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人気は高くても、近くにお店がない!中国市場に翻弄されるバーガーキング

中国でもバーガーキングの人気は高い。しかし、消費者の不満の第一は「うちの近所にバーガーキングがない!」ということだ。KFC、マクドナルに比べて店舗数が圧倒的に少ない。店舗数が拡大できない理由は、中国市場の速い変化についていけていないことが原因だと新週刊が報じた。

 

食べたいのにお店がないバーガーキング

中国のハンバーガーも、他国と同じようにマクドナルドとケンタッキーフライドチキン(KFC)が人気になっている。マクドナルドのファンは「麦門信徒」(麦はマクドナルドのこと)、KFCのファンは「瘋四楽子人」(瘋四はKFCが行っている毎週木曜日のクレージーサースデーのセールのこと)などと呼ばれる。

一方、バーガーキングは中国にも展開をしているが、マクドナルドやKFCに比べると店舗数が少なく、「美味しいとは聞いているが、お店がどこにあるか知らない」「そもそもバーガーキングを知らない」という人が圧倒的だ。

バーガーキングの運営会社であるレストラン・ブランズ・インターナショナル(RBI)のジョシュ・コブザCEOも2023年決算発表会の席上で、「中国市場の消費可能性と成長見通しを考えると、バーガーキングの拡大は遅すぎる」と認めた。

バーガーキングのファンは多くても店舗が少ないため、ファンからは「うちの近所にもお店を出して!」という悲痛な叫びがSNSに投稿されている。

 

店舗数が圧倒的に少ないバーガーキング

2023年にKFCは1万店舗の大台を超えた。12月15日には、杭州市に1万店舗目の開店セレモニーを行った。マクドナルドも7000店舗を超え、KFCとマクドナルドはショッピングモールに行けば必ず入っているファストフードであり、都市部では歩いていれば必ずどちらかの店を見かけることになる。

ところが、バーガーキングは1500店舗であり、大都市であっても、歩いている最中に見かけるのではなく、地図で調べてわざわざ行かなければ見つけることができない。地方都市ではそもそも店舗自体がない。なぜ、人気はあるのに店舗が拡大しないのだろうか。

杭州市のKFCの1万店目の店舗。KFCもチキンハンバーガーが人気であり、すっかり中国人の日常となった。

 

かつてはKFC、マクドナルドともに三国志と呼ばれた

バーガーキングが中国市場に参入したのは2005年のことだった。中国1号店は、上海市の静安寺近くにあるレトロな洋館を利用した。この地区は、上海市の中でも静かで落ち着いた場所であり、高級な地域とされる。

バーガーキングの進出は、各メディアから「ファストフードの三国志」と例えられた。当時、マクドナルドは666店舗、KFCは1758店舗であり、バーガーキングが追いつくことは不可能ではない。当時のアジア太平洋地区責任者のスティーブ・デサッター氏は、友人から教わった中国の古事成語を使ってメディアに応えた。「早くくることは適切な時期にくることに及ばず」。メディアは、この3つの国際的なブランドが中国で競い合い、中国に西洋ファストフードの文化を根づかせることになると期待した。

▲ネットでは、近所にバーガーキングの店を出店してくれという投稿が続く。南寧市に4店舗が出店したが、市の中心部には店舗がなく、なぜ避けるのかと訴えている。

 

高級から日常へ。バーガーキングの戦略ミス

しかし、バーガーキングは店舗展開だけでなく、戦略面でも遅れをとってしまった。マクドナルドとKFCはその時点で15年以上、中国でビジネスをし、戦略を変え始めていたのだ。

KFCが中国に進出した当時、通貨の価値が異なることもあって、KFCは高価格帯のレストランと認識された。当時、子どもだった人は、学校で優秀な成績を収めるか、誕生日でもなければKFCに連れていってもらうことはできなかったという。若者たちは、豪華なデートといえば、まずはKFCで食事をすることだった。

しかし、中国が次第に経済力をつけるようになると、マクドナルドとKFCの特別感は薄れていく。そこで価格調整を行い、フランチャイズを募集し、地方都市への展開を始めていった。高級から日常へとシフトをしていったのだ。

ところが、バーガーキングは、高級感を打ち出していった。静安寺の1号店の来店客の半分は外国人だった。その品質を維持するために、バーガーキングフランチャイズ加盟店を募集せず、直営店にこだわった。当時のバーガーキングは、現在のシェイクシャックのようなポジションだったのだ。

 

高級店であったため、拡大スピードが遅かった

KFCとマクドナルドはフランチャイズを利用して店舗を拡大していく中で、KFCは2012年に3500店舗を超えた。しかし、バーガーキングは52店舗にしか拡大をしなかった。

2012年になって、バーガーキングは戦略を変え、フランチャイズ加盟店を募集して地方都市への拡大を図っていったが、すでに地方都市の立地のいい場所はKFCとマクドナルドによって占有されていた。

2018年に1000店舗を突破し、2021年末までに2000店舗を目指すと発表したが、その拡大はなかなか進まず、2023年末にようやく1500店舗に達した。

バーガーキングは、ハンバーガーの中のハンバーガーで中国でも人気が高い。しかし、戦略がうまく中国市場に合わず、2023年末にようやく1500店目の店舗を開業した。

 

シェイクシャック、タスティンという新たなライバル登場

バーガーキングはいまだに公式価格は昔の高級店のままになっている。ハンバーガー+ポテト+ドリンクの基本セットは、100元(約2000円)前後が正価になっている。しかし、それでは購入する人がいないため、実際はほぼ毎日セールが行われ半額程度で購入できる。それでも、KFCやマクドナルから比べると高い。

バーガーキングは再び危ういポジションに追い込まれている。高級バーガーとしては大都市でシェイクシャックが店舗数を伸ばし、ユニークな味のハンバーガーとしては「塔斯汀」(タスティン)があり、価格はバーガーキングよりもはるかに安い。シェイクシャックは大都市の一等地に数店舗の展開だが、高級ハンバーガー店として人気を得ている。タスティンは地方都市を中心に7000店舗を展開している。

バーガーキングは、ハンバーガーの中のハンバーガーであり、最もハンバーガーらしいチェーンであるのに、そのスタンダードぶりが、常に上と下から挟まれ、難しいポジションに追い込まれることになっている。

ネットでは常に「うちの近所にバーガーキングの店を出店して」という声が上がっている。

▲上海などに出店したシェイクシャック。価格は高いが本格的なハンバーガーが料理として人気になっている。高級路線だったバーガーキングの強敵が登場している。

▲中華バーガーで人気となっているタスティン。もともと中国にあった肉夾饝(ロウジャーモー)というおやつをハンバーガーにアレンジをしている。安くて美味しいことから店舗数が急拡大している。

 

 

百度の復活の兆し。ロボタクシーと対話型AI。完全復活に超えなければならない3つの壁とは

百度の2023年度の決済が好調だ。純利益は前年から39%も増加をした。ロボタクシーと対話型AI「文心一言」が収入をあげ始めているからだ。しかし、本格的な成長には3つの壁を乗り越える必要があると虎嗅が報じた。

 

百度の決算が好調。ロボタクシーと対話型AI

百度バイドゥ)の2023年の決算が発表され、その好調ぶりが明らかとなり、百度の復活を印象づけた。営業収入は1345.98億元となり、純利益は287億元、成長率は39%となった。

好調の要因のひとつはロボタクシーの営業開始だ。2023年、乗車件数は500万回を突破、第四四半期には前年同期比49%もの増加を示した。

百度の復活に大きく貢献したのが、対話型AI「文心一言」だ。創業者の李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)CEOはこう述べている。「私たちは文心一言からの収益を増やし始めました。2024年は、AIクラウドとその広告から数十億元にのぼると予想しています」。

決算説明会では、李彦宏CEOは、2023年第四四半期のクラウド事業の営業収入が84億元であり、文心一言が6.5億元の増収をもたらしたと述べた。文心一言による収入はクラウド事業の8%にあたる。

百度の2023年の決算は、純利益が前年比39%増加した。ロボタクシーと対話型AIからの収入が増え始めている。

 

対話型AIをサムスンやオナーなどにも提供

文心一言のマネタイズでは、課金の他に広告モデルを考えている。どのような形になるかは社内で議論が進んでいるが、文心一言アプリにバナー広告を出すという基本的なスタイルから始まるようだ。一部の報道によると、すでに百度はさまざまな企業に広告出稿の営業活動を始めているという。

百度によると、文心一言の1日あたりの利用件数は第四四半期には5000万件を超え、前期から190%の増加となった。企業利用も2023年末で2万6000社に達している。

さらに、百度が進めているのが文心一言のスマートフォンへの搭載で、すでにサムスン、栄耀(オナー)などが搭載をしている。サムスンフラグシップ機であるGalaxy S24に搭載をし、カスタマイズをした上でGalaxy AIという名称で、AIスマートフォンをウリにしている。アップルも中国向けiPhoneに文心一言の搭載に向けて協議を始めている。

 

百度が乗り越えなければならない3つの壁

百度は対話型AI「文心一言」を中心に、企業利用への課金、他社への提供、消費者に向けた広告という3つのマネタイズ方法を模索しているが、大きな収益になるのが百度クラウドだ。文心一言を利用するには自動的に百度クラウドを利用することになる。このクラウド利用料も大きな収益源となる。

しかし、百度はまだ乗り越えなければならない壁が3つある。

ひとつは、文心一言の性能そのものだ。中国では非常に評価が高く、李彦宏CEOも「中国語利用では、ChatGPT-4の性能を上回っている」と述べているが、国際的な評価は決して高くない。カリフォルニア大学バークレー校による対話型AIランキング「LMSYS Chatbot Arena Leaderboard」(https://huggingface.co/spaces/lmsys/chatbot-arena-leaderboard)では、アリババの「通義」(トンイー)はランキングされているものの、文心一言はランキングすらされていない。つまり、中国語では非常に高い性能を示すものの、英語など外国語では性能があまりよくないようなのだ。中国の一般消費者向けには中国語だけでもじゅうぶんかもしれないが、企業では翻訳や外国語利用もある。さらには海外企業に提供をする必要もある。この点で、文心一言は弱みを持っている。

アリババの「通義」はオープンソースにしているため、海外の研究者が研究をしたり、追加開発を行うことがあり、国際的な大規模言語モデルに育ってきている。しかし、文心一言はソースコードを公開していないため、海外の研究者が触れることができない。これにより、中国語だけで高い性能を示すということになっているようだ。

▲カリフォルニア大学による対話型AIの性能ランキング。百度の文心一言はランキングされていない。中国語での性能は高いという評価を得ているが、英語ベースだと性能が発揮できないようだ。

 

GPUの調達に対する懸念

2つ目の問題がGPU不足だ。百度ソースコードを公開せず、社内での開発を中心にするのであれば、百度は大量のGPU保有していなければならない。百度は以前から「じゅうぶんな量を保有している」としているが、NVIDIAのA100以降の高性能GPUの販売が中国に対して禁止されるなど、供給の道が絶たれている。国内生産のGPUもあるが、性能面ではNVIDIAを追いかけている状態だ。

いずれ、百度GPU不足に悩まされることになる。

 

百度クラウドの業務利用の開拓

3つ目の問題が、クラウド事業はAIだけではないということだ。百度クラウドは文心一言が利用できることが大きなセールスポイントになっているとはいうものの、一般の企業がクラウドを使う主な目的は通常の業務システムをクラウドで動作させることだ。IDCの2023上半期の調査では、トップシェアを持っているのはアリババで、百度は「その他」に含まれてしまうほどシェアが小さい。AIだけでなく、業務システムの利用がしやすいクラウドサービスの基本品質を向上させる必要がある。

一方、百度がAIクラウドの構想を掲げると、アリババのアリクラウドは価格改定を行い値下げした。このような中で、百度クラウドが上位に食い込んでいけるかどうかはまだまだ不透明だ。

▲中国のクラウドの収入シェア。百度は上位に食い込むことができていない。業務系利用を開拓していく必要がある。

 

百度のAIはマネタイズのステージに入った

百度の創業者、李彦宏CEOは百度の創業時から、AIへの強い関心を示しており、ネットでは「AI先生」と呼ばれるようになっている。それはからかいの意味もあるが、同時に尊敬の念も入っている。百度は、検索広告で大きく成長した企業だが、自動運転ロボタクシー、大規模言語モデルと、大型のAIプロダクトを開発し、それが実り始めようとしている。

しかし、実際にビジネス化をして、お金を稼ぐことは簡単ではない。中国の大規模言語モデルは、開発の段階から商用化の段階に入ろうとしている。

 

 

発売後27分で完売をした小米初のEV「SU7」。創業者、雷軍のしたたかなプレゼン術

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https://www.mag2.com/m/0001690218.html

 

今回は、小米(シャオミ)の雷軍CEOのプレゼン術についてご紹介します。

 

3月30日から予約受付が開始された小米のEV「SU7」の売れ行きが絶好調です。予約開始後わずか27分で予定台数の5万台が完売となりました。まるでスマートフォンのような売れ方です。

ただし、ネガティブな報道もあります。小米は予約方法を従来手法とは変えました。一般的なネット予約では予約をすると、原則キャンセルすることはできません。キャンセルをした場合は、予約手付金が戻ってこないのが一般的です。しかし、小米では7日間はキャンセルを受け付け、手付金の返金もするというスタイルにしました。このことから、とりあえず予約をして後で考えるという人、または予約の権利を転売することを考えている人も参加をして、予約が殺到したという見方もあります。

すでに一部で納車が始まっていて、SNSにはSU7のオーナーからさまざまな投稿がされるようになりました。中には、ハンドルについているロゴが剥がれ落ちてきたと訴えている人もいました。しかし、今のところ、大きな問題は報告されていないようです。自動車メディアも最も一般的な評価は「初めての車にしては驚くべき完成度」というもので、細かい問題はいろいろあるものの、まずは合格点+αは与えられるというところではないでしょうか。

 

なぜ、小米という非自動車メーカーがつくった自動車がここまで話題となったのでしょうか。それにはさまざまな理由がありますが、大きく貢献をしたのが、雷軍CEOのプレゼン術です。

雷軍氏と言えば、2011年の小米1の発売の時は、「中国のスティーブ・ジョブズのそっくりさん」として話題になりました。当時の日本では「中国は日本の技術をパクったニセモノしかつくれない」という感覚でしたから、雷軍氏もスティーブ・ジョブズのパチもんと見られたのです。

雷軍氏が、ジョブズ氏のプレゼン術を徹底研究したのは確かです。しかし、当時は、雷軍氏だけでなく、世界中の人がジョブズ氏のプレゼンスタイルを研究しました。ジョブズ氏が世界を変えたことはいくつもありますが、プレゼンのスタイルを変えたこともそのひとつです。ジョブズ氏以前は、ステージの端に演台があり、そこに原稿を置いて、それを読み上げるというのが一般的なプレゼンスタイルでした。しかし、ジョブズ氏は、ステージの中央に立って、原稿ではなく、自分の言葉で語りかけていきます。もちろん、原稿は用意されているのですが、それを読んでいるのではなく、語っていくように進めていきます。そのスタイルには誰もが雷に打たれたかのように模倣し始めました。現在では、このスタイルが標準になっています。

 

雷軍氏はジョブズのプレゼン術を真似ただけではありません。そこから出発をして、独特のプレゼンスタイルを確立しています。最大の特徴は、製品発表会の前から雷軍氏のプレゼン、プロモーションは始まっているということです。あるいは開発プロセスそのものをエンターテイメントにしていると言ってもかまいません。開発の最中から情報発信をし、そのプロセスを知ることになります。最終的に製品が発売されると、それまでの物語を知っている人は買いたくなってしまうのです。お金のやり取りはありませんが、クラウドファンディングに近い味わいがあります。

雷軍氏のプレゼン術には3つの特徴があります。

1)自分自身をIP化していく

2)ユーザーとのコミュニティをつくっていく

3)心理的アンカリングを設定する

それぞれについて、2011年の小米1、2024年のSU7それぞれについて、具体例をご紹介していきます。

 

1の自分自身のIP化は、自身のパブリックイメージを浸透させていくというものです。パブリックイメージといっても、装ったりせず、自分自身を包み隠さず出していくというやり方です。

「vol.192:小米創業者・雷軍の年度講演「成長」。認知の突破のみが人を成長させる」では、2023年8月14日に開催された雷軍氏の年度講演「成長」の抄訳をご紹介しました。この日は、年に一度の大規模な小米新製品発表会で、その前に雷軍氏は年度講演を行います。現在のところ、4回開催され、内容は次のようになっています。

第1回

2020年8月11日「自分を信じ、前に進み続ける」

第2回

2021年8月10日「私の夢、私の選択」

第3回

2022年8月11日「素晴らしいことが起きると信じ続ける」

第4回

2023年8月14日「成長」

 

いずれも自分の人生を振り返り、成功も失敗も赤裸々に語り、そこから教訓を引き出して、学生や起業を目指す若者に伝えるというものです。最新回の「成長」では、「認知の突破だけが成長をもたらす」がテーマになりました。自分の限界は自分で定めてしまっている。その認知の壁を突破することだけが成長をもたらすという意味です。小米ファンだけでなく、多くの人がこの年度講演を楽しみにしています。

 

若者はなぜ雷軍氏の講演に惹かれるのでしょうか。中国には他にもたくさん成功した起業家がいて、特にアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は教訓や金言の宝庫と言ってもいいぐらいです。もちろん、ジャック・マーを尊敬する人もたくさんいます。しかし、ジャック・マーやファーウェイの創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は、企業家として人間の器が大きすぎて、仰ぎ見るような遠い存在なのです。誰もがジャック・マーになれるわけではありません。

一方、百度バイドゥ)の創業者、李彦宏(リー・イエンホン、ロビン・リー)のように海外留学をし、米国テック企業で活躍し、帰国をして創業、短期間にIPOを果たすというスーパーエリートもいます。これも簡単に真似ができることではありません。

もちろん、雷軍氏も高考(共通入試)では710点満点で700点を取り、湖北省でトップの成績をとったエリートです。しかし、清華大学でも北京大学でもどこでも好きな大学を選べるのに、地元の武漢大学を選びます。小米を創業する前は、個人投資家として大成功をしていて、胡潤百富によると、中国第34位の富豪で、その資産は940億元(約2.0兆円)になっています。しかし、お金持ちの嫌な雰囲気はまったくありません。着ている服は、自分が出資をしているカジュアルブランド「凡客誠品」の商品です。

さらに、年度講演では自分は「社恐」(シャーコン)であったことを告白しています。社恐とは社交恐怖症のことで、人とうまくコミュニケーションをとることができず、数々の失敗をして、落ち込んでしまう人のことです。現在の大学生は、ほとんどの人が自分は社恐であることを自認し、それに悩んでもいます。

つまり、雷軍氏は、能力としては高いものを持っているものの、どこか身近な存在なのです。周りの友人にもいそうな人が、夢を実現しようとして努力をし、成果を出しているということから、尊敬されると同時に愛される人でもあるのです。ここが、若者が雷軍氏に惹かれてしまう大きな要因になっています。

今回は、雷軍氏のプレゼン術の3つのキモをご紹介します。

 

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vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点

vol.224:TikTokは米国で配信禁止になってしまうのか?米国公聴会で問題にされた3つのこと

vol.225:成長してきたWeChatのライブコマース。新興ブランド、中年男性ターゲットに強い特徴

vol.225:自動運転はどこまで進んでいるのか。公道テストで99.56%をマークする実力

 

 

不動産業界崩壊の中で、28.2%の増収を達成した不動産販売「貝殻」。貝殻はなぜ増収増益を達成できたのか

中国の不動産業界は惨憺たるありさまだ。住宅価格も下落が続いている。その中で、不動産販売「貝殻」は増収増益を達成した。なぜ、この苦境の中で、貝殻は成長できたのか。それは市場を見て、早めに方針転換をしたからだと野馬財経が報じた。

 

バブルが終わり、苦境に立つ不動産業界

中国の不動産デベロッパーが軒並み経営状態を悪化させ、これまで右肩あがりだった不動産業界が苦境に陥っている。住宅は住むためのものだが、投資信託よりも利回りがよかったため、投資対象として購入されてきた。これが住宅需要を過剰に高めることになり、過剰に価格があがるという循環が生まれていた。典型的な住宅バブルだ。

このバブルを抑えるために、中央政府は「三道紅線」(3本のレッドライン)を設定した。不動産デベロッパーの経営状況を3つの観点で評価をし、その結果によって新たな資金調達に制限をかけるというものだ。つまり、自転車操業をしているようなデベロッパーは新たな資金調達ができなくなる。これでバブルを抑え込もうとした。

この政策により、不動産市場が落ち着き、住宅価格の高騰が止まった。すると、住宅を投資として見ている人たちは、住宅以外の商品に投資をするようになる。これで住宅需要が大きく落ち、住宅価格は下がり始めている。

 

それでも業績を伸ばす不動産販売「貝殻」

しかし、その苦境の中で、住宅販売を行っている「貝殻」(ベイカー、https://bj.ke.com/)は業績を伸ばしている。2023年の販売額は3.14兆元(約65.7兆円)となり、前年から28.2%の増収となった。純利益も58.9億元となり、前年の13.97億元の赤字から大きく成長した。

住宅市場が冷え込む中で、貝殻はなぜ躍進をすることができたのだろうか。

▲貝殻は、2020年のコロナ禍でオンライン内見のシステムを開発し、これが成長の源になっている。左は中古住宅の現在の様子だが、自分の好きな内装を入れた予想図(右)が生成できる仕組みを入れている。静止画ではなく、この中をウォークスルーできるようになっている。

 

新築販売から中古リフォーム販売へシフト

その答えは、財務報告書を見るとすぐにわかる。取引のうち、在庫住宅(新古、中古)の販売額が36%となり、新築の39%とほぼ同じになっているのだ。さらに、内装家具事業は133億元となり、前年比245.8%と急成長をしている。つまり、新築住宅の販売が奮わない中で、新古、中古の住宅をリノベーション、リフォームして販売をするという事業が好調になっている。

貝殻の顧客調査で、2022年6月と2023年12月のデータを比べてみると、中古住宅を優先して考えている顧客は23%から35%に上昇した。一方、新築住宅を優先して考えている顧客は31%から18%に減少をした。

そもそも、貝殻は、投機のための住宅販売よりも、住むための住宅販売に力を入れてきた。住むための住宅需要が急に消えてしまうわけではないため、業績を落とさずに済んでいる。

投機のための住宅を購入していた人は、これから先も住宅価格が下がることを予想して、損切りのために早めに処分をしたがっている。一方、住宅価格が下がることで、これまで手が出なかった人たちも住宅購入を考えるようになり、新たな需要が生まれている。貝殻は、このような市場の変化をうまく捉えることができた。

▲貝殻では、中古住宅の3Dモデルを生成し、ほぼどの物件でもウェブから3Dモデルが閲覧できるようになっている。もちろん、拡大縮小、回転ができる。現在の居住者の私物が置かれたままの映像だが、これがあるために生活をイメージしやすいと評判になっている。気に入った物件を見つけたら、24時間いつでも担当者とチャットで連絡を取ることができる。

 

需要と供給が都市部と周辺部で大きく違っている

しかし、2024年も貝殻が同様の成長を続けられるかどうかは微妙だ。なぜなら、在庫住宅の放出は一巡をしたのではないかという見方があるからだ。統計上は在庫住宅が増え、それを購入しようとする需要も強い。しかし、都心部では需要は強いものの供給が少ない、郊外部では供給は多いものの需要は強くないというミスマッチがある。都心部の住宅は値下がり率が小さい。そのため、所有者が様子見をして損切りの処分をなかなかしない。一方、郊外部では値下がり率が高いため、所有者が焦って損切り処分をしている。

このような事情で、2024年は在庫住宅の販売額もなかなか成長できないのではないかと見られている。貝殻は、2023年に路面店の数を削減し、顧客をオンラインに誘導をした。また、研究開発部門では新築物件に関する研究開発を中止した。業績が絶好調であった最中に2つのコストダウン策を実施し、2024年以降の次の市場状況に対応しようとしている。

 

 

空飛ぶクルマ、中国を飛ぶ。eVTOLのメッカになりつつある上海

上海市が空飛ぶ車のメッカになりつつある。eVTOLのトップ企業3社が上海に拠点を定めているからだ。すでに貨物輸送では営業運転が始まり、空飛ぶタクシーとしての営業運転も始まろうとしていると上観新聞が報じた。

 

次世代の交通手段として開発が進む「空飛ぶクルマ」

上海市が「空飛ぶクルマ」のメッカになろうとしている。通称「空飛ぶクルマ」は、正式には「電動垂直離陸飛行機」(eVTOL)と呼ばれている。このeVTOLは、電力で飛行をし、滑走路を必要とせず、パイロットのいない無人自律飛行も可能になることから近未来の交通手段になることが期待されている。2035年には市場規模が5000億元になると予測されている。

 

試験飛行に成功、貨物機は実用化直前の峰飛

そのeVTOLのトップ企業は上海市に集まっている。もっとも進んでいるのは、峰飛航空科技(フォンフェイ、AutoFlight、https://autoflight.com/zh/)で、2月27日、「盛世龍」が深圳市と珠海市の間の試験飛行に成功した。航空当局の認証の問題と安全を優先して、人を載せるのではなく、人を模したダミー人形5体(パイロット1+乗客4)を載せての飛行だが、深圳蛇口埠頭を離陸し、深圳湾を一周し、珠海九洲港埠頭に着陸をした。

直線距離で約50kmの行程を約20分で飛行したが、船を使うと70分、車や鉄道を使うと2時間以上かかる。直線で結ぶことにより、大きく時間が短縮できることを印象づけた。2026年に営業許可を取得することを目指している。

一方、峰飛の貨物専用eVTOL「凱瑞鴎」は、営業許可の取得が見えており、すでに国内外から200台以上の受注をしている。商業物流に使われる他、緊急物資の輸送、離島物流、消防活動などに使われる予定だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、深圳と珠海を20分で飛行した。船では70分、車や鉄道では迂回が必要なため2時間かかる場所だ。

▲峰飛のeVTOL「盛世龍」は、ダミー人形を乗せた海上飛行に成功をした。

 

昨年から貨物輸送を始めている御風未来

峰飛は元々ドローンのメーカーで、その延長線上で、有人ドローン→eVTOLと事業を拡大してきた。一方、同じ上海市にある「御風未来」(ユーフォン、VERTAXI、https://vertaxi.com/)は、小型の工業用無人eVTOLの開発から入り、有人eVTOLに進出をしてきた。すでに昨年から、物資輸送を実際に行なっている。

上海市の長江の河口には、東西約80km、南北約15kmの崇明島という島がある。その東に水も電気もない無人島があり、そこにeVTOLで物資を輸送する営業運転を始めている。今までに累計で10トンの物資を輸送したという。この業務からデータを収集し、自律飛行、無人操縦の技術の開発を始めている。

また、有人機では、昨年、上海市金山区で試験飛行を成功させている。

▲御風未来はすでに物資輸送の営業運転を行なっている。

 

空飛ぶタクシーを目指す時的科技

もうひとつが2021年に創業されたばかりのスタートアップ「時的科技」(シーディー、TCab Tech、https://www.tcabtech.com/)だ。すでにeVTOL「E20」は航空当局に正式に受理をされ、順調にいけば2026年後半には飛行許可が降りる見込みだ。

時的では、eVTOLによる貨物輸送は採算性が低いと考え、有人飛行=空飛ぶタクシーにフォーカスをして開発を進めている。eVTOLが規模化して運営できれば、1人あたりの輸送コストはハイヤー並みに下がるという。具体的には、上海市浦東から蘇州市東方之門の100kmの行程を25分で結び、一人300元程度の料金設定が可能になるという。

▲空飛ぶタクシーを目指す時的科技。上海から蘇州までの100kmを25分で結び、料金は300元程度にすることが可能だという。

 

エアバスフォルクスワーゲンも参入するeVTOL

中国の国産飛行機はC919があるが、中国国内の航空会社には採用されているものの、海外展開はこれからであり、セールスには苦労をしている。やはり、長年航空機を開発してきた欧米メーカーにさまざまな優位性があるからだ。

しかし、三電(バッテリー、モーター、電気制御システム)の技術とサプライチェーンが確立した中国では、電気で飛行するeVTOLの分野では、欧米メーカーを追い越せるのではないかと、投資が集まるようになっている。

このeVTOLの世界もすでに競争が激化をしている。eVTOLに進出する企業は3つのコースがある。ひとつはドローンからの転身組で峰飛など。航空機から転身組が御風未来、時的など。また、大型飛行機や自動車などの転身組もあり、エアバスフォルクスワーゲン、小鵬、吉利などがeVTOLの開発を始めている。それぞれの企業が背景にしている技術が異なるため、eVTOLの多様性も広がっている。

上海市も、eVTOLを中心にした低空経済を、上海市の5大未来産業のひとつとして位置付け、積極的な支援策を行なっている。上海は空飛ぶクルマのメッカになろうとしている。

 

 

無店舗営業のフードデリバリー。店舗もキッチンもないゴーストキッチンが増加中

フードデリバリーの配達元に無店舗営業のものが増えてきている。店舗営業をせずにキッチンしかないダークキッチンだ。ダークキッチンも営業許可や衛生検査は必要であるため問題は大きくないが、さらにはキッチンすらないゴーストキッチンが増え始めていると中央電子台中国之声が報じた。

 

デリバリー元が無店舗キッチンのことも

利用が広がるフードデリバリー。アプリを開けばたくさんの飲食店が見つかり、30分ほどで暖かい料理を自宅に届けてくれる。アプリに表示される店舗には3種類ある。

1)通常の飲食店:店に行って食べることもできる、通常の飲食店がデリバリーにも対応している。最も多いパターンで、安心をして注文をすることができる。

2)ダークキッチン:来店客を受け入れていないキッチンだけのデリバリー専門店。質はさまざま。大手チェーンがデリバリーのカバー率を高めるために、ダークキッチンを出店することがある。一方、個人がマンションの一室で料理をつくりデリバリー専門に販売することもある。いずれの場合でも、飲食店としての営業許可証が必要であるため、最低限の衛生状態は確保されている。

3)シェアリングキッチン:大手チェーンが効率を高めるため、別チェーンと提携してキッチンをシェアリングすることがある。こちらは特に問題はない。一方、個人がマンションの一室で、飲食店名を複数掲げ、さまざまな料理をデリバリー販売していることもある。営業許可証は取得しているものの、虚偽の内容が含まれている可能性が高く、一般的に衛生状態などはレベルが低い。

 

さらに悪質なゴーストキッチン

このようなダークキッチンやシェアリングキッチンの中には、品質や衛生状態に問題があり、しばしば消費者からの苦情の対象となる店舗もあった。しかし、さらに悪質なゴーストキッチンと呼ばれるデリバリー店も存在することが判明した。

きっかけは、ラジオ番組「中国之声」の聴取者ホットラインへの1本の通報だった。張さん(仮名)は、複数のゴーストキッチンを経営し、大きな損をすることになり、そのことを告発したいと電話をしてきた。早速、中国之声の記者が張さんと会い、詳しい事情を聞いた。

▲告発をした張さんは、デリバリー専用のキッチンを開店したが、名義はまったく知らない別人のものを使っていた。

▲デリバリー登録をするには、身分証を持った自分の写真を送信する必要がある。しかし、裏のサプライチェーンが用意した別人の身分証と写真で登録をされる。

 

休眠している名義を利用して飲食店を開業する

張さんが開いた店は、「龍門蝦局」という名前で、住所は河北省石家庄市橋西区翰観天下にある店舗ビル。メニューはザリガニと串焼きだ。

しかし、飲食店としての営業許可証は王という人物が取得をしていた。さらに、デリバリープラットフォーム「美団」(メイトワン)に登録をする時は、店舗のオーナーが身分証を手にした自分の写真をアップロードする必要があるが、それは郭翔という人物の顔写真と身分証がアップロードをされている。しかし、店を経営するお金を出したのも、実際に経営しているのも張さんなのだ。

張さんによると、このような営業許可証や身分証を用意してくれる裏のサプライチェーンが存在するのだという。どこから入手をしてくるのかは聞かされていないので知らないが、休眠をしている飲食店オーナーや倒産をしてしまったオーナーにわずかな対価で身分貸しを依頼するのだと思われる。

営業許可証を取得するには衛生当局の検査などを受けなければならない。その手間と費用を省くため、便宜を図ってくれる裏ビジネスが存在している。

▲裏サプライチェーンの人間とはSNSで連絡を取り合い、必要な手順を教えてもらう。

 

大手ファストフードの商品を右から左に

このようなゴーストキッチンでも、真面目に料理をつくってデリバリー提供をしているのであれば消費者にとっては大きな問題はない。しかし、今、このゴーストキッチンで増えているのが、大手ファストフードチェーンの代理購入ビジネスだ。

例えば「ピザハット宅配専用店」のような名前をつけた店舗を開き、ピザハットの商品をデリバリー販売するのだという。もちろん、ピザハットの許可など得ていない。

店舗経営者は、ネットでクーポンを取得したり、購入したりして、購入コストを下げる。そして、正規の店舗にデリバリー注文を入れ、届け先を注文者の住所に指定するだけだ。注文者は、よく考えれば、正規の店舗にデリバリー注文をすればいいのだが、店名に「ピザハット」という名前もあり、ピザハットのロゴまで使っているために気がつかない。クーポン割引と定価の価格差が利益になる。

キッチンすら必要がなく、パソコンの前に座って、注文が入ったら、それを正規のファストフードのデリバリー注文ページにコピペをすればいいだけなので、利益は薄くてもじゅうぶんに儲かるという。

ファストフード側で不審な注文であることに気がつくことはあっても、売上があがってトラブルも起きないため黙認をしてしまう。美団側でも調査をすれば正規のファストフード店でないことはわかるはずだが、審査や調査の手がまわらないようだ。

▲デリバリーアプリの中のピザハットの店舗。誰もがピザハットの店舗だと思うが、実は関係のないゴーストキッチンがピザハットの食品を届けている。

 

摘発が難しいゴーストキッチン

EC「淘宝網」(タオバオ)には、「代理開店」サービスが無数に存在する。これは違法のものではない。実店舗あるいはEC店舗を開く時に、さまざまな許可証や申請が必要になり、素人にはなかなか難しい。これを一式代行してくれるもので一種のコンサルティングサービスだ。このような業者の中に、営業許可証やプラットフォーム登録の偽装までやってくれるところがある。

飲食店を開店するのに、このような裏サービスを使うと、費用は1000元から1600元程度で済むという。つまり、ワンルームマンションを借りて、お小遣い程度の費用で、アルバイトを2人程度雇えば、ファストフードの代理購入店が開けることになる。代理購入をするだけなので、厨房用品もいらない。

最近では、美団も現地調査を行い、申請内容と異なる実態の店舗には契約解除をするようになっているが、全体の規模に対して調査はまったく追いついていない状態だ。また、ファストフード側でもブランドを守るために、このようなゴーストキッチンに対して損害賠償請求や告発を行なっているが、書類上のオーナーは「勝手に書類を使われた。なぜ使われたのかわからない。自分も被害者だ」と訴え、代理開店サービス側では記録を破棄して「無関係」を主張するため、ほんとうのオーナーにまでたどり着くことは簡単ではない。

▲裏サプライチェーンの人間は、すぐに開店できる店舗も紹介してくれる。

 

実害が小さいために放置をされている

ゴーストキッチンは、消費者の損害がわずかなものにすぎない。大手ファストフードチェーンの食品を届けているので、衛生や品質上の問題はまず起こらない。消費者は、自分でクーポンを探せば、安く購入がすることができ、そこで損をしていると言えるが、クーポンを探したり使ったりするのが煩わしいので、定価でもかまわないという人も一定数いる。そういう人にとっては、これといった被害は受けていないのだ。

そのため、保健局、公安、デリバリープラットフォーム、ファストフード側も、対策に本腰をいれづらい。ちょっとしたお小遣い稼ぎとして、ゴーストキッチンは増え続けている。しかし、不法状態で運営をされているため、さらに利益をあげるために時間が経った食品を届けたり、大手ブランドの名前で安物の食品を届けるなどエスカレートすることも考えられ、近い将来大きな問題になりかねないと指摘をする専門家もいる。

 

 

自動運転はどこまで進んでいるのか。公道テストで99.56%をマークする実力

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今回は、乗用車の自動運転についてご紹介します。

 

「vol.223:電気自動車EVはオワコンなのか?中国で克服されるEVの弱点」を読んでいただいたある方から、ある相談を受けました。「BYDのEVが日本で売れる勝ち筋というのはあるでしょうか?」というものです。

いろいろ考えましたが、私は「日本では難しいのではないか」と答えるしかありませんでした。日本では、中国製品は「安かろう悪かろう」「日本の技術を盗んだ劣化版」という認識が今でもまだまだあります。また、それより大きいのは、EVの普及はほぼ絶望的という日本の状況です。

中国製品に対するネガティブなイメージは変わりつつありますし、何かをきっかけに大きく変わることもあるかと思います。しかし、EVの普及が絶望的なのは、消費者の意識の問題ではなく、政策の問題なので変わる可能性はほぼありません。

私自身もEVの方がいいと思っていますが、私が住んでいるマンションの駐車場には充電設備がありません。自治会に相談をして設置をすることは可能でしょうが、住民総会の決議を取り、誰が費用を支出するのかを決めなければなりません(EVに興味がない人は負担が増えるのですから反対に回るでしょう)。かといって、近くの充電スポットで充電をしてから駐車場に入れるというのは面倒すぎます。

一方、郊外に戸建て住宅で暮らしている方は、わずかな初期投資で充電設備をつけることができます。夜の間に充電すればいいのですから急速充電は必要なく、10万円以下の費用で設置することが可能です。しかし、郊外に住まわれている方は、1日の走行距離がどうしても長くなります。走行中に、充電スポットの位置を把握し続けなければいけないというのは、やはりストレスになります。

 

世界の多くの国は、自動車を低エミッションのものに限定をしようとしています。EUでは、2035年に燃料車、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)の販売を禁止します。二酸化炭素を排出する自動車はすべて販売禁止になるのです。

米国でもカリフォルニア州など先進的な13州では、2035年に燃料車とハイブリッドを販売禁止にします。その他の州では、禁止はしませんが、PHEVとEV、燃料電池車などの低エミッション車を50%以上にする目標を立てています。燃料車とハイブリッドは半分以下になります。

日本は、2035年に燃料車を販売禁止にしますが、ハイブリッドは禁止をしません。割合の制限もありません。世界でも珍しいハイブッド完全OKの国なのです。となれば、誰でもハイブリッドを買いますよね。今と比べて変える必要のあることは何もないわけですから。このような目標設定であるために、EVを買う人は少なく、EVを買う人が少ないために、充電スポットの数も増えません。ハイブリッドOKにしてしまったために、あらゆるEV促進策が弱いのです。

2035年以降の日本は、ハイブリッド車が7割か8割になって、その他は、EVやPHEVでも間に合う人だけがEV/PHEVを買うということになると思います。自動車メーカーはマイナーなEVはつくりたがりませんから、大量の国産ハイブリッドと少量の中国・韓国EVが走る国になるのではないでしょうか。自動車でも、どこかで聞いたことがあるガラパゴスな国になってしまうかもしれません。

 

ハイブリッド車は、日本の宝のようなテクノロジーであり、日本がハイブリッドの国になることはいいことなのかもしれません。しかし、その代償に、パリ協定で国際的な約束をした温室効果ガスの排出削減は絶望的になります。

目標年度は2030年とまだ少し時間があるため、例によって数字のマジックで、あたかも達成可能であるかのように政府は言っています。しかし、「達成可能だ」と言っている専門家はほぼいません。発送電完全分離や思い切った再エネ発電投資など、大きな構造改革をしなければ、目標達成のための体制もつくれないと警告する人が大半です。

 

日本の排出削減目標は「2030年までに26.0%削減」です。米国は2025年までに26-28%であり、EUは2030年までに40%となっています。

▲パリ協定で各国が提出した目標。日本は2013年比で26%削減になっている。資源エネルギー庁「今さら聞けないパリ協定」より引用。

 

この後、日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(https://www.env.go.jp/content/900440767.pdf)を閣議決定し、削減目標を46%に引き上げました。26%から46%ですから、大幅引き上げです。しかし、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」をよく読むと、「我が国は、2050年目標と整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに、50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と書いてあり、46%は「目指す」目標であって、国際的な約束ではありません。達成できなくても、国民に気づかれなければなかったことになります。

 

問題だと思えるのは、GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移です。

▲GDP1000ドルあたりの二酸化炭素排出量の推移。米国やインドですら減少傾向にあるのに、日本は緩やかにしか減っていない。国際エネルギー機関(IEA)、「CO2 emissions intensity of GDP」より引用。

 

世界各国とも大きくまたは緩やかに減少をしています。これから経済成長が始まるインドですら減らし始めています。ところが日本は減少が緩やかです。緑のEUと黄色の日本は1980年代はほぼ同じでしたが、2000年以降乖離が起き始めています。

つまり、日本経済が復活をして、GDPが再び増え始めると、排出量もそれに比例をして増加をしてしまうということです。

1980年と2021年のGDPあたりの排出量を比較してみました。

GDPあたりの排出量を1980年と2021年で比較をすると、日本は他国に比べて非常に小さい。「CO2 emissions intensity of GDP」(IEA)より作成。

 

中国、米国、EUは、60%以上減少させていますが、日本は40%弱です。明らかに減少率が小さいのです。これは各国が、エネルギー転換など大胆な変革で排出量を削減しているのに対し、日本は省エネ技術と節約を積み上げる方式で減らしているからです。

私のような素人にも、このようなやり方でパリ協定の国際公約、2050年にカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)など達成できるのか心配になります。パリ協定には、排出権取引が定められていて、達成国から余剰分の排出枠を買うことができます。そこに頼ることになるのかもしれません。

 

中国のパリ協定での削減目標は、「GDPあたりの排出量を、2030年までに2005年比で60-65%削減」です。2005年の排出量は0.79tで、2021年は0.45tです。つまり、すでに43.0%の削減を達成しています。太陽光発電とEVが普及の過程にあるため、ほぼ間違いなく目標達成をすることができるでしょう。

中国では「燃料車かEVか」という議論はとっくに終わっていて、郊外などで充電施設の整備がまだ始まっていないない地域や北方の冬が長い地域はPHEVに人気がありますが、整備が進んでいる大都市ではEVにするのが当然のことと考えられています。その理由の最大のものは、EVという製品自体の魅力ですが、ある方から、それ以外にもEVにする理由があるという話を教えてもらいましたので、ここでみなさんと共有しておきたいと思います。

 

ひとつの理由は、中国は電気代が安いということです。一般的なEVで100kmを走るのに15kWhの電力が必要になります。電気代は地域によって異なりますが、平均的な0.4元/kWh(家庭用。充電スポットでは1元台前半)とすると、100kmを走るのに6元で済みます。一方、ガソリンは100kmを走るのに8リットルほどのガソリンが必要になります。ガソリンがリッターあたり8元とすると、100km走るのに64元かかることになります。つまり、EVは燃料費が1/10で済むのです。すべて1.2元/kWhの充電スポットで充電したとしても21.6元で、ガソリンの1/3程度です。

日本の電気代は平均すると31円/kWh程度だそうです。同じ計算をして見ると、EVは100km走るのに465円。ガソリンはリッター170円として、100kmを走るのに1360円と、EVの方がかなり安くなります。ガソリンが以前のような100円台だったとしても、EVは半分近いコストで走ることができます。

これなら日本でもセカンドカーにはうってつけだと思うのですが、セカンドカーに適した軽自動車は、日本の技術が凄すぎて燃費が非常によく、実燃費で20km以上あるのがあたりまえになっています。リッター20kmで計算すると、EVは465円、軽自動車は850円と差は大きく縮まり、ガソリンが100円に戻れば500円と、EVと差がなくなってしまいます。日本の軽自動車はEVに対して強い競争力があり、このカテゴリーでもEVが普及する見込みはあまりありません。

 

もうひとつ教えていただいた、EVを選ぶ理由が、購入手続きが明朗であるということです。EVの多くは、ウェブやアプリから試乗の申し込みをして、試乗後、購入するなら車両代金+諸費用を支払うというものです。当たり前の話ですが、あらかじめいくら支払うのかがわかります。

しかし、伝統的なガソリン車は、4S店と呼ばれる販売店で販売されています。4Sとは「Sale、Spare Parts、Service、Survey」の略で、メーカーとは独立した販売店チェーンです。メーカーから自動車を仕入れて、販売店で顧客に販売をします。日本の正規販売店とほぼ同じ仕組みです。

ところが、若い世代を中心にこの4S店が避けられるようになっています。その最大の理由が、見積りを取らないと、車がいくらになるのか、よくわからないということです。メーカーの希望小売価格はありますが、これは実売価格より高く設定されていて、それをいくら値引きをするかが販売店の腕の見せ所になっているのです。そのため、複数の販売店で見積りを取る必要がありますし、販売員と値引き交渉もしなければなりません。それをしない人は高値づかみをしてしまうことになります。自動車メディアをよく読み、実勢価格を頭に入れて、4S店と交渉しなければなりません。

若い世代はこういうことに時間や労力を使うことがバカバカしいと思うようになっています。中国でも4S店では納車式という習慣があります。車に大きなリボンをかけて、大きな鍵の模型を持って、スタッフと購入者が記念撮影をするというものです。ある人は「あんなこと強要されたら、恥ずかしすぎて、その場で逃げ出す」と言っていました。

つまり、ガソリン車とEVということだけでなく、すべてにおいてガソリン車は古いのです。一方、EVはもはやECでスマートフォンを買うのと同じ感覚で、どこの店舗でも公式サイトに表示されている価格で販売されていますし、割引キャンペーンなどもどこの店舗でも同じです。せいぜい、おみやげにもらえるポケットティッシュの数が違うくらいです。故障をしてもウェブやアプリからサポートを受け、先方が指定する店舗/工場に行けば、どの店舗でも同じサービスが受けられるという安心感があります。

 

そのような中国で、EVを購入する際、多くの人が検討する要素が自動運転です。性能に関してはメーカーによりさまざまですが、ファーウェイのADS2.0(Advanced intelligent Driving System)が問界シリーズなどに搭載され、販売が始まったことが大きな転換点となりました。

後ほど詳しく紹介しますが、都市部であればほぼ運転操作をする必要はありません。特に高速道路は料金所近辺を除けば、運転を任せるというのがあたりまえになりつつあります。北米でもテスラがFSD(Full Self Driving)のβ版販売を行なっていて、同じく人間は運転操作から解放され始めています。

と言っても、大半の方がにわかには信じ難い思いだと思います。そこで、メーカーの公式発表ではなく、自動車評論メディアの実車走行テストの結果に基づいて、どこまで自動運転が進んでいるのかをご紹介します。

また、当然のことですが、自動運転には批判的な意見もあり、事故も起きています。このような事故の事例から、自動運転の問題点についてもご紹介をします。また、このテクノロジーはまだ成熟をしてなく、どのようなアプローチを取るのかについてもメーカーによりさまざまな考え方があります。この点でも、どこまで進んでどのようなトレンドになっているのかについてご紹介します。

今回は、中国で始まった自動運転の時代についてご紹介します。

 

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