奥田知志

ホームレス支援をやっています。NPO法人抱樸:http://www.houboku.n…

奥田知志

ホームレス支援をやっています。NPO法人抱樸:http://www.houboku.net/ 東八幡キリスト教会の牧師。 http://www.higashiyahata.info

最近の記事

 「今も時々思う―問いの中に生きる」

NPOの専務である森松さんの母上が急逝された。とりあえず森松さんの故郷である沖縄に向うことにした。僕の親父の時は、森松さんが滋賀まで来てくれた。日帰りで押しかけると迷惑かも知れない。でも行こうと思った。享年93歳。ずいぶん前にお会いしたきりで、最近はすっかりご無沙汰していた。長く離れて暮らしていたとは言え、実際にもう会えないとなると寂しい。「もっとこうしてやったら」、「ああしてやったら」。息子としては思いもいろいろあるだろう。心残りは縁(えにし)の証し。ともかくしょげている

    • 大変惨(むご)いことでございました

       東八幡教会は毎春子どもたちと平和の旅に出かける。長崎、広島、そして沖縄。このサイクルで旅に出る。すでに25年ほど続いている。コロナもあり今年は5年ぶりの広島平和の旅にでかけた。    今回語り部を引き受けて下さったのは切明千枝子(きりあけちえこ)さん。15歳で被爆され94歳になられる。最初は座っておられたがすぐに立ち上がり一時間以上立ったまま子どもたちに語りかけてくださった。「本気で平和を創ってください」。最後に繰り返された言葉が心に刺さった。    これまで多くの語り部さ

      • 「人間ってやつは―飛行機の中での出来事」

         春休みになって飛行機はほぼ満席状態が続いている。羽田から北九州に向かう機内は、日ごろはサラリーマンがほとんどだが今日は子ども連れが多い。帰省なのか、旅行なのか。あちこち小さな子どもが座っている。その日は天気が良く大きな揺れもない快適なフライトだった。 しかし、なにがどうした。ひとりの子どもが泣きだした。二歳ぐらいか。するとそれに合わせるように他の子どもが泣き始め、機内は泣き声の合唱状態。いたたまれなくなった親が子どもをかかえてあやしだす。が、子どもは一層大声で泣く。「す

        • 「平和憲法はそもそも現実的ではない」

          戦争反対、非戦、軍備も反対。そんなことを言っていると「バカかお前は。現実を見ろ。このお花畑野郎」と言われる。「ロシアとウクライナの戦争が現に起こっているのだからそんな理想論を語っても意味がない」と。 結果「現実に合わせて憲法を変える必要がある」という人が現れる。昨今、結構な人がそれを支持するようになっているようだ。だがそれは根本的に間違っている。なぜなら「そもそも憲法は現実的ではない」から。憲法は「現実を書き表した文章」ではない。 アジア全体で2000万人、日本で300万人

         「今も時々思う―問いの中に生きる」

          「慌てるな、まだ終わりではない。なんとかなる」

           今、心細くこの時を迎えている人に伝えたい。「まだ、終わりではない」。「あわててはいけない」。僕は、僕自身にそう語りかけている。  新年早々に大きな地震が襲った。多くの家が倒壊した。家屋の下にはまだ取り残された人がいるという。ご家族はどんな思いでこの夜を迎えておられるだろう。ニュースの度に死者が増える。  羽田空港では考えられないような航空事故が起こった。民間機の乗客乗員は全員無事だったが、石川の被災地に向かう海上保安庁の飛行機は5人が亡くなった。炎の映像が目に焼き付いて

          「慌てるな、まだ終わりではない。なんとかなる」

          「避難所の誕生日ケーキ―能登半島地震の被災地で」

           元旦の午後4時過ぎ震度7の地震が能登地方を襲った。家屋の倒壊、津波ですでに200人以上の方が亡くなり、災害関連死の危険が高まっている。突然の苦難に見舞われた方々のことを思い祈る。  東日本大震災の時、私が代表をしている「ホームレス支援全国ネットワーク」、「グリーンコープ生協」、「生活クラブ生協」の三者が協働し「公益財団法人共生地域創造財団」を立ち上げた。現在も現地にスタッフを置き被災者支援と共生地域創造に向けた活動を続けている。財団の活動理念は、①最も小さくされた人に偏っ

          「避難所の誕生日ケーキ―能登半島地震の被災地で」

          ネタで終わらせないために―クリスマスに考えたこと―

           今、街はクリスマス一色。行き交う人々は気忙(きぜわ)しそうだが、楽しそう。「ミッドタウン」と名付けられたお洒落なビルはイルミネーションに輝く。そんな東京の街を眺めながら「きれいだなあ。平和だなあ」と思う。しかし現実は違う。   戦争は止むことなく続いている。眼前の光景と同じ世界の中で殺し合いが続いている。ピンと来ない。だが今も誰かが殺されているのは間違いない。 夜だというのに電車は混んでいた。僕の前に立つ二人が話している。「ウクライナってどうなったっけ」。「まだやってると

          ネタで終わらせないために―クリスマスに考えたこと―

            「破れとパンイチ」

           希望のまちの寄付のお願いも佳境となり全国を飛び回っている。朝、高知に飛んで講演し、終了と共に東京へ。ホテルに鞄を置いてすぐに厚労省の勉強会へ。その後懇親会で楽しいひと時。明日は朝から国交省。  ホテルに戻る。やれやれとズボンを脱ぐ。パンイチ(パンツ一丁)で部屋をうろうろ。我が家でパンイチは日常だが、誰もいないホテルとはいえ東京のど真ん中だと少々恥ずかしい。だがパンイチは解放感があって僕は好き。街中でやると大変なことになるのでご注意(当然!)。    脱いだズボンを見てびっ

            「破れとパンイチ」

          「必要の風が吹く時―小倉昭和館復活」

             昨年8月、映画館小倉昭和館が全焼した。衝撃だった。80年の歴史があり市民に愛された映画館は跡形もなく崩れ落ちた。焼け跡にたたずむ樋口館主が痛々しかった。悔しいだろう。悲しいだろう。僕の想像をはるかに苦難がそこにはあった。  昭和館には何度かシネトークで呼んでもらった。「素晴らしき世界」や「パブリック―図書館の奇跡」など抱樸の現場に通じる作品を上映し、その後トークをする。次は以前テレビで放映された抱樸のドキュメンタリーを「抱樸ナイト」と称して昭和館で上映できないかを相談

          「必要の風が吹く時―小倉昭和館復活」

          「坊主専門梅田理髪店―相談ではつながらない」

          「まさか自分がホ―レスになるとは思ってもいなかったですね」。生笑一座(ホームレス体験を伝える一座:『生きてさえいればいつか笑える日が来る』が由来)の新メンバーの梅田さんは笑顔でそう語り始めた。「こんなん言っていいかわからんけど僕は抱樸のお葬式がいちばん好きやね」。会場は聞き入っていた。 梅田さんは炊き出しで散髪ボランティアをされている。梅田さん曰く「坊主専門理髪店」。誰でも坊さんになれる理髪店だ。南無阿弥陀仏。梅田さんは言う。「散髪をしているといろいろな話が聞けます。野

          「坊主専門梅田理髪店―相談ではつながらない」

          年金と持ち家、そしてホーム

          コロナ禍はこの社会が抱えていた潜在的な問題を明にした。「家賃」はその中でも大変な問題だった。コロナ禍で収入が減った。食費は調整が効いた。おかずの数を減らし外食を控えることは出来たい。だが「家賃」はそういうはいかなかった。収入と家賃のバランスの問題はかねてから指摘されていたが、収入が減っても家賃は固定費であって調整不可能。収入に比べて家賃が高い人が多数存在している。 現在の国民年金の平均受給額は約5万6千円、満額だと6万5千。厚生年金では平均的な収入のサラリーマン夫婦の場合、

          年金と持ち家、そしてホーム

          「おかしいけどあたたかい」

          もう20年以上前のこと。小倉の勝山公園に「トーテンポールの丘」と言う場所があった。10名ほどのホームレスの方々がテントを建てて暮らしておられた。 そこに暮らすAさんにどうしても伝えなければならないことがあり早朝6時「丘」を訪ねた。2月の夜明け前。暗くて寒い小道の先、霜の降りた草むらでAさんは寝ておられた。「奥田です」との呼びかけにAさんは起きてきてくださった。 用事を済ませ「じゃあ、帰ります」と言う僕に「朝飯つくるから食べていかんね」と言われる。「じゃあ、いただきます」と

          「おかしいけどあたたかい」

          分かち合う訓練―滅びないために

          少々数字が並ぶが大事なことなので書くことにする。 「20世紀の資本」で知られる仏のトマ・ピケティら経済学者の調査報告「世界不平等レポート」によると2021年、世界の上位1%の超富裕層の資産は世界全体の37.8%を占めた。上位10%だと76%。一方で下位50%の資産は全体の2%に過ぎない。世界の成人人口51億人の所得と富(資産)の分布で区別すると、成人人口の下位50%の最貧層は25億人、中間層の40%(下位50%より多く上位10%より少ない収入)は20億人となる。上位10%は

          分かち合う訓練―滅びないために

          今日を生き、今日を終わらせた君に乾杯!

           最近増々忙しい。希望のまち完成まであと少し。頑張るしかない。帰宅したまった原稿を書く。深夜になり「もう限界」とリビングに行くと伴子さん(連れ合い)が待っている。そこから「私の時間」は始まる。ネットフリックスで映画を見ながら一杯やる。少々あきれた伴子さんが「寝ないの」。「ああ」といい加減な返事。「先に寝るよ」と伴子さん。「どうぞ」と私。立ち去り際「明日の予定は」と尋ねる伴子さんにムカッとする。「僕は今日を終わらせようとしている。明日のことを聞くな」と言いたくなる。みっともない

          今日を生き、今日を終わらせた君に乾杯!

          ゴーイングホームデイと家族

          4年ぶりのゴーイングホームデイが行われた。NPO法人抱樸が行う大運動会だ。抱樸は「大きな家族になろう」と35年間活動を続けてきた。15年前、「家族だったら運動会だ」と理事長の暴走から始まったのがゴーイングホームデイだ。今年は過去最高の330人が参加した。 抱樸の子ども支援で出会った子どもたちも大勢参加した。学校に行っていない子どもたちも少なくない。中には初めての運動会が元ホームレスの運動会という子もいる。周りはくたびれた爺さんばかり。子どもたちは大歓迎され、走れば大体一等賞

          ゴーイングホームデイと家族

          「もっと哀れなのは―2023年度抱樸互助会偲ぶ会」

          「ケアは家族が担うもの」。それが常識とされてきた。それは悪いことではないが、ケアを家族だけに押し付けた結果、周囲の人々は「身内の責任」との関与は薄まり「ケアの社会化」は進まなかった。「身内の責任」と関わることを躊躇してきた。身内がいない、いても縁が切れてる。そんな人がふぇている。 抱樸と出会った人の大半は「最期の場面」で家族が来ない人々だった。葬式もしてもらえず死んでいく。その悲しみと空しさの現実に耐えきれず抱樸では葬式をしてきた。当初は病院の霊安室で、警察の遺体置き場で、火

          「もっと哀れなのは―2023年度抱樸互助会偲ぶ会」