村瀬継弥「藤田先生と二つの密室」(芦辺拓責任編集『芦辺倶楽部』創刊号 掲載)

第一話 食品が次々に出現する家の謎
 沢村陽次郎は亡妻の兄夫婦から実家の管理を頼まれ、岐阜県の西部にある丸西市の緑野町へ引っ越してきた。町内のスナック「いもあらい」で飲んでいた彼は、町に「大黒堂苦学生」と呼ばれている伝説が残されていることを知る。それは明治三十五年、ドイツ人技師のする治水工事を勉強するため東京から来た苦学生がただで住まわせてもらっていた大黒堂と呼ばれる建物で戸や窓のかんぬきを掛けて寝ていたのに起きたら布団や食べ物が出現していたという不思議な話だった。
第二話 子供が次々と消える建物の謎
 第二回ミステリーフェスティバルの開催が決定した。今回の謎は、「異界の窓」という言い伝え。昭和二十年まで福富山に東瑠璃寺という不遇な子供をかくまう「駆け込み寺」の機能を持つ寺院があった。寺には皆福堂と呼ばれる建物があり、追っ手が見ている前でそのお堂に逃げ込んだ子供が消えるという出来事が少なくとも三回はあったというのだ。

 25年ぶりの発表となった本作は中編2編からなる連作。
 教え子たちが魔法の解明に挑むのではなく藤田先生が町に伝わる伝説の謎を解くストーリーで不可能現象が「出現」「消失」と対になっていて、〝藤田先生が探偵役〟という新パターン(「堕天使、空を飛ぶ」は番外編なので除いています)でありながらシリーズのフォーマットが踏襲されているのには驚いた。テーマ性も十分で、ちょっとした閃きが必要だが大掛かりなトリック(いつも通りに原理はシンプルなものだ)が炸裂する面白い作品に仕上がっている。

 今後は緑野町編がメインになっていくと思われるが、詳細が語られていない魔法がいつくかあるので同窓会編も書いてほしいなと思う。