うきよのおはなし～江戸文学が崩し字と共に楽しく読めるブログ～

　【前回のあらすじ】

　頼母を思うあまり病に臥せる采女のもとに、同じ侍従に仕える同僚たちが見舞いにやってきました。
　その中に頼母もいたので、采女は隠そうとしても嬉しさを隠しきれませんでした。
　采女の男色相手の内蔵之助は、そんな采女の様子を怪しく思い、、、。

　【初めての方へ】

　原典の画像だけでなく、スクロールすると、ちゃんと活字の原文（可能な限り漢字に直し、送り仮名と振り仮名を補足しています）と現代語訳と解説がありますよヾ(๑╹◡╹)ﾉ"

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霞亭文庫 · 男色義理物語 · 東京大学学術資産等アーカイブズ共用サーバ
男色義理物語 : 4巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション
※赤字の書入れ等は筆者。

【原文】【現代語訳】

（皆人帰り、）悩める後《あと》に［皆人帰りし後に、悩める枕に？］近う寄りて囁《さゝや》き侍るハ、
（内蔵之助は、見舞いの人が全員帰ったあと、）采女が臥せる枕の近くに寄ってささやきました。

「御身のたゆ［様《さま》？］は如何《いか》にとも分け難し。
「あなたのご様子は、どうも怪しく感じます。

　心に懸《か》ゝる節有らば、我には隔て給ひそよ。
　気にかかることがあるのなら、私にはお隠しにならないでください。

　然《さ》れバ、今、詣《まふ》で来り給ひし人の中に、忍ぶる海士人《あまびと》の見る目に、いと味気無《あぢきな》き顔付きこそ有りし。
　なぜなら、今、見舞いにいらっしゃった人の中に、忍んでお慕いする人がいて、あなたは会えてとてもうれしそうな表情［内蔵之助とっては気にくわない表情］をしてましたよね。
［「忍ぶる」は「海士人」を導く言葉である「信夫《しのぶ》の浦（歌枕）」をもじっている］
［「海士人《あまびと》」は「見る目」（海士が採る海藻の「海松布《みるめ》」と掛かっている）を導く言葉］

　然《さ》のミ執念《しうね》きも罪深かし」
　私という者がいながら、そんなにほかの人にゾッコンになるなんて、罪深い事ですよ」

　などゝ、様々／゛＼戯《ざ》ればミ尋ね問いけれども、
　などと、色々冗談めかしながら、聞いてみましたが、采女は、

「有らぬ戯《たはむ》れ事や悪しけれ。
「悪い冗談はやめてください。

　左様《さやう》の現無《うつゝな》き事侍らんや。
　そんな愚かなことをするはずがありません。

　斯《か》ゝる悩ミハ幼き時より有りしぞ」
　このような患《わずら》いは、幼いころからあったのです」

　などゝ言ゝ紛らハして事も無げなる風情、
　などと誤魔化して、平然とした様子で答えました。

　猶《なを》覚束無《おぼつかな》く、其ゝ後よりハ、事に寄せ、折に触れて尋ね問ひけれども、後ハ物をも言ハず悩ミ侍る事、
　内蔵之助は、それでも疑わしく思い、それからは事あるごとに問いただしてみましたが、そのうち采女は物も言わずに臥せるばかりになりました。

　上野《かんづけ》の国神流川《かんながは》の辺りに住みた給ふ［住み給ふ？］父同胞《ちちはらから》の人／゛＼きゝ給ひ、胸驚かし、心を空《そら》に為《な》して、つや／＼人の物云ひも耳に留《と》まらずして、急ぎ暦《こよみ》の博士《はかせ》を請《しやう》じて、時問わせ侍りしに、
　このように、采女が病に臥せっていることを、上野国神流川《こうずけのくにかんながわ》［群馬県］の辺りに住む、采女の父と兄弟の人たちがお聞きになり、ビックリして我を忘れ、全く人が言うことも耳に入らず、急いで暦《こよみ》の博士［陰陽師《おんようじ》（占い師）］を呼んで占わせました。

　霊文《れいもむ》を引いて熟《つく》／゛＼と考へ、
　暦の博士は霊文《れいもん》を引いて［呪文を唱えて？］、よくよく考えて言いました。
［「霊文《れいもん》」は、陀羅尼《だらに》（仏教の呪文の一種）の事をさすが、ここでは筮竹《ぜいちく》（占いに使う細い竹）と同様の占いに使用する道具か］

「御心安く思《おぼ》し召《め》し給へ。
「ご安心くださいませ。

　此の御悩ミの程にては国［玉？］の緒《を》の絶えなん程の事はゆめ／＼侍るまじ。
　このご病気で命を失うようなことは全くないでしょう。

　何様是ハ生霊《いきずたま》の類《たぐ》ひ様《やう》（の物移りて、人の心を悩ますと占ひの表《おもて》に見へ侍るまゝ、）
　いかにも、生霊《いきりょう》のよう（なものが乗り移って、この方の心を悩ませていると、占いの結果に出ています。）

　【解説】

　男色相手の内蔵之助が追求しますが、采女は頑として口を割りません。

　采女が病に臥せっていることは、国の家族の耳にも入って大騒ぎ。

　暦の博士を呼んで占わせた結果、生霊の仕業で命には別条はないと。。。

　微妙に占いの結果は間違っていますが、暦の博士は恋煩いと気づいたものの、気を効かせて生霊の仕業と言ったのかもしれませんねヾ(๑╹◡╹)ﾉ"