古賀及子(こがちかこ)

ライター・エッセイスト。『おくれ毛で風を切れ』『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒…

古賀及子(こがちかこ)

ライター・エッセイスト。『おくれ毛で風を切れ』『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』(素粒社)『気づいたこと、気づかないままのこと』(シカク出版) ご連絡は👉https://forms.gle/F34yACPtMBCWgor79

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  • シカクのひみつマガジン

    大阪のZINEセレクトショップ「シカク」のマガジン。業務日誌、ゲストの読み物、音声や動画、昔のメルマガや出版物からの蔵出し記事などを月4〜5本更新します。連載ごとのまとめは「ハッシュタグ」からどうぞ。いただいた購読費はお店の運営費にあてられます。

  • 日記エッセイ まばたきをする体

  • 『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』生の日記

    書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。

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古賀及子の本、日記エッセイ『おくれ毛で風を切れ』、エッセイ『気づいたこと気づかないままのこと』2冊同時刊行のおしらせ

2024年2月上旬、日記エッセイ『おくれ毛で風を切れ』と、エッセイ『気づいたこと気づかないままのこと』がなんと同時に出ます! 日記エッセイ『おくれ毛で風を切れ』(素粒社) 母・息子・娘、3人暮らしの、愉快で多感な日々。 生活は、もっと観察できる。 2023年2月刊行の『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録しきれなかった過去の日記と刊行以降の日記を、書き下ろしもふくめて収録しています。 ブックデザインは前作『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に続き、鈴木千佳子さんにお願

    • 唯一無二の「そんなまさか」

      仕事をいただいて遠くへ行くのは大好きだし、聞いたことのある地名の実際をそこに立って感じるのには興奮するけれど、常々家を優先してしまってあんまりあちこち行かない。 経験が少ないから、ホテルを選ぶのがとにかく下手で、もう今年からビジネスホテルのチェーンをひとつここと決めることにした。 大きなチェーンだから大きな都市にはいくつもグループのホテルがある。そこからいちばん安いところを探して迷わず予約する。 福岡市街にもたくさんチェーンのホテルがあった。 安いところを予約したら、

      • 押すと実現するボタン

        起きた息子がやってきて、「信用創造って知ってる?」という。なにそれ。 「銀行の用語らしいんだけど」 「えっ、知らない。信用創造、ほぼ天地創造じゃん」 公民の授業で習ったそうで、でもうまく理解しきれないという。 ちょうど弁当ができあがったところだったから、スマホで検索して解説文を読んではみるのだけど、理解よりも信用創造ということばの強さにとらわれた。 お金周りのことばはたまに急にミラクルな感じを出してくる。 私は会計ソフトにある「実現」ボタンがすごく好きで、押すと「実

        • 眠ったあとの世界から目覚めてみんな夢みたい

          ホテルの朝は、家の朝とおなじくらいに冷えた空気にみちており気持ちがよかった。 出版した本の刊行記念イベントがあり、きのう大阪へやってきた。着替えて廊下に出ると部屋と同じくらいしんとして寒い。 ロビーの前にセルフサービスの朝ごはんが並んでいて、トマトジュースとコーヒーとおにぎりと、まさかのたこ焼きがある。この旅では食べられそうにないからひとつもらった。そりゃそうだろうけども、ちゃんとたこが入っている。 部屋で支度をしながらつけたテレビに竹原ピストルさんが出演されていて、自

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        古賀及子の本、日記エッセイ『おくれ毛で風を切れ』、エッセイ『気づいたこと気づかないままのこと』2冊同時刊行のおしらせ

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          6本

        記事

          豊かさのかたまりなんだよ

          じゃしゅじゃしゅという音で目が覚めた。どこかの家が門前の雪かきをしているらしい。 起きて布団から足を出せば床は冷え切り、接地の足裏が痛い。 今日まで息子は学校がリモート授業。娘は、昨日の降雪にはテンションが上がっていたのに今朝は道の残雪が空気を冷やすと雪に文句を言いながら出かけて行った。 ちらちらと雨。家の前にはシャーベット状の雪が残っている。さっきの雪かきの音はお隣さんだったらしく、隣の家の前の歩道はきれいに雪が寄せられ地面が見えていた。 17年のあいだ東京の、この

          豊かさのかたまりなんだよ

          時間に満ちる人のいきさつ

          今日もラジオはTBSラジオの「森本毅郎 スタンバイ!」。 番組中盤に、レポーターの方による取材報告の「現場にアタック」というコーナーがある。街ゆくひとたちに話を聞いて声を集めるのが金曜日の恒例だ。 近ごろ経済産業省がフロッピーディスクの仕様指定をやめたニュースがあり、それにあわせた「フロッピー、知ってますか、おぼえてますか」が今日のテーマだった。 「懐かしいね、昔の恋人に会ったようだね」と答えた人がいた。 日ごろから姿勢は詩、詩の呼吸でいねばなと思わされる。 学級閉

          時間に満ちる人のいきさつ

          鳩のあの足の裏

          近ごろ娘がAmazonプライムビデオで全99話あるアニメシリーズを完走した。 夢中で楽しみすぎて、見終わったあと評価の星を満点でつけたらしい。これまで評価を付けたことはなかったし、評価することに興味もなかったけれど、あまりにおもしろかったから高評価をつけずにはいられなかったのだと言っていた。思い出しながら起きた。 起き出して機械の体のありさまで朝食と息子の弁当の準備、人々もそれぞれにいつものように動いて出かけていった。 家の中も外も静かで、キーボードを叩く音だけ続くうち

          もしかしたら、私もコーヒーをもらえるかもしれない

          「暖房を切り忘れた、 夢を見た」 と、息子が起きてきた。 「暖房を切り忘れた」と聞いて、切り忘れて寝てしまったのか!? と、「夢を見た」が聞こえるまでのあいだの瞬間に絶望する。 人間は瞬間にも絶望できるのだ。 休みの日。朝寝を楽しむ娘をおいて息子とパンを食べる。 最近使っていたジャムもピーナツクリームもどちらも切れかけで、「えっ、昨日までまだあったのに、一気に無くなったね」とでかめの声を出すと息子は「いや、着実になくなっていってた」と言い、時のすぎゆきを明瞭に受け

          もしかしたら、私もコーヒーをもらえるかもしれない

          じゃがりこを買う人だけが私にとってかわいい、なんだこの感情は

          むくと起き、朝の体を弁当作りモードで動かす。 冷凍ご飯をレンジにかけ、卵を溶いて砂糖と塩を入れ、食パンにシュガートースト用のクリームを塗るなど。 やるべきことが複数あって順番は問わないから、思いついたところから1秒も隙間なく動き、やれるところからやる。テキパキを創出するのがおもしろい。 平行して洗濯機も回した。うちでは洗濯に前日の風呂のお湯を使っている。くみ上げるべくホースを湯船に落そうとして、ソフビの黄色い小さなアヒルが浮かんでいるのに気づいた。救出してふいてやる。

          じゃがりこを買う人だけが私にとってかわいい、なんだこの感情は

          地金は売らずにまた会おう

          希望の朝はこうもやすやすとくる。 メープル風味のシュガートーストクリームを買ったのだ。 昨晩寝床に入りながらふと(明日が楽しみだなあ、朝にシュガートーストが食べられるぞ)と思い、瞬時にちょろい! と恥じた。 シュガートーストクリームは、まいばすけっとで買ったトップバリュのやつだ。安いし、あとパッケージのデザインが愛すべき適当さで、見た目にはおいしいとは信じられない。そんな程度でも、前の晩から私の朝は輝いてしまう。 いそいそ起き出して塗って焼く。むちゃくちゃいいにおいが

          地金は売らずにまた会おう

          私が愛するあなたの凡庸のすべて

          早寝の私は気を抜くと22時台に寝てしまう。昨日も早々に布団に入り、すかっと眠り込んで次に目が開いたら朝の6時なものだから、太陽とともに生きるのが上手すぎる。 しかしスマホを手に取ると、友人たちから、23時、0時、2時にLINEが着信しており、私の野生のいきざまとはちがう文化的な生のかたちを目の当たりにした気がして恥じたのだった。 恥じの反動でぜんぶ7時台に返事をした。 遠くにいる人に思いをはせ、この空の下のどこかにあの人も生きているのだと思う、そんな言説をよく見聞きする

          私が愛するあなたの凡庸のすべて

          なんだかいつも、これ以上着るものがないし脱ぐものもない気持ちだ

          布団から出した温まった足の裏が床にふれてもう冷たい。 ちかごろの朝は、空気と一緒に床も冷えて待っている。もはや寝ぼけたままでもわかっているから、床にはつま先だけ接地させて、そのままつま先立ちで歩いてスリッパを探す。 私のスリッパは所定の位置、たとえばベッドの脇とか、分かりやすい場所にはけっしてなくって、いつも適当などこかにある。風呂場の脱衣所とか、玄関とか、居間のすみとか。ちょっとでも寒くないと感じたところでスリッパを脱いでしまうから。 寒くなると朝はいつもスリッパを探

          なんだかいつも、これ以上着るものがないし脱ぐものもない気持ちだ

          本物のIKEAにふれて

          はだしで歩くと板張りの床がべたべたする。 大雨の日、雨は液体としてだけでなくもやとして充満してそこいらじゅうを濡らす。 「べたべたするなあ~」と、息子が素直にそのまま声に出して、私も「べたべたすんだよねえ」と返した。除湿器のスイッチを入れた。 パンを焼いて、遅起きの娘をおいて先にふたりで朝ごはんを開始した。息子は最近家具屋に関心があるらしく、できるだけ怖くないまちのIKEAに行きたいんだそうだ。 「IKEAは新宿、渋谷にあるけど、どっちもまちが怖い」 「そういうもんか

          現実のしわを取る:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

          書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  身に覚えなく早い時間に目があく。眠気はからだにまだ巻きついて身が起きてはこず、横になって軽く右へ左へころがってうとうと寝たり起きたりを繰り返し、結果的に普段起きる時間になった。起

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          無意識から目覚めるような同意:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

          書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  瓶ではなく紙カップのジャムのシリーズにいちごジャム、ママレード、ブルーベリージャムにならんでピーナツクリームがある。昨日ひらめいて買ってきた。買う習慣のないものはひらめきが降りて

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          無意識から目覚めるような同意:『ちょっと踊ったりすぐに…

          布団に入らないで服を着てしばらく寝る:『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』書下ろし構成前の生の日記

          書籍『ちょっと踊ったりすぐにかけだす』に収録した書下ろしの日記は、日々の日記から、いくつかのトピックをぬいて1日のできごととして再構成して書き上げました。 この日記は再構成前の「生の日記」で、2023/05/21の文学フリマ東京36でペーパーとして販売したものです。ペーパーと同価格で販売します。  起き出し、洗濯機を回すべく子ども部屋の前を通ると暗がりのなかで息子がベッドの上に座っていた。国語辞典を片手にしている。 「『うたたね』ってなんだろうと思って調べてた、おはよう」

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          布団に入らないで服を着てしばらく寝る:『ちょっと踊った…