最近読んだ本から
はい、お約束のように1ヶ月があっという間に過ぎてしまいました。
『三体』:これは面白い面白いと噂だけはずっと前から聞いていたけど、実際読んでみたらホントに面白かったよ!今でも十分スケール大きいのに、まだ三部作構成の第一作ということで、これからどないなるんや…と思わず関西弁でボヤいてしまうくらい続編の翻訳が待ち遠しい(←日本語がヘン)です。
いま、世界で読まれている105冊 2013 (eau bleu issue)
- 作者: テン・ブックス
- 出版社/メーカー: テン・ブックス
- 発売日: 2013/12/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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どこで最初に『三体』の情報を仕入れたかといえば、私の場合はこの本。出版から5年経って、ここで紹介された本たちもボチボチ翻訳されてきました。こういった情報は定期的に欲しいよねえ。
ホントなら来月からは仕事がちょっとラクになるはずなんだけど、まだまだ先行き不透明。うーん更新はまた1か月後?書きたいことはたくさんあるんだけどな。
最近読んだ本から
前回「あっという間に1か月」とか書いてから、もう2か月たってるよ!
ホントなんとかしてほしい。
『ヘミングウェイで学ぶ英文法』:さてさて「今年の夏は英文法がアツいぜ!」と、私が勝手に盛り上がっている…わけでもないようで、こちらの本は売れ行き好調との嬉しいお話。ちゃんと勉強したい高校生に喜ばれそうな、きわめて親切丁寧な解説。決して難解なことは言っていないけど、実際の授業でここまできちんと説明できる教師って、そうはいないんじゃないかな(したくても時間がないだろうし)。
実はあまりヘミングウェイは好きではなくて、その理由は多分、この本で取り上げられている6篇にも言えることだけれど、短くて、しかもストレートに物事を語らないので、勘の鈍い私は「ええっそうなの?」とあとで解説を読んで驚く、というパターンが多いからです。実際「白い象…」は学校の授業でも読んだんだけど、今回読み直しても「うーんやはりそういうことなのか」みたいな感想。「空気を入れる」って、絶対誰かから言われないとわからないなあ。
しかし取り上げられている6篇中5篇が、けっこうセクシュアルに(いろいろな意味で)きわどい話で、高校生がこんなの読んでドキドキしないのかな?と思ったりしたけど、むしろ多感な時期に触れておくほうがいいのかもしれない、と思い直したのは年寄りのいらぬおせっかい、ですね。
『英文解体新書』:前掲書を満喫したあとはこちら、というわけで今読み進めているのですが、いやーこれツボにハマるわー。明快な解説と図表化で「そうそう、そういう細かいことを聞きたかったんですよ!」と思わずうっとりしてしまう。構造と論理、最高ですね。こちらも早々に重版が決まったそうで、やっぱり今年の夏は 「Let's learn 英文法!」じゃないでしょうか(うわ恥ずかしい)。
こういった、それなりに固めの本が評判を呼ぶのは、やはり昨今の「4技能」連呼と、それにまつわる大学受験制度の混乱からの反動があるからでしょう。いやもちろん4技能(読・書・聴・話)はどれも大事だよ?でも今は逆に文法が軽視されている気がするんですよね。もちろん文法を理解していなくてもそれなりに話はできるし、正しい文法にこだわるあまり喋れないというのも困るんだけど、それでも文法って最後にすがる「支え」として大切だってことは忘れないでほしいわけで…なんて考えるのは私が旧世代(「共通一次」世代)に属しているからなのかなあ。
『掃除婦のための手引き書』:お勉強ばかりでなく普通の読書も。これは久々にガツンと来ました。お嬢様も貧乏娘も、大学教授も掃除婦も、勤労婦人もアル中女も、全部リアルに語れるってどういうこと? しばらく他の小説が読めなかったくらい圧倒的な一冊。今年はもうこれでいいよ(いや他にも読むけど)。
最近読んだ本から
あっという間に1か月過ぎるの、なんとかしてほしい:
『ロイスと歌うパン種』:前作『ペナンブラ氏の24時間書店』で、魔法とテクノロジーをうまく組み合わせて現代的なファンタジーに仕立てたロビン・スローンの新作。こちらもパン種(酵母)という素材を存分にふくらませて、とってもアメリカ的な夢のある物語になっています。
…と書いたものの、読みながらずーっと思い返していて、読了後すぐに手を伸ばしたのがこちら:
『沼地のある森を抜けて』。日本ならここはパン種じゃなくて「ぬか床」だよね、のぬか床SF。
初めて読んだとき(2005年頃)は、男性性を厭い、けれども女性になりたいわけでもない、という「風野さん」のキャラクターがとても印象的でした。当時に比べると今は多様なジェンダーの可能性がだいぶ開かれてきたとは思うけれど、対抗軸が「男性/女性」から更に「有性/無性」に移るには、まだまだ思考の飛躍が必要になりそう。
最近はしゃべるぬか床(「ぬかボット」くん)もあるらしい。こっちはかなりロビン・スローン的。
個人的にぬか漬けは苦手で、ぬか床をかきまぜるのも嫌だなあ、なんて言ったら呪いがかかるかしら。
こちらも同類?
最近読んだ本から
ケルト文様好きだから?渦巻系には目がなくて:
『波紋と螺旋とフィボナッチ』:理系エッセイも分かる範囲で楽しんで読んでます。生物関係は特に「複雑な生命活動の奥に意外にも単純な法則が潜んでいる」のが見えてくるとキモチイイ。その意味でこの本にはツボを押されっぱなしでした。フィボナッチ数列に関するエッセイなんて、おおー!と感心しちゃいました(いや数式は分からんけど)。
植物の茎頂分裂組織が「中心部分だけ分裂して広がっていく」という事実から、「『中央部分の連続的な拡大と周囲にできる相似形の構造』という点において、植物の生長点と黄金比長方形は似ている」→フィボナッチ数列との関連を推測する、って構想が素晴らしいな!(ウットリ)
螺旋に影響された?のか、最近こればかり聴いてます:
特に2曲目の原曲からこの3曲目に流れていく感じがとても好き:
Brad Mehldau - After Bach: Rondo (Official Audio)
ジャズとかクラシックとかいうジャンル分けに関係なく、メルドーが提示してくる音楽はいつも興味深い(好きじゃないアルバムも多いけど)。いつかは生で聴いてみたいとずっと思っていたので、今月末の公演は本当に楽しみにしています。本当は小さなジャズクラブみたいな会場が良かったけど、いまや大御所だからなー。(私も追加公演がなければチケット危なかった)
最近読んだ本から
奥泉光作品は出れば必ず読むのだけれど、この「クワコー」シリーズは正直そんなに好きじゃない。奥泉氏なら手先の器用さだけでこのくらい書けちゃうよなーと思ってしまう。でもこれだけ続いているってことはそれなりに人気あるのかな。
じゃあなぜわざわざブログを書いているかというと、クワコーが勤める「たらちね国際大学」のヒドさが妙にリアルなのが気になって。仕事の関係で大学改革関連の書籍はなるべく目を通しているのだけれど、まさに「Fランク大学」ってこんな感じなのでは、と思ってしまう。しかも大学の舞台裏で暗躍する企業の名前が「ペネッセ」ってのがあまりにあんまりで笑えるわー。
さすがに奥泉氏勤務の近畿大はそこまで悲惨じゃないと思うけど、営業活動はキツそうだな…ゆるキャラくらいは被ってるかもしれない:
教えて! 学長先生-近大学長「常識破りの大学解体新書」 (中公新書ラクレ)
- 作者: 塩?均
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/03/08
- メディア: 新書
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いまは大学も学生も、勉学以外のスキルが求められて大変な時代ですね…私がいま受験生だったら合格する気がしないです。
『Xと云う患者 龍之介幻想』関連イベント(於:下北沢B&B)
原書が出た時からチェックしていたのですが、思いがけず翻訳が早く出てくれて嬉し:
Patient X: The Case-Book of Ryunosuke Akutagawa
- 作者: David Peace
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2018/04/05
- メディア: ハードカバー
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読んでびっくり、そもそも原書が芥川はじめ明治の文豪の文章(の英訳)を巧みに引用しながら芥川の生涯を幻想力豊かに辿っていく構成で、それを日本語に翻訳するにあたっては、文豪の文章をなるべくオリジナルに戻しつつ著者独自の文章と融合させる、という手の込んだ、しかし日本語読みには一粒で二度美味しい作りになっているのでした。
日本を舞台にした英語の小説をいかに訳すか?というのは、翻訳家の技量も試されて、結果として力作が揃うことが多いです。パッと思い浮かぶのは小川高義氏が訳した『さゆり』とか:
- 作者: アーサーゴールデン,Arthur Golden,小川高義
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/12/07
- メディア: 文庫
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- 作者: アーサーゴールデン,Arthur Golden,小川高義
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2004/12/07
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私が最近読んだ中では『北斎と応為』の翻訳も素晴らしかった:
しかも今回は文学、文章そのものがテーマとなる小説なので一層下手な仕事はできない。そんな重責に見事に応えているのが黒原敏行氏。私には「C・マッカーシーの翻訳者」のイメージが強いですが、もちろん他にも多彩な翻訳をされている方:
- 作者: コーマックマッカーシー,Cormac McCarthy,黒原敏行
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/05/01
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 40回
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小説自体が面白いのはもちろん、日本語版制作の過程も興味深い...と思っていたところに、著者&翻訳者&柴田先生参加のイベントがあると知ってたまらず出席:
デイヴィッド・ピース×黒原敏行×柴田元幸「芥川龍之介REMIX/REPRISE~文学と翻訳のインターアクション」『Xと云う患者 龍之介幻想』(文藝春秋)刊行記念 | 本屋 B&B
下北沢は私の住むところからは行きにくいので、こういう機会がないと出向かない街。B&Bも移転前に1回行ったくらいかな。案の定、駅近なのに迷子になりました。
イベントは期待通りの充実した内容でした。黒原氏が今回用意してくださった資料がとてもわかりやすかったのでご紹介:
原文のどの部分が芥川作品のどこからの引用か、それに対し翻訳がどうなっているかが一目でわかります。
「今回は文豪があらかた下訳をしてくれたようなもの」とニッコリ笑う黒原氏。どこがどの引用かは著者から聞いたんですか?との問いに「大体は自分で調べたけど、10か所くらいはどうしても判らなくてピースさんに聞きました」。たった10か所ですか!「今は青空文庫とか使って検索もかけられるから昔と違って随分ラクになりました」まあそうだけどそれでもスゴイ。
「翻訳に旧仮名遣いを採用するつもりはなかったのですか?」という質問には、同席の編集者の方が「原文の英語を読んで比較したときに、旧仮名では日本の読者にかかるストレスのほうが高いと判断したので採用しなかった、かわりにフォントに凝ったので注目してほしい」とのことでした。確かに英文は意外と読みやすい。(しかし原作者が朗読するとまた全然印象が違って、これもまたおもしろかったです)
訳者あとがきでも触れてありますが、そもそも本書成立のきっかけは3.11をテーマとしたアンソロジーから:
大震災当時はイギリスにいたピース氏が、自分に何が書けるかを熟考した結果、思い起こしたのが来日直後によく読んでいたサイデンステッカー氏のエッセイの中にあった、関東大震災後の芥川氏と川端氏のエピソードだったのだとか:
ここで書いた短編から発展して、最終的には連作集のような形で一冊に。
芥川作品自体も、昔の説話を自分の文体に組み替えた一種の「リミックス」だったりして、ある意味とても現代的な手法を踏襲しているという指摘にしごく納得。
あとキリスト教との関わりについても言及されていて(題名の「X」には十字架の意もこめられているよう)、その視点から芥川作品を再読してみようかなと思いました。
他にもいろいろ面白い話が聴けたのですが、とりあえず今はここまで。あーまた宿題が増えてしまったな!あと柴田先生監修のこれも読まないと:
ナショナル・シアター・ライブ「リア王」
ガンダルフ先生(=サー・イアン・マッケラン)のリア王、って聞いたら絶対観たいよね!でも連休前の忙しい時期に上映されても観に行く暇ないじゃん(怒)と思っていたら、好評につきGWも続映決定。そうこなくっちゃあ:
老親を持つ娘としては複雑な心境となる「リア王」ですが、それはおいといてやっぱりサー・イアン・マッケランの熱演が素晴らしくて目が離せない。4時間弱の上映もあっという間でした。劇中あんなずぶ濡れになって役者も舞台も大丈夫なものなのか。あとケント伯が女性、という演出がなかなか新鮮でした。
演劇というか舞台ものはあんまり得意じゃないのだけど、その昔、東京グローブ座がジャニーズに買収される以前(古い)は良くシェイクスピア劇を観に行っていた関係で、今でもシェイクスピアものは観たいと思ってしまいますな。
日本にいながらこういうのを観られるってホントありがたい。欲を言えば全体的にもっと上映期間を長くしてくれたら、ほかの作品も行く機会が増えるのになあ。今回は本当にラッキーでした。