土橋重隆の平成養生訓(バックナンバー)

このページでは、音声サイト「藤原直哉のインターネット放送局」にて長期連載中の「土橋重隆の平成養生訓」より、2012年に掲載のバックナンバーを活字にて紹介していきます。

 

「土橋重隆の平成養生訓」は、毎週1回のペースで現在も同サイトにて連載中です。最新情報をチェックしたい方は、下記のURLをぜひご覧になってください。

 

★土橋重隆の平成養生訓(藤原直哉のインターネット放送局)

 

 

「平成養生訓」2012年 01月 04日「理屈を超えて」

 

年末(2011年末)には「個を超えて」という話をしましたが、年始は「理屈を超えて」という話をしたいと思います。

 

われわれの医学の基礎は、解剖学、病理学、生理学、生化学といったものを基礎として成り立っています。解剖学や病理学は形態学です。

 

つまり、起きた変化や事実を形態学的に評価するのが病理学であり、解剖学です。生理学とか生化学は理屈の世界で、こうだからこう、こうなっているからこうという世界です。理屈と事実で西洋医学は成り立ち、それに支配されている世界なのです。

 

それを学生の時に学び覚え、そういう内容を試験されて、そこを通って医者になります。実際の現場も、理屈と事実を併用して病気を診断し、それを治療に結び付けていくという世界です。


しかし、臨床の現場では理屈どおりいくことはあまりないのです。事実にとらわれすぎると、次に起きる変化を予想しにくいということがあります。その世界を抜け出さないと、なかなか病気の本当の姿は見えてきません。

 

理屈の世界で考えていると、理屈以上のことは起きません。しかし、この世の中には理屈と事実だけでは説明できないようなことがいっぱいあります。病気もそうですね。

 

治ったり治らなかったり……同じ病態で同じ治療をしても、うまくいくい場合といかない場合がありますが、これはなかなか説明ができないのです。

 

ですから、あまり事実や理屈にこだわっていると全体像が見えませんし、治療に関しても的外れなことをやってしまうことがありえます。だとしたら、一度事実と理屈を脇において、ちょっと信じられないようなことも考えてみてもいいのではないでしょうか?

 

医学的には説明できないということですべて片付けてしまい、だから認めないと済ませてしまう。放射線の除染についてもそうですね。現代物理学では考えられないから、そういうことはあり得ないのだという話とよく似ています。

 

理屈と事実を組み合わせた科学なり、物理学にとらわれているのです。それで現実に起きている変化がなかなか理解できないし、それに対応できないことになってしまっています。

 

医療においても、理屈や事実は大切ですし、結果を大事にするのもいいのですが、患者さんが治らないとどうにもなりません。

 

それが自分たちの理屈に合っているとか、この事実はこういうふうに説明できるとかいうことを大事にし、実際その患者さんがどういうふうになっていくかということより、自分たちのルールに従って診療しているというのが現実の姿ですね。

 

それでも病気が治っているのならいいのですが、なかなかうまくいっていません。管理と修繕という形で終わっているわけです。

 

しかし、一度医学的なことから離れて患者さんの全体を診るというつもりでいろいろ患者さんに聴いてみると、話の中から糸口がつかめることもあります。

 

私の経験では、むしろ進行したガンの患者さんについては理屈と事実ではなく、患者さんの言葉の中から治癒に関するヒントが得られてきたという経験があるのです。

 

理屈を超えたところで病気を観てみますと、病気というものがどうして起きてくるのか、治らないのはどうしてかということが見えてくることがあるのです。

 

医者は医学から離れるのは怖くてなかなかできないと思うのですが、理屈ばかり言っていても結果が良くなければどうしようもないのです。

 

そろそろ西洋医学は脇にいったん置いて、理屈を超えた視点から病気を観てみると、意外と簡単な解決方法が見つかるということもあると思います。患者さんに対する言葉のかけ方も変わってきます。

 

ふとそこで何か患者さんが気づいて自分の生き方を変えるとか考え方を変えるとか言うことにつながっていくんですね。ここでもまた理屈を超えた経過、現象が起きるというふうに私は思います。

 

実際、ガンが治った方を見ていきますと、理屈を超えた治り方をしています。治そうとしていない人が治っていくという不思議なルールといいましょうか。

 

理屈を超えた世界に入っていきますと、不思議な経過、いや、これは本当は不思議でもなんでもないと思いますが、理屈の中で考えていると理屈の世界で起きることしか起きないのです。

 

理屈を超えてしまうと、奇跡とは申しませんが理屈では説明できない変化が起きてくると思います。

 

医者の言うことを聞いていると理屈と事実の世界であって、事実というのは患者さんの体に起きた結果ですよね、この事実と理屈の世界の説明で納得していると、なかなかそれを超えた結果は得られないでしょう。

 

5年生存率30%とか言われていますが、そんな数字に収まってしまうということしか起きません。

 

病気を治そうというのは理屈の世界です。ですから医者はこういう話はしないと思いますが、患者さんは一度理屈を超えた世界から自分の病気のことを考えてみてください。

 

医学的だけではない、いろんな角度から見て、それで自分の今までのことを考えてみて、医者に言われたからではなく自分の意思で前向きにここを変えてみようと気づいていく。

 

これは、病気を治そうとしているのではなくて今までの生き方を変えるということですから、こうなると理屈の世界ではありません。そうなると不思議な経過が起きる扉が開くという可能性が出てくると思います。