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SOMEOFTHEM OF PODCAST 第15回「ゼロ年代明るい邦ロック」特集(後編)

カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第15回は暗くて影のあるバンドが勢力を伸ばしていたゼロ年代邦ロック界において、明るい陽キャみたいなバンドを紹介するゼロ年代明るい邦ロック」特集の書き起こし(後編)を掲載します。ポッドキャストと(前編)は下記リンクから。

 

 

カンノ:続いてはこちらのバンドをお聴きください。Riddim Saunterで「MUSIC BY.」

カンノ:個人的にこのバンドには衝撃を受けていて。この曲を聴いたときは2006年くらいかな。バンドとしてあまり展開が発生しない、ループミュージックとして聴かせるものの最初に聴いたものな気がする。少なくともそういう意識で聴いたのは、この曲が初めて。

オノウエ:へぇ。

カンノ:あとロックバンドのなかにホーン隊がいるとかね。あとは「多幸感ってこういうことか」みたいなものも知ったのはこの曲かな。あと歌詞が英語っていうのもあるけど、ループによって「なにも言っていない」性が高まると思うんだよね。同じことを言い続けているわけだから。物語がつきにくいじゃん。

オノウエ:無意味さがより際立つよね。

カンノ:で、今言った要素は、強い勢力を誇っていた邦ロックとは真逆だと思うんだよ。歌詞に意味がついていなきゃいけないのについていない、暗くなきゃいけないのに多幸感、無骨な楽器隊ではなくてホーンも入っちゃってる、ループで展開がない。いわゆる邦ロックとは全然違う文脈のバンドかなと思うんです。

オノウエ:はい。

カンノ:そしてレーベルはNiw! Recordsなんだけど、明るい音像の人たちが多かった印象かな。カクバリズムとも全然違う。

オノウエ:それはそうかもね。

カンノ:下北ムラ、世田谷ムラみたいなものがあるとして、2000年代はDAIZAWA RECORDS、そしてその大本のUK プロジェクトが強かったと思うんだけど、そのムラから外れてたところでおもしろい人たちもいたなと。その観点でRiddim Saunterみたいな人たちは当時、聴いたことがなかった。

オノウエ:さっきから言ってるけど、今聴いたらめっちゃいいんだけど、当時は「俺の曲だ」と思えなかったんだよね。

カンノ:やっぱり「物語的であれ」「文学的であれ」とかが強かったよね。

オノウエ:あと、高校生を相手にする曲じゃなかったんだよ。

カンノ:だから難しい言葉を使っちゃうほうがむしろ高校生向けだったよね。時代って巡るよね。今、Riddim Saunterみたいなバンドが出てきたら若い人にウケそうな気がするじゃん。バンドの楽しさとフェスの楽しさが合致しそうじゃん。

オノウエ:なるほどね。

カンノ:2000年代ってそうじゃなかったからね。で、続いては言うなれば逆パターンかな。

オノウエ:逆?

カンノ:この人たちの曲を聴いてみましょう。Sound Scheduleで「ことばさがし」

カンノ:今までと系統が違う曲を紹介しました。のちのオーイシマサヨシさんを見れば明らかなんですけど、売れるためになんでもやる人になりました(笑)もちろんいい意味ですよ(笑)ちゃんと稼ぐためにプライドをかなぐり捨てて、最高のエンターテインメント表現をしてくれているわけですから。

カンノ:そんなオーイシさんの自己表現時代楽曲の代表がこれかなと。すごく邦ロック的。で、サウスケって結果的にそれでダメだったわけだ。逆に言うと、これがダメだったから、今の明るいオーイシマサヨシが誕生していると。もともと軽くない表現をしていた人が、いろんな変遷を経て、いい意味で軽い表現をやるようになったと。こんな例はほかにない気がする(笑)

オノウエ:そうだね。Sound Scheduleって売れてもよかったじゃん。

カンノ:そうだね。Mステも出てるはず。

オノウエ:だよね。ただ今聴いて思ったのが、邦ロックをやるには歌がうますぎるんだよな。

カンノ:その見方はおもしろいぞ。

オノウエ:これはあくまで個人的に思ったことですけど、うますぎると自分のものの感じがしないんです。「これは俺の曲じゃないな」って。自分の存在と遠すぎて。悩みとか心情を歌ってるんだけど、歌い方があまりにポップスとしてオーイシマサヨシはうますぎるじゃん。今聴いててそれを思い出しました。

カンノ:オノウエ君とよく喋ることで、アジカンの「遥か彼方」は「生き急いで~♪」「で~♪」の高音が微妙に届いてなくていいという話ですね。

オノウエ:そうそう!

オノウエ:シャウトした声が、正しい音として届くか届かないかくらいが、自分の鬱屈としたなにかとリンクする感じ。

カンノ:Sound ScheduleはたしかYAMAHAのレーベルなんだよ。ちょっとロックバンドにしては有能な感じがしない?(笑)

オノウエ:たしかに、演奏も歌もうまそうだよね(笑)

カンノ:ということで今回は「ゼロ年代明るい邦ロック」特集でした。

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『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!

サムオブ井戸端話 #140『いきものがかりトリビュートと自意識』(後編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

いきものがかりのトリビュートアルバム『いきものがかり meets』について語るサムオブメンバー。後編では王道J-POPの道を進んだため、音楽好きにはあまり語られない存在のいきものがかりが、どうやって自身のオンリーワン性を出そうとしたのかの実験作としてのトリビュートアルバムについて勝手に語りました。(前編)は下記リンクから。

 

 

カンノ:僕が気になっている楽曲はAwesome City Clubの「花は桜 君は美し」ですね。

カンノ:オーサムはただのバンドサウンドではなく、現代的なトラップっぽいトラックで、国民的に知られている花は桜 君は美しにアレンジを施して歌ったと思うんです。

カンノ:ここでいきものがかりとオーサムに共通するような「ただのJ-POPミュージシャンじゃありません」という自意識の出力の仕方がよかったなと思いました。

YOU:そこが共鳴するのか(笑)

カンノ:「こんなアレンジで来たか!」っていうのがやりたいんだよ。

YOU:わかる。

カンノ:そういう意味で、J-POPとして消費されるバンドの行く先の難しさは感じますね。あとは梅田サイファーの「SAKURA」

YOU:あぁ、あれね…

カンノ:このトリビュートアルバムを実験作と考えるならば、素晴らしいものだったと思います。

YOU:というと?

カンノ:まぁ、今年聴いた楽曲のなかでワースト1ではあるんですけど。

YOU:アハハハハッ!

カンノ:僕はこれを聴いて、ケツメイシ「さくら」のスキルをただ上げただけ、今の時代に合わせただけっていう印象だったんです。ラップもトラックも。

カンノ:ということを、ポッドキャストを一緒にやっているオノウエメンバーに話したら、「でもストリングスとか入ってるわけでもないから、マジでなんでこのトラックにあんなラップするのかがわからない」って言ってた(笑)それなら、ケツメイシの「さくら」くらいJ-POP的な大仰なトラックでラップしてほしいって言ってて、なるほどなと思ったんだけど。

YOU:たしかに、できた曲と受け取る層が噛み合ってないよね。

カンノ:「SAKURA」を元ネタに現代的なビートにしてラップを乗っけたと思うんだけど、「さくら~♪ひらひら~♪」という王道J-POPなメロディと歌詞が乗っかってくるわけだし、聴いてて恥ずかしくなるというか…(苦笑)とはいえ、今喋った人たちは「いきものがかり像」をどう壊して新しい曲を提示するかをちゃんと実験していたと思うんだけど、幾多りらと緑黄色社会はただのいきものがかりだったね。

YOU:緑黄色社会っていきものがかりだよね。

カンノ:緑黄色社会いきものがかりだよ。

YOU:めっちゃ似てるよね。声も曲の作りも似てるし。幾多りらの使い方はもったいなかったよね。

カンノ:ただ通り過ぎちゃった。

YOU:幾多りらってバンドサウンドの普通の楽曲じゃなくて複雑な曲や打ち込みじゃないと映えない気がした。

カンノ:ただバンドの音で歌うと、それだけになってしまう。「なんでもできる」って個性が死んじゃう率も高いよね。以上のようなことをひっくるめて、もう一度このトリビュートアルバムを聴いてもらえたらいいと思います。作り手や企画する人の自意識を感じてね。そもそもだけど、自分の特別性とかオンリーワン性、もっと言うと「俺はほかの人とは違うんだ!」っていう思いがあるから音楽をやる部分もあるじゃないですか。それと王道J-POPをやる道に行った思いって矛盾が生まれるじゃん。そのぶつかりが見えるのが、このアルバムの一番のいいところですよ。そうじゃなかったら、アイナ・ジ・エンドの「じょいふる」は生まれてないよ。

YOU:トリビュートアルバムってその原曲が有名だったり、ミュージシャンからリスペクトを集めているから作られる部分もあるじゃないですか。そういう意味で、いきものがかりって音楽好きと自称している人からはあまり真剣に聴かれない存在だよね。

カンノ:そうだね。だからこそ自分で表に裏に活動したり、それにまつわることを文章にしたり喋ったりしているんだろうね。通り過ぎられないようにするために。

YOU:解釈が分かれようがないので、批評が成り立たないところにいる気がするよね。ポルノグラフィティとかならギリギリ語ってくれる人っていそうだけど。

カンノ:このトリビュートアルバムはうまくいっている曲、うまくいっていない曲、右から左に通り過ぎていく曲がまだら模様的に収録されていて、すごく玉石混交なアルバムだと思います。J-POP的には珍しい実験アルバムで、それがいきものがかりから出てくることが素晴らしいなと。J-POPを聴き続けたご褒美のようなアルバムだと思いました。

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SOMEOFTHEM OF PODCAST 第15回「ゼロ年代明るい邦ロック」特集(前編)

カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第15回は暗くて影のあるバンドが勢力を伸ばしていたゼロ年代邦ロック界において、明るい陽キャみたいなバンドを紹介するゼロ年代明るい邦ロック」特集の書き起こし(前編)を掲載します。ポッドキャストは下記リンクから。

 

 

カンノ:今回は2000年代の邦ロックの話をします。

オノウエ:フフッ。

カンノ:あんまりしたことないかな?

オノウエ:その話しかしていないと言っても過言ではないくらい、あなたは大好きです(笑)

カンノ:そうですね(笑)2000年代の邦ロックの話をしたいと思います。2000年代の邦ロックを振り返ったときに、強い勢力だったと思うのが陰キャの人たち。

オノウエ:そうですね。

カンノ:売れていたバンドは影があった印象です。逆に言うと、明るいバンドってそんなに見かけなかった気がします。

オノウエ:格好のイメージとして、Tシャツに髪の毛が目のところまでかかっていて、下を向きながら歌うみたいな。

カンノ:それで内省的な歌詞でね。そういうバンドが多かったと思うんですが、その逆。陽キャ。明るいバンドもいた。そして忘れられているんじゃないかということで、「ゼロ年代明るい邦ロック」特集。

オノウエ:明るいバンド。

カンノ:陰キャバンドが強い勢力を誇っていた時代に、反面こういうバンドもいたぞと。あともっと言うと、今この人たちが新人バンドとして出てきたら売れそう。

オノウエ:なるほどね。時代が違えば売れていたかも。

カンノ:もちろん、これから紹介する人たちは残っていたりもするので、売れてはいたし、僕も当時から知ってるんですけど、この勢力ってあんまりいなかったんだよね。そういう意味で紹介したいなと思います。まずはこのバンドです、お聴きください。NONA REEVESで「LOVE TOGETHER」

カンノ:「僕と君についての距離感」みたいなものを日本語でシリアスに歌うことが陰キャバンドの等身大だったと思います。

オノウエ:すなわちアジカンだよね。『君繋ファイブエム』ですよ。

カンノ:そうです、それがアジカン師匠が作った文化です!

カンノ:個人的に思うのは、そういったものの真反対の存在がNONA REEVESなんです。つまり、明るくラブソングが歌える人たち。

オノウエ:そうだね。

カンノ:2000年代を振り返ると、「マイケル・ジャクソンが好き」とか「筒美京平と曲を作る」とかって当時は時代錯誤感があったと思うんです、バンドの世界において。

オノウエ:たしかにいなかったよね。

カンノ:その発想もないし、「その発想をしたところで」っていう感じだし。

オノウエ:あとポップスがムーブメントとしてそんなに力がなかったよね。

カンノ:それこそ、邦ロックというものが伸び盛りのときにポップスの要素はむしろ邪魔だよね。で、NONA REEVESはそれをやり続けた人たちだなと思う。

オノウエ:なるほど。

カンノ:2000年代のNONA REEVESっていろんな芸人の舞台の曲を作ったり、ロフトプラスワンで政治語りのトークライブをしたり、それによってTBSラジオライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』に出て「マイケル・ジャクソン小沢一郎ほぼ同一人物説」の特集でブレイクするという(笑)

オノウエ:それでブレイク(笑)

カンノ:で、そのあとにタマフルNONA REEVESを音楽的に取り上げる特集があって、宇多丸さんが「この番組で初めて”バンド”を取り上げますね」って言ってたのを覚えてるの。「NONA REEVESってバンドだったんだ!」ってそこで初めて知ったんだよ。

オノウエ:なるほど。

カンノ:この人たちをポップスグループ、ボーカルグループ、バンドとか、どう捉えていいかよくわからなかったからさ。「バンドでいいんだ」って思って。で、バンドと考えると、この人たちはゼロ年代はすごく不利だっただろうなと思った。

オノウエ:そうだよね。ムーブメントと真反対だったもんね。

カンノ:考えていることのすべてが通用しなかったかもしれないなと思ってね。

オノウエ:当時の主流は「君と僕の5メートルの距離のなかだけど、わかり合えない」みたいな曲が歌われているなかで。

カンノ:それを難しい日本語で歌う時代。

オノウエ:その時代のなかで「LOVE TOGETHER」だもんね。

カンノ:振付があるとか、当時は厳しかったよね。で、そんなNONA REEVESと近いバンドを紹介しようかなと思います。ただNONA REEVESよりは邦ロック界を席巻していたと思います。それではお聴きください、TRICERATOPSで「赤いゴーカート」

カンノ:この人たちもNONA REEVESと同じ、マイケル・ジャクソンの影響下にあるバンドで、まったく陰気を感じない。

オノウエ:そうですね。

カンノ:それなのに、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』には出まくっていた。

オノウエ:TRICERATOPSってスーパーカーくるりとかと世代は近い?

カンノ:近いはず。たしか同期はGRAPEVINEかな。GRAPEVINETRICERATOPSは象徴的でしょ。陰と陽が。

オノウエ:そうだね。

カンノ:かなり初期のほうで四つ打ち、「Raspberry」が有名だと思いますが、踊らせることは意識してましたよね。

カンノ:それが2000年代にフェス文化が定着してリスナーを踊らせることが主流になってくるわけですが、その最初期の人たちだと思うんですが、またここが違ってくるのが、歌詞があまりシリアスではない。いい意味で歌詞に軽さがある。

オノウエ:なるほど。

カンノ:2000年代邦ロックの歌詞の主流は物語的か文学的かというところだと思うので、平易な言葉が認められづらい時代のなかで、トライセラはわりと平易な言葉を使っていたかなと思いますね。

オノウエ:自分の中学・高校生のときを思い出すと、スーパーカーとかくるりとかは買い漁って聴いていたんですけど、TRICERATOPSだけハマれなかったんですよね。で、その理由は先ほどから言っているとおり、明るくて四つ打ち、歌詞が平易に聞こえてしまう。これらが自分のなかで「わかりやすすぎないか?」みたいなことでハマれなかったんだよね。

カンノ:それは当時の自意識とリンクするよね。やっぱり2000年代邦ロックって自意識商売だよね。自意識があるから、それを満たしてくれるバンドに金を払ってたんだよね。だから今考えると、NONA REEVESTRICERATOPSって逆に大人だよね。

オノウエ:そう。今聴くとめっちゃいいんだけど、当時はわからなかった。

カンノ:でも当時はわからなくてしょうがないんだよ。

オノウエ:だって当時は鬱屈としていたから。

カンノ:アハハハハッ!

オノウエ:「ゴーカート」って言われてもねぇ(笑)

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『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!

SOMEOFTHEM OF PODCAST 第14回「日本語のラップ曲」特集(後編)

カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第14回は今のヒップホップブームで語られない、日本語が聞き取りやすくて技術で圧倒しないラップ曲を聴く「日本語のラップ曲」特集の書き起こし(後編)を掲載します。ポッドキャストと(前編)は下記リンクから。

 

 

カンノ:では続いてこちらをお聴きください。環ROYで「フルコトブミ」

カンノ:これも聞き取れるけど、なんの曲かさっぱりわからない。

オノウエ:フフッ。

カンノ:この曲はMVですね。男性と女性がコンテンポラリーダンスをしているのが特徴的で、ROYさんが今のパフォーマーとして活動する最初の曲がこれになるのかな。

オノウエ:これが最初なんだ。

カンノ:このあたりかな。2017年リリースの『なぎ』というアルバムに収録されていますが、このあたりから一気にモードが変わった印象ですからね。

オノウエ:環ROYってヒップホップカルチャーのなかにちゃんといた人じゃないですか。それがだんだん違うものになっていった。

カンノ:ラッパーとしての横のつながりが鎮座DOPENESSしか見えなくなったという。

オノウエ:今となってはね(笑)もともとはダメレコだもんね。

カンノ:ダメレコが復活したコンピで環ROYが1曲だけ参加してるんだけど、個人的には胸熱でしたね(笑)ただ全曲はやらないっていう(笑)

カンノ:だから、「ヒップホップシーンからどう離れていくか」という意識があった人なのかなと思ったりね。あと『なぎ』のリリースパーティーがWWWで行われて、僕は観に行ってるんですが、基本的には収録曲順でラップしていったんだけど、その合間でフリースタイルのパートがあったの。それはお題になるような言葉をくじで引いて、そこで出た言葉からフロースタイルでつないでいくものだったの。で、これは明らかに当時の『フリースタイルダンジョン』ブームのなかでのフリースタイルだから、唯一の環ROYさんのサービス性、お客さんに向けたパフォーマンスとしてやっていたのかなと。そこで笑いも起きたり。

オノウエ:ラッパーのライブだったら、それはあるあるじゃないですか。

カンノ:だからそれも取り入れたのかもね。そこがROYさんのある種の人間味が垣間見えたところだったの。で、その話をちょっと前に本人にさせてもらったの。

オノウエ:へぇ!

カンノ:とあるイベントでお見かけして。そのときのROYさんが超よかった。僕が今のような話をしながら、ずっと手を口元にやってうんうん頷いてるだけで、なんの返事もなくて、超怖くて、それが嬉しかった(笑)

オノウエ:なにも返答はしてくれなかったんだね(笑)

カンノ:なにも会話はしてない(笑)あれは怖くて嬉しかったね~。

オノウエ:怖くて嬉しい(笑)

カンノ:僕が好きな人は怖くあってほしいから(笑)では続きまして、これは「日本語のラップ」曲です。「日本語ラップ」ではない。お聴きください、tofubeatsで「水星 feat.オノマトペ大臣」

オノウエ:僕ら世代の大ヒット曲ですね。

カンノ:ただこれは、ジャパニーズヒップホップではないと思う。この感覚わかります?

オノウエ:tofubeatsも当時は珍しい出自だったと思うし、オノマトペ大臣もいわゆるラッパーのカテゴリーに当てはまる人じゃなかったからね。今も会社員をやりながらじゃないですか。今考えると特殊なユニットだよね。

カンノ:大臣が「I spent much to be a youth You say a-ha-ha!! She is a cutie Zipper girl」と歌う部分があるじゃないですか。あれは日本語だと思ってますからね。

オノウエ:それはどういうことですか?(笑)

カンノ:「日本語のラップ」特集において「英語ではない」ことって大事だと思うんです。で、僕はフィーリングで言ってますよ。大臣の英語は日本語です。

オノウエ:フィーリングで言ってるのはわかるんですけど、どういうことですか?(笑)

カンノ:僕らはべつに英語として聴いてないんですよ。

オノウエ:いわゆる英語として歌ってないし、聴いてる側も英語として聴いてない。

カンノ:で、この部分は日本語としてカウントしていいと思う。大臣も日本語としてラップしてると思う。

オノウエ:なるほど(笑)

カンノ:技術とか上手い下手で考えてラップを聴くことを野暮ったくさせる当時の最高峰はこの曲だったと思います。それはトラックに関しても。

オノウエ:それはそうかもしれない。

カンノ:これは悪口じゃないですよ。すべてを簡単に作ることができるという意味での最高峰。おそらく全部簡単でしょ、この曲は。

オノウエ:この曲をスキル云々で聴いてる人類はいないでしょ。

カンノ:で、どんなに技術がある曲をも乗り越えてしまった曲だと思う。あとは、この曲が「チル」という言葉が定着する前にヒットしたのも功績かなと。

オノウエ:たしかに今ほど定着してないね。

カンノ:もちろんヒップホップが好きな人は知ってる言葉だけど、まだ大衆に定着してないからね。この曲は大きいと思いますよ、「日本語のラップ」を考えるうえで。どうですか?4曲紹介しましたが、この感覚はわかってもらえましたか?

オノウエ:「水星」が入ってきてわかった気がした。たしかに「水星」は「日本語のラップ」ですね。

カンノ:たしかに最初の3曲はラッパーが歌ってるから、わかりづらい部分はあったかも。ただ、これが難しいのは「ヘタウマ」ということでもありません。

オノウエ:そうだね。スキルとか上手い下手ではない、ラップという歌唱法の使い方のことかなと思いました。

カンノ:たとえばRHYMESTERってすごいヒップホップグループだし、スキルフルな人たちだと当然思うんだけど、この人たちがやるヒップホップではない曲もあると思うんですよ。で、スチャダラパーは比較的そういう曲が多い気がするの。

オノウエ:たしかにね。

カンノ:そういう意味で「日本語ラップ」なのか「日本語のラップ」なのかは引き続き考えていきたいですね。

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『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!

サムオブ井戸端話 #139『いきものがかりトリビュートと自意識』(前編)

SOMEOFTHEMのメンバーであるカンノアキオ、YOU-SUCKで音楽にまつわる井戸端話の文字起こしを毎週アップします。

 

いきものがかりのトリビュートアルバム『いきものがかり meets』を聴いたサムオブメンバー。各曲のサウンドプロデューサーに解釈を委ねたトリビュートアルバムを聴いて、いきものがかりのリーダーである水野良樹から感じる自意識と王道J-POPをやることの両立について考えました。

 

 

カンノ:いきものがかりの話をします。『いきものがかり meets』というトリビュートアルバムが2024年2月14日にリリースされています。

カンノ:そもそも僕が思う、いきものがかりの話をします。ギターでリーダーの水野さんという方がいらっしゃいますが、メンバーが2人になって以降が顕著な気がしますが、自分でHIROBAというプラットフォームを作り、そこで作品を発表しています。

カンノ:あと、自分で個人事務所を設立したり、小説も書いたりして、表に裏に大忙しということです。

カンノ:僕が気になるのは、そのうえでいきものがかりみたいな王道J-POPをやっていることなんです。

YOU:なるほど。

カンノ:僕のなかで乖離しているんですよ。文化度が高い動きをすることと、王道J-POPをやることって。僕のなかで王道をやる人は、それでいいというか、裏をあんまり見せないと思うの。王道のまま突っ走る。だから水野さんの場合は、ただ王道をやるだけでは気が済まない部分があるのかなと。真っ直ぐに王道をやるって、ある程度馬鹿にされてしまうことも込みだと思うんですよ。その点、水野さんの動きは自意識を感じるというか。「俺はこんなもんじゃない」という自意識。「みんなが想像する俺じゃない」ということと「想像通りのことをする」ことの両立と言いましょうか。

YOU:たまにXでポストも流れてくるけど、言いたいことがいっぱいある人なんだろうなと思う。それは曲以外のやり方で。

カンノ:たしかに曲ではやらないね。健康的にJ-POPを作りたいなら、自意識は持たないほうがいい気がするんですよ。自意識によって作る音楽って小難しくなりそうじゃん。

YOU:そうだね。

カンノ:でも、誰にでも聴いてもらえるような音楽を標榜して、あえてこの言葉を言いますけど、簡単に聴いてもらえる音楽をやるということ。でも「こんなもんじゃない」という自意識もある。その両端を持って成立させてるすごさを感じるんです。で、『いきものがかり meets』はその自我が垣間見えるようなトリビュートアルバムだなと思ったんです。

YOU:それはどのような意味で?

カンノ:そもそもこのトリビュートアルバムは、頼んだ歌い手やバンド、サウンドプロデューサーやアレンジャーにすべて委ねてるみたいですね。「みなさんの解釈でやってください」的な感じなのかな。だからいきものがかり側であまりコントロールしない作りになってるらしいです。なので、多種多様なトリビュートアルバムになっていて、水野さんの思考と直結するようないきものがかり作品になっている気がします。あんまりJ-POPのトリビュートアルバムではあまり聴いたことがないかたちな気がします。すごくおもしろかったです。

YOU:アイナ・ジ・エンドの「じょいふる」はすごいよかったね。

カンノ:めちゃくちゃよかったですね。

YOU:プロデュースしてるのは君島大空・西田修大という日本のインディー音楽好きならみんな知ってると思うけど、そういう人たちがこういうメジャーなフィールドでコラボレーションしても普通にめっちゃよくなるんだね。

カンノ:いわゆる「じょいふる」という曲で想像するモードとは全然違ったもんね。

カンノ:原曲とまったく違うアレンジって、基本的に失敗の可能性のほうが高いじゃん。そのなかでちゃんといい曲になってるという。基本的にはこの『いきものがかり meets』というアルバムを聴くときは、この曲を聴くアルバムとして機能している気がします。それくらい好きですね。ざっとこのアルバムで思ったことを話しましょう。

YOU:ゆずが浮いてたような気がした。

カンノ:ゆずが想像以上にストレートだったね。

YOU:サウンドプロデュースがトオミヨウというめちゃくちゃJ-POP畑の人。

カンノ:だから、このアレンジで菅田将暉が歌ってもいいよね。

YOU:そうだね。

カンノ:なんか、最近のゆずは変なアレンジの凝り方をしていて、そんなに好きじゃなかったんだけど、こんなストレートなものをトリビュートアルバムで聴けたのは嬉しかったですね。

YOU:ひねりがないのが逆に浮いてておもしろかったね。あとはyamaの「ブルーバード」はtofubeatsなんだね。

カンノ:これはあんまり好きじゃないかな。この曲は普通に邦ロックのサウンドで聴きたかったかもしれないし、yamaもべつの曲でよかった気がする。わざわざtofubeatsじゃなくてもいいかな。「ブルーバード」の使い方がもったいない気がしたな。

YOU:SUPER BEAVERの「コイスルオトメ」も好きでした。

カンノ:あれはめちゃくちゃSUPER BEAVERの曲になってたよね。

YOU:チャットモンチーの「恋愛スピリッツ」をはじめて聴いたときの感覚を思い出した。

カンノ:これはいきものがかりの原曲を思い出せないくらい、SUPER BEAVER化したなと思った。それはアレンジもそうだし、渋谷さんの歌の力だと思ったかな。

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SOMEOFTHEM OF PODCAST 第14回「日本語のラップ曲」特集(前編)

カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第14回は今のヒップホップブームで語られない、日本語が聞き取りやすくて技術で圧倒しないラップ曲を聴く「日本語のラップ曲」特集の書き起こし(前編)を掲載します。ポッドキャストは下記リンクから。

 

 

カンノ:今回は日本語ラップの話をしたいなと思います。昨今言われている日本語ラップ、ジャパニーズヒップホップ、僕はあんまり好きじゃないです。

オノウエ:言わなくていいです(笑)

カンノ:で、なんで好きじゃないかを考えてるんですが。

オノウエ:言うんですね(笑)

カンノ:『フリースタイルダンジョン』や『高校生RAP選手権』以降だとは思うんですが、ラップの技術合戦になっちゃったなと。あとそれによって、ヒップホップ用語が世間に定着してきてますよね。だからある程度、大衆に広まって、その文化のリテラシーも上がったのかなと思うんです。

オノウエ:なるほど。

カンノ:ただ僕は、決められた尺度やルールから漏れてしまったものが好きだったりするんですけど、ものの見方が固定されちゃうと、そこから漏れたものが「よくない」ものとされる評価になってしまうと思うんです。そうなると、技術点が高いことが可視化されるわけじゃないですか。

オノウエ:そうですね。

カンノ:もちろんうまいラップに越したことはないんだけど、「もうちょっとべつの軸で見てもいいんじゃない?」という思いもあって、だから今のジャパニーズヒップホップシーンはとりあえずそんなに追わなくてもいいかなという気がしています。

オノウエ:はい。

カンノ:で、僕が好きな日本語ラップというのは、昨今言われているようなヒップホップの文脈からは外れたものだったりします。今回はそういう曲を紹介したいなと思います。で、「日本語ラップ」や「ジャパニーズヒップホップ」という言われ方をしてるじゃないですか。それとはべつの言い方はないかなと思いまして、一旦この言い方をさせてください。「日本語のラップ」

オノウエ:「日本語ラップ」ではなく「日本語のラップ」

カンノ:「日本語のラップ」という言い方で、シーンから外れた日本語ラップを考えたい。ということで今回は「日本語のラップ曲」特集です。僕の言う「日本語のラップ」はどういう定義なのか。ざっくり2つあります。「技術で圧倒しない」「日本語が聞き取りやすい」この2点です。この定義で僕の好きなものを紹介します。なので、いわゆる「日本語ラップ特集」で流されるような楽曲は流れません。ではまず、最初にこちらをお聴きください。SUBMARINEで「Midnight Tour Guide」

カンノ:失恋模様を丁寧に聞き取りやすい日本語でラップしてくれている名曲だと思います。なにを言ってるのか、一語一語はっきりわかるラップも珍しいかなと。そしてヒップホップ用語も使っていない。

オノウエ:SUBMARINEってヒップホップ用語を全然使わないよね。

カンノ:平易な言葉でやってくれるラップはいいですよね。だからこそ、語られる場所がないのがもったいないし、カテゴライズしにくい。

オノウエ:たしかに。

カンノ:ヒップホップの世界って縦横のつながりで語られたりもするじゃん。関係性とか。そういうところが見えにくいと喋られる土壌もない世界だからさ。

オノウエ:そうだね。

カンノ:で、じつは僕らはこの人たちのアルバムのリリースパーティーに行ってるんだよね。

オノウエ:行きましたね。

カンノ:客層が全然怖くなくてね(笑)

オノウエ:場所もいわゆるクラブみたいなところじゃなくてね。

カンノ:三軒茶屋の小さいスペースでしたね。ただ、お客さんの文化度は高いというか、関係者だらけというか、あれは僕のカルチャー原体験と言えるかもしれない。

オノウエ:だってファーストサマーウイカがいたでしょ。

カンノ:いた(笑)この「Midnight Tour Guide」のボーカルをやってたんじゃないかな…?

オノウエ:そうだよね。「派手な人が出てきたなぁ~」と思ってたらファーストサマーウイカだった覚えがあるもん。

カンノ:この前近所のカレー屋行ったら、テレビでNHK出てたよ(笑)で、これは「日本語ラップ」ではなくて「日本語のラップ」と括りたい。こういう感覚の楽曲を紹介できたらなと思います。では、続いての曲をお聴きください。イルリメで「トリミング」

カンノ:言葉は聞き取れるのに、なにを歌っているのかがさっぱりわからない名曲だなと思います。

オノウエ:イルリメってわりとそういう曲多いよね(笑)

カンノ:抽象的で叙情的ですね。

オノウエ:なるほど(笑)

カンノ:LABCRYの「ハートのビート」という曲のイントロ部分をサンプリングしてループさせていますが、それでこの歌詞がハマるって思うの、天才ですよね。

オノウエ:たしかに。

カンノ:この曲はジャパニーズヒップホップや日本語ラップとはべつの文化圏の曲だと思うんだよね。

オノウエ:もはやイルリメはジャパニーズヒップホップの人じゃないよね。

カンノ:だって海外レーベルからハウスの楽曲をリリースしてる人でしょ。

オノウエ:この人のやってることは幅広いもんね。

カンノ:そうあってほしいんだよね。ヒップホップだけっていうことでもないとか。なんか、ヒップホップだけで生きることが良しとされちゃう感じとか、そのなかの縦社会な感じとかさ、なんだろう、任侠っぽい世界になっちゃってるのかな。僕の苦手な部分としては。裏社会とのつながり的な意味も含め。

オノウエ:フフッ。

カンノ:技術と絆的なつながりの話よりも、もっと文化が感じられるところの意味でイルリメという人は「日本語のラップ」の人と考えていいのかなと思います。

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『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!

SOMEOFTHEM OF PODCAST 第13回 「映画『PERFECT DAYS』の平山さんにオススメしたい邦ロック」特集(後編)

カンノアキオとオノウエソウによる、SOMEOFTHEMのポッドキャスト番組『SOMEOFTHEM OF PODCAST』を配信しています。こちらではその書き起こしを前編、後編に分けて掲載します。第13回は映画『PERFECT DAYS』で役所広司演じるトイレ清掃員の主人公・平山にオススメしたい邦ロックをカンノが紹介する「映画『PERFECT DAYS』の平山さんにオススメしたい邦ロック」特集の書き起こし(後編)を掲載します。ポッドキャストと(前編)は下記リンクから。

 

 

カンノ:続いてはこちらをお聴きください。キリンジで「今日も誰かの誕生日」

カンノ:おそらく平山さんは、この曲は好みじゃない気がします。音像も曲調もそんなに好みじゃないと思うんですけど、平山さんの生活のループ感を一文で歌詞で表すとするなら、「今日の日が終わる また生きていけるね 明日も」だと思うんです。この一文にすごく絶望と希望が内包されていると思う。「明日もある」ということの希望と絶望。

オノウエ:日常が続くというね。

カンノ:そういった当たり前と諦め。で、平山さんの生活の通奏低音的にあるのが諦めなんだよ。

オノウエ:そうだよね。

カンノ:ずっと諦念をもって生きている人。

オノウエ:変わらない日常を繰り返して、いつか死ぬ。

カンノ:ちょっとネタバレをすると、役所広司の最終カットが、車に乗ってるときの顔のアップなの。これが泣いてるんだか笑ってるんだかさっぱりわからない顔で終わるの。この顔がマジで何億円。

オノウエ:顔に金額つけるやつ、ちょっとよくわからないんだけど(笑)

カンノ:あの表情はすごいよ。

オノウエ:それがある種、諦めを感じる。

カンノ:平山さんはパーフェクトデイズを送ってるんだよ。誰にも邪魔されない自分の生活を。ただ、平山さんの周りにいる人はパーフェクトデイズを送れてないの。人間関係、仕事、病気とかでパーフェクトができない。たとえば病気の人がいるから、その横にいる人もパーフェクトができないわけだ。そんななか、平山さんは誰の責任も取らないから独身生活を送る。完全に自己完結の人。で、その自己完結をはっきりと悟ったあとに泣いてるんだか笑っているんだかという表情。これは諦めと喜びと絶望と希望が混ざった感じがして。

オノウエ:なるほど。

カンノ:だから最後の役所広司の顔のカットを見て、「変態だな」と思った。変態の喜びだったね。あと「今日も誰かの誕生日」でいうと、「きっとすべてがうまくいくだろう」という歌詞があります。これってJ-POP歌詞すぎるじゃないですか。これだけ見るとただの大丈夫ソングだけど、希望や絶望がいろんなものが内包して、昨日も今日も明日も誰かの誕生日って、つまりなにも起きてないじゃん。そのなかで「きっとすべてがうまくいくだろう」という歌詞のことを考えると、やっぱりキリンジは非常に変態的だなと思うんです。その行間まで考えると、平山さんにもオススメかなと。どうですか?

オノウエ:僕は平山さんでもパーフェクトなデイズを送ってはいないですが(笑)

カンノ:では続いてこの人たちの曲をお聴きください。サンボマスターで「月に咲く花のようになるの」

オノウエ:僕は映画を観てないですけど、なんか平山さんは好きじゃなさそうな気がします。

カンノ:あっ、そうですか?

オノウエ:サンボマスターのことは好きにならなそうじゃない?

カンノ:僕は逆で、初期サンボマスターは好きになる気がするの。

オノウエ:ほお。

カンノ:というのも、サンボはロックが基調だけどほかのジャンルも入ってくるじゃん。フォーク、ソウル、ファンク、ブルースを飲み込んであのサウンドになるじゃん。たとえばサンボのパンキッシュな感じやメッセージ性の強い曲とかは好きにならないと思うんだけど、「月に咲く花のようになるの」の温度感や歌詞の抽象性。で、平山さんって月に咲くなにかじゃん。

オノウエ:フフッ。

カンノ:月に生えてるなにか(笑)その生き方と合致する部分はある気がしていて。平山さんという人は歌詞は聴いてないと思う。この音。

オノウエ:なるほどね。

カンノ:今はポジティブバンドになっちゃった感じはあるけど、初期のサンボにあった抽象的な歌詞の温度感、そしてこの曲のテンションはそれほど高くないというところはいいんじゃないかなと思います。初期サンボマスターはオススメしたい。

オノウエ:言ってることはわかるけど、結局は「聴いてらんねえよ」ってキレてる気がする(笑)

カンノ:アハハハハッ!「こんなシフト入れねえよ!」って劇中でブチギレてたけど、そのノリ?

オノウエ:平山さんもブチギレはするんだね(笑)

カンノ:ルーティンが壊された瞬間にブチギレるから。ということで僕はサンボマスターを紹介してブチギレられようと思います(笑)

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『SOMEOFTHEM OF PODCAST』はパーソナリティーのカンノアキオと聞き手のオノウエソウが、最新J-POPやちょっと懐かしい曲をクイズやゲーム、時には曲同士を戦わせつつ(?)、今までになかった音楽の切り口を発見しようとする音楽バラエティ番組です。感想は是非「#サムオブ」をつけてツイートしてください!ポッドキャスト版では番組の最後に4択のJ-POPクイズを出題していますので、是非そちらもお聞きください!