲタである

JR券をメインとしたきっぷのブログ

北海道トクだ値の変化

 先月のダイヤ改正でJR北海道の特急「北斗」「すずらん」「おおぞら」「とかち」が全車指定席化されました。「ライラック」「カムイ」については指定席を2両増やして自由席と指定席の比率が逆転しています。

 特急列車が全車指定席化された区間はそれまで発売されていた「乗車券往復割引きっぷ」を全廃し、「えきねっと」の「トクだ値」に移行し当日購入可能な割引きっぷはなくなりました。「トクだ値」は14日前まで購入可能な「トクだ値14」と前日まで購入可能な「トクだ値1」が設定されています。

とかち10号:札幌駅 2022/2/18

 商品名は同じ「トクだ値14」や「トクだ値1」でも、当日の予測乗車率によって割引率が変動するイールドマネジメントシステムが導入されました。イールドマネジメントシステム航空券の世界では当たり前ですがJRでの導入は聞いたことがありません。

 全車指定席化された4列車の「トクだ値14」および「トクだ値1」の割引率を比較してみます。

       トクだ値14     トクだ値1
北斗 20・25・30% 10・15%
すずらん  40・45% 10・15・20・25・30・35%
おおぞら  30・35・40% 10・15・20・25%
とかち 45・50・55% 10・15・20・25・30・35・40%

 長距離便の「北斗」「おおぞら」の割引率は低く、区間便である「すずらん」「とかち」の割引率が高く設定されています。イールドマネジメントと言っても「トクだ値14」よりも安い「トクだ値1」やその逆もないので、そこはやり方が中途半端だなと感じるところです。

カムイ63号:札幌駅 2022/12/31

 「ライラック」・「カムイ」については席数が増えた指定席を利用しやすくするため「トクだ値1」の設定区間が追加されました。これまでは札幌~旭川間(45%)しかありませんでした。割引率を整理すると以下のとおりです。

      トクだ値1   
札幌~岩見沢・美唄 35%
札幌~砂川・滝川 30%
札幌~深川・旭川 45%
旭川~滝川・深川 35%

 「トクだ値14」はありません。距離が長い札幌~砂川・滝川間より距離が短い札幌~岩見沢・美唄間の方が割引率が高いのはちょっと違和感がありますが、現状の「自由席往復割引きっぷ(Sきっぷ)」の価格がベースになっているのかなと推測します。

 先月新たに設定された旭川~滝川間の「トクだ値1」を利用してきました。紛れもなく「トクだ値1」の利用ですが、券面上部には「トクだ値35」との表記があり一体どっちやねん!?という感じです。券面右下には「3.5割」という割引率を示す表記もあります。

 「トクだ値〇〇」の〇〇の数字の部分が割引率から申込期限に変更になったのも今回のダイヤ改正のタイミングなので、こういったおかしな表記はそのうち直されていくのかなと思っています。


 今回のダイヤ改正で全車指定席化したり、自由席を減らして指定席を増やした列車については評判が芳しくないようです。考えられる理由を挙げると

①全車指定席化で自由席と指定席の特急料金を一本化するにあたって、JR東日本は大多数の列車で中間に料金を設定して指定席は値下げになったが、JR北海道は指定席に合わせたため自由席は値上げで指定席は据え置きとなり利用客にとっては料金的なメリットがまったくなかったこと。

 これはちょっとひどいなと思いました。プレスリリースには「安心で快適」とか「おトクで便利な商品体系」とか耳ざわりのいい言葉が並んでいますが、この料金体系を見るととにかく増収ありきだったことが伺えます。

②トクトクきっぷを廃止し前日までに購入する必要のある「トクだ値」に移行したことにより当日購入可能な割引きっぷがなくなったこと。

 イールドマネジメントは結構ですが、実質値上げとトクトクきっぷの廃止を同時にやったのはさすがに乱暴だったと思います。当日購入可能な指定席往復タイプのトクトクきっぷは割引率を落としてでも設定すべきでした。「トクだ値」の割引率の下限を20%程度にし、トクトクきっぷの割引率をそれ以下にしておけばネット予約の価格優位性を訴求することができます。

③指定席が増えた「ライラック」・「カムイ」については通勤時間帯の自由席の混雑が激しくなっていること。

 全車指定席化された4列車の運転区間の特急定期券「かよエール」は乗車3日前から無料で指定券の交付が受けられる「かよエール+(プラス)」に移行していますが、札幌~旭川間を含めそれ以外の区間は相変わらず自由席しか利用できません。そのため「かよエール」の利用客は2両しかない自由席に集中し混雑が激しくなっており、「安心で快適」という言葉とは逆の状態になっています

 このへんの理由を考えてみると「そりゃそうだよな」としか思えませんでした。増収を狙うあまり制度設計が雑だったと言わざるを得ません。

すずらん5号:室蘭線・鷲別駅 2023/4/29

 北海道新聞の記事では札幌~東室蘭間について取り上げていました。トクトクきっぷがなくなって割高になったことと、割引がネット予約だけになったことに不満が高まっていて、高速バスへ切り替える動きが出ているとされていました。

JR特急列車   高速バス
17往復 運転本数 14往復
2時間17~33分 所要時間 2時間24~28分
 必要(全車指定席)  事前予約 不要(定員制)
なし  当日購入可能な 
割引きっぷ
あり
なし  紙の割引きっぷ  あり(回数券)
あり ネット予約 なし
5,220円 片道の定価 2,500円
なし 往復割引 あり(4,680円)
2,860円
(トクだ値14・40%引き)
最安価格 2,175円
(4枚綴りスマホ回数券)

 こうして比較してみると所要時間は互角ですが、当日利用しようとすると特急列車は高速バスの倍以上の価格になります。これだったら普通の人は高速バスを利用します。それゆえ室蘭市は職員の出張の交通手段に高速バスも利用できるように運用を変えたそうです。

 この区間はビジネス客が多い区間です。ネット予約は苦にしない客層ですが、割引のきっぷを買うために前日までに行程を決めないといけないというのは利用の足かせになります。そういう利用客のことまで思いが及ばなかったんだろうなと感じます。

 運べる人数が全然違うので高速バスが特急列車のシェアを逆転するとは思いませんが、こういうことをやっていると中長期的にJR離れを誘発することになります。良くない兆候があったら早く軌道修正した方がいいと思います。増収のためにやった変更が裏目に出てしまっては目も当てられません。