テネシー・ウィリアムズ原作のふしぎなSF~The Knightly Quest

 国際ダブリンゲイ演劇祭の演目The Knightly Questを見た。南アフリカの演目で、テネシー・ウィリアムズによる同名の短編小説をフレッド・アブラハムズが翻案したものだそうだ。マルセル・メイヤーのひとり芝居による短編の芝居である。SF的な設定で、主人公が大旅行から帰ってきたところ、アメリカの故郷の街が「プロジェクト」なるものによって変な姿に変えられていたという話である。後ろに衣装が違ういろいろなバービー人形が並べられており、これを登場人物に見立てて使いながら話が進むので、ひとり芝居というよりは人形劇という感じだった。

シンプルだがエネルギッシュなひとり芝居~The Rotting Hart – A New Queer Horror

 国際ダブリンゲイ演劇祭のオープニング演目であるThe Rotting Hart – A New Queer Horrorを見てきた。スペインのホモフォビアを題材とするひとり芝居で、突然引っ越してきた相手とのロマンスがだんだんホラーに…みたいな話である。劇作家のダニエル・オレホンがひとりで演じる短編で、シンプルなのだがエネルギッシュな演技が大変良かった。

ジョンとヨーコの別居期間を追ったドキュメンタリー~『ジョン・レノン 失われた週末』(試写)

 『ジョン・レノン 失われた週末』を試写で見た。ジョンとヨーコが別居し、ジョンがアシスタントで恋人だったメイ・パンと暮らしていた18ヶ月間を追ったドキュメンタリーである。

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 メイ・パンとジョンの話はファンの間ではけっこう有名なのだが一般的にはあまり知られていないので、こういうドキュメンタリー映画ができたことは意義があることだと思う。メイとジョンのなれそめは極めて奇妙で、ヨーコが独り身だったアシスタントのメイにいきなりジョンと付き合ってくれと頼んだことから始まる…ということで、現代の感覚だとセクハラだし当時としても妻が夫との交際を頼んでくるとかいうのは常識外れもいいとこだと思うのだが、異常に押しの強いヨーコのせいで、ジョンもメイもあれよあれよという間に巻き込まれてしまう。最初はいい迷惑みたいな感じだったジョンとメイだが、2人ともわりと個性的な人でうまがあって、だんだん本気でお付き合いして幸せに過ごすようになっていく。

 全体的に、ヨーコの変わり者ぶり、コントロールしたがる押しの強い性格が強調されている。メイにジョンと付き合うよう頼んだのも、ジョンが目の届くところで不倫をするのがイヤで、自分と同じタイプでもう少し付き合いやすそうな女性と付き合えばコントロールができると思ったのだろう…という感じだ。ところがヨーコはメイとジョンがどんどん仲良くなると嫉妬して仲を裂こうとする。メイにとってはヨーコはものすごく迷惑な人だったろうし、一方でジョンはいろいろ欠点はあってもチャーミングなボーイフレンドではあったようだ。ジョンもメイのおかげで非常に助かっていたようで、一筋縄ではいかない非常に奇っ怪な大人の男女関係を描いた不思議な作品になっている。最近のミュージシャン映画は「モテること」の利点と問題にあまりちゃんと向き合わなくなっている気がするのだが、この映画はそのへんを比較的ちゃんとやっている気がするのがいい。まあ、アクの強い人が集まったら人生こういうこともあるんだろうな…と思うし、メイは気の毒に見えるが、自立した大人として今も立派に振る舞っているメイを見ると「気の毒」とか思うのはちょっと失礼なのかも、とも思う。

ヘンリエッタストリート14番地

 ヘンリエッタストリート14番地に行ってきた。ここはジョージアンスタイルのタウンハウスで、後に貧困層向けの集合住宅となった家である。現在はツアーで見学する博物館になっている。18世紀はエリート向けのオシャレな家だったのだが、合同法以降、首都機能が完全にロンドンに移ったせいでエリート層がダブリンに住まなくなり、ヘンリエッタストリートが廃れて貧困層が住む地域になったらしい。19世紀から20世紀初めくらいには1部屋に14人くらい住んでいたそうで(トイレもない家である)、あまりの混雑と不潔な住居環境ゆえに1970年代に立ち退きとなったそうだ。 

家の模型。

ベッドにプロジェクションするタイプの展示…なのだが、正直見づらい。

1940年代のディズニーステッカーが貼られた子ども用ベッド。

一番家賃が安かった地下。

最後に立ち退いた住民の部屋。

 

Irish Rock 'n' Roll Museum

 Irish Rock 'n' Roll Museumに行ってきた。アイルランドのロックの歴史に関する博物館である。要予約で、博物館というよりはスタジオやライブハウスに付属した展示室という感じである。ガイドさんがかなり丁寧にいろいろ説明してくれるし、ビデオの上映などもある。

こんな感じでアイルランドの有名なロックミュージシャンの関連資料を展示

マイケル・ジャクソンがスタジオに来た時に寄付してくれたパジャマだそうな。

U2の部屋。

ライブハウス。

スタジオ。

シン・リジィの展示。フィル・ライノットはマジでダブリンでは地元のヒーローである。

ライノットのジュークボックスだそうな。







わりとコンテクストが難しかった~Women On The Verge of HRT

 ゲイエティ劇場でWomen On The Verge of HRTを見てきた。マリー・ジョーンズの1999年の戯曲である。中年の親友同士であるアンとヴェラが、お気に入りのスターであるダニエル・オコンネルのショーを見にドニゴールに行ってホテルに一泊するが、そこで妖精の魔法みたいな夢の世界に巻き込まれてしまって…というお話である。

 中年女性が日常で抱えている切実な悩みをジョーク満載で扱ったコメディで、笑えるところはいっぱいあるのだが、けっこう難しかった。まず、私の苦手な北アイルランドのアクセントが全編で使用されているので相当に台詞がわかりにくかった。また、ジョークがけっこうアイルランドのコンテクストに沿っているみたいで、そこも難しかった。1999年の芝居なのだが、序盤ではけっこうアレクサを使ったりしていて、台本は再演のたびにアップデートしているようである。

やはりどうも好きになれなかった…『グリース』

 ニコライ・フォスター演出の『グリース』UK&アイルランドツアー公演を見てきた。舞台の上のほうの奥の部分にずっとラジオ放送中のDJがいるとか、キラッキラのHIGH SCHOOLという看板があるとかいうような舞台美術にかかわるところなどはけっこう面白かったのだが、以前日本語版を見た時同様、どうもダニーが無責任すぎるのと展開がけっこう緩い感じなのが気になり、今回もあまり印象が変わらなくてそんなに好きになれなかった。違う言語で2回見てあんまり好きになれなかったということは私には向いていないミュージカルなんだろうと思うので、まあしょうがない。